タバ作戦

登録日: 2017/09/16 Sat 23:48:56
更新日:2024/02/09 Fri 16:55:48
所要時間:約 11 分で読めます




タバ作戦とは、映画『シン・ゴジラ』の巨大不明生物(ゴジラ)迎撃作戦である。



初回上陸~手を打てなかった自衛隊~


11月3日。
東京都大田区の呑川を遡上し、蒲田で上陸。北品川まで進撃して二足歩行への変化まで見せつけた巨大不明生物は散々町を荒らし、確認されただけで100名以上の死者を出した。

北品川駅近辺で戦闘ヘリによる迎撃を試みるが、住民の逃げ遅れが発覚し、攻撃中止。
ただし巨大不明生物が海に帰ったこともあり、作戦終了。

自衛隊はほぼ何もできないまま終わってしまったのである。

初回上陸時に使用された装備


【陸上自衛隊】
○AH-1S対戦車ヘリコプター(住民がいたため射撃せず)
○OH-1観測ヘリコプター(逃げ遅れた住民を発見)


巨大不明生物探索~鎌倉上陸

このまま上がってこないならともかく、二足歩行に変貌したことから再度上がってくる可能性が高い。

本来ならば住民や建物に被害が出る前に迎撃するべきであり、仮に発見できれば戦略を練り直した上で対巨大不明生物戦が行われた可能性もある。

巨大不明生物特設災害対策本部(巨災対)の内閣官房副長官兼巨災対事務局長矢口蘭堂は、高圧ポンプ車などを用いた血液凝固剤の経口投与という矢口プラン実行準備にかかる。

自衛隊はソナーを用いて捜索するが、相模トラフに逃げ込んでしまったとすれば、早期に捜索網にかけるのは難しく、広く薄い防衛線では海上や水際での防衛戦は困難と判断。

やむをえず、自衛隊は上陸地点や方向のパターンをいくつか想定した上で、首都防衛最優先とした迎撃を整えるも、前回上陸の僅か4日後、11月7日11時30分頃に自衛隊の捜索網を潜り抜け、巨大不明生物が相模湾に出現

鎌倉から上陸した巨大不明生物は、あろうことか東京に向けて進撃してきてしまった*1

捜索を行った海上自衛隊の艦艇/回転翼機

【海上自衛隊】
こんごう型護衛艦 DDG-174「きりしま」
あきづき型護衛艦 DD-116「てるづき」
○たかなみ型護衛艦 DD-110「たかなみ」
○たかなみ型護衛艦 DD-111「おおなみ」
○SH-60K哨戒ヘリコプター


B2計画『タバ作戦』


矢口プランが提案されたのは上陸前夜のため、有効な血液凝固剤も、経口投与の具体的な手法の立案やポンプ車などの重機の準備もできていないため、プラン実行に至るまでは程遠い。

他方、鎌倉から東京に向けて陸路を進撃する場合に準備していたのがB2計画『タバ作戦』*2である。

東京侵入を阻止すべく東京側の多摩川浅間神社に本部を設置。
戦車などを集中配備できる多摩川河川敷(東京と神奈川の県境でもある)もある神奈川県川崎市・武蔵小杉駅近辺を通過すると予測した自衛隊は河川敷やその近辺に戦車・自走砲・ミサイル兵器・戦闘ヘリ・青森県三沢市の三沢基地から爆装して飛び立ったF-2戦闘機などを集中。
御殿場(静岡県)基地も遠隔砲撃による迎撃態勢を整える。

同時に、体内に放射性物質を保有している可能性が高い巨大不明生物の胴体を攻撃して放射性物質をまき散らすリスクを抑えるため、「頭部と脚部のピンポイント攻撃」を通知する。

フェーズ1~威力偵察、効果なし

上陸からおよそ4時間後*3の16時15分頃、接敵。

「全該当地区の避難完了を確認しました」
「郡山君、今度は本当だな?間違いないな?」
「私は現場の報告を信じるだけです。」 
「ゴジラ、依然進行中です」
「総理。武器使用の承認をお願いします。」

初回上陸時は官房長官に促されていたようだった大河内総理は、絞り出すようではあるが決然と武器使用の許可を言い渡した。

「武器の使用を・・・許可する!!」


第1陣は前方に展開したAH-1Sの20mm機関砲とAH-64D(アパッチ)の30mm機関砲による対戦車ヘリ中隊の威力偵察。
戦車ですら当たり所次第ではただでは済まない弾が巨大不明生物に向けて放たれたが、全て弾かれて効いている気配がない。




武器の無制限使用

「東部方面総監が、誘導弾の使用許可を求めています。」

通算1万6千発の機関砲弾を喰らい続けても方向を変えるどころか傷一つつかず、嫌そうな様子を見せることもなく前進を続けた巨大不明生物に自衛隊は武器の無制限使用を求める。

