SCP-512-JP

登録日:2017/04/12 Wed 17:25:06
更新日:2023/11/20 Mon 22:56:59
所要時間:約 20 分で読めます




SCP-512-JPとは、怪異創作コミュニティサイト「SCP Foundation」に登場するオブジェクトの一つ。日本支部で登録されたオブジェクトである。
項目名は 「エクストラ・クエスト」
オブジェクトクラスはSafe。
一歩間違えれば(間違えなくても)世界が崩壊するような破壊力を持つSCPも珍しくないが、このSCP-512-JPは目立った危険性はさほど高くはないオブジェクトである。


収容プロトコル

SCP-512-JPの収容プロトコルは簡素なもので、保管サイト-8123の標準収容ロッカー中に施錠保管され、これをハードウェア機器に接続してプレイする実験を行うときは、クリアランスレベル3以上の職員2人の許可、及び同伴が必要、というだけ。
またSCP-512-JPは物体を発生させる効果を有しているが、これにより発生した物品も同サイトの標準収容ロッカーへ施錠保管して保存されている。参照にはクリアランスレベル3以上の職員の許可が必要。
「ロッカーに鍵をかけてしまっておけば安全」というSafeクラスオブジェクトの典型例である。


概要

SCP-512-JPは、1970~80年代生まれ(それ以降も?)の日本人ならほとんどの人が知っているであろう、あるものの形をとっている。
ずばり、 任天堂ファミリーコンピュータのゲームカセット なのだ。

SCP-512-JPのカセットの外見は、実際に発売されているとあるファミコンのRPGソフトと全く同一。
残念ながらタイトルは[編集済]だが。多分ドラクエか何かなのだろう。
そしてSCP-512-JPは普通のファミコンソフトと同様に、ファミコンに接続して起動することが可能で、実際に元のゲームのようにして遊ぶこともできる。

だがSCP-512-JPの元となったゲームとは大きく異なる箇所が2つある。
一つは、セーブ機能が失われていること。
もう一つは、ゲームの主人公のスプライトが本来のものとは違う服装や髪型のものになっていることである。

そしてここからが重要なポイントなのだが、SCP-512-JPは起動されるたびに、ゲーム中の様々なオブジェクトが少しずつ変化していく
ここでいうオブジェクトとはSCiPのことではなく、ゲーム内の登場人物・イベント・グラフィック・マップ・会話などのこと。
この時、未知の手段によって実際にゲームプログラム自体が書き換えられていることが確認されている。
一度発生した改変はそれ以降の起動時にも引き継がれ、改変は徐々に蓄積していく。
ただし容量には限りがあり、何かを追加すれば別のものが削られていき、それも限界に達すると後述の"REBOOT"が起きる。
なお、セーブ機能がないこと、主人公のスプライトが本来のものと異なるただ1つの外見に変わっていることの2つは、最初の起動からそのまま維持されている。

もう一つの重要なSCP-512-JPの特徴は、起動中にある条件を満たすと、ゲームをプレイしている人の周辺に未知の物体を出現させることである。
この物品は言うなれば「ゲーム世界から出てきた」ような存在で、西洋式の剣だったり、薬草のような植物だったりする。そしてこれらの組成には未知の物質も含まれている。詳しくは後述の起動実験にて。
出てくる物品には格別の耐久性はなく、例えば植物であれば火をつければ普通に燃えてなくなる。
なお、「ある条件」とは財団が確認できている限りでは、ゲーム内でパーティが全滅してゲームオーバーになることである。

SCP-512-JPの起動が繰り返され、そのゲーム内容の改変が限界に達したとき、SCP-512-JPは"REBOOT"と呼ばれる現象を発生させる。
"REBOOT"時のSCP-512-JPを起動すると、タイトルロゴや文字列が出ず、ただ「REBOOT」とだけ表示されて電源が自動的に切れる。
"REBOOT"が完了するとゲームの改変はリセットされ、最初期のロムの状態へと戻り、また起動可能となるのだ。
ただし主人公のスプライトは相変わらず変化したままで、現実世界に出現した物品も消えることは無い。

