SCP-752

登録日: 2017/09/22 Fri 15:42:57
更新日:2024/03/04 Mon 16:00:52
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SCP-752は、シェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクト(SCiP)。
オブジェクトクラスはKeter。



概要

SCP-752は、とある山脈の北に存在する地下都市である。

既知の信号全てと放射線を遮断する未知の金属で地下都市自体を覆われ、地熱発電で電力をまかない、照明装置を使うことで外界と連動した昼夜が人工的に作られている。

財団はこの金属の調査について、見た目は人間そっくりな中の人たちの収容違反を恐れて消極的。

で、見積もられている10000ほどの人たちだが、人間その他の社会的行動を取る哺乳類には類似しておらず、むしろ昆虫的な行動を取る。基本的に利己的な人はおらず、皆社会の大きな利益のために活動している。彼らの勤勉さにより、地下都市の発展速度は外界よりも素早く非常に発展しているが、近年はその速度も落ち着いているようだ。

地下都市で回収された文書によれば、科学者や哲学者らによって構成される、”エウダイモン”なるグループによって作られた存在だという。
財団が読める言語で自分たちを『ホモ・サピエンス』と書いてあるので、ビックフットでも、ホモ・サピエンス・ディセンサスでもないと思われる。

この地下都市を『エウダイモニア』と呼ぶエウダイモンたち███年前には中の人たち『ホモ・エウダイモニア』を作り、アルファベータガンマデルタに分類している。



ギリシャ哲学的における『幸福論』


アリストテレス曰く『エウダイモニア(幸福)』の原義は「よき守護者(ダイモン)に守られている状態」。

道徳的という考えは共同体への帰属意識からくるもの。

物質的な快楽*1まで否定しないが、生きる上での「(アレテー)」を追求することにより人が得られる最高善を「幸福(エウダイモニア)」であるとした。

つまりエウダイモニア(幸福)とは「ガチャ引いたらSSR森久保を引いた」とか「コミケでめっちゃ好みの戦利品を手に入れた」等ではなく、道徳的に生きようね。組織に貢献することが一番の幸福だよ。と言うことである。





エウダイモンたちの記述

以下、「アルファ」「ベータ」「ガンマ」「デルタ」とだけある場合はエウダイモン内のグループ、
数字が付記されている場合はグループ内のメンバーであることを注記しておく。

1日目
エウダイモン-アルファ-1
エウダイモニアの人口: 100

なんと輝かしい一日の始まりだろう。ホモ・エウダイモニア(Homo eudaimonia)が自らの暦を記す日だ。最後の一連の大規模実験のあと、50人の男性及び50人の女性を最終実験エリアへ導入した。あるのは、彼らと、人工太陽と、寺院と、我々が家畜化のために導入した動物及び植物数種のみ。

いまや観察以外にエウダイモンが行うべきことはない。

アルファはベータ・ガンマ・デルタへの協力を要請し取り付けた中核のグループであったようだ。
すなわちアルファ、強いてはアルファ-1が実質的なトップ

エウダイモニアにホモ・エウダイモニアを導入した時点では100人しかいなかったようだが、どう10000人にまで増加したのだろうか?


8年、24日目
エウダイモン-ガンマ-1
エウダイモニアの人口: 124

我々の幸福論による推測通り、人口増加は平均以上であった。生存競争を行う代わりに、彼らはあらゆる点で協力し合う。提供した全ての動物種は、食料及び労働力として成功裏に家畜化された。まだ農業活動の徴候は見受けられない。技術的発展は、期待された通り寺院に残したデータに基づいて進行している。

生存競争を行わず協力的であることを幸福と位置づけているあたり、もしかしたら共産主義だったのかもしれない。
エウダイモニアの『寺院』はホモ・エウダイモニアが速やかに技術を獲得するために当時の技術を情報化して保管した場所だったのだろうか。


15年、212日目
エウダイモン-デルタ-4
エウダイモニアの人口: 170

デルタ-4は長いので要約する。
ホモ・エウダイモニアが農業を行っていた。さらにそれまでなかった建造物群が建つようになったことはデルタの想像した以上の発展であったようだ。
驚異的なことに15年目のエウダイモニアでは何人でも正常に組織が成立してしまうらしい。

一方で、『社会の阻害要因』になりうる障害のある個体や衰弱個体を自殺させるか殺すホモ・エウダイモニアは死んだ人を食べる行為をタブーと見なさない。

見るに耐えなかったベータ-1は介入をしようとしていたが、アルファ-1は「それはこっちの世界の道徳の話であって向こうには汚染になりうる」と説得したようだ。


24年、4日目
エウダイモン-ベータ-4
エウダイモニアの人口: ~300

24年目で300人弱まで増加したホモ・エウダイモニアは、自分たちの能力によって「自発的に」カースト制を構築し始める。

「社会の発展」を目的に150年は生きるはずのホモ・エウダイモニアの推定寿命は45歳。早い話が過労死である。

常軌を逸してるとしか思えない生活様式に平等な社会を希求したベータ・ガンマ・デルタが「なんか違うよなあ?」と不満を持つなか、アルファはこれがホモ・エウダイモニアの本来のあるがままの姿として捉えている。


