SCP-093

登録日:2017/07/03 Mon 21:04:50
更新日:2023/11/15 Wed 16:38:16
所要時間:約 45 分で読めます





どこまで遠くに行ったって、人は変わらない。


SCP-093とは、シェアード・ワールド「SCP Foundation」において登録されたオブジェクトの一つである。
項目名は「Red Sea Object(紅海の円盤)」。
オブジェクトクラスは「Euclid」。


概要

コイツが何かというと、文字通り円盤である。水銀の原石に近い何かの鉱物から削り出されたもので、おもに赤色をしている。直径は7cm少々で、人の掌にすっぽり収まる。
そしてこの円盤、実はまだ全貌が判明していない。というか、オブジェクトとしての異常性は至極単純、「鏡の上に置くとその鏡を通って別世界にいける」というだけ。
鏡から離れており、かつ誰の手にも持たれていない場合、もっとも近くの鏡面を探して転がり始める。この時、驚異的加速力を持って、かつ可能な限り大きな円を描いて転がろうとする。毎度のことだがどうやっているのかは不明であり、鏡面に接触しない限り止まらない。

全貌が判明していないのは別世界の方なのだが、実は財団がどうやってSCP-093を確保・収容・保護したのか、その詳細もわかっていない。
唯一あるのは原本となる報告書なのだが、その内容がこちら。

アイテム番号: SCP-093
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-093は収容ブロック████の一階の床から最低1.22m(4ft)の高さにある0.3×0.23m(1ft×9in)の広さの台座に置いた銀枠の鏡の上に収容してください。オブジェクトの収容エリアの広さは3.66×0.5m(12×10ft)以下でなければなりません。また台座はマホガニー、松、桜、アルミニウム製の物を使用してはならず、収容ブロック████の一階以外の場所に収容してはなりません。オブジェクトは安全に手に取ることが可能で、丁寧に取り扱えば重大な問題は発生しません。収容条件を含む実験とその結果は付録レポートのセクションB: 35-1で確認できます。
説明: 1968年1月30日、紅海の岸にて小さくため息を吐くように鳴りながら薄暗い青色に輝く物体を発見しました。34から41歳の女性検査官の前ではブンブンと音量を変化させながら鳴り、赤と橙を混ぜたような色に変化しました。 1986年4月26日1時23分、194-9834の死体が研究施設█████で発見されるのと同時に54分34秒間SCP-093は記録された青の様な色になりました。
194-9834とSCP-093の関係は未だ不明瞭であり、また093に長期間晒された場合の影響は心の安静を得たという稀な報告と、周期的な抑鬱状態と心のバランスの失調、および自殺の考慮を報告した242-0049の事例を除いて不明です。これらの感情が持続するのは11日以下であることが報告されています。1993年3月12日には242-0056の存在に反応し、2時間9分未満の間だけ紫色2に光を変えたと記録されています。この反応の影響は依然として不明です。
補注: 093の起源は依然不明で、093の発見に関する資料は1989年12月9日の研究施設█████の火事により焼失しています。093を手に取った研究者の感情の動きに関する報告書は1995年4月19日からその重要性を失ったままです。

明らかに財団のテンプレートでありながら微妙に違う文体、そして用語の差異。
毎度毎度のパラレルSCP財団のものと思われるが、出所は不明。

現在の特別収容プロトコルはこれをそのまんま踏襲する形で策定されているが、基底世界の財団にとってはこの報告書も含めてSCP-093。
「なんで収容に鏡がいるんだ?」という疑問が当然発生する。どんな特性を持っていて何が起きるのか、恐らく「原本」を記した方の財団は全貌が解明できていなかったと考えられる。ただ、「鏡に接触していないと凄い勢いで転がる」「持つ人によって色が変わる」という特性のみ判明していたのだろう。

しかし、基底世界の財団にそんなことはわからない。
というわけで、収容に鏡が必要な理由を探るための実験開始である。


実験その1:収容

「原本」には台座の材質についてのタブーもあったが、重要なのは鏡の方。
どんな鏡ならいいのか? ということで色々な鏡に接触させてみたが、結果は材質は問われない、ということ。
これにより、高価・高級なものは特に必要でないことがわかった。財団の資金は有限なのだ。

次は机の上においてみた。
結果、鏡が置かれるまで机の上を転がり続けていた。

次はその机の端に、二つの鏡を同時においてみた。
結果、SCP-093は近い方の鏡に向かった。距離だけを優先するらしい。

次は人間が鏡を持って歩いてみた。
結果、SCP-093は物凄い勢いで鏡を追尾、伏せられているがとんでもない速度まで達した。

最後は偶然得られた結果である。
人間がSCP-093を鏡の上に置く、つまり円盤が乗るのを待つのではなく人の手で乗せるとどうなるのか、という話。
実はこれは実験ですらなく、昼食のあと、ランチの代金の支払いでモメた際に、足を引っ掛けられた一人のエージェントがたまたまSCP-093を持ったまま鏡の上に転倒。
これにより、「SCP-093を持って鏡の上に置くと、その鏡の中に入れる」ことが判明。さらにここまでの実験で、ともかく鏡さえあれば動かさずに置いておける、ということがわかったため収容実験はここで終了となった。


実験その2:別世界

さてそうなると、「原本」の方には記載がなかった、SCP-093によって導かれる別世界の方を調べなければならない。
オブジェクトに関連する要素は可能な限りデータを集める、それが財団の仕事だ。
ところが、この実験記録は非常に数が多い。

最初にさらっと触れたが、SCP-093は持つ人間によってその色を変える。
そして実験の結果、どうやらこれは持つ人間の「罪」に反応してその色を変えているらしいと推定された。
ならば、Dクラスを用いて色のパターンを調べ、そしてその色に応じて何がどう変化するのか、それを知らねばならない。
試行錯誤の結果、5色のパターンを検出。それぞれにつき一回ずつ、命綱と各種装備、そして音声映像記録装置を持ったDクラスを突入させ、「別世界」の状況を調べることになった。


ここからは探査記録を解説するが、詳細を述べると非常に長くなるため、それぞれの探査で何が起きて何が見つかったのか、のみを述べる。
なお、回収された情報はセキュリティクリアランスレベル4にまとめられているが、分けると本当にわけわかめになるため発見された探査記録と併記する。


パターン:青 Dクラスの前歴:殺人/自殺未遂

何もない平野。映像は青みがかっていたが、肉眼では観測できず。
竪穴があり、その下には避難施設と思しき空間があった。かなりの悪臭と、一つの部屋の壁を構成する「茶色のプラスチックに似た何か」が確認された。
生存者は誰もいなかったが、謎の人影が覗いているのが記録された。新聞の切り抜きを回収して戻る途中、37以上の人影が記録されたが被験者の肉眼では観測できない。

不可視の何かが命綱のケーブルを引っ張っており、この時点で映像の青みが消滅。
管制がケーブルの巻き取りを始める直前、パニックになったDクラスが映像に映っていない何かに向けて発砲、その後回収された。
鏡を監視していたスタッフは「地面を這いつくばり、パーツのない顔と短い腕を持った、常人の50倍はある人型実体が鏡に向かって引っ張っていた」と報告した。

  • 回収された情報
新聞記事の切り抜きだが、内容はこんな感じ。
教皇が進展を発表、不浄が浄化される!

