ドランクモンキー 酔拳

登録日:2017/04/14 Fri 07:52:13
更新日:2023/08/24 Thu 08:35:08
所要時間:約 8 分で読めます




香港熱風 試練鉄拳

殺気参上 拳法混乱


お前の目の前に 奇跡の人がいる

楽園の使者 僕がいる

強い酒を吹きつければ

ここは氷河の都市となる



■酔拳

『ドランクモンキー 酔拳(広東語:酔拳 英語:DRANKEN MASTER)』は、1978年10月に公開された香港のアクション(カンフー)映画。
香港での大ヒットを受けて、日本で初めて劇場公開されたジャッキー・チェン主演作品である。
日本での初公開は1979年7月。

主演はジャッキー・チェン(成龍)
監督はユエン・ウーピン(呉 思遠)

思遠影業公司(シーゾナル・フィルム)製作、配給。
1978年香港映画興行収入2位。

日本での配給は東映。
菅原文太による人気シリーズ『トラック野郎 熱風5000キロ』との同時上映であったが、本作の方が人気が出てしまったと云う逸話がある。

本作のヒットを皮切りに、前作となる『スネーキーモンキー 蛇拳』の他、多数のジャッキー主演のアクション映画が“『拳』シリーズ”として劇場公開された(実際には製作会社や製作年度はバラバラであった)。
また、これらの作品と吹き替えTV放映によって、熱狂的なカンフーブームが巻き起こっていくことにもなった。

『酔拳』はそうしたブームの火付け役と云うことのみならず、日本に於けるカンフー映画のイメージを決定付けた元祖にして頂点であるとして知られている。

本作公開から16年後、名実共にアジア最高のアクション俳優となっていたジャッキーにより本作のタイトルを冠した『酔拳2』が94年に製作されているが、内容的には全く別物であり、ストーリーの関連性も無い。
アクションの方向性もジャッキーアクションの当時の形態を前面に押し出した全く印象の違うものとなっている。

また、初公開当時の東映配給版には日本独自の主題歌『カンフージョン(拳法混乱)』*1(唄:四人囃子)の他、オリジナルBGMが編集で加えられている。
当時の劇場公開やTV放映されたバージョンを知っている人間が、後に発売された東映版以外のバージョンを見て違和感を覚えたのはこの為である。
また、この手法は一部を除いた他の『拳』シリーズでも用いられている。

ソフト版では『酔拳』『ジャッキー・チェンの酔拳』の表記が用いられている物もある。

【概要】

ブルース・リー(李 小龍)に続くスター候補としてロー・ウェイの個人事務所に所属していながら、全くヒット作を出せずにお荷物扱いされていたジャッキーが、新興の思遠影業に出向して製作した二本目の映画である。
前作『蛇拳』に、従来の仇討ち物にコメディ要素を持ち込むことで自らの魅力を開眼させたジャッキーは、本作では更にコミカルな要素の比率を多くし、暗くなりがちな仇討ちや復讐と云った部分も取り去ってしまった。
結局は同パターンで敵と戦うことにはなるものの、主人公が戦うのはあくまでも個人の名誉や拳人としての本能の部分が大きいのである。
こうして、自然なストーリーで明るい活劇として完成した本作は『蛇拳』以上の人気を獲得。
ジャッキーを新時代のスターへと押し上げることになった。

前作『蛇拳』からスタッフ、キャストの殆どがそのまま引き継がれていたこともあってか、撮影開始の時点での意志疎通が完璧な状態からスタート出来たと云うが、その一方で『蛇拳』のヒットにより金の卵と見なされたジャッキーはロー・ウェイにより半ば強制的に『蛇拳』の亜流的作品に出演せねばならなくなり、複数の作品との掛け持ちで本作の撮影を進行せねばならなかったと云う。
この為、映画の完成度の差に反して、本作の方が撮影期間は『蛇拳』よりも短いとの事で、ジャッキーは同時期のロー・ウェイ製作作品について憎悪しているとの旨を発言している。

【新吹替版】

05年にテレビ東京で本作が放映された際に、ジャッキー役の石丸以外のキャストを変更した新録版が製作された。
此方は東映版とは違い、本来のバージョンを忠実に吹き替えたもので、日本語読みされていた登場人物の名前が本来の音に直されている。
DVDソフト化された際には、石丸ジャッキーによる日本語吹き替えに最も早くに応えた作品となったが、前述のように東映版を記憶に残す人間にとっては違和感を生じさせることにもなった。
ソフト化以降、TV放映の際には新録版が流されることが多くなり、師匠役の青野武の熱演等、此方のバージョンの方が耳に馴染んだ層も少なくなくなった。

【物語】

清朝末期の頃。
武芸百般十八拳の使い手として多くの弟子を抱える武術家にして、土地持ちの名士、資産家である黄麒英(ウォン・ケイイン)に黄飛鴻(ウォン・フェイフォン)と云うドラ息子が居た。
フェイフォンは父譲りの才能はあるものの、なまじ才能があるだけに半端な強さで満足し、仲間とつるんでは遊び歩くばかりの日々を過ごしているが少しは正義感もある若者。

ある日、町で可愛い女の子にちょっかいを出したのを娘の凄腕の母親に窘められたフェイフォンは、腹いせに行商に悪さをしていたチンピラを懲らしめてやる。
少しは腹の虫が収まった……と家に帰ったフェイフォンを待っていたのは件の母娘。
二人はフェイフォンが見知らなかっただけで叔母と従姉妹だったのだ。
結局、悪さがバレて父に怒られるフェイフォンに、今度は父のライバル道場の主であるリーが一門を引き連れてやって来た。
町で懲らしめてやったチンピラはリーの息子の若先生で、大袈裟に怪我を装うと自分の行為を棚に上げてフェイフォンのみを悪者にしようと云うのだ。
それを知ってか知らずか叔母に焚き付けられたフェイフォンは、復讐にと向かってきた師範代を散々に返り討ちにして打ちのめすがウォンの怒りは収まらず。

