吟遊詩人ビードルの物語

登録日:2017/09/16 Sat 10:59:59
更新日:2024/03/21 Thu 20:29:01
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「吟遊詩人ビードルの物語(The Tales of Beedle the Bard)」とは、「ハリー・ポッターシリーズ」の作中に出てくる書籍である。
後に、同名の書籍を作者のJ.K.ローリングが書き下ろして実際に発売されることとなった。



ハリー・ポッターの世界では、魔法界の童話として古く親しまれており、マグルの世界の「シンデレラ」や「眠れる森の美女」のようなものである。
魔法界育ちのロン・ウィーズリーにとってはおなじみの本であるが、マグルに育てられたハリー・ポッターハーマイオニー・グレンジャーは聞いたことのない本であったため、ハリーは「ロンがハーマイオニーの読んだことがない本を読んでいる!」と驚いていた。

作中では、7巻でアルバス・ダンブルドアがハーマイオニーに残した遺品として登場する(古代ルーン文字で書かれているとのこと。)。

ハーマイオニーは、7巻の旅の間は本書を携帯して時間がある時に解読しており、ゼノフィリウス・ラブグッドとの話で死の秘宝の話題が出た時に、本書に収録されている「三人兄弟の物語(詳細は後述)」の内容を説明しており、ゼノフィリウスはこの物語に出てくる物品が実在する死の秘宝であると(いささか曖昧な根拠で)主張した。

後に、ハリーが仮死状態でダンブルドアと対面した際の話によると、ダンブルドアはハリーに死の秘宝の存在を伝えようとしたが、かつて死の秘宝に魅了された自分と同じ過ちをハリーが犯すことを恐れ、ハーマイオニーに本書を渡してハリーに死の秘宝の存在に気づいてもらうという間接的な方法を取ったという。
(実際、ハリーは一時期分霊箱探しそっちのけで秘宝の話に夢中になっており、ダンブルドアの判断は正しかったと言えよう。)

なお、実際に発売された書籍の記述内容によれば、吟遊詩人ビードルは15世紀生まれの設定で、マグルに好意を抱き、闇の魔術に不信感を抱いていたとされ、ダンブルドアと似た考えを持っていた人物とされる。

実際に本書を発売するに当たっては、

「ダンブルドアが死の18ヶ月前までに書き終えた解説をつけ、
ハーマイオニーがルーン文字から改めて訳し、
ミネルバ・マクゴナガル校長(本書刊行の2008年当時のホグワーツ校長という設定)の許可を得て出版した」

という設定が取られており、童話と共にダンブルドアの解説が収録されている。また、ダンブルドアの解説にはJ.K.ローリングが「マグルにも分かりやすいように」という設定で一部に脚注がつけられている。



収録されている物語(ネタバレ注意)

●魔法使いとポンポン跳ぶポット(The Wizard and the Hopping Pot)

むかしむかしあるところに、親切な老魔法使いが住んでいました。
この魔法使いは自分の魔力を「幸運のポット」のおかげに見せかけ、近所のマグルの手助けをしていた。
やがて彼が亡くなると息子が後を継ぐことになるが、意地悪な息子はマグルを無価値とみなしており、父親の生前から対立をするような人間であった。
息子は父親のポットをゴミ箱にするようになり、近所のマグルが困りごと(子供のイボ、いなくなったロバ、赤ちゃんの病気など)の解決を頼みに来ても追い返すようになった。
そうすると、父親が遺したポットが飛び跳ねて追っかけてきて、イボやロバに擬態してマグルの困りごとを知らせ続けるようになった。(ポットのスリッパの中の書き置きを見るに、息子の性格を懸念して老人が呪文をかけておいたのだろうか。)
ポットには消失呪文等が全く効かないこともあり、逃げられないと悟った息子はついに観念し、その後は近所のマグルを助けるようになった。


  • ダンブルドアの解説:

この話を「マグルを助ける魔法族の心温まる寓話」と思う人は「お人よしのあんぽんたん」らしい。
なぜなら、ビードルの時代にはマグルによる魔女狩りが熾烈になっており、マグルを呪文で助けようとするのは自殺行為、とんでもない!という風潮だったらしいとのこと。

