やりがい搾取

登録日:2017/08/11 Fri 23:48:07
更新日:2024/04/13 Sat 09:49:59
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やりがい搾取とは、やりがいを盾にして労働者*1に本来払われるべき対価を払わず、労働力を搾取することである。
2007年にとある教育社会学者が提唱した概念であるが、その後のブラック企業の社会問題化に伴って注目されるようになった。
2014年には韓国の流行語大賞で「情熱ペイ」と言う言葉が入賞したことがあったが、これもやりがい搾取とほぼ同義である。



やりがいは大切なもの


日本では、働くことのできる人は何らかの形で働いて生きていかなければならない。

しかし、何年もの間働き続けていれば、99%の労働者はどこかで働き続けることが嫌になってしまうことがあるだろう。
希望の業界で働けない人はもとより、例え希望の業界に入れたとしても、「こんなはずじゃなかった」と感じることは決して少なくないはずだ。
働くこと自体、暮らしていくため仕方なく行っていることと割り切って労働することも、責められることではない。

一方、企業の立場から見れば、労働者が労働に前向きになってくれなければ生産性が上がらない。
また、労働者の「嫌になったから仕事を辞めます」が多発すれば、企業としてはまた新しい人材を探してこなければならない。
企業が金銭と手間暇をかけて育てた人材の場合、辞めた労働者の育成にかけた投資は無駄になってしまう。
それどころか、同じ業界に転職されることで、よその会社に自分の会社が有していた投資の成果をタダで持って行かれてしまうこともある。

しかし、基本的に労働者の辞める自由は保障されている。
もう給料いらないからやめさせてほしいと嫌がっている労働者に対して、企業が無理やり労働させることは人権侵害だ*2
それに、仮に嫌がる労働者を無理やり労働させることが許されたところで、その労働者がいい結果を出してくれる可能性は低い。
つまり、企業は何とかして自発的に労働者に辞めずに働いてもらうことを目指す仕組みを整えなければいけない。

そのための一つの考え方が、企業が「いい待遇を用意するから、うちの会社にとにかくいてくれ」という方法である。
辞めるという気を起こさないほど多額の給料や、「問題を起こさずきちんと働いてくれれば企業がある限り雇うよ」という終身雇用制度。
そうすることで、企業は自分の育てた社員をずっと手元におき、人を育てる投資を無駄にせず、自分たちの技術の流出も防ぐことが出来るのだ。
現代にあわないと批判される終身雇用制度も、そういう点では企業にもメリットがあるからこそ、採用する企業も少なくなかったのである。

しかし、金銭だけで労働者がついてくるかは微妙である。
週40時間、場合によってはもっと向き合う労働で得られるものが金銭だけでは、それについてこられる人たちは必ずしも多くない。
それに、どこの企業だって決して楽ではない。辞めさせないだけの待遇を出せる企業も限られる。
あまりたくさんの金銭を出したり、終身雇用を保障した結果、逆に労働者がやる気をなくし、働かないのに給料は高い労働者を雇い続けなければならなくなる可能性もある。


そこで

『お客さんや依頼主の感謝の言葉や笑顔』
『社会的に意義のある仕事をしたという自己肯定感』
『成果を出したことによる達成感や陶酔感、成長の実感』

といった、金銭以外に、労働者が仕事それ自体に喜びを見出すことのできる「やりがい」が重要になってくるのだ。

企業が「私たちの企業はやりがいのある仕事をしています」といって人を集め、やりがいのある職場環境を作っていくことは、大切なことである。
建て主としては、項目の読者の皆様が、やりがいのある仕事を見つけ、あるいは今従事していることを祈る。


やりがい搾取とは


上記の通り、やりがいは重要なものであるし、金銭以外のやりがいを強調して人を集めることも、決して悪いことではない。
やりがいと給与・休暇・勤務場所などと言った労働条件。どれをどのくらい重視するかは、労働者によって千差万別であろう。
やりがいを強く強調するか、客観的な労働条件を強く強調するかは企業にも個性があっていい。
「給料安いけどやりがいはあるよ!!」ということで労働者を集めるのも、それだけならば問題はない。

