アグロ(TCG)

登録日:2017/09/07 Thu 00:30:11
更新日:2024/04/09 Tue 14:03:26
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アグロ/Aggroは、トレーディングカードゲームにおけるアーキタイプの一つである。


概要

トレーディングカードゲームにはアーキタイプと呼ばれるいくつかのデッキの類型が存在する。
これは『デッキタイプ』と呼ばれるものよりもっと上位の概念で、
デッキタイプが例えばMtGなら【スライ】と【白単ウィニー】のような具体的な部分までを指摘したものであれば、
アーキタイプは『ビートダウン』とか『コントロール』とか『コンボデッキ』のようなものが存在する。
『アーキタイプ』という括りからさらに分類したのが『デッキタイプ』とも言える。
上記で言えば【スライ】と【白単ウィニー】は両方共、相手を殴り倒すことを目的とするのだから「ビートダウン」ということになる。

しかし、ビートダウンと言っても、「さっさと殴り切る」ビートダウンもあれば、
「盤面有利」を意識して、良質な戦力で粘り強く攻め続けるビートダウンだってある。
また「ビートダウン」と「コントロール」は相容れないもののように見えて、実際には
「ビートダウンだけど相手の妨害は入れる」とか「コントロールだけど時々殴れるならちょっとダメージ入れとく」とかということも有り得るわけである*1
それこそ『クロック・パーミッション』のように「序盤から積極的に殴りつつ対戦相手の行動は端から妨害する」とかいう、盾と矛を兼ね備えたデッキもある(撹乱的アグロ)。
そういう「ビートダウン」「コントロール」の境目を区分するために、MtGのR&Dは「6つのアーキタイプ」を考案した。

その中で、「アグロ」は「小さい脅威で素早く攻めかかり、相手の準備の整わないうちに勝つ」ことを意識した高速デッキである。
「ビートダウン」のうちいわゆる『速攻』に分類されるタイプ。
ちなみに中速が『ミッドレンジ』、序盤に溜めて大型で殴るのが『ランプ』。この辺はアーキタイプ参照。
1コストや2コストの生物を主力、大きくても5コスト程度のカードでデッキを構築しスペルやMTGの土地のようなエネルギーソースがあればそれも少なくする傾向がある。
大きすぎるコストのカードは基本的に入らない。

小さい脅威と言っても、MTGで例を上げるなら1ターン目にモンスのゴブリン略奪隊、2ターン目からは灰色熊を毎ターン1体出せる状況であり、かつ妨害が無かったとすると自分の5ターン目には1+3+5+7=16点のライフを奪い次のターンには勝利できる。
バトルスピリッツなら初ターンであってもコスト0のスピリットが4体、5体出せ、1体のアタックで1点のライフを削れることから5点のライフなんて2ターンで消し飛ぶ。
他のビートダウンでもこのような流れを作れないこともないが、高コストカードや除去札が多くなることによる事故の恐れが高くなる。
引けたカードの違いによる影響が少なくエネルギーソースが少なくても回るため比較的安定感がある事も利点。

基本的に“速度”で勝負を仕掛けに行く一方で、凌がれてしまうと一気に窮地に陥ることになる。
低コストでも優秀なものが選択されるが絶対的な性能では高コストのカードに勝てないので長引くほど不利になり、展開力が優れるが補充するカードが入れれても少ない、効果がも弱いため一度場が壊滅すると再展開が難しい。
また、相手に対する妨害手段も大きい物は用意できず(あるいは、開き直って『用意せず』)、特に速さが優れるワンショット型コンボデッキなんかには潔く負けるしかない。

一方で、「軽いんだから一回仕切り直すってのもありだよね」とばかりに相手を巻き込んでリセットを仕掛けることも。
MTGのかつての白ウィニーには高確率で《ハルマゲドン》」とまれに《神の怒り》」という物騒なものが搭載されていた。
前者はすべての土地を破壊するスペルで自分が展開後に撃つことで相手の展開とスペルによる対抗手段を防ぎ、後者はすべての生物を破壊するスペルで相手に先に大型を出されたり広く展開された時にワンチャンに持ち込む。