この本もマグル贔屓の部分を改変した改訂版が出され、内容は「ポットが魔女狩りをするマグルを飲み込んで魔法族を守り、しまいには魔法族は自由に魔法を使ってよいという約束でマグルと和解し、魔法使いの命令でポットが飲み込んだマグル達が戻ってくる」というものであった。

また、ベアトリックス・ブロクサム女史が原著のおぞましい部分を改変し「毒キノコ物語」を書いたが、後の子供が嘔吐をするほどの内容だったという。

また、当時の反マグル雑誌の編集者ブルータス・マルフォイは「マグル贔屓の魔法使いは魔法力が弱い」と広めたらしいが、ダンブルドア曰く「私はマグル贔屓だが別格だぞ」と論破できるらしい。



●豊かな幸運の泉(The Fountain of Fair Fortune)

浴びると1年に1日だけ、1人の不幸な人間だけが幸運になるという「豊かな幸運の泉」。
重病にかかったアシャ・財産を奪われたアルシーダ・男に捨てられたアマータの3人の魔女と、ひょんなことから同行することになったマグルの騎士ラックレス卿の計4人組がそこを目指すことになった。
何とか泉にたどり着いた4人だが、ここでアシャが倒れてしまう。
しかし、アルシーダが近くに生えていた薬草を飲ませるとアシャの病気は完治してしまい、アルシーダも薬草のおかげで金を稼げるようになった。
更に、アマータも道中で記憶を取り出して川に流したことで過去を断ち切り前向きになったことで、最終的にラックレス卿が泉の水を浴びることになった。
そして、ラックレス卿はアマータに求婚し、彼女もそれを受け入れたのだった。
なお、実は泉の水に魔力は何もなかったという…


  • ダンブルドアの解説:

(ハッピーエンドのためか)ビードルの物語の中で一番人気であり、いつの世も好まれる話。

ダンブルドアがホグワーツ魔法魔術学校の変身術の教師であった頃、当時の薬草学教授ヘルベルト・ビーリーがホグワーツのクリスマスパーティーでこの話の演劇をすることを提案。
しかし、魔法生物飼育学教師のシルバヌス・ケトルバーンの用意したアッシュワインダー(「幻の動物とその生息地」に解説あり)の爆発や、痴情のもつれによる生徒同士の争いのせいで惨憺たる結果となり、これ以来ホグワーツで演劇は行われていない。

この話も、マグルと魔法族の結婚などといった内容がルシウス・マルフォイのような純血主義者には害悪とみなされ、ダンブルドアとルシウスの因縁のきっかけとなった。
ダンブルドア曰く「純血と称する家系でも必ずマグルの血が混じっている。この本はホグワーツの図書室から取り除く気はない」らしい。



●毛だらけ心臓の魔法戦士(The Warlock’s Hairy Heart)

自分は決して恋に落ちまいと、闇の魔術を使って抵抗することにしたとある大富豪の魔法使い。
しかし、彼は誰にも愛されないと憐れみの目で見られるようになり、プライドを傷つけられた彼は、思い切り高いハードルを掲げて花嫁を募集することにした。
当然ここまでの条件を満たす女性など現れるはずがない…と思っていた所に、なんと当日にそのハードルを満たしてしまう女性が現れた。
早速周囲が縁談を進めようとするも、当の女性は魔法使いに対し冷たく不審なものを感じてしまう。
地下牢に案内された女性は、その冷たさの正体を知ってしまうことになる。
なんと、魔法使いは心臓を体から切り離して、心が惑わされないようにしていたのだった。
女性は心臓を元の場所に戻すよう懇願し、魔法使いが言われた通りにするも、長い間体から切り離されて毛だらけになった心臓はすっかり狂ってしまっていた…
そして女性は血だらけになって息絶える…
魔法使いは自分の毛だらけの心臓を女性の心臓と取り換えようとするも心臓は動かず、遂に業を煮やして自分の心臓を叩き切ると、女性の後を追うように息絶えるのだった…


  • ダンブルドアの解説:

バッドエンドでグロテスクな話のため、ビードルの物語の中でも子供が大きくなるまで聞かせないことが多い話とのこと。

しかし、改変されることがなく、批判意見の少ない話でもあるとのこと。
ダンブルドア曰く、原作が残っている理由は「損傷不可能性」の探求という誘惑を扱っているかららしいが、「何も傷つかない生き物なぞいないから、損傷不可能性の探求なんぞばからしい夢物語」らしい。