叔母の提案もあり、フェイフォンは武芸の達人で厳しい修行で知られる蘇化子(ソウ・ハッイー)に預けられることになってしまう。
ソウの噂を知るフェイフォンはウォンの課した罰の途中で金も持たずに逃げ出し、ある食堂で無銭飲食。

罰として店の用心棒らに捕まりリンチされていたのを助けてくれた客の老人と共に逃げ出したフェイフォンだが、実はその老人こそが武芸の達人ソウだった。
得意のカンフーも通じず、無理矢理に塒に連れて帰られたフェイフォンは才能を気に入られ、有無を言わさずに厳しい修行を強いられる。

堪り兼ね、隙を見て逃げ出したフェイフォンは、あるあばら家で焚き火をして服を乾かしていたが、そこを依頼状の受け取り場所にしていた凄腕の殺し屋にして達人の閣鉄心(イン・ティッサム)に見咎められ、散々に打ちのめされるばかりか股下を潜り許しを請わされると云う屈辱を受ける。
己の無力を知ったフェイフォンは、プライドを捨てて今度は自らソウの弟子となることを志願するのだった。

ソウの指導の下でメキメキと腕を上げたフェイフォンだったが、相変わらずの悪戯心からソウに恥をかかせてしまい反省する。
自分に戦う力があればソウに恥をかかせなかったと訴えるフェイフォンに、ソウは遂にこれまでの基礎修行で磨かれた肉体があってこそ伝授出来る秘伝の“酔八仙”の拳を指導する。

……その頃、ウォンの土地に眠る石炭を狙って土地売買を持ちかけながら、その真意を見抜かれていたばかりか断られて恥をかかされたリーは、報復としてティッサムにウォンの抹殺を依頼するのだった……。

【登場人物】

※初放送1981年1月16日 フジテレビ

■ウォン・フェイフォン(ジャッキー・チェン)
声:石丸博也
主人公。
本作以外でも映画等の題材となっている、実在の英雄的人物である黄飛鴻をモデルとしているが、人物像や技については架空の物となっている。
酒により顔が赤くなっているシーンは本当に酒を飲んだ訳ではなく、逆立ちして頭に血を昇らせてから撮影に入ったのだとか。
酔八仙の型を披露する場面は、流石のジャッキーでも音を上げる程のキツさだったらしい。
クレジットはされていないが、一部シーンでのアクションの吹き替えとして、後輩で後の“三銃士”の一人であるユン・ピョウが演じている箇所がある。

■ソウ・ハッイー(ユエン・シャオティエン)
声:小松方正(フジ版)/青野武(テレ東版)
伝説の“酔八仙”の拳の達人。
前作と合わせて、武術の老師役が板に付いたユエン・シャオティエンはこの後で多数の類似作品に出演することになるも、この時期には既に末期ガンに冒されており80年に逝去している。
このキャラクターが日本の漫画やゲームに与えた影響は大きく、多数のモデルとなったと思われるキャラクターが生み出されたのは周知の事実。

■イン・ティッサム(ウォン・チェンリー)
声:津嘉山正種(フジ版)/磯部勉(テレ東版)
凄腕の殺し屋。
伝説の“無影拳”の使い手。
演じるウォン・チェンリーは“スーパーキッカー”とまで称された大阪生まれの韓国人で、テコンドーやその他武芸の達人として知られる。
彼に限らず、当時の香港映画には本物の武術家が武術指導や役者として関わることは珍しくもないが、ほんのやられ役としてコミカルな演技をこなしている人までいる。
役者業との兼業と言えばそれまでだが、芸達者過ぎである。

■師範代(ディーン・セキ)
声:清川元夢(フジ版)/水島裕(テレ東版)

■ウォン・ケイイン(ラム・カウ)
声:島宇志夫(フジ版)/池田勝(テレ東版)

■若先生(ワン・チェン)
声:納谷六郎(フジ版)/中多和宏(テレ東版)

■棒術のワン(チョイ・ハー)
声:仲木隆司(フジ版)/谷口節(テレ東版)

■兄弟弟子(ジャン・ジン)

■フェイフォンの叔母(リンダ・リン・イン)

■フェイフォンの従姉妹(シャロン・ヨン)

■リー(フォン・ギンマン)

■頭突きのタイガー(サン・クワイ)

【余談】

※『蛇拳』のヒットにより製作された本作だが、続編ではなく姉妹編的な位置付けとなったのは『蛇拳』のヒットにより、多数の類似作品が作られた為である
『蛇拳』を越えるヒット作となった本作も多数の類似作品を生むことになるが、それはこの映画に関わったジャッキーや思遠影業にとっても同じであったのは前述の通りである。

※本作にも多数のカットシーンがあり、本編では見られないラストバトルの展開がスチルに残っている。
一部の映像については『死闘伝説 ベスト・オブ・アクション』等で見ることも出来る。

※次長課長の河本のギャグ「お前に食わせるタンメンは無ぇ!」の元ネタではあるが、確かにそっくりなキャラクターは登場するがそんな台詞は存在しない。
まあ、タンメンは日本風ラーメンの派生料理で、コテコテの日本生まれのメニューなのだから当たり前なんだけど。




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最終更新:2023年08月24日 08:35

*1 ジョンって誰?となりそうだが、これはコンフュージョンとカンフーをかけた洒落。ちなみに歌詞も結構ぶっ飛んでて「僕そのものが正義で愛」とか歌ってたりする。