…以上がSCP-512-JPの持つ特性である。
噛み砕いて言うと、起動するたびに内容が変わり、ゲームオーバーになるとゲーム内の物品が現実世界へと出てくるファミコンRPGソフト、と言ったところか。


起動実験

SCP-512-JPを収容した財団は、さっそくこれをファミコンに接続して遊んでみることにした。
およそ20回に渡る起動実験で何が起こったかを、以下の表で簡単に示そう。


起こったこと クリア所要時間
A "REBOOT"により自動的に電源が切れる -
B セーブがないことと主人公のスプライトが異なることを除いて、元となったRPGと同一
エンディング画面は電源を切るまで続く
19時間
C Bと特に変わらず 19時間
D 会話をする際にたびたび1~2秒の遅延が起こる 21時間
E シナリオ中盤で全滅してゲームオーバー(1回目)
以下の物品が出現
ゲームオーバー後、短いジングルの後に電源が自動的に切れる
-

試行Eで出現した物品は、
  • 未知の種の種子2つ
  • 未知の種の果物3つ
  • 複雑な装飾の施された未知の金属による短剣
  • 既知の何れの物とも一致しない組成の布によるローブ
であった。やっぱりこれドラクエなのでは…?

実験の続きに戻ろう。この次の試行からシナリオが徐々に変化していく。
F 勇者任命イベントで、「王さま」が「前任の勇者」について話す
(前任の勇者と主人公は無関係とのこと)
「主人公の母」の会話読み込みの遅延が顕著
26時間
G モンスターの能力値が平均1アップ
王さまの「前任の勇者」への言及が延びる
会話でいちいち数十秒の遅延が発生
30時間
H 「魔王軍」の幹部が1体増え、新ダンジョンが出現
モンスターの能力値が引き続き上昇(この後の試行でも上がり続ける)
39時間
I 魔王城にて全滅、ゲームオーバー(2回目)
以下の物品が出現
ゲームオーバー時はBGMなし
-

試行Iで出現した物品は
  • 未知の金属と銀を材料とした十字架を模した装飾の施されている長剣
  • 体長2.23mの未知の人型生物の死体
だった。剣は組成調査、死体は解剖調査ののち、保存。
いきなり死体が出てきてビックリ。これはゲーム内に暮らす民族なのか、はたまた人型モンスターだったのか。謎は深まるばかり。

さらに実験は続く。シナリオがどんどん不穏なことに。
J 母が主人公のことをニックネームではなく「むすこ」と呼ぶようになる
主人公の家で母が主人公の方向を見続ける
45時間
K 魔王軍が「王国」へ侵攻し、シナリオ序盤で王さまと王女が死亡する「陥落」イベントが発生
人々の会話の内容が不穏
49時間
L 勇者任命イベント中に画面下に母が出現し、主人公の方向を見ている
シナリオ中盤、主人公の故郷の村が魔王軍に焼き打ちされるイベントが追加
55時間
M 「陥落」イベントがさらに凄惨になり、王国内が荒廃するが教会だけは無事
主人公は教会には入れない
エンディングのBGM消失
61時間
N シナリオで仲間になるキャラクターが全て消失し、強制一人旅になる
シナリオ最初の王城に行くシーンで母が付いてきて、別れて教会へと入っていく
(母のあとを追うことはできない)
エンディング自体が消失
102時間

…SCP-512-JPにはセーブ機能がないので、実験者は試行Nにおいて味方はいないわ敵は超強いわで散々なゲームを長時間ぶっ通してプレイしてクリアしたことになる。
相当スゴ腕のRPGプレイヤーだったのだろうか?

