里見祐介

登録日:2017/04/20 Thu 23:53:28
更新日:2024/03/17 Sun 01:50:17
所要時間:約 12 分で読めます




当項目は、映画『シン・ゴジラ』の重要なネタバレが含まれます。
















避難とは、住民に生活を根こそぎ捨てさせることだ。簡単に言わないでほしいなぁ~






里見祐介とは、映画『シン・ゴジラ』に登場する政治家。
演:平泉成

73歳と高齢であり、総理大臣大河内清次の下で、農林水産大臣を務めていた。
巨大不明生物(ゴジラ)が登場した時点では、オセアニア方面に外遊中。
情報位は聞いていたと思われるが、ゴジラ対策には当初は全く参加していなかった。


制作に携わった株式会社カラー(社長は本作の監督の庵野秀明)の公式twitterによれば、里見は

「葛藤を嫌う平和主義者。調整型。無欲。小心者を装っているが実は器が大きい」

らしい。

















里見臨時総理のしたこと~ただの飾りじゃないの?




作中、ゴジラによって大河内総理自身が死亡、他の大臣も10名が死亡するという大惨事が起きてしまう。
里見にスポットが当たるのは、大河内総理が死亡した後であった。

内閣総理大臣が死亡することによって欠けた時には、国会で新たな総理大臣が指名されるまでの間、内閣総理大臣臨時代理候補者から内閣総理大臣臨時代理が就任することになっている。
里見は本来内閣総理大臣臨時代理の候補者ではなかったが、内閣総理大臣臨時代理候補者が全員死亡してしまったため、生存閣僚や与党幹部での協議の結果、内閣総理大臣臨時代理をすることになった。
生き残った大臣や閣僚などを臨時内閣の大臣に充て、急ごしらえながらもなんとか政治的な空白を埋めた。









さて、ゴジラ上陸時の総理大臣である大河内総理は、想定外の状況に振り回されており、狼狽したり決断を渋る面も目立った。
とはいえ、それは最初のうちだけ。肝が据わってきて以降は、国民のことを第一に考える熱血な一面も垣間見せてきていた。*1


しかし、そんな大河内総理と比べて里見臨時総理はどうにもふわふわとした雰囲気で、頼りないのである。

  • 対馬の不穏な動きが報告されても「ここはちと様子見かな」。何の手も打たない。
  • 大河内総理は自分で英語を操ってアメリカ大統領と話していたのに、里見臨時総理は通訳を使って話している。
  • 総理レクが終わると「あーあ…伸びちゃったよ……。やっぱ総理の仕事って大変だなぁ……」とラーメンが伸びたことを嘆く。


登場人物の評価も同じであり、
  • 泉修一内閣総理大臣補佐官「生き残った現職大臣から押しつけられたらしい
  • 志村祐介内閣府特命担当大臣秘書「首班指名の功労賞と派閥の年功序列で大臣になれた人が、代理とはいえ総理ですよ

日本の大ピンチにこんな人が総理でいいのか、せめて大河内総理の方がよかったんじゃないかと思った観客は多かったことだろう。

「いない者を当てにするな!!今は残った者で、やれる事をやるだけだろ!!」
「矢口、まずは君が落ち着け」水ドン

だが、事態はそんなこと関係なく容赦なく深刻化していく。



アメリカ&国連安保理から日本政府に突き付けられた案は

「ゴジラを戦略原潜から熱核兵器(水爆)で攻撃する。

日本も当事国として参加、多国籍軍の下で活動してもらう。

ゴジラが目を覚ますと思われる2週間は時間をやるから、その間に住民を逃げさせろ。

国民の私有財産?逃げ遅れが巻き込まれる?文句言うな。

あ、予定より早くゴジラが目さましたら繰り上げて攻撃するからね。

代わりに、核使用をしたら復興に対して融資をし、その立ち直りに力を貸すことは約束しよう。」

アメリカも安保理も、ゴジラが進化して世界各地を荒らしまわることを恐れた故のことである。決して日本いびりがしたいのではない。
だが、実質日本に生贄になれと言うも同然の提案に、臨時外務大臣は感情を露わにして机を叩きつける。
クールな官房長官代理の赤坂秀樹も、半ばすがるような目で東京での核使用について質すが、里見は核使用を容認するつもりで、それを総理に全権委任する特別立法を成立させるよう赤坂に指示した。


だが、巨大不明生物特設災害対策本部(巨災対)の活躍で、核使用に頼らずにゴジラを凍結させる作戦実行の目途がたった。

巨災対副本部長矢口蘭堂の盟友にして総理補佐官・泉修一から実行承認を求められた里見臨時総理。

もう国連決議まで出ちゃった、ということで最初は渋る。
泉「自国の利益のために他国に犠牲を強いるのは覇道です
赤坂「総理・・・そろそろ好きにされたらいかがでしょう?

