閻魔

登録日:2017/05/24 Thu 11:28:12
更新日:2023/09/19 Tue 20:00:25
所要時間:約 10 分で読めます




■閻魔

「閻魔(梵名:ヤマ)」は、古代インドに起源を持ち、後に仏教道教にも取り入れられた神性。
同地域に生まれるか、または伝播していた古代の自然神信仰の頃から存在していたと思われる古い神で、信仰基盤が重なっていた隣国ペルシャ(イラン)で生まれたゾロアスター教にも伝わる。

ヤマの名は漢字圏では 、縛、(そう)世、雙王、静息、遮止、平等……等と訳されている。
これらの訳は、凡て以下のヤマの属性より付けられた名である。

原型となるインド神話では最初の死者であるとされ、初めて死の世界に降り立ったことから、ヤマは死の世界の王なのだと云う。
北欧神話に語られる原初の巨人ユミルとも語源を同じくすると見られており、ユミルと同様にヤマを人類の祖先と見なす神話も古代にはあった。

仏教では天部諸尊の一つとして閻魔天と呼ばれていたが、中国の道教信仰と混じり合い、十王の一つとして閻魔大王ともなった。

……我が国には仏教系と道教系の両方の姿が取り入れられたが、どちらかと言えば民話や昔話に登場してくる地獄の鬼達を率いる閻魔大王の名前の方が一般にも馴染み深いと云える……グロロ~

尚、閻魔大王って鬼なのかそうじゃないのか?……と云うのは、子供の時に結構な数の人が思ったりしたことだと思われるのだが、上記の様に由来的には歴とした神様の一つである。


【インド】

『リグ・ヴェーダ』によれば、古代インドの太陽神ヴィヴァスヴァットの子の一人で、同じ系譜に最初の人間マヌ(ヴァイヴァスマタ・マヌ)、双子の妹のヤミーが居る。
ヤミーとの兄妹婚により子を為し、それが人類の誕生となった。
ヤマは最初の死者となり、死の世界の王となった。
当初はヤマの支配する死の世界は魂の楽園と考えられており、死の恐怖を和らげたいと云う信仰に基づいていたが、
後に輪廻転生の信仰が広まり、生前の行いが死後の道行きにも影響すると考えられるようになると、ヤマの死の世界は峻厳な物となり、骸骨の姿をした病魔トゥルダクや神犬サラマーの二匹の子サーラメーヤを従える、死者の悪を裁く神となっていった。
この「死者の生前の行為により賞罰を与える神」としての属性は強烈に人心に根付き、畏れおおき神としてのヤマの地位と信仰を確固たるものとすることになり、後のヒンドゥーの世にまで残ることになった。

ヤマの死の世界は地下にあると考えられており、後にはヤマは“死”その物であるとも考えられるようになった。

ヤマは黒い肌(図像では青黒い肌)で、四本の腕を持ち、黄金の冠を被り、赤い衣を纏った姿に棒と縄を持ち、水牛に乗った姿で描かれる。
縄は死者を捕まえ、自らの世界へと連れ去る為の物だと云う。

バラモン時代のヴェーダに語られていた姿は後代には忘れられたものもあるが、峻厳なる死の神としての姿は広く東方世界にも広まることになった。


【ペルシャ】

ゾロアスター教の聖典『アヴェスター』ではイラン最古のベーシュダート王朝の王の一人である聖王イマ(=ジャムシード)が、ヤマと同じ起源を持つとされる。
全能神アフラ・マズダが最初に話しかけた人間であり、自身が神の信仰を広めることは断ったが、アフラ・マズダの生み出した庶類を発展させると云うことは承服して、王権を象徴する黄金の矢と黄金で飾られた鞭を与えられ、アフラ・マズダより降されたカウィの光輪なる物により、彼の王朝は飢えず、乾かず、民は苦しみも死からも守られていたが、イマが邪念に捉えられると光輪は大鴉となって彼の下を去ったと云う。
地上世界の理想の王と云う姿は、インド神話に伝わる転輪聖王の伝説を思わせる。

地上に楽園を実現した王として、干魃の時にはイマのフラワシ(下級天使、祖先霊)に祈りが捧げられたと云う。


【中国】

道教では入り込んだ仏教と早くに混じり合い、中国仏教で生まれた偽経の『十王経』に基づき、死者の行き先を審判する十王の一つとなる。
人間を初めとした凡ての衆生は死ぬと中陰と呼ばれる存在となり、四十九日の七度の法要の間に魂の行き先が決まるというのは大乗仏教に生まれて中国にも持ち込まれた思想であったが*1、中国では四十九日間の七度に加えて、百ヵ日目、一周忌、三周忌、にも魂の裁きが十人の官僚的な役割を持つ大王により行われるとされ、その十人の王こそが十王である。

閻魔(ヤマ)は、大乗仏教に取り入れられる以前より死者を裁く神となっていたのだが、ここで十王の首魁としての属性も加えられたのである。
ただし、結局は知名度の高さからか十王信仰=閻魔の信仰と捉えられてしまっており、十王を凡て閻魔王と呼ぶ分類の仕方もある。