ちなみに、アグロ(Aggro)とは、イギリス英語で「攻撃性」を意味する俗語。
開幕から積極的に攻め立てる様を「攻撃性」として表したのだろう。


言葉の定義とTCGごとの定義

…で、それはいいのだが、アーキタイプという概念もぶっちゃけ結構アバウトな部分があり、
MtGのプレイヤー間でも「ビートダウン=アグロ」くらいの勢いで使う人もいる。
そういう人にとっては「そもそもウィニーだろうがストンピィだろうがスライだろうが、そもそも早いのしかビートダウンって呼ぶ気ねえよ」みたいなパターンだったりして、
ミッドレンジと呼ばれる遅めのデッキは「コントロール」扱いしてたりすることもあったり、そもそもアーキタイプを意識しないというパターンすらある。
そういう人はアグロなんて概念を取り込んだりはしないわけである。

MtGは歴史が長いので、後発の概念を全て受け入れるプレイヤーばかりでなく、
「むしろ前の概念のほうが明確だ」と主張する人もいるし、「もっと別の分類ができるはずだ」という人もいるわけだ。
このへんは、その人がどんな文脈でどんな言葉を使っているかということも注視しないと誤読したりすることも。

タルキール覇王譚期のアブザンなんか、主軸となるカードは完全に共通していながら、その他のカードの選択だけでアグロ-ミッドレンジ-コントロールにそれぞれ分類される上に、同じ名前でもデッキごとにカード選択の差があるため、境目が完全に溶けあってしまっていたりもする。

また、アーキタイプは多くの場合MtGプレイヤーが考えたものを、他ゲームプレイヤーが輸入したりするわけだが、
他ゲームでは輸入されないパターンもあるわけである。
例えば遊戯王でビートダウンを「アグロ」「ミッドレンジ」「ランプ」などに分類する必要性はあるだろうか?
『そもそも遊戯王の「ランプ」ってなんだろう?「高速」だったら相手の妨害札を持てないってことはあるのだろうか?』
となってしまうので、遊戯王ではそもそも「アグロ」という概念付けはほとんど意味がない。
同じような類として、例えばデュエル・マスターズでは後述のように、デッキタイプレベルの分類として「速攻」というものが存在する。
高速ビートダウンを速攻と呼び習わしてきた歴史があり、兄貴分のMtGが横でアグロという概念を生み出したとしても
「いやDMは高速ビートダウンでも大型出せるから」と《デュアルショック・ドラゴン》《ブーストグレンオー・マックス》《轟く侵略 レッドゾーン》を投げ始める。
しまいにはMtGのアグロでさえ多少は持っている「手札から撃つ除去」をDMは全部トリガーに頼る*2なんてのがザラなので
アグロという概念を輸入する契機が無かったこともある。

他方で、概念誕生後のゲームでは積極的に取り入れられ、むしろMtGプレイヤーよりもハースストーンをはじめとした
デジタルカードゲームのプレイヤーがよくアグロという言葉を使っていたりする。
こちらではミッドレンジとアグロの差異は区分されていることが多い一方、今度は「フェイス」と「テンポ」なんて言葉も出てきたりする。


ゲームごとの事情

Magic the Gathering

ウィニー】・【スライ】・【ストンピィ】など、低コスト帯のクリーチャーを使い、何かしらの搦手を使って相手の妨害をしつつ
自分は高速で殴り切る、というデッキをアグロということが多い。