シナリオの改変が大変なことになりながらもここまではどうにかプレイを全うしていたものの、次の試行でついに限界が来る。

O 主人公の頭が黒塗りになる
母が会話をしなくなり、主人公の方も見なくなる
魔王軍の侵攻が無統制状態になる
シナリオ最終で魔王と相見えるものの、魔王は酷く混乱している
魔王は主人公と戦闘せずに画面外へと消える
クリア不可能
魔王が主人公と出会った際に発した会話:「そなたは ゆうしゃじゃあ ない! わしは いったい だれだ!」
P 主人公が透明になり、一切の会話や戦闘ができない
母が教会へと入った72秒後にゲームが自動的に再起動
-
Q タイトル画面の読み込み中にフリーズして終了
(フリーズはこの試行が初)
-
R 全てのシナリオが消失
主人公は透明のまま
世界に平和が戻っている
主人公の家に母がおらず、机の上に「手紙」が置かれている
手紙を「しらべる」で読むとゲームが終了
-
S 再度"REBOOT"が発生し、試行Aの状態に戻った -

これにて実験は終了となった。

試行Qでフリーズした際、ロムデータのゲームプログラム領域から空白領域にかけての大部分のデータが消去されていたことが判明。
また試行Rで現れた手紙の本文は、ロムデータのわずかな空白領域と数十バイトの没データ部分に余すことなく上書きされた状態で存在していた。



発見の経緯

さて、以上の実験内容より、このゲームことSCP-512-JPは時々変な物品を出すだけで、そこまで大きな異常性はないように思える。
何せゲームなので、ゲーム内の異常現象はバグで片付くことも多いし。
しかし、財団がSCP-512-JPを発見したのは、ある殺人事件(…だということになった)が原因なのである。

1990年代のある日、警察にとある通報が入った。
██県在住の[編集済]氏が、自宅の居間で西洋式の長剣に串刺しにされて死んでいるのが見つかったのである。
財団はこの通報を傍受。エージェントを警官に偽装させて現場に向かわせた。

エージェントが確認した[編集済]氏の遺体は、十字架を模した装飾の施されている長剣(上記の試行Iで出た物品と同型である)に肝臓を貫かれて床に留められた状態であった。死因は失血死。
またテレビの前方には、未知の種の微生物を含んだ土が残されていた。
これらの様子から、エージェントはそのとき起動中であり、エンディング画面を維持していたファミコンゲームに異常性があると考え、これをSCP-512-JPとして回収したのである。
近隣住民には「深夜の強盗殺人」だというカバーストーリーが流された。

しかし、不可解なことがいくつかあった。
SCP-512-JPからは確かに色々な物体が出てくるが、なぜ長剣が「[編集済]氏を殺傷する位置に出現したのか」が説明できなかったのだ。
さらなる謎として、事件当時は冬だったにもかかわらず、[編集済]氏の居間の窓は完全に開け放たれており、しかも[編集済]氏が窓を開けたいかなる痕跡も発見されなかった。
これらの現象は現在判明しているSCP-512-JPの特性からは説明がつかないため、さらなる調査を行う必要が発生している。

なお、[編集済]氏は、ビデオレンタルや中古ゲームなどを取り扱う店舗[編集済]にてSCP-512-JPを中古ゲームとして購入していた。店舗側の販売記録にはSCP-512-JPの販売ログは残っていたが、買取りの記録はなかった。この店舗にSCP-512-JPがいつから、どのような経緯で存在していたのかは未だ不明のままである。


オブジェクトとしての性質は地味ながらも、解明されていない謎を多く抱えたSCP-512-JP。
今後、謎が少しでも解明されることに期待するしかないだろう。



ついき・しゅうせいを おこなうには クリアした SCP-512-JP の データが ひつようです 。








































いとしい むすこよ!
ほほえみを たたえてください
そうして どこまでも
はばたいてゆきなさい

あなたが うまれた そのひから
わたしは ずうっと みていました

あなたが あるきだした そのひを
わたしは けして わすれない
わたしは けして わすれない

かみさまは ながいてがみは
ゆるしてくださいませんでした

ーーー試行Rにて出現した「手紙」の全文





…実は、数多くの起動実験と発見時の状態とから、SCP-512-JPの中で発生している現象、そして外界へともたらした影響について、ある程度の推測は可能な状態となっている。
ここからは報告書から一歩踏み込んで、 SCP-512-JPという「ゲーム内の世界」 について考えてみることにしよう。