■十王

  • 第一殿 秦広王
人間の生死を司り、吉凶を統括する。
  • 第二殿 楚江王(初江王)
活大地獄、剥衣亭、寒氷地獄を司る。
  • 第三殿 栄帝王
黒縄大地獄を司る。
  • 第四殿 五官王
合大地獄、血の池地獄を司る
  • 第五殿 閻羅王(閻魔王)
叫喚地獄を司る。第一殿に居たが死人に同情し過ぎる為に移された。
  • 第六殿 卞城王(変成王)
大叫喚地獄、狂死地獄を司る。
  • 第七殿 泰山王(東岳大帝)
熱悩地獄を司る。
  • 第八殿 都市王
大灼熱地獄を司る。
  • 第九殿 平等王
阿鼻大地獄を司る。
  • 第十殿 転輪王
各地獄での報告を吟味し魂の行き先を決める。

ここに、更に七回忌、十三回忌、三十三回忌、の裁判官を加えて十三王とする信仰もあり、これが後に本地である十三仏の信仰となった。

  • 第十一殿 蓮華王
  • 第十二殿 祇園王
  • 第十三殿 法界王


この内、閻魔以前から死を司る神としての信仰があった五岳の一つである東岳泰山を治める泰山王(=東岳大帝、泰山府君、仁聖大帝)は、日本にも陰陽道の主祭神として名が伝わる。
陰陽道を取り扱った創作でも死者をも甦らせる力を持つとして語られるが、実際には長寿延命を祈っただけであるらしい。

因みに、中国ではこれら十王も不滅の存在ではなく、閻魔を初めとする十王も名前だけを引き継いで代替わりしていくものだと考えられていた。
それ故に、優秀な官吏や政治家が死後に閻魔になったと云う民間説話が多く作られたと云う。

他方で、民間説話集の「聊斎志異」には堕落して悪政を敷いていた閻魔大王が、冤罪で殺されてその後も理不尽な扱いを受けた死者の必死な抵抗を受けた末に、
二郎神君という高位の神*2に発見されて逮捕・弾劾裁判を受けた末に拷問刑に処されるという話もある。
冥界も腐敗するんですね……

また「隋唐演義」や「西遊記」*3では、唐の皇帝・李世民を地獄に招き、「玄武門の変」で殺された兄弟からの訴えや煬帝の件などについて証人になってもらったほか、
献金(袖の下じゃないぞ!)を受け取ったこともあって寿命を延ばすというエピソードがあったりする。
ちなみに「陛下は地上の皇帝、私は地下の大王、対等でお話ししましょう」と李世民に言うシーンもある。


【日本】

仏教ではヤマを音写した閻摩、閻魔、焔魔、ヤマ・ラージャ(王)を音写した閻魔羅闍、等と訳され、閻、閻羅王、等とも呼ばれる。

六欲天の第三世界の支配者である夜摩天、十二天の一つとして南方を守護する焔摩天とも呼ばれるが、元は別々の神が名前の混同から一つに纏められた……或いは、逆に同じ神が二つに分けられたのではないか?とする説もあるとの事だが、取り敢えずは一つの尊格と見なしてもいい。

日本仏教では前述のようにインド起源の閻魔天と、道教起源の閻魔(大王)の二つの姿が伝わっており、天部(神)としては閻魔天、地獄の支配者としては閻魔として、姿と役割が自然に分けられている。

とは云え、完全に別の神とされている訳ではなく、真言宗の儀軌書である『覚禅抄』では、前述のインド~中国に於ける死に関わる神が閻魔天の眷属として記されている。

また、日本では死者を裁く恐ろしくも峻厳な地獄の支配者である閻魔と、地獄で迷い続ける亡者を導く、慈愛の菩薩たる地蔵同じ者であるとする信仰も生まれており、仏教の信仰のみに捉われずに、日本の精神文化の根幹にも組み込まれた輪廻転生信仰の在り方を見ることが出来る。

閻魔=地蔵のみならず、他の十(十三)王にも本地仏(本来の姿となる仏)が考え出され、これが十三仏信仰となった。

■十三仏

これら、十王(十三王)の裁きの中でも特に重要視されるのが、やはり五番目に控える閻魔の裁きで、閻魔王の法廷には浄波璃鏡(じょうはりのかがみ)と呼ばれる巨大な水晶の鏡があり、これには死者の生前の悪行が漏らさず映し出されるという。
閻魔の前に引き立てられた死者は、ここで生前の己の行いを告白させられ、その告白に偽りがあった場合には容赦なく舌を抜かれるのである
尚、恐ろしいイメージが先行している閻魔大王だが、前述のように中国の頃から死者には同情的であるという属性があり、浄波璃鏡で嘘を暴きたてるのも、死者への反省と、地獄の罰を越えて生まれ変わりをさせる為の覚悟を促すのが目的である、と解釈されている。
本地である地蔵菩薩は浄土から地獄までを自由に行き来出来るとされ、時には厳しく、時には優しく、常に死者の行く末を見守っているのである。