ただし前述の通り、歴史の長いTCG故に、アグロという呼称を使わない人や、単にビートダウンをアグロという人もいる。


遊戯王OCG

上述の通り、そもそも定義すらできない。
高速ビートダウンと言ったところで、基本的に近年の遊戯王の一線級デッキはコントロールやコンボに極振りしたデッキでもない限り
「1ターン目で相手に何もされなければ実質勝ち」なデッキが大半であり、デカブツを絡めて遅くなったとしても何ターンもかかることは稀。
そもそも、昨今の遊戯王では「盤面のコントロール効果とそれなりの攻撃力を兼ね備えたモンスターを立てて制圧する」事に主眼が置かれる事が多く、それらを主力として相手の展開を先んじて妨害もしくは布陣を突破するという攻防が主流になっている。
よって、先攻ないし返しのターンで相手にぶん回されては元も子もないので、大会レベルのデッキ同士の戦いでは相手の展開を妨害する手段を捨てることはまずありえないと言える。
特に、相手ターンに手札から使用できる妨害カードは阻止しにくさ・奇襲性の高さからよく採用されており、特にドロー・墓地肥し・リクルートを阻止する灰流うららは事実上の必須カードとなっている。
このため、先攻制圧の促進にも阻止にも使えるうららの対策も必須となっており、手札から使用できる妨害カードが飛び交う様は空中戦と呼ばれる事も。

このため、アグロとかミッドレンジとか定義しようがない。
極論すると全部のビートダウンをアグロと呼んでも差し支えないレベル。
あえて言えばラビュリンスのような罠ビや後期十二獣のような「罠多めだがビート要素も多いデッキ」が撹乱的アグロ~ミッドレンジに分類される程度か。

…のだが、「ビートダウン」は「ライブラリアウト」や「エクストラウィン」と並ぶ勝利条件のひとつだという考えの人は、
ビートダウンデッキ全般を指して『アグロ』と言うこともある。この場合、用法として何ら間違っているわけではないので、
「遊戯王でアグロとかおかしいのでは」と言ってはいけない。これは他ゲーでも同じだが。


デュエル・マスターズ

前述の通り、アーキタイプレベルの区分はほぼされず、デッキタイプレベルで「速攻」というものが存在する。
MtGのR&Dが区分を提案するより前、デュエル・マスターズの基本セット期から既に速攻というデッキタイプは存在したため、
アグロという呼称のほうがなじまないことになる上、そもそも「速攻」は基本能動的な除去は持たず(持てず)、
攻め手がついでに除去するほかは、トリガーやS・バックなどに大きく依存することが多い。
そしてDMにはSBや進化というシステムも存在するため、手札消費自体はアグロよりもっと激しく、かつ序盤からそこそこのサイズのクリーチャーを出せる。
《デュアルショック・ドラゴン》や《轟く侵略 レッドゾーン》《”罰怒” ブランド》はどう考えても「ウィニー」ではない。

一方で、速攻の理念だけを見れば、「アグロ」と性質自体は近いだろう。
そのため、あくまで「アーキタイプとしての『アグロ』はないが、デッキタイプとして『速攻』はある」という解説がふさわしい。
ちなみにデュエマでは勝利条件の「ビートダウン」と区別する用法での「アグロ」も全くと言っていいほど使われない。
コントロールが勝利条件の「ビートダウン」を満たすようなデッキは往々にして途中で殴ることがないため、
そういうデッキは「ワンショット」と呼ぶため、勝利条件の『ビートダウン』という概念を意識する機会があまりないためである。


バトルスピリッツ

デッキタイプ自体は「○○速攻」という呼称が用いられているが、低コスト(主に3コスト以下)のみで固められたデッキは「アグロ」と同じ概念のデッキと考えて差し支えない。
まずこのTCGには「召喚酔い」がなく、召喚したターンからアタックが可能、ライフは5点しかなく、しかもどんな軽量スピリットでも1点を削れるというシステムである。
そのため、低コストのスピリットを可能な限り召喚しての数押しは理にかなった戦略となっている。

コア4個からスタートし、スピリットの上には最低1つ以上のコアを置く必要のあるもののつまり先攻1ターン目で4体まで場に並べることができる。
先攻はアタックステップを行えないため、最速のビートダウンは第2ターン(後攻の1ターン目)に開始となる。
この第2ターンに5体のスピリットを並べ、ライフを5点奪うような動きが可能。もちろん先攻側が何もしなければの話ではあるが。
このような事故勝ちを狙う0コストと軽減込みで差し引き0コストのスピリットだけで固めた【01ウィニー】は初期から存在し、これを開発側では【超速攻】と定義づけている。