作中に出てくる「心臓を体の外の場所に閉じ込める」という行為は分霊箱作成と類似しているとの指摘が多くなされており、
アダルバート・ワッフリングの魔法基本法則の第一法則
「最も深い神秘を弄ぶ者は、通常では考えられぬ危険な結果を覚悟すべし」
の禁忌に合致しているため、悲惨な最期を迎えてしまったとのこと。

余談であるが、「心臓に毛が生えている」は冷たい魔法族を指すのに使われているらしく、生涯独身を通したダンブルドアのおばオノリアの婚約破棄エピソードでも使われている。



●バビティ兎ちゃんとペチャクチャ切り株(Babbitty Rabbitty and her Cackling Stump)

(実際には魔法を使えないのに)自分だけしか魔法を使ってはいけないと決めた愚かなある国の王様が魔法指南役を募集した。
本物の魔法族は魔女狩りを恐れ応募しなかったが、あるマグルのペテン師が金儲けのために魔法使いと偽って訪れ、手品の披露により指南役に任命されることに。
ペテン師は言葉巧みに宝を貰い、王様には杖と偽って小枝を渡して魔法の練習をさせた。
実は一部始終を見ていた洗濯女のバビティに笑われたこともあり、そのうち練習に飽きた王様が「そろそろ皆の前で魔法を使いたい」と言い出したので、逃げられなくなったペテン師はバビティが魔女であることに気づき、王様の披露に合わせてこっそり魔法を実行するよう命令。
そして翌朝を迎え、計画通り披露に合わせこっそりバビティが魔法を使っていたが、死んだ犬が生き返ることはなく、ペテン師が悪い魔女の存在を示唆しバビティは追われることに。
バビティが木に化けたと思ったペテン師は木を切るように命令。しかし切り株からペテン師を断罪する声が上がり、ペテン師は悪事を白状する羽目に。更に王様まで脅されたことで、今後は国内の魔法族は迫害を受けず自由に魔法を使える運びになり、更に切り株の上にバビティの金の像が建てられることになった。
そして、木に化けて切られたと思われたバビティは実は兎となっており、切り株の根元の穴から逃げ出したのであった。


  • ダンブルドアの解説:

「死者蘇生は不可能」だということが描かれるなど、ビードルの物語の中ではリアルなお話。

また、「動物もどき(アニメ―ガス)」が扱われているが、「動物もどき」は習得するのに相当の労力が必要であり、多くの魔法使いはそこまでの労力を注いで習得するメリットを感じないらしい。
しかし、「動物もどき」は動物への変身と違い人間としての理性は残るが、話すことができなくなるため、ビードルがしゃべる木を登場させたことについて、ダンブルドアは「ビードルは『動物もどき』については聞きかじっただけ」と推測している。

また、マグルの王の望みもむなしく、魔法力は先天的なもので、後天的に習得できるものではないとのことである。

ちなみに、バビティのモデルはパリで魔女判決を受けたフランスの魔女だという説が上がっており、彼女が処刑前夜に独房から逃走した後日、英仏海峡を大鍋で渡る白ウサギが目撃されているらしい。

余談であるが、木を切り倒して盗もうとする者は、「幻の動物とその生息地」に登場する「ボウトラックル」の恨みを買うとのこと。



●三人兄弟の物語(The Tale of the Three Brothers)

ある魔法使いの3人兄弟が旅の道中に川に差し掛かり、橋をかけて渡ることに。
しかし死神が行く手に立ちはだかり、死神から魔法の腕を認められ褒美として品物をもらうことに。
好戦的な長男は決闘に必ず勝てる「ニワトコの杖(Elder Wand)」、傲慢な次男は死者を蘇らせる「蘇りの石(Resurrection Stone)」、謙虚な三男は「透明マント(Cloak of Invisibility)」を貰うことになった。
だがこれは何としても三人の魂を手にしたかった死神が、それぞれの本性を見抜いて利用しようとした策略であり、後にまず長男は「ニワトコの杖」でライバル魔法使いを次々と殺害し自分は最強だと吹聴した結果、寝首を掻かれて呆気なく殺され杖を奪われることになった。
次男は、「蘇りの石」で結婚を夢見つつ先に逝ってしまった女性を生き返らせようとしたが、完全な形で蘇ることはなく、蘇ったとされる彼女も生きづらそうに見えたことで、後追い自殺をすることになった。
しかし三男は兄2人のような悲惨な死に方をすることはなく、時折迫り来る「死」を「透明マント」の力と自身の技で切り抜け、そうしている内に家庭に恵まれ更には死神とすら友情を育んだ。
そして寿命が来たその日、長年世話になったマントを息子に与え、迎えに来た死神に礼を言い、喜んで死を迎えたという。