ユナイテッド・ランド・オブ・ザ・サン(The United Land of the Sun)の教皇は滅多にない民への声明を出し、祝福の民兵(Blessed Militia)が隠れている不浄(Unclean)の殆どを私達の土地から追い返したと宣言しました。新しいローマ(New Rome)、私達の首都から不浄は一掃され、市民は家に帰るよう促されました。不浄は私達の素晴らしい街の外をふらつきながら大きさを成長させており、地方で農園を営んでいる市民はまだ帰らないよう指示されています。

祝福の民兵は不浄を罰し、不毛の地(Unfertile Land)へ追い返すことのできる武器を開発しました。全ての不浄を追い返した後に、それぞれの影響を受けたエリアにおいて私達の祝福の土地と不毛の土地を恒久的に仕切るためのシステムの建築が開始されました。教皇はすべての市民に対して、この困難の時にユナイテッド・ランドに祈りを捧げ、祝福の民兵の犠牲のために十分の一税を支払うよう命じました。

祝福の民兵が勇敢に汚染された土地を進んでいる間に泊まった民家において、その住民に対して罪を犯したという誤った告発の報告が届きました。教皇は市民に対し、主の証を身につけた者を冒涜することは最も重い罪であり、根拠のない非難にはそれ相応の罪が与えられるのだということを注意しました。主とその部下達(He and His Men)が私達の為に命を投げ捨ているのですから、私達は彼らに尽くさなければなりません。

罪深き賊軍(Sinful Rebel)は──

キーワードは「教皇」「不浄」「祝福の民兵」。さらに「新しいローマ」というフレーズから、平行世界の地球だと考えられる。まあK-クラスシナリオかなんかで世界オワタ状態のようだが。
で、どうもこの地球は宗教的な価値観というか、宗教連邦というべき組織による一極支配を受けていることが伺える。
「不浄」についてはこの時点ではよくわかっていない。

そして後半のセンテンス。
祝福の民兵が勇敢に汚染された土地を進んでいる間に泊まった民家において、その住民に対して罪を犯したという誤った告発の報告が届きました。教皇は市民に対し、主の証を身につけた者を冒涜することは最も重い罪であり、根拠のない非難にはそれ相応の罪が与えられるのだということを注意しました。主とその部下達(He and His Men)が私達の為に命を投げ捨ているのですから、私達は彼らに尽くさなければなりません。
この部分をよく覚えておこう。


パターン:緑 Dクラスの前歴:車上荒らし/児童二人に対する過失致死

映像は緑がかっている。降りた場所は農地。
農場の家屋があり、地下シェルターに降りる部分があった。
シェルターのドアの一つは引きはがされ、階段には男の子の服や靴が散らばっていた。

家屋の地下シェルター=地下室は一般的なもので特異性は見られなかったが、ここでも悪臭が報告された。
地下室の床にハンドル式のハッチがあり、そこから下に降りることが出来た。
どうやら食糧か何かの貯蔵室だったようだが、シングルとダブルのベッドが一つずつ置かれ、さらに使用済みの拳銃と空薬莢、そして白骨死体が3つ発見された。
この中でDクラスは比較的状態の良い新聞記事の切り抜きと、日記らしき綴じ本一冊を発見、回収した。
さらにハッチの出口近くにインターネットジャックがあり、琥珀のような物質が盛り上がっていた。回収するよう指示されたが、悪臭のおおもとがこれらしく、拒否された。

外に出るためにDクラスが梯子を上り始めると、トンネルの上に立って見下ろしている人影が記録される。Dクラスはこれを確認できなかった。
被験者は何事もなく上り続け、人影はDクラスが上り切ると映像の外に去った。

しかし、外に出てみると青の実験で管制が最後に確認したでっかい人型実体が2体ほどうろついていた。
短いと見られた腕は伸縮自在であり、この人型実体には顔のパーツがなく、また足に当たる部分はなかった。
人型実体が去った後、Dクラスは農家を探索。
内装から見るに1950年代のものと思われ、リクライニングと接着されたラップトップがあった。開けてみるとシャットダウン直前で閉じられていたらしく、「Faithful OS(信心深いOS)」という表示が一瞬確認された。

2階に上ると部屋の一つは子供部屋で、窓から観測すると40Kmほど先に町があった。
下を見ると、カメラ映像は例の人影が300ほど家を取り巻いて見上げているのを記録しているが、Dクラスには確認できない。
その後、スタート地点まで戻ったところで唸り声のようなノイズが確認された。この直後にDクラスは帰還、探査は終了した。

  • 回収された情報
新聞記事の切り抜きが3つと、農家のおっさんらしい人物の日記が一つ。この内容、かなり重要である。
まずは新聞記事、一つ目はこんな感じ。
シルバー・フェザーズ(Silver Feathers)の街周辺の農家から、隣人が声やビデオ映像に反応がないと先週通報がありました。教区司祭からの承認が与えられるまで調査は開始されませんが、民に対して司祭はこの事件に注意を向けていると断言しました。

住民はさらなる失踪が確認できた場合にはすぐに、地元の祝福の声へ通知を行なうよう勧告されています。またいかなる状況にも備えて、シェルターに備蓄を開始するようにとも勧告されています。
この世界の街は、ファンタジーか何かのように「○○の街」と呼ばれているようだ。
「祝福の声」は恐らく警察に該当する何かだろう。

二つ目はこんな感じ。
シルバー・フェザーズの街の周囲から離れているいくつかの領域において祝福の声達(Blessed Voices)が失踪したため、教区司祭は安全と生活に対する懸念を宣言しました。この宣言の下、すべての農地住民はシェルターに避難しなければなりません。不浄の存在が断片的に報告されていますがまだ確認は取れていません。
「不浄」の行動範囲が広がったもよう。

三つ目。
グロリアス・ソング(Glorious Song)の街はあらゆる通信に対して応答を止めており、最悪の事態が想定されます。私達の言葉を聞くことのできないその地にいる人々へ心より同情いたします。シルバー・フェザーズの街の祝福の民兵は、不浄による街への侵入が数回あり、住民の脅威となる前に忌まわしき4体を殲滅したと報告しました。
教区司祭は市民に対し不浄と直接衝突しないことと、通常の兵器は不浄には効き目がなく、最も神聖な武具のみが彼らの罪を裁くことができるので、自ら危険に近づかないよう指導しました。