だが。

「やりがいがあって労働者が納得すれば、企業は労働者に何をやらせてもいい」という訳では決してない。
労働基準法を始めとする労働関係の法令を守る。
労働者には例え安くとも法律で義務付けられた賃金を払う。
いくら賃金を払おうと、健康を壊しかねないような労働はさせない。
やりがいは、そういった大前提が守られた上で問題にされるべきものである。

もちろん、真っ当な企業は「やりがいは法律を守る大前提あって問題になるもの」であることを理解している。
なので、労働法を守りつつ、仕事はやりがいがあるとも宣伝して人を集めている。

だがブラック企業はどうだろうか。
彼らの場合、金銭や労働条件を強調すると、他社と比べて人を集められない。
仮に一時的に人を集められても他の条件のいい企業に移られてしまう場合がある。
嘘をついて人を集めれば、労基署や警察にパクられかねない。

そんな企業が人を集め、違法な労働条件をやりがいで誤魔化して労働力を搾取する事態を生み出すのが、やりがい搾取と言う状況である。
やりがいは人によって感じ方が違うものなので、本当はやりがいがないような仕事だったとしても「嘘はついていない」と言い訳ができてしまうのだ。

「やりがいがある」の名の下に、法律や労働契約で定められた給料や残業代を払わない。*3
「やりがいがある」の名の下に、過労死ライン(残業月80時間以上)を超える残業をさせる。*4
「やりがいがある」の名の下に、労働で危険なことになってもそれを放置して労働させたり、*5パワーハラスメントをはじめとする違法な行為を正当化する。

労働者が働いていくのに重要なやりがいは、ブラック企業による違法行為の隠れ蓑としても使われるようになってしまい、やりがい搾取という言葉が生まれてしまったのである。



やりがい搾取&やりがい依存症の恐ろしさ


やりがい搾取をされている人達は、企業の横暴な行動による被害者……と一概に言い切れないのが、やりがい搾取の恐ろしい所である。

やりがい搾取をされているという自覚のある労働者は、自分たちは被害者という認識がある。
時には耐え切れずに辞めたり、労基署や弁護士に駆け込んだり、家族や医者が声をかけたりする。
そうして企業の違法行為が明るみに出て、行政や支援団体による救いの手が差し伸べられたり、企業が社会的にブラック企業と断罪されることもある。

だが、やりがい搾取は、そういった自分たちは被害者という認識から封じ込めてしまう。
というのも、やりがい搾取に慣れてしまった人たちは、自分たちが被害者であるという自覚がない。
一旦やりがいという快感にはまると、賃金や労働時間と言った労働条件が「やりがいがある」の一言でどうでもよくなってしまう。
なので、助けを求めようという発想が最初からわいてこないどころか、助けを求めた労働者が逆に正常に動いている企業を脅かす加害者に見えてくる。
やりがい搾取を受けた結果、やりがいさえあれば労働条件がどうでもよくなることを、本項目では「やりがい依存症」と呼ぼう。

やりがい依存症になれたところで、それで肉体や精神が持つとは限らない。
体が弱っているのにやりがいがあるからと無理に仕事をしようとして深刻な肉体ダメージ。最悪過労死
もともと無理な仕事なのにやりがいがあるということで始めてしまい、案の定失敗すると失敗した自分を責め始め、うつ病を発症して深刻な精神的ダメージ
やりがいにはまりすぎて善悪の境界が分からなくなり、成果を出すために犯罪すらする*6
場合によっては、弱った心を立て直そうとアルコール、酷い時には麻薬や覚せい剤のような違法薬物にはまって体も心もボロボロになったり、刑務所に入ったり


