麒麟(十二国記)

登録日:2011/04/22 (金) 03:08:58
更新日:2024/04/09 Tue 10:32:44
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本項目では、小野不由美氏の執筆した小説『十二国記』に登場する麒麟について記述する。
各麒麟の詳細については当該項目参照。

概要

金の鬣(タテガミ)と一角の角が特徴的な、人と獣の姿を持つ神獣
十二の国*1に一人づつ、あわせて十二の麒麟がおり、蓬山より生まれ王を選びそれぞれの国に下る。

十二の国はそれぞれの国の出身である王が統治し、国土を安定させる。
その王を天命により選び天意を伝えるのが、他でもない麒麟の役割である。
いうなれば王の選定における天帝の代理人であるが、その王たる資質を持った人物と巡り合えるかどうかは、双方の努力や運にもよる。

基本的に名前はなく号で呼ばれ、牡なら麒、牝なら麟がつく。*2
ただ、蓬莱(日本)もしくは崑崙(中国)出身の麒麟は、あちらの世界で名前を得ている場合がある。

麒麟は神獣と呼ばれ、十二国では最も神聖で尊い存在であり、神々を除いては麒麟より身分が高い者は王のみである。
麒麟は自らの王を選んだ後は、主と共に仙籍でも最も位の高い神籍*3に入り、以後は王宮で『宰輔(サイホ)』として政(マツリゴト)の一部を担う。
首都州の州候(簡単に言えば知事のようなもの)を務める場合もある。
宰輔はそう呼ぶことは恐れ多いとして、王以外からは『台輔(タイホ)』という号で呼ばれ、王の為に生き、王の側に仕えることを幸福とする。
王から離れることは麒麟にとって耐えがたいことであり、政務などで一時的に別行動となるのはともかく、他国に渡るなどして長く別離することは心身を裂かれるような苦痛であるらしい。
廉麟などは泰麒捜索のために長く生国を離れた際には、「(自分は)王のものなんですもの」と涙を流し、帰還の際には「王が恋しくなった」と惚気まくっていた。なんだこの夫婦
麒麟とは王の為に生まれ、王の為に生き続ける存在なのである。

生態

普段は人の姿で行動する。
一部例外はあるが、大抵は華奢な体躯をしており、金髪(鬣)の色と長さは獣の姿に反映される。
例外なく美しい(とされる)容姿をしており、見る者の多くがその優美さに目を奪われるほど。
転変と呼ばれる変身をすることで、馬のような獣の姿を取る。基本的に生まれてからしばらくはこの姿で蓬山にて過ごす。
獣の姿の時見栄えを良くするため、麒麟は髪を切らずに伸ばし続ける。
丁度いい長さになるとそれ以上伸びなくなるという親切設計だが、もし髪をかんざし等で結ったまま転変すると悲惨な事態が発生する。
なのでほとんどの麒麟は髪をいじらない。

獣の時の姿は、延王曰く『馬と鹿の間』。そんな見た目なので延麒は主から『馬鹿』という字(アザナ)を賜った。
御冗談の好きな雁王にはこんなん言われちゃってるが、延麒だって誰もが認める美しい獣である。
獣の姿での成長が止まる(成獣になる)と人の姿の成長も止まる。そのため外見年齢はまちまちで、10歳前後から20代後半まで幅がある。
ちなみに金髪で生まれてくる生物は、十二国世界では麒麟のみである。
すなわち金髪は麒麟としての証明である――が、ごくごく稀に金色以外の髪を持つ麒麟が誕生する。
そのような麒麟の存在は吉兆として喜ばれるが、先天的な能力に大した違いはないらしい。

王の選定まで

世界の中心に位置する蓬山。その蓬山にある捨身木(シャシンボク)という木から麒麟は生まれる。
この捨身木は世界でたった一つだけ存在する、麒麟の卵果(ランカ)*4が実る木であり、根には女怪(ニョカイ)の卵果が実る。

麒麟の卵果には特別に呼び名があり、例えば載国の麒麟の卵果なら泰果、芳国の麒麟の卵果なら峯果、と呼ばれる。

麒麟の卵果が実ると同時に、その根が這う地下で女怪が生まれる。女怪とは母のいない麒麟の乳母であり、同時に守護者として生まれてくる特別な生き物である。
とにかく麒麟のことを第一に考え、主命であり主である麒麟の卵果から片時も離れない。
無論生まれてからもずっと一緒。事故で離れ離れになると人目を憚らず号泣するほど。
下手に麒麟に手を出そうものなら、その場で八つ裂きにされても文句は言えない。