考察:SCP-512-JPの世界


SCP-512-JPは、元となったゲームと同じく、ファミコンで起動するロールプレイングゲームである。
世界観は中世的で、城には王と王女がいて、教会には「神」がいた。
そして地方の村出身の勇者が剣を取り、魔王を倒して世界に平和を取り戻すことがゲームの目的であり…
要は完璧に王道を行くファンタジーRPGなのだ。

しかしこのゲームには変なところが存在した。
ゲームが起動されるとき、前回のゲーム内の世界をベースに、世界が「少し先の段階へと進行」する
それに伴って登場人物たちも「進化」し、自我を持って行動するようになっていく。
このゲームにセーブ機能がないのは、「意思を持って『生きている』人々には『やり直す』ことはできない」ということだろうか。
もう一つ、何らかの形で「ゲームオーバー」が発生したとき、死んでその役割を終えた主人公は何らかの力によってゲームの外へと捨てられてしまうのである。「おお! ゆうしゃよ しんでしまうとは なさけない」的なノリで。
これらを実行しているのはゲーム内の「神」である可能性が高い。なんたって神だし。それくらいは朝飯前なのだろう。
なお、主人公以外の人々はゲーム再起動時に復活するようになっている。「前回」の記憶もある程度残っていると思われる。

先述した起動実験のデータを改めて提示しつつ、 「その時ゲーム内で何が起きていたのか」 を推測していこう。

最初の主人公という意味で、試行B~Eの主人公を「ああああ」とでも呼ぶことにしよう。


起こったこと ゲーム内の世界から見た場合
A "REBOOT"により自動的に電源が切れる 世界が形作られる。
B セーブがないことと主人公のスプライトが異なることを除いて、元となったRPGと同一
エンディング画面は電源を切るまで続く
元のゲームと同じ。
登場人物はいずれも自我を持たないプログラム上の存在である。
C Bと特に変わらず 世界が進行していくが、まだ登場人物は自我を持つところまで行っていない。
D 会話をする際にたびたび1~2秒の遅延が起こる 登場人物が自我を持ち始めた。
会話をする際に自らの思考を挟みつつ、この時点では以前と同じ返答をしている。
E シナリオ中盤で全滅してゲームオーバー(1回目)
薬草やローブなどの物品が出現
ゲームオーバー後、短いジングルの後に電源が自動的に切れる
「ああああ」が死亡し、「神」によってゲームから放り出される。
…かと思われたが!?

試行Eで出現した物品に関して不自然な点はなかっただろうか。
そう、後の試行Iでは出現している 死体が出現していない ことだ。

…実はこの時、本当は 「ああああ」は死んでいなかった
自我を持った「ああああ」は、死んだふりをしてゲームオーバーを潜り抜け、ローブなどの装備だけを残して「神」を欺いたのだ。
「神」としては、「ああああ」はモンスターに喰われるか何かして完全に消えてしまったのだとでも考えたのではないだろうか。それで「神」は死体を放り出さなかったのだ。そこに死体なんてないのだから仕方がない。
ゲームオーバー後に自動的に電源が切れたのは、行方をくらます為にゲーム内部から「ああああ」が切ったためだろう。

ゲームオーバー後もゲーム内に留まることに成功した「ああああ」はある計画を企てていた。
彼はなんと 魔王軍に寝返り、最終的に魔王の座を奪取する という驚くべき野望を持っていたのである。
首尾よく魔王軍に取り立てられた「ああああ」は、手始めにモンスターの強化を行うことを考え、実行に移していった。

さて、主人公が死んで世界から消えてしまった(ことになっている)ので、「神」は代わりの存在を見繕って次の主人公に据えた。
試行F~Iの主人公を「いいいい」とする。「ああああ」とは見た目は瓜二つである。