「人口密集地ですがやむを得ません総理、ミサイル*1の使用を許可しましょう」

腹を決めていた大河内総理は武器の無制限使用を許可する。

「今より武器の無制限使用を…許可します!!」


ヘルファイア、効果なし


ヘリ部隊が放つ空対地誘導弾「TOW-2対戦車ミサイル」「ロングボウ・ヘルファイア対戦車ミサイル」の全弾が命中し、巨大不明生物の頭部を覆い隠すその名の通りの地獄の炎が発生。

「誘導弾全弾命中。しかし目視による損傷、確認できません

巨大不明生物は無傷のまま不気味に進撃を続ける。

「ミサイルでも死なないのか…!?」
「何てヤツだ!!」




フェーズ2~特科部隊勇戦~


河川敷に布陣していた機甲科の10式戦車と機動戦闘車、89式装甲戦闘車による頭部・脚部への集中砲火が効いたのか、巨大不明生物の進行速度がわずかに低下。

チャンスと見て後方にいる96式多目的誘導弾システムや特科大隊の99式自走榴弾砲、御殿場で待機していた多連装ロケット砲ことMLRSも加わる*4が、巨大不明生物の進撃は全く止まらず、ついに多摩川河川敷に足を踏み入れ始めた。




フェーズ3~航空部隊の攻撃~


動きがのろく、航空攻撃能力も持たないならば的でしかない。

「作戦をフェーズ3に移行。直ちに航空攻撃を開始。」

凄まじい余波の発生を見込み、戦車部隊は砲撃を継続しつつも迅速に陣地を変換。

三沢からやってきたF-2が巨大不明生物の頭部と脚部めがけて投下した2発の精密誘導爆弾JDAMは、現場近辺に爆風を吹き荒れさせ、本部すら風で揺れまくる威力を見せつける。

巨大不明生物は体が見えなくなるほどの爆炎に包まれながら進行方向を変えた。


空爆が効いたと見るや、JDAMの第2波をぶつけるが…


作戦終了~巨大不明生物、なおも健在~


爆炎の中、負傷した気配もなくやはりそのまま進撃を続ける巨大不明生物。

対戦車ヘリコプター部隊、戦車8個小隊ももう既に弾切れ。
そして、巨大不明生物がはね上げた*5丸子橋の下敷きとなった第2戦車部隊は一部車両が大破3、中破2。

破片が降り注いだ司令本部は完全に指揮機能を喪失。

特科大隊は健在かつ射程内だったが、JDAMの攻撃も効いているように見えない巨大不明生物相手に、残った特科戦車大隊の攻撃だけでは効果がないのは目に見えている。

机をたたいて悔しがる花森防衛大臣だったが、東京に入られてしまうと大田区や世田谷区の住民の避難完了の報告が入っていない今の自衛隊が打つ手はもはやない。

「足止めも叶わず、残念です」

こうしてダメージを負うこともなく巨大不明生物は自衛隊の総力戦を退け、東京都に進撃してしまった。


タバ作戦に於いて使用された装備

●フェイズ1
【陸上自衛隊】
  • AH-1S対戦車ヘリコプター「M197 20mm機関砲」「TOW2対戦車ミサイル」
  • AH-64D対戦車ヘリコプター「M230A1 30mm機関砲」「AGM-114ヘルファイア対戦車ミサイル」
  • OH-1観測ヘリコプター(フェイズ1の戦果報告)

●フェイズ2
【陸上自衛隊】
  • 10式戦車「10式戦車砲(44口径120mm滑腔砲)」
  • 90式戦車「44口径120mm滑腔砲Rh120」
  • 16式機動戦闘車「52口径105mmライフル砲」
  • 89式装甲戦闘車(陣地変換時に登場。武器使用は無し?)
  • 99式自走155mmりゅう弾砲「52口径155mm榴弾砲」
  • 99式多目的誘導弾システム「96式多目的誘導弾」
  • 多目的ロケットシステム 自走発射機M270 MLRS「M31GPS誘導ロケット弾」

●フェイズ3
【航空自衛隊】
  • F-2戦闘機「GBU-54 LJDAM(500lbレーザー誘導爆弾)」




その後

巨大不明生物が予想外すぎた自衛隊は自前の物理兵器で駆除することをあきらめた。

ただし、後に指揮系統下にない米軍、民間との共同作戦、前例なしのぶっつけ本番の巨大不明生物に対する血液凝固剤経口投与という悪条件フルコンボな変則的任務を成功させる自衛隊が敗れたのは無能だからではない。

国民を守るのが我々の仕事だ。

攻撃だけが華じゃない。

住民の避難を急がせろ。

そして初回上陸時から対処不能とみた普通科(歩兵)部隊はこれ以降も住民の避難を急がせ、東京壊滅後は疎開による国民保護に尽力している。









余談


物語のテンプレートや演出の関係上、特撮映画の自衛隊による防衛は、怪獣の猛威を描くやられ役になるある種の「お約束」で、怪獣や超兵器とのバトルほどではないが、間違いなく怪獣映画の見せ場である。

……が、よく考えてみれば
  • のろのろ動く超巨大生物相手に砲撃を外しまくり*6*7
  • 熱線撃ってくる相手にマッハで飛ぶ戦闘機で至近距離まで接近し、尾や手などで撃墜されてしまう
  • なぜか怪獣の正面に護衛艦が入って踏みつぶされる。