卵果から孵った雛の麒麟は獣の状態で五年程過ごし、蓬山を囲う黄海*5を駆け回りながら、他愛ない妖魔を折伏(シャクブク)する等して成長する。

麒麟は王を選べる年齢になるまで蓬山の主、蓬山公として女仙達から大切に育てられる。
女怪ほどではないが、女仙達も麒麟贔屓でやや過保護なきらいがあり、麒からすればほとんどハーレムである。
同時に女仙達は麒麟に対して遠慮がないため、下界の人間とは異なり麒麟に意見したり叱りつけるようなこともする、いわば姉のような存在として麒麟の身の周りを世話する。
特に蓬莱から帰還した泰麒は、麒にしては気性が素直で気づかい屋であったため、直近の蓬山公(景麒)の堅物ぶりも相まって女仙達から熱烈な奉仕を受けることになった。蓬山暮らしが最も長い禎衛ですら、地の分で「愛しい」と想うほど深く愛され、大切に育てられた。
少々麒麟贔屓が過ぎるせいか、「蝕」による嵐が下界に被害をもたらしていても、女仙は麒麟の安否を最優先として他の一切は些事として深く考えない傾向が強い。麒麟に害をなすような者には言葉を選ばずに罵倒し、仙としての力を駆使して殺害を示唆する過激さもある。
良くも悪くも、麒麟がいかに蓬山において優先されるべき存在かが伺える。

麒麟の最大の役目は自らの国の王を選定することにあるが、ただ単に広大な国土の中から三百万にのぼる民草をより分け、王たる者を探していては、それだけで何年もかかってしまう。
そのため王を志すものが麒麟と対面する機会が設けられており、彼らは黄海を超えて蓬山を昇山することになる。
麒麟が王を選べる年齢になると生国に通達が行き、蓬山に集まってきた昇山者の中から、王を探し出す。
しかし昇山者の中から王が見つからないことも多く、主を求めて蓬山を飛び出していく麒麟も多い。
反対に最初の昇山者から王が出た場合、野心に相応しい傑物か、あるいは功名心ばかりの愚者のいずれかという意味で「飄風の王」と呼ばれる。
蓬山が開かれてから初期の昇山者は、主に軍人や官吏、名の通った名士が多く、自ら王たらんと自負する者が集まる。あるいは王の地位より、彼らとの誼や商売を目当てに昇山する者も多い。

しかし相手がどんな傑物であれ、麒麟は王以外の者にかしづくことが出来ないし、強いたとしても王でない者には決して叩頭しない。
麒麟に膝を折らせた者は間違いなくその国の「王」であり、麒麟の誓約を「許す」資格を得る。
その時が蓬山公としての麒麟の終わりであり、神籍に名を連ねた生国の麒麟としての始まりである。
苦労の末に誓約を交わした王と麒麟は、国を治めるために生国*6に下るのである。

性格

麒麟は慈愛に溢れた『仁』の存在であり、血の穢れを非常に嫌う。
ただ単純に嫌いなのではなく、血の匂いを嗅いだり血を浴びたりしてしまうと病んでしまうのである。
そのため自ら武器を取って戦うことができず、肉を口にすることもできない。
戦場の穢れや憎悪も麒麟にとって毒であり、そのような場所に長く居ることは大きな苦痛を伴う。

自らの王には絶対服従し、特に強く命じられたときには抗うことができない。
王の悪政や暴挙に対して諫言することはあっても、結局勅令とあれば従うよりほかにないのである。王権が非常に強い、というのはどの国でも同様だが、それでもあまりに民を虐げた王に民衆や州候が立ち上がり、最悪はその首を落とすことがある。しかし麒麟は民がどれだけ苦しんでいるか理解しながらも、そのような謀反は決して起こせない。民が斃れ、国が荒れることは麒麟にとっても痛ましいことなのだが、「王気が絶える」ことはそれ以上に耐えがたい痛みなのだ。それがどれだけ愚王であっても。

また麒麟は、例え主であっても角に触れられることを嫌がる。人型の時は額が角の位置にあたり、やはり同様に触れることを嫌う。
これは角が麒麟の霊力の源であるため。
万が一角を損なってしまった場合、その麒麟は力を出せなくなってしまう。

基本的には慈悲深い性質だが、その性格は生国の国民性に左右される、とされている。
事実、長く王に恵まれなかったせいか、気候が優れず土地が痩せ民心が荒みがちな慶国の景麒は、やや神経質で言葉足らず。反対に気候が温暖で土地も肥え、政局も安定した漣国の廉麟は、凛としつつ朗らかで温和。
無論、王との関係性や他の麒麟との交流で心境が変化することもままあり、精神面では人間と変わらない面も持っているらしい。