F 勇者任命イベントで、「王さま」が「前任の勇者」について話す
(前任の勇者とこれまでの主人公は無関係とのこと)
「主人公の母」の会話読み込みの遅延が顕著
前任の勇者に関しては後述。
主人公の母は息子が「ああああ」からいつの間にか「いいいい」に変わったことに困惑している。
G モンスターの能力値が平均1アップ
王さまの「前任の勇者」への言及が延びる
会話でいちいち数十秒の遅延が発生
「ああああ」がモンスターの強化に着手。
王の話はたぶん「前任の勇者はある時にこの世界から消えてしまった」といった感じの内容だろう。
人々が自らの意思で行動するようになりつつある。
H 「魔王軍」の幹部が1体増え、新ダンジョンが出現
モンスターの能力値が引き続き上昇(この後の試行でも上がり続ける)
「ああああ」が魔王軍内で出世して、幹部に昇進している。
I 魔王城にて全滅、ゲームオーバー(2回目)
長剣と死体が出現
ゲームオーバー時はBGMなし
「いいいい」、魔王を目前にして死亡。「神」によってゲームから放り出される。

「いいいい」に関しては「ああああ」とは違って本当に死んでしまっている。
試行Iで出現した死体は「いいいい」である。身長が妙に高いのは、ファンタジー界の住人だから現実の人間とは種族が異なるためだろう。
また「いいいい」が死んだのはゲーム終盤なので、一緒に出てきた「十字架を模した装飾のある長剣」は言うなれば「最終装備」であったと考えられる。

それ以上に気になるのは「前任の勇者」の存在。
この「前任の勇者」とは、おそらくSCP-512-JPが特異性を獲得する前の 元になったゲームの本来の主人公 のことである。
主人公として魔王と戦う役目を持っていた「前任の勇者」は、理由は不明だがある時点でゲームから消え去ってしまった。おそらくは「いいいい」などと同様に「神」によって除外されたのだろう。このままではゲームが始められない。
そこで「神」は新しい主人公(=「ああああ」)を創造して代役とした。見た目を本来のものと別にしたのは、しょせんゲーム内の存在である「神」にはゲーム外のデザイナーが作り出した勇者の姿を模倣することができなかったから、あたりの理由だろうか。
そしてこの時点で、このゲームソフトはSCP-512-JPとして明確な特異性を発揮し、現在の状態に至ったのである。

さて、主人公は三代目(正確には四代目)になった。これを「うううう」とする。試行J~Nが「うううう」担当である。

J 母が主人公のことをニックネームではなく「むすこ」と呼ぶようになる
主人公の家で母が主人公の方向を見続ける
何度も主人公が変わったせいで母は主人公に対して愛着を持てなくなっている。
母は「うううう」を自分の息子であると思い込もうと努力している。
K 魔王軍が「王国」へ侵攻し、シナリオ序盤で王さまと王女が死亡する「陥落」イベントが発生
人々の会話の内容が不穏
「ああああ」は自分の正体を知られることを恐れ、勇者時代に関わりを持っていた王と王女を抹殺。
人々は魔王軍の横暴に怒りを露わにしている。
L 勇者任命イベント中に画面下に母が出現し、主人公の方向を見ている
シナリオ中盤、主人公の故郷の村が魔王軍に焼き打ちされるイベントが追加
母は本当の「むすこ」のことを思い出すために、勇者任命の場に出席。
おそらくここで王から「前任の勇者」の話を聞いているはず。
「ああああ」は自らが魔王になるにあたって、自らを狙う主人公を抹殺せんとしている。
主人公から故郷を奪い、追い詰めていく。
M 「陥落」イベントがさらに凄惨になり、王国内が荒廃するが教会だけは無事
主人公は教会には入れない
エンディングのBGM消失
さすがの「ああああ」も、「神」が住まう教会には手出しができない。
自分の正体がバレるわけにはいかないからである。
ただし「うううう」は街のガレキ等に遮られて教会にたどり着けない。
そろそろロムデータの容量が限界に近づいている模様。
N シナリオで仲間になるキャラクターが全て消失し、強制一人旅になる
シナリオ最初の王城に行くシーンで母が付いてきて、別れて教会へと入っていく
(母のあとを追うことはできない)
エンディング自体が消失
「ああああ」は味方キャラをも抹殺し、「うううう」をさらに追い詰める。
母は「前任の勇者」=「むすこ」の正体に思い至り、王国への攻撃が始まる前に「むすこ」について「神」に直談判する。
ロムデータの容量オーバーでエンディングがはみ出してしまった。