すべての市民は、隣人が重罪にふけっている疑いに気付いたならば、指定されたチェックポイントを通じて即座に祝福の民兵へ連絡し―
「不浄」には通常の攻撃は通用しないらしい。
ここで気になるのは「重罪にふけっている疑い」。つまり、SCP-093の特性と合わせて考えるに、何らかの罪が「不浄」を引き寄せるのだと思われる。

そして、農家のおっさんの日記。訳文はかなり読みづらいので、さらに意訳したものを載せる。
なお、日付は省略する。

俺は確かに、みんなが死ぬと思った。だから俺は、ここに来て、俺達の死体を見つけるだろう誰かのために、これを書いておく。
俺の名はHerverf Jakulsiv、農家だ。家族は俺と妻、息子と娘が一人ずつだ。この本は、食べ物を求めて現れた「祝福の民兵」から、その対価として受け取ったものだ。あいつは俺達にこういった。避難の準備をしろ。そして、俺達がここにいると知っている「祝福の民兵」であっても、決して入れてはならないと。全ておしまいだ、とも言ったよ。
俺はあいつの言うとおりにすべての準備をした。朝にはあいつはいなかった。他の「祝福の民兵」と違って礼儀正しかったから、妻は別れを悲しんだな。あいつは殺人をしたくなかったんだろう。
娘は近くにあいつがいないか、探しに行ったよ。


俺達は、あいつが姿を消したから、どこかに去ったのだと思った。しかし、娘は1マイルほど離れたところであいつの服だけを見つけてきた。そのまま置いてきたと言っていたな。俺が思った通りのことが起きたのなら、それが最善だ。
俺はバカだ、認めよう。だが、二つのことを結びつけて考えることが出来る。何か、まずいことが起きているのもわかる。
何か臭いがしたら逃げろ。腐り過ぎて、溶け始めている肉のような臭いだ。まるで、土でさえもあれを拒否しているかのようだ。埋まって消えることを拒むようだ。


アレが来た。速すぎて準備が間に合わなかった。それは夜にやって来た。子供たちが怖がったのでシェルターに向かった。しかし、息子が出遅れて、アレを見てしまった。アレは俺達に気付かなかったが、息子が叫んでしまい気付かれた。連れて逃げたかったが、アレは速すぎた。逃げる息子の後ろから追いすがり、頭を打ちおろして飲み込んだ。
息子が消えてなくなったかのように、服だけが落ちた。俺はシェルターに入り鍵を閉めた。
食べ物がたくさんあると思っていたが、半分ほど腐っていた。全てではないが不十分だ、そしてアレはまだ周りにいて、ここに入ろうとしている。壁の通気口から臭いを感じる。だが、漏れ出した何かが石のように固まったらそれはしなくなった。
様子を見るために上に上がったが、とんでもない数のアレに取り巻かれていた。顔のない顔でこちらを見ていた、臭いもひどい。俺は奴らに食われる前に、妻と娘を連れて死ぬことにした。娘には話していないが妻は賛成してくれた。だが俺は悪くない。そう言える。これをもたらしたのは奴ら、神の祝福だ。


俺の尊敬する男、つまり俺のじいさんを偲んで書いておく。
じいさんはかなり老いていて、俺が生まれるより前のことを知っていた。宗教連中が解く「不浄」のことと、宗教連中が避ける不毛の地のことを話してくれた。
教皇が全部の元凶なんだと。アレは究極の罪、俺達から出た穢れの塊なんだとさ。アレは何も知らない、ただ動くだけ。そして連れていかれれば死ぬ、と。
俺はじいさんに、不浄とは何なのかを聞いた。けどじいさんは、こう言った。「知らねえ。誰も知らねえし、これからも誰もわからない。だが、もしこのシンボルを見たら、アレに出会ったら、とにかく走って逃げろ。アレと出会った場所に二度と戻るな」と。
俺はそのシンボルを覚えている。じいさんがシャツの下、いつもつけていた首飾り。その先の石に刻まれていた。次の日、じいさんはいなくなった。親父は泣かなかったよ。いつかこうなると思っていた、じいさんは家に帰ったと言った。
じいさん、親父、すまねえ。俺達もそっちに行く。

この日記は、平行世界で起きた出来事を推察するのに非常に有用な情報だった。
極限状態に置かれた人間にはままあることだが、「祝福の民兵」は基本的に、立ち寄った民家・民衆に対しては傍若無人だったようだ。「他と違って礼儀正しい」と書かれているあたりにそれが伺える。

そしてここからわかる事実として、「不浄」とは例の半分の巨人であり、悪臭は連中の発しているものらしい。
さらに、人を襲う習性があり、食うと生身の部分だけ取り込んで服や装備は残していくようだ。

「不浄」と戦っていたようだが、じいさんの話が事実ならば「祝福の民兵」の元締めである宗教連邦のトップ、即ち教皇その人が原因である。要は、盛大なマッチポンプだったらしい。
もっとも、火が広がり過ぎて収拾がつかなくなっていたようだが……。



さて、ここでいったん整頓。

  • 別世界ってどんなところ?
平行世界の地球。キリスト教系統のなんかの宗教が支配している。多分DARDとは関係ない。

  • 例の巨人は何?
人食いの怪物「不浄」。物凄い悪臭を発する。

  • 例の人影は?
まだ正体不明。


パターン:紫 Dクラスの前歴:麻薬取締法違反/残忍な手口を用いた第二級殺人

なお、Dクラスは非常に非協力的かつ反抗的だったが、この時点でパターン紫を確認したのはこのDクラスだけであったため実験に踏み切られた。

降りた場所はニューヨークに似た町の中。
各所に乗り捨てられた自動車があり、それらは高度に進んだ技術によって作られたものだった。
Dクラスは警告を受けたが、逃亡のためにこれを使いたくても、理解を超えたものは使えないと返答した。
なお、これら自動車のほとんどは茶色い何かに満たされ、悪臭が発せられていた。

Dクラスは車のシートに座って外を眺めているが、映像記録は例の人影が外からDクラスを見つめているのを確認している。
この後、護衛として機動部隊4名が派遣され、映像記録もそちらが引き継いだ。

最も近い建物に近づくと、ドアに「X.E.A. Research Partners Inc」とエッチングされている。
内部はステレオタイプな会社のロビーで、椅子の様子からしてスタッフは逃げ出したようだった。
PC端末を調べると例のOSが起動していた。ログイン作業はすべて失敗、シャットダウンされた。