それだけではない。やりがい依存症患者は、ゾンビのように仲間を増やそうとする。企業が大きくなってくれば、どのみち人員の拡大は不可欠だ。
依存症にする標的は、自分の企業に入ってきた新人たち。
業界に入ってきた新人たちは、どういう姿勢で仕事に向き合うべきかがよくわからず周囲を参考にするが、周囲がやりがい依存症患者ばかりでは、やりがい依存症が労働者として当然だと思ってしまう。

もちろん、やりがい依存症な様子を見ておかしいのではないか、と至極まっとうな疑問を持つ新人も現れる場合もある。
だが、やりがい依存症患者にとって、そんな疑問はまさしく怠け者や根性の足りない者の弱音である。
やりがいを感じないお前が悪い、甘ったれているのだと激しい人格攻撃が行われたり、白い目で見られる。
ちょっと優しいやりがい依存症患者だと、やり続ければやりがいも出て来るよ!!と前向きな風に言ったりもする。
そういう人々にもまれる中で、多くの新人はやりがい依存症になっていく。

仮にやりがい依存症になれなければ、新人には激しい精神的な苦痛が待っている。

辞めようと思っても、やりがい依存症患者から「こんな程度で辞めるなんてダメな奴」「そんなんじゃどこに行っても通用しない」と人格攻撃が行われる。
やりがい依存症患者たちは、自分たちは100%正当な批判や後輩を大切に思っているが故の忠告をしていると信じ込んでいるのがミソだ。
新人たちは「辞めてしまえば自分はダメになってしまう」と信じ込み、「辞めて逃げる」という選択肢も封じられてしまう。
こうして追い込まれた新人の労働者たちは、先述のような肉体的・精神的ダメージを受けたり、善悪の境も分からなくなって転落する。

やりがい依存症患者がやりがい依存症の結果として自分を壊すだけではない。
やりがい依存症になれなかった、他の真っ当な労働者たちまでもやりがい依存症患者が壊していってしまうのだ。


また、労働者の利益と言う問題だけではなく、やりがい搾取&やりがい依存症は実はその企業が属する業界をも脅かす。
というのも、やりがい依存症患者によって存続しているブラック企業は、本来許された競争から外れ、人件費という点で不当に優位な条件を確保している。
真っ当な企業は、やりがいを尊重しつつも、きちんと労働関係の法律を守り、適切な賃金を払っている。
ところが、やりがい依存症で労働者から甘やかされたブラック企業はやりがいで全てを押し通し、労働関係の法律を守らなくなってしまう。
しかも、労働者がやりがい依存症患者や患者でなくともやりがい依存症が仕事の標準だと思っている人達に埋め尽くされ、行政に助けを求める声すら存在しないため、是正が非常に難しい。

そしてブラック企業がそうして浮いた人件費でやることは役員の豪遊…ではなく、安値での消費者への提供や、事業拡大への投資である。
消費者の多くは、そうして生まれた安値や拡大によって生まれる質の良い製品に飛びつき、真っ当に労働法を守る企業ほど苦しくなっていくという笑えない状況を作り出してしまうのだ。
要は、労働力がダンピングされてしまうのである。
そんな無計画な企業が何らかの原因で潰れても、消費者に「ダンピング前提の安くて良い商品が当たり前の業界」と思われ、金を取れなくなった業界全体が衰退してしまうのだ。

やりがい搾取は、被害者が我慢すればそれでいい、という問題ではないのである。


やりがい搾取の起こりやすい業界


やりがい搾取の概念を考案した教育社会学者が、やりがい搾取の起こりやすい条件について、こんなことを書いている。

(1)趣味性が強い(好きなことを仕事にしている)

例えば芸能関係やサブカルチャー関係の仕事などは、その職業や業界に憧れを持って従事する人が多い。
最初から好きでやってるんだから、ということで、業界の在り方に疑問を持ちにくい。
ある程度の業界についての知識もあって飛び込んでいるので、苦しいことも最初から分かっているし、周囲もそういう人たちばかり。
なので、やりがい搾取にひっかかりやすく、やりがい依存症になってしまう。


