SCP-1690-JP

登録日:2017/04/13 (木) 11:45:28
更新日:2024/02/23 Fri 00:30:27
所要時間:約 20 分で読めます





RAISAより警告: ファイルの閲覧には制限が設けられています

閲覧権限の詳細は非開示です。閲覧権限を持たない職員がアクセスを試みた場合、財団への反逆行為と見做され処分対象となります。



職員コード Site-81██_Dr_████████|
パスワード ****************








……

………




生体認証を完了

Level4/Exodus-1クリアランスを確認。



ようこそE-1計画担当者様。情報を開示します。




SCP-1690-JPとは、シェアード・ワールドの一つである怪異創作コミュニティサイト「SCP Foundation」に登場するオブジェクトの一つ。JPのコードが示す通り、日本支部生まれのSCPである。

項目名は「犭貪あるいはウロボロス」。本来この「トン」は「『犭』偏に『貪』」という一文字の漢字なのだが、常用漢字ではないため「犭貪」で代用する。「貧」ではないので注意。

オブジェクトクラスは「Ain」。
これはThaumiel、Apollyonと並び、財団の定めるオブジェクトクラスの中で機密とされているものだが、「鍵のかかったロッカーのテスト」には当てはまらない。

というのはこのクラス、「将来的にも回避不可能なYK-クラス:未定義シナリオを齎すオブジェクト」に対して与えられるものであり、SCP-1690-JPもその一つなのである。
この報告書に対して、SCP-001バリのロックがかけられているのもそれが理由。


概要

コイツが何かと言うと、財団世界恒例「どうやって収容するんだシリーズ」の一つ、天体系+現象系のオブジェクトである。
この時点でブラックホールか何かを思い浮かべた諸兄に言っておくが、甘い。
そんなチャチなものではないのだ。とにかくヤバイ、宇宙ヤバイ。それで表現できるくらいヤバい。

どれくらいヤバいかと言うと、もう使わないラップトップくらいヤバい。しかも、向こうはどれだけ危険でも可能性で止まっているのに対し、こっちは回避できない。遠い未来のこととはいえ、必ずやってくることが決定しているのだ。
SCP-2317は地球がヤバいが、SCP-1690-JPが到達すると、ハッキリ言っておくがあの巨人も無事では済まない。

それってどんな現象なんだよ、と聞かれれば答えよう、それが義務だ。



簡潔に言おう。















宇宙の消滅である。













比喩でもなんでもない、財団世界の宇宙が消えてなくなる。これこそがSCP-1690-JPの、もっとも端的な概要である。
具体的にはどのようにしてそれは起きるのか、否起きているのか? 
それをこれから説明しよう。




説明

このオブジェクトは、ヘルクレス座・かんむり座グレートウォールとしてその一部を観測することが出来る、不明な規模の……恐らくは宇宙全土に広がっている、平坦トーラス面である。
SCP-1690-JPとは、正確には3次元平坦トーラス体であるこの宇宙における、特定方向ループの境界面を示すナンバーである。

この3次元平坦トーラス面において、垂線方向に直線運動をおこなった光や物体は、いずれ出発地点へと帰ってくる。
一般にヘルクレス座・かんむり座グレートウォールとして知られている銀河の集団の正体は、SCP-1690-JPを通して観測できる宇宙の領域が、地球からの距離及び宇宙の加速膨張により、有限の天球領域として観測されたものである。


わからない?
では噛み砕こう。

まず、ドーナツを思い浮かべてほしい。一般にイメージされる、真ん中に穴の開いたリングのアレである。
乱暴に言えば、トーラス面とはドーナツの表面である。これの曲率、要は空間が曲がっている割合をゼロにしたものが平坦トーラス面である。
ゲームボーイアドバンス以前のRPGでは、上下左右がそれぞれループするマップを持ったゲームがあったが、アレをそのまんま、三次元的に拡大したようなものである。