インドからの設定に倣い鬼達を引き連れているが、鬼の姿が定まるまでは牛頭、馬頭、といった現在の鬼の原型となったと云われる異形共を配下としていた。

また、日本にも平安時代の伝説的な公卿、官僚である小野篁が閻魔の補佐官をしていたと云う伝説がある他、多くの説話やら創作が現代までも見られる。

【姿】

仏教では、一面二臂となった以外は基本的にはインドでの姿をそのまま引き継いでおり、人頭を載せた杖を左手に持って水牛に乗り、火焔を背負った姿で描かれる。
柔和な顔で描かれることが多いが、胎蔵界曼陀羅では忿怒形を浮かべている。

閻魔大王としては恐ろしげな顔をした古代中国の官吏の姿で、“王”と書かれた文官帽子を被り、右手に笏を持った姿で描かれる。

【種字】


■ベイ

【真言】


■ノウマク サマンダボダナン エンマヤ ソワカ

【フィクション作品での閻魔】

詳しくは超人閻魔/ストロング・ザ・武道の項目を参照。

霊界の支配者でコエンマの父親。
ある意味『幽☆遊☆白書』の真の黒幕。

ラディッツ襲来時の悟空死亡後に初登場。
界王様の弟子でもあり、ラディッツ程度ならば簡単に抑えることができるほどの力を持っている。

同シリーズでの「閻魔」は役職であると同時に種族でもあるようで、
劇中に登場する四季映姫・ヤマザナドゥ以外にも複数の「閻魔様」がいると思しき描写がある。
詳細は彼女の項目参照。

ゴマ煎餅が大好物の地獄の支配者。それが原因でミスを犯したことがある。
初期の方はミスに気付かずゾロリを殺害したり、ゾロリの選んだ地獄を捏造したり、その後の降格処分をゾロリのせいにして再度殺害しようとするなど、「容赦ないが、地獄の罰と言う試練を与え、善良な存在への転生を促すありがたい存在でもある」というイメージを盛大にぶち壊す様が、児童書に描かれていた。
とはいえ、児童書では地獄行きの判定がえらくいい加減なうえ、そうべい以外の物を裁かない閻魔大王など前述のイメージをぶち壊す閻魔大王も少なくないのだが。
そんな彼だが、ミスに気付くと彼のゾロリに対する仕打ちに糾弾したゾロリーヌに土下座したり、『だ・だ・だ・だいぼうけん』ではゾロリに協力する一面がある。

天国と対をなす地獄の支配者。しかし、地獄に落とされた両さんにあっさり反乱を起こされ地獄の支配権を奪われてしまう。
それ以降両さんには頭が上がらない。

所謂「仏教における閻魔様」をわかりやすく噛み砕いた姿で、他のキャラに倍する巨躯で描かれる。
また、地蔵菩薩の化身であること、日本最初の死者(原始人の首長)であることが語られている。
裁判には厳粛な態度で臨むものの、素は温厚な好々爺の面が強く、ちゃらんぽらんで大雑把なので補佐官の鬼灯からはいつも苦言を呈されている。

エンマ界の支配者で緑色の顔をしている。小鬼トリオの上司でエラーいお方。
おじゃるに杓を盗まれ、小鬼トリオに奪還を命じた。大の恐妻家。

本作における妖怪全ての支配者。襲名制。

閻魔獣 ザイゴーグの項目を参照。

エンマーゴの項目を参照。

その他閻魔大王がモデルのキャラ




追記・修正は清く正しく生きてからお願い致します。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • 仏教
  • 天部
  • ヒンドゥー
  • インド神話
  • 道教
  • 冥府神
  • 閻魔
  • 閻魔天
  • 閻魔大王
  • 大王
  • 超人閻魔
  • 死者
  • 地獄
  • ヤマ
  • ジャムシード
  • ユミル
  • 地蔵菩薩
  • 水木しげる
  • アニヲタ悪魔シリーズ
  • アニヲタ神様シリーズ
  • 四季映姫・ヤマザナドゥ
  • 十王
  • 十三仏
  • おじゃる丸
  • 鬼灯の冷徹
  • 幽☆遊☆白書
  • 聊斎志異
  • エンマーゴ
  • 裁判長
  • 閻魔帳
  • 舌抜き
  • 双子
  • 近親婚
  • 不死身
  • 死神
  • テオ・テスカトル

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2023年09月19日 20:00

*1 ※後にこの期間その物を中陰と呼ぶようになった。

*2 西遊記で悟空と互角に戦い捕縛した、三尖刀と犬と変化の術の使い手。封神演義では仙人・楊センとして活躍する。なお美男として有名だが、「私の会った二郎神君はひげの立派な方だった」とのこと。

*3 隋唐演義と西遊記はどちらも唐代を扱っているので、一部エピソードが重複している。