(2)ゲーム性が高い(仕事の自己裁量性、自律性が高い)

いわゆる名ばかり管理職と言われるチェーン店店長や管理職などにありがちである。
要は、上から言われてそれに従うのではなく、自分で決めて自分でやる側面の強い職種にはこれが多い。
確かにこういった仕事の達成には達成感が強いが、反面それはやりがいの魔力が他より強いということでもあるのだ。
しかも、自身の置かれた状況について「自分の裁量の結果」と感じられた結果企業を責められず自責してしまうので、精神的にも危険。


(3)奉仕性が強い(人の役に立ちたいという動機がある)

介護や医療のように、「何とかして人の役に立つためにこの仕事をやっているんだ!!」という意識の強い業界もこれが多い。
趣味性と共通するが、そういった使命感を持っているために、薄給激務であっても業界の在り方に疑問を持てない。
仮に疑問を持ったとしても、自分たちで抱え込んでしまううちにいつしかその在り方に慣れていってしまう。
とある有名なブラック企業は、自社が行っている慈善事業について労働者にビデオを見せるなど盛んに宣伝していたことがあるが、それはこの点からやりがい搾取にはめ込もうとしたと考えられる。


(4)サークル性・カルト性が強い

他の業界との交流が乏しかったり、親しい仲間だけでやっている企業の場合もやりがい搾取は起こりがちである。
確かに、強い結びつきのあってお互いがよく分かる親しい少人数の仲間内だけでやっている間は、それなりの無理は通せる場合もある。
だが、事業を大きくしようとすれば、そんなに親しくない仲間も入れなければならない。それでも無理を押し通す感覚から抜け出せないと事態は深刻になる。

あまりの労働環境の悪さに労働者が集まらず、店舗が立ち行かなくなることが続出した某有名外食チェーン。
その労働環境を巡る諸問題を調査した弁護士などから成る第三者委員会は

「社長の下に強い意思を持った部下が集まって、生活の全てを捧げて成功者が上に行くというやり方を取っていた。
しかし、チェーンが拡大してそれは限界だったのに、誰もそれを止めようとしなかったのが事態が深刻になった原因だ」

と指摘している。会社が小さいうち(=社長と信奉する仲間だけの頃)は問題になりにくかったやりがいの強調が、企業が大きくなるにつれて問題になってしまった例と言えるだろう。

近年、営業内容の割に「世界貢献」やら「夢」「目標」やら、抽象的ながら大きな言葉を掲げる店を見たことが無いだろうか?
受付の待合室に芸能人の自己啓発本が置いてあったり、お店の宣伝垢でドマイナーな自己啓発本一覧をマイベスト著書だとか書いて固定していたりしないだろうか?
これは、バブル崩壊以降に出現するようになった「国や政府が信頼できない、だから自分たちで力をつけよう」という布教方式のカルトのやり方である。
最近、長引く不況やコロナ禍による孤独、先の見えない将来への不安や不満から、この手の布教に引っかかってしまう若者が急増。中には、親や学校からの教育を洗脳と断じ、学校を退学して終わりのない自己啓発(という名前の底辺会社勤務、というか搾取)に身を投じてしまった学生もいるのだ。
そういった店には近寄らない方が良い。働いている人間の為にもならないからだ。