二つあったエレベータは片方のみ機能していた。114階まで表示されていたが13階と113階がなく、実際には112階建だった。
最上階まで行って街を見渡すと、同じくらいの建物が複数確認された。いくつかの建物には茶色の物質が、「ゼリーのようなものがぶつけられて飛び散ったかのように」付着していた。
別の側に向かうと高速道路が見えた。そこには例の「不浄」が徘徊していた。
エレベータに戻ってくると、いつの間にか74階に向かうようボタンが押されていた。

74階のドアは全て開かれ、病院か何かの待合室に見えた。
受付にはシートがあり、日付と名前を書く欄があった。日付は全て1953年。
受付のPCは生きており、やはり例のOSが起動していた。一つのフォルダを開くと予約情報だった。
机の上には「Borisizki先生の机から、祝福された浄化者」と書かれたメモがある。診療室へのドアは十字架が彫られている。

診察室が二つと、突き当りにロックされたドア。こじ開けてみると収容カプセルが並んでいた、明らかに受付より広い。
6つあるカプセルのうち二つは破損し、例の茶色い物質がこぼれ出していた。一つは空だった。三つには呼吸マスクをつけられた全裸の人間が入れられていた。
カプセルの全面にはその人間のものと思しきカルテが張り付けられていた。

この時点でDクラスがパニックに陥る。機動部隊には観測できなかったが、映像はDクラスが例の人影たちに囲まれているのを映しており、Dクラスもそれを視認していた。
機動部隊が回収に向かうと、人影たちは道を開け、Dクラスが連れ出されると元の位置に戻ったが、Dクラスをじっと見つめていた。

帰還の途中、隊員の一人が「主の涙」とラベリングされたバインダーを回収。
エレベータで1階に戻ると、Dクラスが「不浄」が高速道路から降り、一行を発見して唸ったのを確認。
機動部隊とDクラスはスタート地点から帰還したが、パニックを起こしたDクラスが発砲しようとしたためその場で終了。
隊員が一人取り残されており、救出のため急きょパターン紫を起こせる職員を募り回収に向かった。

しかし、装備だけが残されていた。映像記録はその隊員が「不浄」に食われる様子を映していた。


  • 回収された情報
これは、収容カプセルにつけられていたカルテと、バインダーの情報である。
まずはバインダーの情報。治療記録のようだ。明記されているのは二つあり、片方は女性のもの。

患者: Jennifer McZirka
回復管: 001-1
調合: 涙35%、栄養剤30%、H.F.T.10%、祝福25%
要約: Jennifer McZirkaは年齢20サイクル、18サイクル時に高収容能力車の事故の犠牲者になり脳の道徳を司る箇所を損傷した。彼女は突然暴力的になる傾向があり、それは非道徳な刺激によってのみ鎮めることができる。そのため、彼女は積極的に交際できる見知らぬ人間を探し、そして彼女の両親は司祭に対し、心と身体を改めるため、彼女を涙に入れて欲しいと要求。患者は受け入れられる。

涙の準備中、被験者は興奮状態に陥ったため担当のハンド(Hand)が鎮静剤を投与を試みる。Jenniferは自身の衣服を引き裂き、私に向かい汚い言葉を叫びかけたので私はドアをロックしてハンドに外に待ってもらうようお願いする。
幾分恥ずべきことだが、私は彼女を涙に入れるために合計7回彼女を抱いた。彼女の両親が、彼女の世話を私たちにまかせてから非常に長い時間が経っており、そのため彼女の世話を私が行なう。
彼女を涙に入れる前、私は彼女の体の機能に祝福された検査(Blessed Probe)を行い、彼女が子を身ごもっていることを見つけ、試験でそれが私の子であることを確かめた。これに合うように彼女の入浴を調合した。体が出産の準備ができるまで、彼女は涙に沈められる。

18歳の時に交通事故で脳に障害が残り、そのせいでいわゆるニンフォマニアとなっていたようだ。
で、「司祭」も彼女を落ち着かせてカプセルに収容するために7回も致さねばならなかった……と見えるが、この女性が収容されたカプセルのカルテはこうなっていた。

市民であるJennifer McZirkaは心の過ちに苛まれ、彼女の夫が家を出ている夜に2度に渡って隣人と寝るということを引き起こした。患者は彼女自身を心と身体の浄化のために主と我々の手に差し出した。祈りは高位神父Uwalakinによって行われ、彼女の組織の浄化のために3日間、主の涙にその身を差し出し、良い精神へ解放された。

バインダーでは両親が連れてきたことになっているが、カルテでは彼女自身が望んでやって来たことになっている。
次に、もう片方。こっちは男性である。

患者: Alberious Farafan
回復管: 001-3
調合: 涙80%、栄養剤20%
要約: Alberious Farafanはシルバー・フェザーズの街の外の農家で、彼は不浄によって家族を亡くしたと主張している。彼は教区司祭に対し補償と懲罰を求めた。司祭は不毛の地以外の不浄の存在を否定し、補償と懲罰を拒否。Alberiousは司祭に暴行をはたらき、逮捕され、魂の浄化を宣告された。

彼の調合の大部分は、魂へ染み込ませ、彼の心を浄化し、痛みを癒やすための涙である。ローキーパーズ(The Lawkeepers)は彼の家族が実際に亡くなっており、同情の余地があるため涙以上の刑罰を下さなかったと言っている。もし最後のH.F.T.をJenniferで使い切っていなかったら、この入浴の涙の量をもっと少なくしたと思う。
80%は望ましい量よりも多いが、H.F.T.を手に入れることは難しくなってきている。私はもしかしたら闇(the Dark)の中に行かなければならないだろう。

不浄のせいで家族が死んだ、と抗議しに来たが、彼らの宗教でいう「休息の地」に不浄などいない、という理由から突っぱねられた。恐らくは主張は事実だったのだろう、キレたこの男は司祭を殴りつけて逮捕された。
どうもここでいう「主の涙」というのは薬品の一種のようだが、これに人を浸すのはどちらかというと、治療よりも刑罰の意味合いが近いようだ。「悔い改めよ」ということだろうか?
ところがこのおっさん、カルテではこうなっている。

市民であるAlberious Farafanは説教中の高位神父を殴り飛ばし、主の涙は彼の娘の精神と心を狂わせたと冒涜し、彼女の売春婦のような行いを高位神父と彼の祝福のせいだと非難した。これらの冒涜には何の証拠もなく、Forgiving Judge(許しの裁き)とPunishing Judge(罰しの裁き)はAlberious Farafanに対して、彼の精神と魂を浄化するために主の涙に一週間入浴させ、そうして娘の行いはThe Fathers Hands(神父の手)のせいではないことを証明し、彼自身を落ち着かせるべきと同意した。

