刎頸の友(史記)

登録日:2011/08/21(日) 15:24:43
更新日:2023/11/12 Sun 15:55:33
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む~かしむかし、あるところに趙という国がありました。

藺相如「俺は藺相如(りんしょうじょ)。通称上卿。自慢の逸物に、秦王はイチコロさ。はったりかまして、宝玉から国の救済まで、何でもやってみせるぜ」

廉頗「廉頗(れんぱ)。通称名将軍。秦軍相手でも籠城してやる! でも趙括だけは勘弁な!」

趙には藺相如という知に長けた人と、廉頗という武に長けた人がいました。
しかし、廉頗は口先だけで上卿まで上り詰めた藺相如を気に入りませんでした。

廉頗「あ~マジやってらんねぇ。俺が命がけで国を救ってこの役職に付いたってのにさ、藺相如ってやつはさ、口先だけで俺より上の大臣だぜ?
   やってらんねぇよな。今度あいつと会ったらぜってー恥かかしてやる。」

廉頗は誰彼構わず不満を口にし、藺相如はその噂を聞きつけると、病気と称して外出を止めてしまいました。
それから数日が過ぎました。

家臣「旦那様。外はいい天気ですよ。たまには外に出ませんか?」

藺相如「うっせー! ドアの前にメシ置いたらどっか行けよ!」

家臣「そんなこと言わないで。ほら、桜も綺麗ですよ……」

藺相如「わかったよ! 出りゃいいんだろ、出りゃよ!」

藺相如は家臣の勧めで馬車に乗って散歩に出掛けました。

家臣「旦那様~、前から廉頗様の馬車が」

藺相如「しゃあねぇ~な~、脇道に入れ」

家臣「……えっ?」

藺相如「しっかり聞いとけボケ! 脇道に入って廉頗将軍が通り過ぎるまで待てと言ったんだ。早くしろ!」

藺相如の馬車に廉頗は気づかずに行ってしまいました。
藺相如の馬車はその後にすぐに屋敷に引き返しました。

その夜、家臣たちは一堂に会しました。

家臣「主人があんなことやってみなよ。俺たちゃ恥ずかしいったらありゃしない。あなたのような腰抜けに仕えたくありません。実家に帰らせていただきます」

それを聞いた藺相如は言いました。

藺相如「お前ら本気で俺がビビってると思ってんの?」

家臣「あなたは逃げ回ってるし充分ビビってるように見える」

藺相如「馬鹿共が!よく考えろ!廉頗と秦王どっちが強い?」

家臣「秦王に決まってんだろ!それくらいわかるわ!」

藺相如「俺はその秦王から宝玉を守って戻って来たんだぞ?廉頗なんかにビビる訳ねぇだろ!
    趙が秦に攻められないのは俺と廉頗が組めば被害が甚大になるからだ。だが二人の仲が悪いというのがバレてみろ。
    秦がたちまち攻めてきて滅ぼされてしまうだろう。俺は自分のプライドより国を優先してんだよ。わかったか!?カス共!」

この話はすぐに宮中に広まりました。
廉頗はそれを聞くと、上半身裸で茨の鞭を持って藺相如の家を訪ねました。

廉頗「俺はあなたがそこまで深い考えだとは思わなかった。俺は自分が恥ずかしい。さぁ…気がすむまでこの鞭で俺を痛めつけてくれ!」

藺相如「えっ……イヤだけど……」

廉頗「そ、そんなこと言わずに……ハァハァ。俺にはこうすることでしかあなたに償えない…ハァハァ。」

藺相如「俺そんな趣味はねぇし、俺と廉頗将軍どちらも趙には必要なんだ」

廉頗は藺相如に心服し、言いました。

廉頗「俺はあなたの為にならたとえ頸(首)を刎ねられても悔いはない!」

藺相如「俺も同じだ!あんたの為になら頸(首)を刎ねられても悔いはない!」

廉頗「だから…や ら な い か 」

藺相如「アッーーー!」

こうして、二人は固い友情で結ばれたのでした。

めでたし、めでたし


※刎頸(ふんけい)
頸(くび)を刎ねられること。

その後、藺相如と廉頗は馬服君・趙奢ら名将名臣と共に中心人物として趙の国防の中枢に居続け、藺相如の死まで趙は秦の猛攻を防ぎ続けた。
しかし、藺相如や趙奢ら中軸を成す人物を次々失うと廉頗一人では少々苦しくなる。
そんな折に秦の白起軍が来襲する。秦軍の勢いを目の当たりにした廉頗は老いたりとはいえどさすが名将、「これは迂闊には戦えない」と即座に判断し、要塞に籠城しよく防戦していた。
しかし、敵軍の計略により長平の守将から外されてしまう。
その後を継いだ、趙奢の息子趙括(頭でっかちの代名詞で、名将と謳われた親父の趙奢にさえ「こいつ口先だけだ、こんなのが将軍になったら趙は滅びる」と言われていたほど)は、白起に「趙軍のほぼ全軍に値する戦力を、ほとんど鏖殺される」というとんでもない敗戦を喫する。
壊滅的敗戦後も、廉頗はハイエナしにやってきた燕軍を軽く殲滅し立て直そうとするが、最終的には王により将軍の座を追われ、憤慨して後継者の軍を撃破。
ついには趙から亡命せざるを得なくなる。それでも一度帰参のチャンスがあったのだが、趙で仲が悪かった家臣に讒言をされ、妨害されてしまう。最後は異国の地で、失意のまま亡くなったという。

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最終更新:2023年11月12日 15:55