(5)ベンチャー企業

え?古い風習や老害とは無縁なこの業界でやりがい搾取なんてあるの?と思われる方もいるかもしれないが、ちょっと待ってほしい。
人手も会社体力も、積み上げてきた知識技能信頼もないのだから、営業がうまく行くはずがなく、給料は安くて仕事は忙しいのは当然である。
企業説明では「成長できる」「誰も体験したことのない業務が出来る」などと必死でPRするしかないのだ。
もちろん、成長できる体験したことのない業務に携われるというのは嘘偽りではないが、社員教育の費用も時間も他の企業と比べて取れない*7中、順を追って成長していくのではなく、いきなり現場に叩き出して第一線で働かされることは、それは「成長できる」と言えるだろうか?
もちろん、「そんな条件でも成長出来る」と言い切れる人ならベンチャー企業ほど有意義な場所は無いだろうし、そんな逆境をはねのけて大成功をつかんだ極めて有能な人がいない訳ではない。
だが、現実にはそんな人間はごく少数であり、多くは失敗を度々繰り返して自らの能力不足に苦しむことになる。例えパワハラをされるわけではなくとも、自分で自分を責めてしまうことになるのだ。
また、ベンチャーの場合コンプライアンスなどの体制も十分に整っていないため、様々な違法行為を押し通してしまっているベンチャーも少なくない。全てを成長に向けて投資しないとスタートラインに立つのも難しいベンチャーにとって、コンプライアンスで足下を固めるために金や手間をかけることはどうしても後回しになりがちで、当然そこでは労働条件などもおざなりにされてしまうのである。
なお、大手資本家から全面的なバックアップを受けたベンチャー企業、所謂「メガベンチャー」はこの限りではないし、大手企業に買収されたことで充実した待遇を受けるようになったベンチャー企業も存在する。
あとベンチャー上がりで現在は大企業になっている会社の社長は、大半は大企業出身の高学歴であることもここに付け加えておく。
テレビのサクセスストーリーや情弱向けのビジネス本を読んでいる人間にありがちなのだが、「新しいことへの挑戦を」「夢は叶う」「大企業などオワコン」などと言って、上記の都合の悪いこと全てに目を瞑り、自身の息子や孫にベンチャー企業を勧める「悪い大人」が、著名人含めてたくさんいることにも注意するべきである。


(6)自営業、フリーランス

なんで自営業にまでやりがい搾取があるんだよ!?と思うかもしれないが、ちょっと待ってほしい。
信頼も実績もない、立ち上げてばかりの自営業で、いきなり高級な仕事を引き受けられるだろうか?
新しい仕事の実績を得るために、小さな相手先に、格安で仕事を得たとしても、一向に新しい客や仕事に恵まれず、それをズルズルと引きずっていたら…?
そんな経営を続けて潰れたフリーランスは多々あるが、残念ながらそんなことしか出来なかったフリーランスは独立する才能が無かったとしか言いようがない。
なお、ネット上や講演会などで口を大きくして独立を勧めるインフルエンサーやらYouTuberなどの大半が高学歴で大企業出身である。中には、過去勤めていた職場から信頼と実績を得ている客先を引き抜くという裏技じみたことでスタートダッシュに成功している人間もいることはここに付け加えておく。*8

例外1:インターンシップ

大学生が社会に踏み出す前に重大イベントとなりうるインターンシップだが、大学生を労働者として、無報酬で、そのくせ責任だけ持たせた仕事をさせて使い潰すだけという会社も存在する。
…いや、そんなことする会社のインターンシップなんぞ誰も応募しない、するはずがないのだが、ガクチカもバイト経験もない、何も積み重ねもないまま大学3年生の1月を迎えた学生は、そのような場所でインターンシップをするしかなくなる
というより、「インターンシップならどの会社でも良い」といういい加減な就活をしている学生に問題があるのであって、企業側を責めるのは筋違いというものである。
地元企業に多く就職している大学の就活センターには、その手の香ばしいインターンシップの案内が沢山届いているので注意すべきである。

