大魔神

登録日:2017/5/20 (土曜日) 02:02:00
更新日:2023/01/04 Wed 00:36:42
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【概要】

「大魔神」とは、大映(現:角川映画)の製作した特撮時代劇シリーズであり、作中に登場する魔神のことである。
ガメラシリーズと並んで大映特撮の代表であり、現在でも高い知名度を持つ。全三作。
なお、これを怪獣映画に加えるとすれば「ゴジラ」「ガメラ」「モスラ」以外で単独のシリーズを持つ数少ないひとつとなる。
特撮のレベルは同社のガメラに並ぶどころか凌駕する出来であり、大魔神に合わせたサイズで作られた屋敷のセットは
瓦の一枚一枚までが手作りされているというこだわりようである。倒壊シーンも、まるで本物の屋敷が壊れているように見える。
合成も非常に自然であり、逃げ惑う兵隊と迫る巨大な大魔神が同じ画面で見事に同居している。

さらに驚くべきことに、このシリーズはすべて同年中に作られたものであることが現代でも話題になる。
80分尺の決して短い映画ではない上に、時代劇・特撮ともに現代でも通じるクオリティの作品が、4月、8月、12月のペースで
公開されるこれは、当時の映画界の過密スケジュールぶりと、それに答えるレベルの高さをまじまじと見せ付けてくれるものだ。
※他の例として、ゴジラのヒットを受けてゴジラの逆襲が公開されるまでもわずか半年でしかない。

ストーリーは単純明快で、悪政に虐げられた民衆の祈りが魔神を目覚めさせ、魔神が圧倒的な力で悪を滅ぼすというもの。
しかし物語の背景はそれぞれ異なっており、世界観のつながりもない。


【シリーズ紹介】



・第一作『大魔神』

「片手で千人を倒し、片足で大城門をふみつぶす大魔神! 少女の涙によみがえって荒れ狂う!」
時は戦国の世の丹波の国*1。野心を抱く悪大名大館左馬之助は領民を砦の建設のために酷使し、苦しめ続けていた。
かつて左馬之助によって国を奪われた花房家の兄妹は、なんとか左馬之助を倒そうとするも兄の忠文が捕らえられてしまう。
もはや左馬之助を止められるものはなく、領民たちの心のよりどころであった武神像すらも破壊されようとしたとき、
傷つけられた武神像から血が滴り、突然の天変地異が兵たちを飲み込みつくした。
そして、少女小笹の祈りに応えて武神像は怒れる大魔神として蘇り、圧倒的な力で左馬之助を軍勢ごと滅ぼした。
だが魔神の怒りは収まらず、破壊の手が無辜の民にまで及ぼうとしたとき、自らの命と引き換えに怒りを鎮めてくれと
願う小笹の涙を受けて、魔神は魂となっていずこかへ去り、武神像は土くれとなって崩れ落ちたのだった。

・第二作『大魔神怒る』

「悪への怒りか! 逆巻く湖水を真っ二つ! 驚異の大魔神ふたたび現る!」
湖のほとりの平和な国八雲*2。しかし横暴な隣国の武将御子柴弾正の侵略を受けて奪われてしまう。
さらに弾正は湖の島にある守り神の武神像を爆破して湖に沈めてしまった。
だが、捕らえられた八雲の姫早百合が火あぶりにされる中で必死に祈る時、湖が割れて大魔神がその姿を現した。
軍勢の抵抗をものともせずに城を蹂躙し、逃げ惑う弾正を追い詰めた魔神は無慈悲なる神罰を下す。
そして人々の感謝の祈りを受けた魔神は水となって湖に消えていくのだった。

・第三作『大魔神逆襲』

「山が動く! 大魔神だ! はじめて抜いた大剣をかざし、大鷹をしたがえ、悪人どもをコッパみじん!」
戦国の世の瓜生の里*3、天下制覇に野望を燃やす大名荒川飛騨守は近隣の村人を捕らえて無理矢理火薬を作らせていた。
村に残された少年四人は村人たちを助け出すため、足を踏み入れることが禁じられている魔神の御山越えを目指す。
だが荒ぶる自然は少年たちのひとりを飲み込み、猛吹雪に襲われてついに身動きすらできなくなってしまう。
このままでは皆が死んでしまう。少年のひとり、鶴吉は自分が身を捧げる代わりに皆を助けてくれと祈りながら崖から身を投じる。
そしてその祈りを聞き届け、御山の上にそびえる武神像は大魔神へと姿を変えた。
大魔神は少年たちを助け出し、いままさに村人たちが皆殺しにされかけていた砦へと襲い掛かる。
地響きを鳴らしながら迫る大魔神には大砲すらも歯が立たない。さらに魔神は腰の宝剣を抜き、それを投げると
たちまち地割れが起こって軍勢をことごとく飲み込んでしまった。
逃げ惑う飛騨守を捕らえ、その胸を宝剣で貫き、神罰を下す大魔神。
鶴吉たちは村人との再会を果たし、救ってくれた大魔神への感謝の祈りを捧げる。
穏やかな武神像に戻った魔神は、その身を雪に変えて静かに消えていくのだった。