文章で説明するのは非常に難しいが、元記事には概念図があるのでそちらを参照いただきたい。
どうしてもわからないのであれば、スパロボユーザーの方限定になってしまうが、ラ・ギアスの構造を思い浮かべてもらいたい。
あの世界を、裏表だけひっくり返したのが宇宙の構造なのだ。

理解しきれない、というのであれば、「宇宙は端まで行くとぐるりとループする構造になっている」と思ってもらえれば、とりあえず十分である。
ドーナツ型の構造の、表面が宇宙なのだ。その上をまっすぐに、ドーナツに対して垂直に辿ってみよう。すると、元の位置に戻って来る。そういう構造なのだ。ドーナツと違って真ん中に穴はなく、ワームホールじみた何かがあるが、繋がっているので同じことである。


ちなみにこれ、我々の現実世界の宇宙も実際にこんな構造であるという説が存在する。(といっても宇宙の曲率は限りなく0に近い事が分かっているため、可能性は低い)
さすがに三次元平坦ではなく、普通のトーラス構造だが。



さて、SCP-1690-JPが何をしているのかと言うと、地球と反対側の空間を、光速の域を遥かに超えているスピードで呑みこんでいるのである。
当然ながら、呑まれた空間にあった銀河は消滅する。
この境界面=SCP-1690-JPの反対側を観測できる、という事実から、電磁波や重力波を遮らず、通過させる性質を有していることもわかっている。しかし、宇宙の連続性という視点から見ても、恐らくその向こうには本当に何もなくなっていると思われる。

空間侵食の速さが光を超えているため、現状どこまで宇宙が喰われているかは不明。宇宙の膨張よりも速いと見られているが、地球が現在まで存在していることから、宇宙自体の広がりは我々の想像をはるかに上回っていると思われる。
だがそれは、この太陽系のある銀河が安全圏に存在することを意味しない。
さらに、現在観測されている侵食の速度は、100億年前のものである。つまり、今現在侵食がどこまで進んでいるかは全くわからないのだ。わかる時が来たならば、恐らく地球は存在していない。


補遺

当初、このオブジェクトは不明な原因による銀河消滅現象として、Euclidクラスオブジェクトに指定されていた。
その原因を探ることが特別収容プロトコルだったが、観測精度の向上によりその原因と、宇宙の構造が判明。
これに伴い、上にあげたSCP-1690-JPの性質が明らかになったのだ。

財団はこれに対し、上席研究員1000名以上を出席させての緊急対策会議を行った。
その中で、三つの主要な提言がなされている。


  • ネフスキー博士の提言
現実改変能力者は、ものによっては宇宙規模の改変も起こす。それによって、この消失現象を回避できないか、というものである。
しかし、「宇宙自体の改変ってそれCK-クラス:再構築シナリオじゃん」「どうやってやらせるんだよ。洗脳とか記憶処理で暴走したらどうにもならん」「それで今現在面倒なオブジェクトが収容違反したら本末転倒だよ」と、リスクが指摘されたため却下となった。残念。

  • 南方博士の提言
スペースコロニーをつくって移り住み、亜光速でSCP-1690-JPに向かって航行する。際限ない加速によってコロニーは光速に近づき、相対性理論に基づいて時間が遅くなる。これにより、主観的に消失の到達を極限まで遅らせる、というものである。要は時間稼ぎである。
ただ、このコロニーは外部からの補給が望めないため、通常の手段では燃料とエネルギーがある時点で枯渇してしまう事から、熱力学第一の法則を破る、つまり永久機関のアノマリーを開発する必要がある。
これについては今すぐとはいかないが、実現できる可能性はある、ということで調整が進められている。

  • ホフマン博士の提言
財団は次元ポータル、別の次元へ移動する入口をいくつも持っている。その中には基本構造が異なる宇宙も存在する可能性が有る。これらの別次元について可能な限りSCP-1690-JPの有無の調査を行い、人類生存の可否も含めた上で、判明している別の次元にまとめて移り住んでしまおう、というものである。
要は「どうにもならないから逃げだそう」という身もふたもないものだが、今すぐ実現できる可能性が高い、ということで即時の計画実行が承認された。