里見「・・・そうだな。で、どれに判を押せばいいんだ?

ついに里見から作戦実行の承認が下りた。
作戦は無事に成功し、ゴジラは凍結、日本は一時危機を脱する。




ここまで見ると、核使用をやめさせる手腕もない、周囲の状況に流されながら中継ぎだけやったお飾り政治家である。
作戦は成功したが、別に里見は大したことをやっておらず、全ては矢口や巨災対、自衛隊をはじめとする現場の手柄・・・かのように見えた。


しかし、実際には里見の活躍する舞台裏があった。





里見臨時総理の大活躍


実行の承認はしたが、日本中の民間化学会社を総動員したにもかかわらず、ヤシオリ作戦実行のために必要な薬剤の生産が核攻撃開始までに間に合わない。
これ以上生産速度を速められないと見た日本政府は国連安保理に働きかけて「核攻撃開始までの時間を延ばす」作戦に出る。

日本から近い中国・ロシアはゴジラが動き回ると真っ先に大被害を受けかねず、確実にゴジラを処理できる核攻撃を支持することは避けられない。

アメリカはゴジラを生かすのが危険だし、ゴジラの存在を隠していたことをうやむやにするために早く幕引きをしたい。
反面、抑止力としての核兵器は使用を避けたいし、特使のカヨコ・アン・パタースンや高官のカスリーらが日本寄り。
立場をはっきりさせずに事態を注視していた。

イギリス?さあ・・・


日本政府は原子力推進国でゴジラ情報を欲しがり、地勢的にもゴジラの影響を受けにくいフランスに目を付け、核攻撃を遅らせてもらうことにした。

フランスは日本の期待に応えて安保理で攻撃を遅らせることを主張。
拒否権を持つ常任理事国に1か国でもはっきりと「反対」されれば、安保理でもすぐに攻撃には移れない。
ヤシオリ作戦終了のギリギリまで時間を稼いでくれたのだった。

もっとも、攻撃を遅らせたためにゴジラが更に進化、周辺国に被害を与えれば、フランスも他の常任理事国から徹底的に批判されることは必至。
フランスも、「核攻撃まで時間を延ばす」ことを申し入れただけで、「核攻撃反対」とは言わなかった。
現に、ヤシオリ作戦終了時刻は核攻撃タイムリミットまで僅か58分46秒。フランスもこれ以上攻撃を伸ばせないタイムリミットであろうことは想像に難くない。

様々な方向でフランスに日本から働きかけが行われたが、最終的にフランスを動かしたのは、里見臨時総理であった。
どっかりと座って構えるフランスのモレリ駐日大使相手に臨時外務大臣はじめ閣僚をつれ、総理・閣僚揃って深々と最敬礼。
臨時と言えど一国の行政のトップであることを考えると、ほとんど土下座に等しい腰の低さと言える。

もちろん日本政府は、ゴジラ情報という、フランスにとって美味しい手土産を持ってはいた。
とはいえ、既にゴジラによってボロボロになっている日本政府。フランスを相手に対等を気取って堂々と要求できる状態ではない。
手土産以外にはもう土下座外交しか残されていなかったのである。

農業国フランスに対し、農林水産大臣としての里見自身のコネもあったことは想像に難くないだろう。
里見総理によって行われた、散々批判されてきた日本の土下座外交が、危急存亡の事態において日本を救ったのである。



里見臨時総理は、ヤシオリ作戦終結後、内閣総理大臣臨時代理を退くことを発表。次の総理大臣にバトンタッチをした。*2
実行こそ阻止できたとは言え、東京への核攻撃を容認したこと、ヤシオリ作戦で自衛隊や民間協力者などに多数の犠牲者が出たことへの責任を取ったのである。

そして、事態がどのようになろうと、臨時総理である自分の責任にして辞める、という所までが、里見臨時総理が立てていたシナリオであった。


大きな政治的責任を被った里見臨時総理の政治生命は、おそらくここで終わりであろう。設定年齢からすれば、元々潮時だったかもしれない。

多くの人が疎開し、放射線で汚染され、建物もめちゃめちゃに破壊された東京。
ゴジラの放射性物質の半減期は早いが、それでもしばらく東京は放射線で汚染された状態になる。
ゴジラ自身が東京駅で凍り付いており、死んだとは確認されていない。まだまだ事態の完全な解決には程遠い。

しかし、里見臨時総理がその政治生命をもって責任を取るからこそ、矢口蘭堂をはじめ、ゴジラ対処に力をふるった閣僚たちはこの後も活動できる。

もしかすると、事情を知らない世論や野党から、里見臨時総理の決断は厳しく批判された可能性もある。
それでも、主要閣僚や観客の心には、日本を救った立役者の一人として、里見祐介の名は刻まれたことだろう。