【大魔神】

本作の主役であり、荒ぶる神そのものである。
三作でそれぞれ設定は異なるが、正式な名前は阿羅羯磨(あらかつま)であり、一作目でそう呼ばれる。
姿は武神像のときは鎧を纏った埴輪のようなもので、顔はくぼみだけで描かれた温和なものとなっている。
しかし一度怒りに火がつくと生き物のように立ち上がり、腕を顔の前でスライドさせて一瞬のうちに
憤怒の大魔神へと変貌する。
この顔が変わるシーンは本作の代表的な名場面であり、知名度も高い。
一作目では武神像はその足で魔神を封じていると領民が語っていたが、実際には武人像自体が大魔神に変じている。葛藤の表現に出て来る天使自分と悪魔自分のようなものだろうか?
大魔神となると皮膚は緑色で、顔はいかつく目がギョロリとしており、恐ろしい威圧感を振りまく。
足音が非常に重々しいのも特徴で、ズシンズシンと踏み鳴らしながら歩く様は迫力満点。これで迫られるのだから
悪党はとにかく必死になって逃げ回ることになる。
(大魔神が人間を踏み潰したり、鷲づかみにして捕らえるシーンでは実物大の足や手が用意され、よりいっそう恐怖感を引き立てている)
設定上の大きさは4.5メートルだが、どうみてもさらに巨大にしか見えないシーンが多々ある。
体は頑丈で、大砲で撃たれようが至近で火薬が炸裂しようがビクともしない。火責めにしようとも神通力で一瞬にして消し止めてしまう。
城門や石垣を軽く押しただけで破壊する強力も、全三作で遺憾なく発揮されている。どんな妨害をしようとも大魔神の進撃を阻むことはできないのだ。
歩く速度は速くはないが、悪人が逃げる先に先回りして姿を見せる様から瞬間移動もできるようだ。

そしてなによりも、悪人に対する徹底した残酷さが大魔神を「荒ぶる神」という存在にしている。
そう、大魔神は巨大で恐ろしいが、怪獣ではない。「神」なのだ。
ガメラも守護神とは呼ばれる。しかし大魔神は人知の及ばない大自然の化身そのものであり、
人間の決して抗うことのできない理であり、その怒りに触れたとき、人間はただ怯えて震えるしかできない荒ぶる神なのである。

天変地異を起こし、湖を割り、人間を虫けらのように踏み潰しながら暴れる姿は台風や地震のような災害が
魔神という姿をとったも同然であり、その前に人間は成す術がない。
特に一作目が顕著であり、自分を傷つけた左馬之助を弄り殺すようにゆっくりと追い詰め、立ちふさがる者は
容赦なく踏み潰し、なぎ倒して虐殺していく。そして左馬之助を殺しても、さらに無関係な民にまで怒りを
向けて無差別に暴れる姿はまさに魔なる神としか呼びようがないものであろう。

二作目と三作目では正義の味方という振る舞いになってきたが、それでも悪人たちには欠片の情けも見せずに
蹂躙していく様は恐ろしいとしか言いようがない。
しかし反面、信仰深い者や、我が身を捨てても誰かを救おうとする者には優しさを示すこともある。
日本の神は、時に災厄を、時に恵みをもたらす、破壊と救済がセットになっている自然そのものを畏怖したことから生まれた存在であり、
大魔神はまさにそれそのものなのである。
この畏怖と尊敬を兼ね備えているからこそ、日本人の自然信仰にマッチし、今なお大魔神という存在が忘れられずにいる理由といっても過言ではあるまい。


【後年】

絶大なインパクトを残す大魔神のキャラクターは様々な形で後年にオマージュやパロディで使われている。
  • ドラゴンクエストシリーズにうごくせきぞう属のモンスター「だいまじん」が登場。当然ながら強敵である
  • 魁!男塾に登場する江戸川の顔面返し
  • こちら葛飾区亀有公園前派出所で、大原部長が大魔神の姿で怒り狂うシーンがある。
など。

また、GI馬馬主にして、かつては横浜ベイスターズ・シアトル・マリナーズで活躍した抑え投手・佐々木主浩の愛称としても有名。
由来は顔が似ていることから、らしい。

そして時は流れ2021年の6月、大魔神が55年の時を経てスクリーンに復活することが正式に発表された。
その映画は「妖怪大戦争 ガーディアンズ」。
フォッサマグナから復活し、日本を滅ぼそうとする妖怪獣に伝説の侍の血を引く小学生と日本妖怪達が立ち向かう、という内容なのだが、公開された予告編にリニューアルされたデザインの大魔神の姿があり、
初めての人間以外の敵に大魔神の力がどのように発揮されるのか期待が高まった。


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最終更新:2023年01月04日 00:36

*1 現在の兵庫~京都辺り

*2 現在の大阪か島根のどちらか

*3 現在の福井県三方上中郡若狭町辺り