これらの結果により、このオブジェクトは確保も収容も不可能であり、その脅威を秘匿したまま人類の正常な社会を保護することは絶対不可能、と結論され、回避するには最低でも地球圏を放棄せねばならない、となった。
これにより、SCP-1690-JPは回避できないK-クラスシナリオを齎す究極の脅威である、としてAinクラスに指定され、特別収容プロトコルは全て破棄。
代わりに、特別隠蔽プロトコルSpecial Cover-up Procedures)として、とにかくコイツに関する情報を外界から隠せ、という対処法が策定された。

そして、南方博士によるコロニーを使った大脱出作戦はE-1計画、ホフマン博士による別次元への逃亡作戦はE-2計画と名付けられ、実行に向けてあらゆる用意が進められていた。




が、現実は甘くなかった。
財団が計画実行への準備を進める中で、それを台無しにする情報が出てきたのである。
ある時期から、地球上の観測施設において、らしんばん座の方面から、微弱な軟X線信号が観測されるようになったのだ。
解析したところ、それはDNAの塩基配列らしき70億ビットのデータ、いくつかの文章記録、その翻訳用と思われる文字と絵の対応表だった。

これは、人類と酷似した生命体の発信したものらしく、解読自体は簡単だったが内容が問題だった。
末尾の部分に曰く、

この記録は我々の墓標に刻む言葉である。

"大いなる脱出"から一千有余年、我々は幾世代にも渡ってこのコロニーを維持し、種を存続させ続けてきた。しかし閉塞された環境と限られた資源は停滞を促し、目的地の存在しない旅路と全てがルーチン化された生活はあらゆる者を無気力にした。
500年を過ぎた頃には出生率は100%を切り、文化維持のために禁止され続けてきた人工繁殖をやむなく実施した。すると700年を過ぎた頃には最大の死因が自殺となり、平均寿命は30を切った。
800年代に一人の狂人が始めた終末論的な宗教は大規模なテロリズムへと発展し、制圧運動に端を発した社会混乱は泥沼の内戦を誘発した。その時には、我々は最早守護者ではなく、皆をこの大きな檻に閉じ込める刑務官でしかなかった。

約200年前に戦争が終結した後、我々はコロニーの設備の運営だけを担当する小さなコミュニティに成り下がり、半数以上の住民は荒廃し配給システムが機能しなくなった都市区画を捨て、環境保護区画での原始的な生活を始めた。しかしそれまで他生物との接触を絶っていた故に、千年の間に変異した多数の細菌・ウィルス種への抵抗力は無く、彼らは数世代の間に全滅したと思われる。
そして、彼らによって強感染性に変異したこれらの疫病は都市区画にも蔓延し、遂にはこの管理区画に残された僅か100人余りが最後の生き残りとなってしまった。先の内戦で人工繁殖システムや医療施設の大半が失われた今、おそらく100年も待たずに我々は絶滅するだろう。

思えばかつて我々が異常な存在から種を保護するために存在する組織だった頃、あの宇宙を食い尽くす存在を発見してしまったのが全ての始まりだった。あれを知らないままでいられれば、どのような手段をもってしても防ぐことが出来ないその終焉に怯え、亜光速で運動する船の中で永遠に近い存続を目指すような事は無かったはずだ。

願わくば、”大いなる脱出”の時に袂を分かった同胞たちが我々よりも長く生きながらえ、この記録を受け取っていることを切に願う。


どうやら、この「人類」の社会にも財団があり、SCP-1690-JPから逃れるためにE-1計画と同様の計画を実行したらしい。
が、希望の見えないただ逃げるだけの旅路は人から人らしさを奪い、最終的に彼らは限られた資源を巡る内戦を引き起こし、遂には滅亡してしまったようだ。