と、「いや、その選択はおかしい」というツッコミ所満載シーンも少なくない。

この実際なら無能にしか見えない演出は「自衛隊の頑張りは映画のメインテーマではない」*8からだが、映画撮影に協力的な自衛隊はあくまでも訓練を兼ねて協力するのであり、自衛隊を貶めるような映画*9は協力拒否をすることがある。

しかし、タバ作戦の丁寧な演出は、最初に提出された脚本に自衛隊も驚くほど緻密であり、ゴジラ映画の中でも極めて評価が高い。

  • 射撃はしっかりほぼ全弾命中。しかも体の一部をピンポイントで狙い全弾命中させる技術も見せている(タバ作戦は市街地を進む巨大不明生物に砲撃が行われており、大量の流れ弾など出した日には巨大不明生物より自衛隊の方が被害を出す可能性が高い)
  • JDAMの爆撃は爆炎で巨大不明生物の巨体を覆い隠し、付近に爆風が吹き荒れる威力を見せつけている
  • フェーズ移行に当たっては砲撃を継続しつつ迅速な陣地変換を行う
  • 事前警戒していたとはいえ、巨大不明生物が突如上陸してから僅か4時間程度で総力戦と言うべき迎撃態勢を整える
  • この時点では熱線のような飛び道具を撃ってこない巨大不明生物を相手にしてもしっかりと距離を取って爆撃している
  • 「国民を守るのが使命であり攻撃だけが華じゃない」とする名台詞

当然、最初から箸にも棒にもかからない脚本では、添削方式などやっていたらとてつもない手間がかかってしまうが、自作品の登場キャラに軍艦の名前を採用する庵野秀明の知識を生かした取材が行われたと考えられる。

歴代の中でも群を抜いた「自衛隊の兵器が通用しない」*10「ゴジラという虚構と戦うならば人間サイドは徹底的にリアルに描くべき」という庵野監督による徹底的な取材も、取材しきれなかったり*11、演出上やむを得ない補正がある以上、突っ込む所は出るかもしれない*12

だが、庵野監督による徹底的な取材が見せつけた自衛隊の実力をもってしてもびくともしないゴジラがすさまじい脅威であることを観客に強く印象付けたのである。



気落ちは不要、wikiを盛り立てるのが我々の仕事だ、新規項目建てだけが華じゃない。追記修正を急がせろ。



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最終更新:2024年02月09日 16:55

*1 蛇行して歩いていたのでない限り、単純計算するとゴジラの速度は時速10km程度と思われる。初回上陸時も時速13㎞程度と報告されており、形態変化があっても速度にはほぼ差がないようである

*2 名の由来は劇中明示されないが、多摩川上流部の古名、丹波(たば)川であるとされる。

*3 F-2の巡行速度はおよそマッハ0.8~0.9ほどであり、単純計算すれば東京―青森間なら1時間以内で到着できる。離陸準備や加速などを考えても、2~3時間もあれば多摩川に到着しないことは考えられないだろう。

*4 なお、御殿場では有事以外では実射できないため、別の所で撮影した実射を御殿場と合成した映像となっている。

*5 あまり脚を上げないので蹴り上げたとも思えず、尾で跳ね飛ばしたとも思えず、かがんで橋をつかんで投げたとも思われず、何をどうやったのかは謎である。

*6 予算を大量に使う着ぐるみ撮影が主流であったため、命中弾の演出をすると着ぐるみが傷み、苦しい予算を圧迫しかねないという大人の事情があるのではないかという意見もある。本作のゴジラは全てCGであり、着ぐるみが痛むことを気にする必要がなかった。

*7 また「体温が低いため熱センサーがうまく働かない(GODZILLA。ちなみに体温が低い設定はゴジラVSビオランテからあった)」「放射線でレーダーが無力化される(ウルトラマンパワードに登場したガボラ)」などの場面もある。

*8 例えば「家族の再生」や「生命の力」をテーマにしている作品で、いかに自衛隊の頑張りがリアルに丹念に描かれようがそれは「作品としてズレている」だけでしかない

*9 自衛隊が何の罪を犯したわけでもない自国民に銃を向け、あまつさえ殺し合いを強制する内容であることを理由に協力拒否されたとされる『バトル・ロワイアル』が典型例

*10 これまでのゴジラが自衛隊と対決した場合、既存兵器相手であれ、砲撃を食らえば咆哮したり、熱線を吐くなど応戦する場合が多かったが、タバ作戦におけるゴジラは応戦どころか咆哮すらせず、痛みを感じた気配すらなかった。

*11 野戦本部の様子は取材許可が下りず、軍事資料を片っ端から集めて「現実に近いのはどっち?」という取材で調べたという。

*12 どこの駐屯地にあった兵器をどういう手段で輸送したのかについての描写がない、と石破茂がせっかくリアリティ追求してるんだからそこらへんもしっかりしようぜってことらしい