この「主の涙」に浸す=祝福によって彼の娘は精神が狂ったと主張したために、それが根拠のない冒涜だとして涙に漬けられた、ということになっている。
どうも「不浄」については伏せておきたいようだ。ちなみにこのおっさんの家族、原因はどうあれ実際に亡くなっているため、情状酌量によってこれで済んだようだが、気になるのはこのセンテンス。

80%は望ましい量よりも多いが、H.F.T.を手に入れることは難しくなってきている。私はもしかしたら闇(the Dark)の中に行かなければならないだろう。

「主の涙」には適正な用量があり、これを超えると何か起きるようだ。
で、茶色い何かと「不浄」の関連、さらに農家のおっさんがじいさんから聞いた「教皇が元凶」という部分を踏まえると、こんな推察が出来る。

「不浄」の正体は、「主の涙」に過剰に漬けられて変異した元・人間ということである。
茶色い何かは、ここまで書いていなかったが、「不浄」が体から垂れ流している黒い流体が乾燥して固まったものらしい。
さらにH.F.T.は、恐らくは洗脳をつかさどる麻薬の一種だと考えられる。本来はこれと「主の涙」を混ぜることで用量を調整していたようだが、女性の件で在庫が尽きていたようだ。で、結果は「不浄」への変化、ということなのだろう。


  • ちょいと整頓
世界を支配する宗教連邦は、「不浄」という半身の巨人と戦っている。「不浄」の被害は著しく、「休息の地」と呼ばれる安全地帯も狭まり、というか安全なはずなのに「不浄」が現れることも多発した。しかし宗教連邦はそれを否定している。
で、実際のところ「不浄」は宗教連邦による失敗で変化した犠牲者のなれの果てであり、連邦その物も権力を笠に着て好き放題やっているらしい。


パターン:黄 被験者:とある博士

紫の実験を教訓にDクラスの投入は禁じられた。今度は、黄色いパターンを現したとある博士が、何と命綱なしで突入。
ちなみにこの博士、犯罪歴はない。

降りた場所はどこかのオフィス。やはり黄色がかった映像になっている。
書棚を調べた博士は、5つあったファイルのうち一つだけが青いと証言し、それを回収した。
動いていたPCにはやはり例のOSが起動していたが、有益な情報はなかった。

別のオフィスの突き当りに向かうとエレベーターがあった。
現在地は34階だが、地上115階、地下115階まで続く大規模施設であることが判明する。
紫の実験で探査されたビルは13階と113階がなかったがこれにはある。13を不吉な数として避けるのはキリスト教圏の国によくみられる習俗である。双方のビルが同じ団体・組織の持ち物であったと仮定し、さらにあの町がニューヨークであったならば、合衆国は宗教連邦に取り込まれ、その時の施設がまんま使われていると思われる。

万が一の備えを行った後、博士は地下115階へ移動する。この時一瞬カメラがホワイトアウトし、復旧すると博士の周りの例の人影が囲んでいた。博士が動くとそれに合わせてスペースを開けるよう移動したが、二度目のホワイトアウトの後にはいなくなっていた。
が、ここで博士は悪臭を確認。降下を中断し、地下110階で降りた。
そこは何かの監視デッキであり、PCはオンラインだった。画面を確認すると例のOSであり、4つの異なる画面に監視映像が映されていた。
一つは収容カプセルが数千以上ならんでいる部屋。
一つはカプセルを観察するためのアップ映像。確認する限りカプセルは全て壊れている。
一つは監視デッキで、博士自身を上から映したもの。見上げると、推進力不明のカメラが通り過ぎて行った。
一つは監視デッキの下の階、例の「不浄」の中でもひときわでかい、25mクラスのものが徘徊している様子。

ビデオ・ログの画面には白文字のテキストが隠れており、これは記録された。
この文書には54階の金庫の存在とそのパスワードが記されており、博士はこれに従い金庫の中の資料と、リボルバー拳銃とその弾丸を回収。
34階まで戻ってきた博士は、十分にデータを得たと判断して帰還。その間際、近くのPCが監視デッキと同じ映像を映していることに気付く。何者かがここを放棄する前にネットワークをクラッキングし、全ての端末にあの映像を流したらしいと見られた。


  • 回収された情報
これは、恐らく同一人物であろう、施設の最後のスタッフの遺したものである。
まず、監視デッキのPCに残されていたテキスト。

監視者達は信用出来ない、ずっと何かがおかしいと感じていた。54階の私のデスクの下の金庫には祝福の民兵が使っていた銃の1つがある、兄弟がくれたものだ。彼が言うには祝福の民兵は彼らが主張しているようなものではなく、不浄がするであろうことよりも酷いことを私たちの仲間にしてきたらしい。彼は戦いに備えろと教えてくれた。私にはできない、私はそんなんじゃない、私は争いを知らない、私は弱すぎる。君が、使ってくれ、自分を守るんだ。

「祝福の民兵」は予想通り、市民に対して乱暴狼藉を働いていたようだ。農家のおっさんに警告を残したあの兵士は脱走兵だったのだろう。
続けて、金庫に残されていた日記。これも、内容を意訳する。

私はHerval Toliwis、この施設のスタッフだ。私の仕事は「主の涙」につけられた罪人のカプセルと関連システムの管理だ。「主の涙」に漬けられた罪人はその罪を時間をかけて希釈される。私の仕事は、それについて決められた時間が経過したかを見張ることだった。さらにそれを監視する「監視者」がいる。督戦官のようなものだ。23年もこれを続けたが、私はもう教皇に従えない。真実を告発しよう。
今、収容カプセルは破られている。休息の地に不浄が現れたが我々は避難することが出来ない。「監視者」は私がこのメッセージを残したことを知れば殺しに来るだろう。幸い連中はハードウェアに対して無知であったので、隠蔽は簡単だったがその必要もなくなった。
「監視者」は不浄の出現に怯え、私たちに後を押し付けて逃げ出した。現れた不浄は全てのカプセルを破壊し、中の人々を飲み込んだ。私は「眼」と呼ばれる監視用のステルスドローンを飛ばし、不浄のサンプルを持ち帰った。そしてわかったことだが、アレは私たちの反抗の産物でも、罪そのものでもない。アレは私たちだったもの、すなわち元人間なのだ。しかも今回出現した不浄の経過年数、要は年齢を調べたが、200歳だった。
私は不浄が1体の存在とは思わない。なぜなら私は、不浄が空間の隙間を出入りするのを見たからだ。不浄は構造が非常に不安定な存在だ。分子の分離と再結合が一瞬で起きる。にもかかわらず、なぜここまで上がってこないのかはわからない。ただ、奴らは我々を見ることも聞くことも出来なくとも、感知することは出来るようだ。
不浄の放つ悪臭はいうなれば、死すべきであるのに死ぬことの出来ない、死に方のわからない者のあかしだ。アレがどこから来たかは定かではないが、ホーリー・ユニオン戦争が発端ではないかと思う。私たちは教皇のもとに団結したが、教皇は私たちのために何も負っていない。
私はサンプルをもとに、不浄と正反対の組成の液体を作った。上手くいけば不浄と相殺するはずだ。しかし、これで戦うには私は弱すぎるのだ。