例外2:本当に成長ができる

ブラックだとは分かりきっているが、その環境で働くことで知識や技術、はたまた「箔」がつくということで、ブラック勤務承知で働く人がいる。
社内教育がとても熱心なことで知られる、エンジニア上がりの創業者が今なお健在であるとある会社は、「新入社員研修でトイレを素手で掃除させられる」ブラック企業だということは広く知れ渡っておりながらも、学生からは非常に高い人気と競争倍率を誇っている。今となっては下手なブラック企業よりも相対的にホワイト企業になっているのは内緒である。
「有名芸術家のアシスタント」や「政治家の秘書」などもこれに該当するだろうが、アニヲタ的には「漫画家のアシスタント」がしっくりくるのではないだろうか。
…勿論、あまりにブラックすぎて体調を崩したり、箔が付いた後も独立せずにそのまま勤務を続ける人は多数存在する。
ここまで項目を読んでいたら分かると思うが、教育・研修制度をまともに公開していないのに「成長出来る」とアピールしている会社はまずまともな社員教育制度を設けていないブラック企業である可能が高い。
本やテレビで聞き齧った情報を元に、有名先の真似をしてトイレを素手で掃除させるなど、そもそもの新入社員研修の本質を全くわかっていないブラック企業もあるので注意
酷いものになると社長のことを「師匠」と呼ぶように強要され、「自己投資」という名目で会社の製品や社長の書いた自己啓発本を買わされる…などというオウム真理教じみたとんでもない会社もあったりする



一般市民も共犯!?


やりがい依存症を酷くするのは、決して企業や労働者だけではない。
彼らは自分たちで望んだ仕事をやっていてやりがいがあるのだから、待遇が悪くても構わないだろうと考え、被害者となっている労働者を自己責任と突き放してはいないだろうか?

「やりがいがあるんだから安くても文句言うな」で買い叩く。
「やりがいがあるんだから激務でも文句言うな」でクレーマーのような要求に追加料金もなく深夜まで対応させる。
「やりがいがあるんだからいいじゃないか」で労働者の悲痛な叫びを逆に非難する。*9

一般市民が労働者や、その成果を売る企業を相手にやりがいや達成感を盾に労働の成果を買い叩こうとすれば、結局企業や労働者も同じ考え方になっていくしかない。
そういう一般市民に売り込まなければ、その企業も生きていけないからだ。
その意味で、やりがい搾取は市民の持っている感覚の問題でもある。
そんな感覚を持ったままの一般市民がやりがい搾取を行う企業を非難した所で、目くそが鼻くそを笑っているだけである。


サブカルにおけるやりがい搾取

ブラック企業が社会悪、敵として出てくる関係で、
ブラック企業モチーフの敵が、部下にやりがいを押し付け強要するという描写が増えるようになった。(例:Library Of Ruinaの主人公、および「シ協会」)
また、文明崩壊により貨幣制度が崩壊したというどうしようもない事情から、給料の代わりに「いいね」が貰える会社なんてものも…




追記修正はやりがいがあるのでただでもやれ。

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最終更新:2024年04月13日 09:49

*1 雇用されている厳密な意味の労働者に限らず、請負などで暮らしている人達も含む。

*2 憲法18条で、刑罰でもないのに意に反する苦役をさせることは禁止されている。

*3 もちろん、払わない方法はなかなか巧妙であり、一方的に払わないことを通告するような分かりやすい手法は取らないので注意が必要。

*4 直接残業しろと命じたりせず、絶対残業しないと終わらない仕事をさせたりする。そして、残業しても終わらないのは本人のせいだと信じ込ませる。

*5 トラックやバスの運転手に過労・睡眠不足状態で運転させるような場合を考えると分かりやすい。

*6 文書を偽造したり、顧客をだましたり、脅迫まがいの方法に手を染めるなど。

*7 ある程度の規模がある企業なら社員教育について社内で体制を整えたり、専門の会社に研修を外注したりしている場合が多い。もちろん、その外注先の専門会社も割ととんでもないものが紛れていたりするので油断はできないが…

*8 最近の営業職、特に金融商品を扱っている所では顧客の引き抜きは社則で禁じている所が多い

*9 もちろん、労働者の叫びが全て真実とは限らず、企業は常に悪者であると決めつけるのは許されないだろう。しかし、「嘘か本当か分からないから様子を見る」と「本当だとしてもお前が悪いという意見を表明する」は似て非なるものである。