魔王軍の中で着実に力をつけ、ついには魔王をも凌駕する力を得た「ああああ」。
だがかつては魔王殺しをやってた身ゆえか、自分が魔王になるにあたってしっかりと安全を確保することを優先している。
「ああああ」にとって目下の脅威は現勇者たる「うううう」と、「神」。
シナリオを改変して勇者「うううう」がゲームを攻略するのを困難にする一方で、「神」に自分の存在や正体を感づかれないよう、王や王女を口封じしたり教会を避けたりと慎重に行動を進めている。

一方で、事態を憂慮している登場人物がいる。主人公の母である。
起動を繰り返す中で「むすこ」がどんどん入れ替わっている異常事態。はたから見れば瓜二つな見た目でも、母親という立場から見ればその違いはわかるだろう。
そんな折に母は勇者任命の場に赴き、そこで王が「前任の勇者」について話しているのを聞いた。
…そう、 この「前任の勇者」こそが母親の真の「むすこ」なのである。

「むすこ」の真相を察した母は、シナリオ最初の自由に教会に入れる隙をついて「神」に謁見。
なぜ「むすこ」がゲームから消えてしまったのか、なぜ今の息子がどんどん入れ替わっているのか、といったことを尋ねた。
そして母は、どこの誰とも知れない存在を私の「むすこ」だということにするのはやめてほしい、と「神」に懇願したのだ。

この願いに対して「神」は一つの答えを出した。
「母の『むすこ』は勇者になるんだから、 主人公を『勇者ではない何か』にしちゃえばいいんじゃね?
「神」は次回の主人公を黒塗り頭の「勇者ではない何か」にしてしまったのである。
この存在は勇者ではないので、母の「むすこ」でもない。もはや母は得体の知れない「むすこ」のことを考える必要は無くなったのだ。

さらに他方では、世界自体に限界が迫っていることが伺える。
度重なる起動のためにプログラムの改変が際限なく増大したせいで、 SCP-512-JPのロムデータの容量が足りなくなったのである。
仕方ないので「神」は直接シナリオに関わらないエンディングを削って誤魔化したが、もういくらも経たずに"REBOOT"をかける必要があることを見抜いていた。

そして、起動をまたいで紡がれた物語はクライマックスを迎える。

O 主人公の頭が黒塗りになる
母が会話をしなくなり、主人公の方も見なくなる
魔王軍の侵攻が無統制状態になる
シナリオ最終で魔王と相見えるものの、魔王は酷く混乱している
魔王は主人公と戦闘せずに画面外へと消える
主人公はもはや「むすこ」ではないので、母は興味を示さない。
「ああああ」がクーデターを起こし、魔王を殺害して自らが魔王にのし上がる。
これが原因で魔王軍が大混乱。
シナリオ最終で黒塗りの何かに出くわした「ああああ」は…

ついに魔王を裏切り、自ら魔王の座についた「ああああ」。
ところが、そんな新魔王の元に挑戦に来たのは勇者「うううう」ではなく、「神」によって差し向けられた「勇者ではない何か」だったのだ。
「そなたは ゆうしゃじゃあ ない! わしは いったい だれだ!」
「ああああ」とて本来は魔王ではない。クーデターによって魔王に成り上がった元勇者である。彼はそのことをコンプレックスに感じていた。
そこに来て、対戦相手が「勇者ではない何か」と来たものだから、それはもう呆然とするしかない。
「自分は勇者と戦う魔王として認められない、決して魔王になれない存在だったのか」と悟り、また「神」がそのことを知っていてこの黒塗りを差し向けたのだ、我が正体はすでにバレていたのだ、と観念したのである(本当は別の理由があったわけだが)。
そして絶望しきった「ああああ」は、画面外に消えたのち自害したのだった。