「不浄」とはあの半身の巨人ではなく、空間の隙間を移動する分子構造体であり、巨人はそれに人間が取り込まれた結果変貌したもののようだ。
だが、空間の隙間を移動する能力は人を取り込んで巨人化した時点で失われるらしく、それ以後はひたすら移動できる範囲で人を食い続けるのみとなる。
ただ、このスタッフもなぜ「不浄」が人を襲うのかはわからなかったようだ。

パターン赤

これはある保安要員による実験である。先の実験で回収されたリボルバーと弾丸を持って突入したところ、出たのは赤い石細工で出来た不明な空間だった。

そこには、それ自体が単独で回転している六角柱があり、それらにはランダムな間隔で穴があけられている。さらにその穴からは時折白い光が出ている。
この光は、部屋の壁の一部であるSCP-093に似たシンボルに向かっている。部屋自体も円筒形であり、SCP-093のコピーが大量にある。

さらにスタート地点であるポータルは、柱のうちシンボルが欠けた一つに同期していることから、SCP-093は元々ここにあったのではないかと推察された。同様にシンボルの欠けている柱が散見され、ここはどうやら何らかの中枢らしい。
梯子を下りてみると、基底世界のそれとはだいぶ構造の違うPCが並んでいた。監視デッキだった。
大きなCRTモニタには「'Clean','Unclean','Clean','Clean','Lost','Unclean'」の順で、5秒間隔でワードが表示されている。

部屋を進むと別の監視デッキがあった。
紫・黄の実験で確認されたのと同じカプセルがあるが数が少なく、青い液体で満たされている。
不定期な間隔で、多くのチューブに電流と思われるものが流れる。一見したところ少なくとも5本のチューブは空で故障している。監視窓のキーボードは台の上にあり、選択を求めている。
選択の内容は「カプセルの状態(数値入力待ち)」「レポート」「シチュエーションX-549」「シチュエーションX-550」「避難記録」「うわ言」「エージェント█-██-█レポート」「施設防火計画」。
表示された記録は全て筆写され、回収された。

しかし、模写完了後に通信が途絶。鏡は元に戻ってしまった。
1分48秒後にポータルが復帰、被験者は戻ってきたが沈黙を守っていた。
そして報告の最中に被験者は突如痙攣を発症、人間の能力を超えた力を発揮し、例のリボルバーで医療スタッフの一人を射殺。警備員が駆け付けて心臓に二発の銃弾を撃ち込んだが被験者は死なず、結局自動兵器により終了された。
この時被験者は血を流さず、「不浄」のものと思しき緑と茶色の流体を吹き出していた。

通信途絶の間、被験者の持っていた予備記録装置が起動していたことが判明、これも回収された。


  • 回収された記録
これらの文書は、作成に当たってタイピング・音声入力の双方が用いられたと考えられている。
文体の変遷は作成者によって方法が違うためと思われる。

まずは「施設防火計画」。
施設からの緊急避難が必要な際には、全てのクリア-4スタッフがトレインステーション3に集まり、各自のバイアルを使用して脱出トレインを招集するように。バイアル1つだけでトレインを呼ぶことができ、涙を任意の量で入れることができる。空のバイアルはトレインを呼ぶことはできない。
クリア-2,-1スタッフは、クリア-4スタッフが離れてから10分経過するか、クリア-4スタッフの許可があるまで各自の持ち場で待機するように。クリア-3スタッフは各ステーションと武器庫にある防護服を着用し、クリア-4の指示に従って非常事態発生現場の対応をするように。

バイアルとは「小瓶」のことである。これは「主の涙」を管理する神聖連邦の文書らしい。
で、ここからするに「涙」は向こうで使われているエネルギーのようなものだと思われる。
ちなみに何となくだが、ですます調に直すと財団のテンプレートに似ている。

続いて「レポート」。
不毛の地の3地点が7日前と比較し25%拡大している。収容部隊はこれらの土地で不浄を確認していないが、拡大は目に見えて確認できる。クリア-5レベルの司祭は、これらの土地の聖なる檻が破られ、すべて空であったことを確認している。不浄が聖なる檻での収容を破ったのだと考えられている。残りの檻に対し更に警備員を派遣している。

「聖なる檻」は例のカプセルのことだろうと考えられる。
あの施設で起きた「不浄」による、いわば収容違反があちこちで起きたようだ。

続けて「シチュエーションX-549」。
ゾーン6-4-TOの拡大が確認された。不毛の地の収容手続きは稼働中。収容スタッフを現地に派遣。これはここ30日で10番目のレポートであり、シチュエーション状態を更新する。クリア-5の司祭のレポートが影響を受けることは完全になくなった。シティ・オブ・ヒス・ワードは完全に封鎖され、街への出入りは全て禁止された。他の街も現在警戒状態にあり、戦闘部隊が街周辺へと派遣されている。

不毛の地が広がり「不浄」もうようよ。町は次々と封鎖され、封鎖された町の司祭とは連絡が途絶。
世界終焉待ったなし状態である。

さらに「シチュエーションX-550」。
衛星画像によりグレートランド・オブ・フフシアが陥落したのを確認。すべての土地が汚染されたと考えられる。レヴィナにおいて罪の発生が報告され、その土地は聖連の援護を要請した。我々のところでも罪の発生が起こり、大量の不浄の報告がなされているため、援護は却下された。
クリア-10スタッフは、ゲートウェイを通じて避難し、聖連盟から認可を得た全ての人々は監視状態を継続するために、近くのスカイ・プラットフォームへ行きスター・アイ・エデンへ避難するようにという指令を出した。ゲートウェイ・キーがこの中心から別の空間/時間ベクタへ広がることを防ぐため、キーは排出されている。
我々が避難した後に、監視を行いレポートを続けるための復活スタッフが覚醒されている。主の祝福で我らの最も重い罪が許されますように。

事態は悪化の一途をたどり、何と大陸一つが丸ごと陥落。さらに「不浄」は他の大陸にも現れ、聖連邦に救援が要請されたが手が回らず却下。
結局、連邦のお偉いさんは空飛ぶ乗り物で空中の都市に避難、他のスタッフに丸投げして逃げてしまった。で、この影響が他の時空へ波及するのを防ぐため、ゲートウェイ・キーを排出。この、排出されたキーの一つが恐らくSCP-093であり、例の柱の部屋はその中枢だったのだろう。
しかし、どこにいっても偉い人ほど無責任なのはどうにかならないだろうか。