バースト】一つで瓦解する非常に脆いデッキであるため現在はトーナメントレベルで使われること稀ではあるが、
カードプールが増えたことや、2、3ターン目で相手ライフを残り一つに追い詰めることも可能な安定性から、環境次第では大会優勝レベルのデッキに勝利することも可能。
実際にインターネット番組「エクストリームゲーム」では元優勝者相手に勝利していたり、
チーム戦のバトスピチャンピオンシップ2017 -3on3-優勝チームにはこの速攻デッキが組み込まれたりしている。

変則的に、後攻の1ターン目に「ビートダウンによるデッキアウト」で勝利するという奇抜なデッキも組める。【小型闘神】と呼ばれるデッキタイプ。
ライフを減らすとデッキを10枚破棄するオリオンパワーに青の【強化】を乗せて3回殴るだけの単純作業である。

また、【デストロイア】はアグロであり、ランプであり、ループデッキでもあるデッキと評される。

全体としては【コスト2ビート】【赤速攻】【紫速攻】などがアグロ/ウィニー系デッキの定番である。


Hearthstone及びそのフォロワーのDCG

Hearthstoneの好評を受けてその後国内外でハースフォロワー/ハースクローンと呼ばれるゲームが登場している。
こうしたハースフォロワーは多くの単語をMtGから輸入している(ハースフォロワーはMtGフォロワーとも言えるため)。
というかMtG→ハース→ハースフォロワーのように輸入しているというべきか。

ハースフォロワーは基本的に「いくつかの勢力と中立カード」でデッキを構成することが多いため、
余程目立った戦術やカードがない場合は「アグロ+勢力名」と呼称することが多い。
(アグロドルイド、アグロヴァンプ、アグロTAOSINなど)
ただしアグロにも2つほど分類があり、
  • ユニットは相手プレイヤーを殴ることに集中し、ダメージレースでの有利を目指す「フェイス」
  • ユニット自体にも相手のユニットを除去する役目も負ってもらい、盤面上の有利を目指す「テンポ」
の二種類に分けられる。テンポデッキは時折ミッドレンジ寄りになることもある。
最初からユニットをバンバン出すならアグロ、1t目はとりあえず除去やドローになることが多いならミッドレンジなんだろうか。

このため、TCGに不慣れだったりすると「アグロ/フェイス/テンポ/ミッドレンジ」の差異で頭をひねることになる。
決着に至るまでが高速であっても、特定のカードのシナジーによって一気にライフを削るデッキは「コンボ」に分類されていたりする。*3
しかもTCGに比べると情報共有が圧倒的に早く、そのため公式記事や有力プレイヤーのブログを読み込むために概念自体もある程度整理されていることが多い。
そのうえプレイヤーは自分の好きなようにデッキを呼称する。
例えば「状況によってフェイスもテンポもどっちもいけるからアグロ!」って人もいれば、「時にはテンポだけどメインは顔面や!フェイス!」って人もいる。
まあMtGみたいに詩的な名前がつくことは少ないからある程度理解できればわかりやすい…のだろうか*4

他のアーキタイプと比べて安価で組むことができ、勝っても負けても決着が速いという性質から、ランクマッチで人気がある。
どんなに環境が変わろうと、アグロデッキが環境から消滅することはないだろう。



追記・修正は高速で決着を付けてからお願いします。

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最終更新:2024年04月09日 14:03

*1 この辺の事情についてはコントロールの項目を参照

*2 一応、攻め手が除去役を兼ねていることはある

*3 『OTKコンボエルフ』は、エラッタが入る前ならば決着ターン自体はアグロ並みに速かったものの、序盤からウィニーを並べて殴るというよりも特定のカードでワンショットキルを決めるという戦術だったため「コンボ」に分類された

*4 MtGだと『The Deck(これがデッキだと言わんばかりの名前)』とか『スライ(人名、しかも考案者ではなく活躍した方の人)』とか『12Knights(今でこそキーカードは全てオラクル改定で騎士だが、当時は12枚中『4枚は』騎士でないカードが存在した)』『アリストクラッツ(二枚のキーカードがいずれもアリストクラッツとつくから)』とか『みのむしぶらりんしゃん(他の出典からの借用)』などが存在していた。とはいえ現在はこうした文化はほぼ廃れている