  • ダンブルドアの解説:

「死を回避しようとしても無駄」という教訓。

しかし、この話に出てくる品は実在し、3つ全部を所有すると「死を制する者」になるという伝説がある。

「透明マント」と呼ばれるものはいくつか実在するが、死神に与えられたマントの所有者を名乗る者はいなかったとか。

また、「石」も発見されておらず、闇魔法使いたちが代わりに「亡者」を作り出したが、もちろん真に蘇った人間ではない。

「ニワトコの杖」の持ち主については様々な言い伝えがあるが、「不敗の杖」なのに様々な人間の手に渡ったということは、結局持ち主が敗北したということを意味しているのだから、厄介事を引き寄せる物とのことらしい。

ちなみに、普通の杖は以前の持ち主の癖を学んでいる可能性があるので、新しい所有者との相性が悪くなる可能性があるとのことで、ほとんどの魔法族は中古の杖より新しい杖を欲しがるとのことであるが、「ニワトコの杖」はあっけなく新しい所有者に忠誠心を移すらしい。

最後に、ダンブルドアは、「しかし、実際に『ニワトコの杖』や『蘇りの石』への誘惑を断ち切って三男のような選択をできる人がどれだけいるだろうか?私のような賢者だって難しい」と結んでいる。


  • その他

ゼノフィリウス・ラブグッドによれば、長男の名前はアンチオク(Antioch)、次男の名前はカドマス(Cadmus)、三男の名前はイグノタス(Ignotus)である。

また、ゴーント家はペベレル家の紋章の指輪を所持しており、次男の子孫であるとされる。
三男イグノタスの墓はゴドリックの谷にあり、彼の子孫は誰であろうハリー・ポッターであり、1巻から出てきた透明マントは、何を隠そうイグノタスより代々受け継がれてきたものである。

つまり、読者はご存知であろうが、「死の秘宝」は実在するものなのである。

また、ダンブルドアの推測によれば、三兄弟は死神から「死の秘宝」を貰ったのではなく、自分たちでこれらの物品を作り出したのではないかとされている。
実際、作中の次男の「一人暮らしで恋焦がれていた女性の後追い自殺をする」なんて言う状況で子孫を残しているとも思えないので、三兄弟が死神に会ったというのは創作とするのが妥当なのであろう。

また、実際に発売された本書の前書きには、

「ダンブルドアがこの本の最後の物語(三人兄弟の物語)について書いた覚え書きは、彼が知っていること(または推測していること)を一部隠している」

と記述されている。

ダンブルドアが何を隠しているのかは、当然名言はされていない。

もしかして、ダンブルドアが「死の秘宝」の存在に気づきつつ隠していることを意味しているのだろうか。
(覚え書きがダンブルドアの死の18ヶ月前に書き終わっていることを考えると、当時のダンブルドアは「蘇りの石」は発見していないが、「ニワトコの杖」の所有権を獲得した後であるし、「透明マント」を一時的にジェームズから借りた後である可能性も高く、当然秘宝の存在は知っているはずである。)

ダンブルドアと「死の秘宝」の関わりについては、アルバス・ダンブルドアゲラート・グリンデルバルド等の項目も参照。



●汚れたヤギのブツブツ君(Grumble the Grubby Goat)

発売された書籍への収録はないが、ダンブルドアの解説で「弟のアバーフォースが読み聞かせられたがっていた話」と言及されており、アバーフォースが昔からヤギ好きであったことがうかがえる。
また、「汚れたヤギのブツブツ君」はハエを引き寄せるらしい。



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最終更新:2024年03月21日 20:29