続いて避難記録。
避難が進行中。シャトル1離脱。シャトル2離脱。
しゃとっっっっっっっっっっる3えラーエラーエラーえらーえraー開放してくれ私たちを解放させてくれかいほうさせなぜなんでなぜなぜシャトル3の発射中断シャトル4へ移る。シャトル4は発射が遅れている、オーバーロードです、トリアージプロトコルに従ってください。
シャトル4は搭乗員数の限界に到達、発射じゅゅゅゅんんあああうんんんなんでだなんでなぜなんで俺たちを開放しろ解放して私たちをなぜなにしたっていうんだなんでだよなんでシステムは静電気活動を検出、復旧ふっきゅふっきゅふっきゅふっきゅ101011011101101010101110011あっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっrなんで私たちが苦しんだ私たちが何をしたなんで私たちが苦しんだ私たちが何をしたシステムシャットダウン

システム復旧汚染データのパージが進行中ナゼワタシタチナンデワタシタナンデワタシtナンデワタシタtナンデワタシナンデワタシタチナンデエエエエェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエキケヨ

記録5432-104-392パアスウウワーーーードドド わたたたしたちをゆるるるしててよよよよよ
555444332 2 2 2 2 222222222 1 111111111-----------ナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナゼナゼナゼナゼ

システムパージ

パージ

パー

お偉いさんの乗り物はどうもスペースシャトルらしく、宇宙のコロニーに逃げたようだ。
で、シャトル1と2は離脱に成功したが、3と4は「不浄」に邪魔され失敗した模様。ログを汚染しているのは「不浄」に取り込まれた人々の怨嗟の叫びなのだろうか?

さらにわからないのが「うわ言」だ。
まじウケるマジなんなんだよこの場所ここではみんななんかをタイプしてるみたいだから俺もタイプしとくわ。うちの横の池ん中でこの石みつけたんよね俺がもったら光りはじめておすっげいいなっておもってたら池の底みえなくなっていつのまにか光る石持ってこの変な部屋にいたウケる知んないけどここまで落っこちてきたっぽいそんでいまはそこじゃなくてここにいる正直こえーけど映画のセットみたいでかっけーわここウケるわここには誰かがいるおれは野郎がはなしてることをきける野郎おれに指図しやがってるおりてこいってでもドアなんてありましぇーんなんかたすけをさけびつづけてんなあの馬鹿野郎だまりゃしねえしあの気味悪い部屋に戻るかなでもこえーな笑える

やったぜドアをみつけたー壁じゃなくて床になりすましてやがったぜこれでさけんでる野郎をだまらせに行けるぜそしたら家にかえろっと

これはどうやら、SCP-093を近所の池で拾った基底世界の若者の音声ログのようだ。
若者はあの柱の部屋に出たらしい。で、ログが発見された監視デッキの下にまだ部屋があるらしく、助けを求める声と、「降りて来い」という声が聞こえたようだ。
若者はどうやら床に偽装されていたドアを見つけて下に降りたようだが……結末はお察し。まあ、「不浄」に食われてしまったのだろう。


そしてラスト、「エージェント█-██-█レポート」。
SCP財団のエージェントが残したもので、この人は1972年にこの世界にやって来たようだ。
財団が初めて訪れたはずの場所に、財団のエージェントのレポートが残されていたのだ。なぜか?
理由は簡単、このエージェントは別世界の財団の職員だからである。

ところがここで一つ、謎が残る。例の、SCP-093に関する報告書の原本、プロトコルの基礎となったアレである。
このエージェントがそこに所属していた、という可能性は除外される。このエージェントは72年にSCP-093を用いてこの世界にやって来たが、それは言い換えれば、エージェントのいた世界の財団はSCP-093を用いて別の世界に行き来できる、という事実を掴んでいたことになる。
「原本」にはそれが書かれていない。つまり、あの「原本」はさらに別の財団が書いたものだと考えられる。

ここからはレポートの内容だが、引用すると長すぎるので要点のみ記す。
それによれば、この世界は1954年に滅亡したらしい。その350年前、西暦1604年ごろに、この世界は大幅な技術革新を遂げている。それをもたらしたのが「主」と呼ばれる神格的実体だった。

「主」は、世界は不浄であり罪に満ち溢れていると宣告し、この罪を清める唯一の方法は罪人を粛清することだと告げた。その上でさらに、戦争を起こして、誰であれそれを生き残った者が穢れなき者(clean)であるとも。
この「戦争という名の篩分け」のため、10年をかけて技術革新がなされたが、「主」はこの間に姿を消した。そして、10年後に戦争は起きた。アメリカ合衆国に相当する国、ホーリー・ユニオン・オブ・ランドが扇動していたようだ。

この世界は1600年頃まで基底世界と同様の歴史を歩んできたが、「主」の登場により一気に文明が進み、その果てにこうなってしまったらしい。異世界モノの主人公が与える影響も、一歩間違えればこうなりかねないと言われるが、まさにそのモデルケースだろう。
急激な進化は、自滅を招くのだ。

ともあれ、穢れなき者を選別するための戦争で、最大の武器とされたのは人々だった。
廃墟と化した医療施設で今なお見ることのできる、主の聖なる涙と呼ばれる液体混合物に曝された人々を。主の聖なる涙は不浄から罪を洗い流し主への愛を芽生えさせる。少なくともそうラベルには書かれている。
まさしくあれは、「教化」のための施設だったのだ。
実験後に暴走した被験者は人間を超えた力を発揮し攻撃を行っていたが、あれが「兵器」としての在り方だったのだろう。
「主の涙」の正体は重篤なミーム汚染を引き起こす媒体であり、浴した人間は「主」への絶対的な忠誠を刷り込まれるようだ。

で、エージェントはこの世界を巡って情報を集めたが、戦争の経緯や発端については、
主の聖なる選民は罪深き地を歩き彼らの罪を自らに引き受けた。主の救いを求め泣いていた者達はそれを受け取り、現在は我々の子供たちである。主の愛を拒否した者達は主の輝きにより浄化された。
としかわからなかった。
そして、戦争終結後に「不浄」が現れた。エージェントが調べた限りでは、他の世界の学者も訪れて独自に「不浄」を調べたらしく、その情報が残されていた。
「不浄」の正体は、高濃度の「主の涙」に曝露された人間の中で、崩壊的遺伝子変異が起きたことによる産物だった。さらにこの「不浄」は、体を完全に再構築させることが可能である。「量子的再構築」なるプロセスを踏むらしいが詳細は分からなかった。