能力

自ら戦う術を持たない麒麟は、本来決して人に従わない妖魔を配下にすることで身を護る。
この妖魔を従わせる能力を『折伏』という。

強い妖魔であればそれだけ折伏も難しくなり、中には麒麟の手に負えない強者もいる。
しかし一度折伏されてしまえば、忠実な下僕として非常に役に立ってくれる。
この折伏された妖魔を使令(シレイ)と呼ぶ。使令は麒麟に絶対服従を誓約し、基本的に麒麟以外の命令は王であっても受け付けない。

十二国では天馬などの四足の獣でも空を駆けることができるが、それは麒麟も同様。
その足はこの世で最も早いと称され、王以外のものがその背に跨ることは許されない。
馬のように扱われることを嫌がる麒麟もおり、景麒は陽子に対して「私に騎獣の真似事をなされと?」と嫌味交じりに抗議している。

しかしながら麒麟の最大の能力は、何と言っても先述した王の選定である。
厳密には麒麟は己の意思で王を選んでいるわけではなく、「王気」を感じとることができた人間を玉座につける。
王としての素質はあくまで天意によって量られるもので、麒麟の方がその者が明らかに王たりえない、と思っていたとしても「王気」には決して抗うことができない。
どんな王が選ばれたとしてもそれは天が麒麟を通して行った選択、言わば『天の采配』なのだが、王が国を乱した場合、民に恨まれるのは天ではなく麒麟であることも……

麒麟の最期

王が正しい政を行わず国を乱した場合、麒麟は失道(シツドウ)の病という死の病気にかかる。
アニメでは失道した麒麟は全身に無数の斑点が浮かび上がり、力なく床に伏す描写がある。

これを治すには王が根性を入れかえて国を建て直すか、退位を申し出る他にない。
王が死んでも麒麟は死なないが、麒麟が死んだら王も死ぬ。
人をやめて神になった王は、神をやめると人には戻れず死んでしまう。
つまり退位=死である。

しかし麒麟が失道するほど国を乱した王が立ち直ることは容易ではなく、病の末に麒麟が死に、後に王も崩御するというパターンを辿ることが多い。
要は麒麟が失道した時点で、その王と国の命運は残り少ないのである。
死んだ麒麟は王と共に葬られ、麒麟の遺体は使令が跡形もなく食らう。それが折伏の際に妖魔と交わした契約、下僕へ支払う対価なのである。

神籍に入った麒麟は失道以外の病にかかることはないし、並みの武器では傷もつけられないが、冬器とよばれる特別な刀剣で胴や首を絶てば死ぬ。麒麟の命を絶たれた王は1年と経たず崩御する運命にあるため、麒麟を殺害した者は死罪とされるケースが多い。
それでなくても神仙に類する麒麟を弑することは、国法に定める以上の大罪と認識されており、芳国の州侯である月渓は謀反に際してやむなく峯麟の首を落としたことを赦しがたい罪として自戒しており、それもあって自ら不在の玉座を埋めることを拒んだ。

他にも天帝から直接下される罰として覿面の罪があり、これを下された王と麒麟はその場で無残な死を迎える。
どのような行為が覿面の罪にあたるか詳細は明らかにされていないが、代表的なものは「他国を侵す」ことで、これはたとえ隣国への人道目的による派兵であっても、その事情は一切斟酌されない。
過去に才国にこの罰が適用されたことがあり、王と麒麟は兵が国境を越えた瞬間に変死、さらに国号が変更され、国璽*7の印影も変化した。

ちなみに麒麟の寿命はおよそ30年。
もし寿命が尽き果てる前に王を選べず神籍に入れなかった場合も、老衰という形で死を迎えることになる。
麒麟が育ち、王を選定するまでのあいだ、生国では王の不在から国政が乱れ、天災や妖魔の被害が激増することになる。
長く王たる者が見つからなかったり、あるいは短命の王が続くと、その国は立ち直る間もなく荒れる一方となり、国民は飢えと荒天にさらされる。
麒麟の使命は王を選ぶこと、ひいては国を立て直すことにあり、十二国にとって重大な責務を負っているわけである。


主上……追記・修正をお願い申し上げます。

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最終更新:2024年04月09日 10:32

*1 慶、奏、範、柳、雁、恭、才、巧、戴、舜、芳、漣の十二国

*2 慶国の牡の麒麟なら景麒、才国の牝の麒麟なら采麟など

*3 神の戸籍。下位に仙籍があり、いずれも名を連ねた時点で不老不死になる

*4 十二国世界には胎生の生物はおらず、全てが卵生として生まれる。卵は里木という木に実のようになり、「親」がもぐことで生まれてくる

*5 海ではなく妖魔が闊歩する広大な平原

*6 先述した通り、厳密に言えば麒麟にとっての出生地は蓬山であるが、それぞれの麒麟にとって還るべき国、という意味で生国と呼称される

*7 国の印鑑