この「前例」により、E-1計画は抜本的な見直しを余儀なくされてしまい、頼みの綱はE-2計画となった。
ところが、こっちにも待ったがかけられることになった。

並行宇宙の安全性についての調査が進む中、完了した中で同様の現象が確認できたのは、既知の37万以上の宇宙の内、わずかに127だった。
しかし、それ以外の宇宙についても、空間曲率の測定結果から、財団の宇宙と同じく三次元平坦トーラス面である可能性が否定できなかった。
さらに懸念事項がある。
財団の基底宇宙においては本当にたまたま、SCP-1690-JPが見つかったが、広大極まる宇宙の大半は財団を以てしてもまだ観測できない暗黒領域である。
他の宇宙に置いても、「まだ見つかっていない」だけで、空間曲率が同じである以上、SCP-1690-JPが存在している可能性は大いにあり得るのだ。

さらに財団の調査チームは、「この宇宙と次元ポータルで繋がっているのは、同じような曲率を持つ、SCP-1690-JPが存在しうる宇宙のみではないか?」と推論している。
加えて、過去に発見された次元ポータルについては、154が予兆なしに消失していたことが発覚。
安定性の議論の結果から、消失したポータルの先にあった宇宙はSCP-1690-JPによって消滅している、と仮説が立てられた。
要するに、この宇宙とそれに隣接する並行世界において、この消滅現象は普遍的な存在であり、逃げる術は実質、ないのである。

SCP-1690-JPというのは、まさに宇宙の終端そのものである。それはある日突然我々の存在を根こそぎ消し去り、誰も消滅したことにすら気づくことは出来ないだろう。そしてその後に待っているのは、絶対的な"無"である。
SCP-1690-JPの現在の位置がわかっていない以上、それは明日にも訪れる出来事かも知れないし、太陽系が滅びた後に訪れる出来事かもしれない。
しかし座してその時を待つという選択では、その存在に気付いてしまった我々は恐怖に怯えながら日々を過ごさねばならない。故に我々はこの2つの逃げ道について、可能性がある限り追究し続けなければならない。
たとえそれが、ほんの一縷の望みであっても。



終端は迫っている。

近くにしろ、遠くにしろ、完全なる消滅がこの宇宙のどこかにある。

別の世界に逃げても、その脅威は口を開けて待ち構えている。

人の営みも、生きる足掻きも、何もかもを無にするために。

逃げられない。なぜならそれは、宇宙の構造そのものだから。

己の身を喰らう怪物のように。


宇宙の寿命そのものから、どうやって逃げられるというのか?




SCP-1690-JP

犭貪あるいはウロボロス



追記・修正は逃げられないことに絶望してからお願いします。



  • 余談
投稿当初は「犀賀派」絡みのオブジェクトであり、犀賀六巳から「滅びを先延ばしするから、同じように滅びかけてる他の世界の受け皿になれ」というメッセージが届いている、という記事になっていた。
が、ディスカッションで蛇足だと指摘が相次ぎ、犀賀派に関する描写は全て削除されている。

また作者曰く、元々はSCP-169「リヴァイアサン」を意識して「偉人が引用した怪物」をモチーフに、SCP-169-JPのスロットが空いた時に書いた記事とのことだが、乗り遅れたためにこのナンバーになったとのこと。


CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-1690-JP 犭貪あるいはウロボロス
by physicslike
http://ja.scp-wiki.net/scp-1690-jp

この項目の内容は『 クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス 』に従います。
この項目が面白かったなら……\ポチッと/

他者に対する攻撃的な発言、口論はお控えください。
+ タグ編集
  • タグ:
  • SCP-JP
  • SCP財団
  • SCP Foundation
  • 消滅
  • 宇宙
  • どうあがいても絶望
  • 亜財団
  • physicslike
  • Ain
  • SCP
  • 寿命

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2024年02月23日 00:30