神聖連邦もこれは把握しており、同時に「不浄」が「主の涙」に引き寄せられることもわかっていた。
それを利用して「不浄」を収容し、収容施設の周囲を「不毛の地」と呼んでいたらしい。
しかしそれも完全ではなく、結局収容違反の連鎖により世界は滅んだ。

「不浄」は感知能力が低く、じっとして静かにしていれば気付かれない。しかし一度気づかれれば稲妻のような速度で襲ってくる。多くは殺すために。
エージェントはこれらの情報を残した後、ポータルからSCP-093を送り返し、自分たちの世界とこの世界を遮断した。
が、このエージェントは「主の涙」を調べた際に摂取した=曝露してしまったらしく、「不浄」と同様のプロセスに加えて例の強化人間兵器と同様になってしまったらしい。少量だったため曝露は緩やかに進んだようだが、レポートが進むにつれて文体が不鮮明になっている。

それによると、エージェントは「不浄」が望まぬ不死であり、死を望んでいることを知ったようだ。
司教たち、連邦のお偉いさん方は宇宙に逃げたようだがそこまで遠くには行っておらず、コロニーにとどまり、後で戻ってこられる距離を保っているらしい。世界が滅んで不浄がいなくなった後、もう一度世界を支配するために。
しかし、エージェントは気付いた。
この世界に言葉を発するものはない。ならば自分に聞こえるこの声は何だ、と。
エージェントは、映像機器を通して自分のいる部屋を観察した。すると、例の人影が大量に蠢いていた。
声は彼らのものだったのだ。彼らは、あの人影は、不浄の意志の表れだったのだ。

彼ら≒不浄は、エージェントに「どうして自分たちはこんなことになったのか?」としきりに尋ねていたが、わかるはずもない。
そしてエージェントは、「彼ら」の記憶を見た。不浄に取り込まれた人々はその一部になるが、その中は安全であり、しかし外界からは死んだように見えるという。
エージェントも認識を汚染され、その一員になることを望み始めたが、「彼ら」はエージェントに「主」を殺してくれと頼んだ。「涙」の根源である「主」が死ねば、「彼ら」の魂は解放されるという。

そして、エージェントの文章は、押し寄せる「彼ら」の意志に翻弄されて支離滅裂となる。が、その内容は極めて重要なものだった。
せんそうなんかじゃなかった彼のせいだかれかレかれかれかレいやちがうアレ。アレ。あレは時かンと空間とセカイとひかりとやみが歪んだ隙間からやってきたはいりこんできたけど入りこんではいけないものだそしてカミだと言ったみんなみんな信じたみんなあれを味わってあれにふれてあれと寝たあれのどれいになったあれのおもいどおりになったそしてアレハマダココニイルあれがもってきたscp-093にはすごい力があるだれがつくったぼくはしらないカレラもしらないけどあいつの物だそれはあいつを移動させるばしょからばしょへ世界からせかいへだからぼくはコワシテヤッタゼはははぼくはそれのカケラを投げ捨てたアナになげすてただからトビラはぜんぶトジタぼくたちのとびらもとじただからぼくはかえれないぼくはほかになにができるだろう

あれはいしをとおしておおごえでさけぶ、どういうわけか、あれはどこにかれらがいるのかをしってるけどかれらにはふれられない、だけどいしをかくしたらあいつはさけぶことができなくなるそしてうごけなくなるつかまえたぞくそやろうオレハテメエヲウツバンバンッテナはは

「彼ら」の総意であるこれを意訳するとこうなる。

あれは戦争などではなかった。彼の、いや「アレ」のせいだ。アレは、時間と空間と、世界と、光と闇が歪んだ隙間、要は次元の狭間から現れた、世界に在ってはならないはずのモノなのだ。アレは自らを「神」と名乗り、その「涙」に触れた者はアレのしもべとなった。そしてアレはまだ、ここにいるのだ。
SCP-093、あの石を誰が作ったかは私も彼らも知らない。しかしあの石はアレの持ち込んだものだ。SCP-093はアレを、「主」を移動させるポータルというか、扉を開く鍵のようなものだ。場所から場所へ、世界から世界への扉を。だから私はあれを破壊し、捨てた。今、扉はすべて閉じている。私の世界への扉も閉じた。おかげで私は帰れなくなった。しかし、アレもこの世界に釘づけになった。
アレは石を通して叫び、その声によって人を洗脳する。どういうわけか、アレは「彼ら」がどこにいるのかを知っている。しかし、形を失った「彼ら」はアレに、「主」に触れることが出来ない。しかし、石=SCP-093が失われればアレは叫ぶことも、動くこともできなくなる。今、アレはこの世界から動けないのだ。

「彼ら」の中には世界移動の出来なくなった「主」を物理的にブチのめした者もいたようだが、殺しきれずいつかの帰還を先延ばしにするだけに終わったようだった。
そしてこのエージェントは赤の実験の時には既にいなかったが、恐らく「不浄」の一員になってしまったのだろう。


結局何が起きたの?

あの世界は本来は基底世界と同様の歴史を歩んでいたが、「主」と呼ばれる、恐らくは異世界の人間がやって来た。
「主」はSCP-093=次元ポータルの石を持っていた。

「主」を崇拝する神聖連邦が樹立し、「主」の言葉に従い世界中に戦争の火をつけた。
「主の涙」を利用した強化人間兵器により連邦は勝利し、世界を支配した。
しかし戦争が終わってしばらくしたころ、「涙」に曝露しすぎた人間がバケモノになるという事件が発生した。
人を次々と飲み込み魂を縛り付ける「不浄」と呼ばれたそれは、社会を破壊し地上を席巻した。

救われることのない魂たちは機械を通してしか見えない、触れることも出来ない影となり、時折やってくる異世界の人間に助けを求めている。「主」を殺してくれ、と。



「主」が何を考えているのかは定かではない。
が、居場所については推測がつく。恐らくは例の、柱の部屋の一番地下。
「降りて来い」という声と助けを求める声。「不浄」の声ならば「涙」の曝露者にしか聞こえない。普通の若者が聞けたということは、SCP-093を通じて地下から呼んでいた「主」の声だと思われる。
しかし、「主」のいる部屋に行くまでには「不浄」の徘徊するエリアを通らねばならず、若者もエージェントも恐らくはその餌食となったのだろう。




真の聖人というのは、いつの時代も理解されず、排斥される。
だが彼は聖人だったのか? 罪人だったのか?
一つだけわかっているのは、事実。



あの世界を滅ぼしたのは、隕石でも、怪物でも、彫像でも、現象でもない。
人間が、世界を滅ぼしたのである。




追記・修正は人のエゴについて考えてからお願いします。

CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-093 - Red Sea Object
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最終更新:2023年11月15日 16:38