40年、325日目
エウダイモン-アルファ-1
エウダイモニアの人口: ~1000

人口は増加し続けている。技術力は指数関数的に向上し続けている。この分だと、公表日のかなり前に我々の水準に達するであろう。

ベータ、ガンマ及びデルタには展望がない――私の素晴らしい創造物に対して、彼らはますます嫌悪感を高めている。彼らをこの計画の仲間として迎え入れた覚えはない。開発室を構築するために、その専門知識を必要としただけだ。私は、彼らが決してエウダイモニアの新生児室の中身を嗅ぎつけないよう手段を講じている。反抗を未然に防ぐのに十分だといいのだが。


商売なのか思想なものなのか、はたまた軍事なのか、エウダイモン及びホモ・エウダイモニアには何かしらの目的があったようだ。
本報告書だけでは残念ながらそれがはさっぱりわからないが、ここに来てアルファは思考の違いからそれにベータ・ガンマ・デルタの三者からの反抗とそれに伴う計画の失敗を恐れ、何かしらの工作をしていることがわかる。




70年、87日目
エウダイモン-デルタ-1
エウダイモニアの人口: ~3000

人口増加は減速の徴候を示していない。未知の建築物に加えて、更なる増加を可能とするために、高層型のシェルターが現在構築されている。技術的進歩は、全ての予想を上回り続けている。我々は、寺院に残したものを消費し尽くした時点で成長が止まるのを祈ることしかできない。望ましくない行動は悪化している。ガンマは介入を試みて虐殺された。我々の残りは、アルファに対するクーデターを試みた。アルファ-3は同調を装い、大部分のベータへ致命的に毒を投与してのけた。

にも関わらずクーデターは成功した。我々は、まだそれらの建築物で行われていることを承知していない。しかし、ガンマに起こったことを考慮して、接触はしていない。アルファ-1、-2及び-5は逃亡した。その他は殺害あるいは捕獲されている。我々は解放メカニズムを動作不能とし、可能な限りこの場所を封鎖した。

そしてベータ・ガンマ・デルタが前回のログから30年後に蜂起した。
憂慮して侵入しようとしたガンマはホモ・エウダイモニアに殺され、「俺もやばいと思ってたんだよ」とアルファ-3が言いながらベータを毒殺。
それでも生き残った極少数のベータとデルタはアルファへの反逆に成功したようだ。
しかし数名が生き残り、特にアルファ-1は逃亡してしまった。

ただ、トップの寿命が先と信じたいがアルファ-1(ホモ・サピエンス)が似たようなことをしないとは考えにくい。

既に人口は4桁まで発展し、解放メカニズムがあったエウダイモニアも「寺院に残したものを消費し尽くした時点で成長が止まるのを祈るしかできない」が、そんな程度で止まるだろうか。


もしかしたら、「人間に悲観的になった人たち」は「エウダイモニアがつくりだした理想郷を広めようとしていた」のかもしれない。

しかし出来上がったのは、ホモ・サピエンスに匹敵しても人間以上に階層社会にだけ力を注ぐ「ヒトならざるもの」
社会に疑いを持たないエウダイモニアに個々人の理想はなく、貢献できないものに冷淡………。

エウダイモンが望んでないディストピアも、「ヒトならざる」ホモ・エウダイモニアにとっては「当たり前」であり、まさしくユートピアであるのかもしれない。

最後にデルタ-1はこのように綴ってしめている。

エウダイモニア人は、いまだガンマが構築した防御壁の向こうには世界が存在しないと信じている。
ああ、願わくは、彼らが別の方法で学ぶことのなからんことを。



エウダイモニアの今後

アルファがエウダイモニアの新生児室に残した大量の受精前かつ[データ削除済]とだけしか書かれていない報告書も気になる。
受精前ということは卵細胞と伺えるが、ベータ・ガンマ・デルタに隠し、[データ削除済]しなければならないなにかがあったのだろうか。
性的な意味で削除された可能性も否定できないが。

また、財団はガンマの事案を想定すると職員が無駄死にする可能性が高いので、エウダイモニアを無人機で調査していたが、その無人機をロストした。

ロストしたその2ヶ月以内に無人機由来の技術がエウダイモニアで拡散していたという。
ホモ・サピエンスにとって競争意識が発展の源だが、ホモ・エウダイモニアは共同体意識である。
ホモ・サピエンス以上の発展速度が早いのは、対立しなければやる気の出ないのが競争だが、対立が早く進むことを遠回りさせる要因だとしたら当然なのかも知れない。

ホモ・サピエンス及びSCP-752-1間の直接的な生存競争はSK-クラス支配シフトシナリオへ至ると予測されており、いかなる代償を払ってでも、SCP-752-1が彼らの大洞窟より外部の世界について無知なままであるよう保たれなければなりません。

ホモ・エウダイモニアが外界を見れば圧倒的速度で技術を吸収し、またたく間にSK-クラス:支配シフトシナリオをもたらすことは容易に想定できる。
調査のためのハイ・テクノロジーをできるだけ避けることを決めた財団は収容違反に細心の注意を払っている。

しかし、ガンマは中に入って死んだ。
財団の無人機は解析され、実用化された。


それでもホモ・エウダイモニアが外界に気付いていないという確証はあるのだろうか?










SCP-752 - Altruistic Utopia(ヒトならざる者の理想郷)




CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-752 - Altruistic Utopia
by Alias Pseudonym
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最終更新:2024年03月04日 16:00

*1 現代人とは結構定義が異なる