決して無能な人ではない


実は、大手柄でなくとも、里見臨時総理は決して無能な人物ではない。


①里見臨時総理の置かれた状況が悪すぎる
里見自身臨時総理候補者ではない。つまり、総理になるという心の準備を決める余裕もないまま、総理にさせられている。
東京壊滅、円も株も国債も暴落して復興どころかデフォルト(国家的な債務履行不能)寸前という危急存亡・超深刻な事態の収拾をしなければならない。
自衛隊の総力戦であるタバ作戦が失敗し、米軍の空爆も失敗しており、ゴジラを倒す目途は全く立たない。
責任重大で、最善を尽くしたとしても失点まみれにしかならない可能性もある。

そんな中、閣僚たちは中継ぎで責任を負いたくなく(泉修一談)、里見に臨時総理が押し付けられた。
だが、それは臨時総理になることを断れなかった里見の性格をも示している。

②里見臨時総理は決して核攻撃を好き好んで行おうとしていない。

里見は「こんなことで、歴史に名を残したくはなかったなぁ…」とつぶやいていた。
アメリカや安保理の要求が日本にとって無茶苦茶なこと、避難させることが住民の生活を根こそぎ奪うこと。
それは、土地に根を下ろさなければ生きていけない農業を司る農水相だった里見臨時総理が一番よく分かっていた。
だが、里見臨時総理には他に打つ手を準備できなかった。

そして、里見臨時総理の指示した特別立法は、多国籍軍傘下で活動することを総理一人に全権委任するというもの。
「東京を核攻撃させた臨時総理」として、歴史に悪名が残ることが分かっていながら、その役目を引き受けることにしたのである。
その覚悟の重さは恐ろしいものがある。

ヤシオリ作戦の実行を渋ったのも、ヤシオリ作戦には失敗のリスクや、
成功したとしても諸外国からの復興融資が受けられなくなるというリスクがあったからこそである。
本当はヤシオリ作戦に賭けたかったことは、「好きにした」結果がヤシオリ作戦承認であったことが証明している。


③昼行灯な対応

  • ゴジラが大暴れし、外務大臣も死亡。他にも多くの人員が失われて間がない思われる状況では、「対馬の不穏な動き」に対処する余力はない(「不穏な動き」の内容が分からなければ動きようもない)。
  • 国の重要な議題に対し、中途半端な英語力でアメリカと食い違うと、取り返しのつかないことになる。英語が苦手なら通訳を頼るのは悪いことではない。
  • ラーメンが伸びちゃったとぼやいた時は、周囲に誰もおらず里見臨時総理一人。一人の時にぼやくこと位別にいいじゃないか。

要は、彼は無能に見えて、ちゃんと仕事をしていたのである。


余談

里見臨時総理のモデル


モデルは明言されていないが、太平洋戦争終戦時の内閣総理大臣である鈴木貫太郎ではないかと言う説がある。
鈴木は政治にはまるで素人であったが、大平洋戦争が完全にどうにもならなくなってから就任。
徹底抗戦を主張する軍部に対し、同調するようなふりをしつつ根回しをし、政府閣僚に大きな内紛を起こすことなく終戦の聖断に導いた。
鈴木は自身の発言が広島・長崎への核の投下の原因となったとして後悔していた*3が、里見臨時総理は核の投下を防いでいる。


演者


演じたのは、俳優の平泉成。

平泉氏は特撮関係でも出演経験の多い俳優であるが、アニヲタ的に印象深い役と言えば、「ウルトラマンガイア」に登場するレギュラーキャラで同作の防衛チームであるXIGの千葉辰巳参謀*4ではないだろうか。
千葉参謀は事態に驚くシーンも多かったが、この人みたいにコミカルではなく至って真面目な人物である。
石の翼』では、現場に立たせたとしても頼りになる有能な人物である様子も描かれた。
そして、怪獣バトルメインになりやすいウルトラシリーズでは描かれにくい、「諸外国にXIGの立場を理解させる」という重要な仕事をしていた。

周囲の有能な人材を信じて任せ、自分では根回しに徹する。
本作において若手の閣僚たちを信じて任せ、自分では裏方に回ってフランスの理解を取りつけて活躍した里見臨時総理ともつながるものがある。





あーあ、追記・修正されちゃったよ……。

やっぱ完璧な項目って大変だなぁ……。

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最終更新:2024年03月17日 01:50

*1 ただし、基本設定によれば、彼は有事に向かないらしい。

*2 次の臨時代理に委ねるのか、国会で新たな総理大臣が指名されるのかは不明である。憲法上は後者が正しいはずだが。

*3 実際には、鈴木の発言以前から核投下はほぼ既定事項であり鈴木の発言に関係なく原爆は投下されたという説も有力である。

*4 正確には、XIGの上位組織であるG.U.A.R.D所属であるが、XIGに常任で派遣されている。