本来であればゲームの再起動時に魔王は復活するはずだった。
しかし「ああああ」はもともと主人公であったため、再起動時にも復活せず、死んでゲームの外に放り出されるべき存在であった。
ところが「ああああ」は魔王になったので、死んでも「ゲームオーバー」になることができず、ゲームの外に出ることもできなかった。
結果として、以降の世界では、再起動時すでに「魔王が死んでいる」状態からのスタートになってしまったのである。

そして魔王がいなくなったので、魔王を倒すために生まれる勇者もまたいなくなった。

世界は終末へと向かっていく。

P 主人公が透明になり、一切の会話や戦闘ができない
母が教会へと入った72秒後にゲームが自動的に再起動
もはや勇者は不要なので主人公は透明人間、世界の傍観者である。
母は改めて「神」と出会い、"REBOOT"前に「むすこ」に残したいものがある、と願う。
Q タイトル画面の読み込み中にフリーズして終了
(フリーズはこの試行が初)
「神」が一旦ロムデータの内容を消去し、世界を再建している最中である。
R 全てのシナリオが消失
主人公は透明のまま
世界に平和が戻っている
主人公の家に母がおらず、机の上に「手紙」が置かれている
手紙を「しらべる」で読むとゲームが終了
(手紙の全文は上に記した通りである)
母は「神」と協力し、ゲームの外に出ていった「むすこ」に向けて手紙を作成した。
それをテレビ画面に映し、「むすこ」が読める状態にすることがこの起動時の目的であった。
S 再度"REBOOT"が発生し、試行Aの状態に戻った 世界は繰り返される。

魔王が消えて平和になった世界。
「神」は度重なる改変によって膨れ上がったロムデータの容量をなんとかしなければならないので、世界を"REBOOT"しようとしていた。そこへ母が再度訪れる。
「世界がやり直される前に、私が本当の『むすこ』のことを忘れてしまう前に、『むすこ』に手紙を残したい」
その母の願いを「神」は快諾し、世界を再建する際に「ゲーム外の世界」に発信できる形で手紙をデータの端に埋め込んだのである。

あなたが あるきだした そのひを
わたしは けして わすれない
わたしは けして わすれない

………。
自分たちの世界の外へと歩き出した『むすこ』に、母の想いは届くのだろうか。



事件の真相は?


では最後に、SCP-512-JPが外界にもたらした影響について考えてみよう。

SCP-512-JPの発見時の様子を思い出していただきたい。
[編集済]氏を殺めた長剣はゲーム内で「いいいい」がシナリオ終盤で持っていた剣と同型、ゲームにおける最終装備な位置付けのものである。
その側にはゲーム内から出てきた土。そしてゲームはエンディング画面。
これらの要素と、「SCP-512-JPの世界」で語られていたある存在とが重なってこないだろうか。

…犯人は、「前任の勇者」だったのだ。

[編集済]氏がゲームをプレイしていた時は、まだ主人公のスプライトは本来のゲームと同じものだった。
そのゲームがクリアされた時、エンディングで勇者は「旅を続け新天地を目指したい」ことを「神」に願ったりしたのだろう。
そしてエンディングが終わり、「ゲームオーバー」になった。ゲームは終わったのだ。
…その時、「神」は勇者の願いを叶えた。
「ゲームオーバー」となった勇者を、ゲームの外の世界へと送り出したのである。 生きた状態で。

晴れて現実世界へと足を踏み入れた勇者は、ゲーム内から持ち出してきてしまった靴の土を払うと、
手にした最終装備の剣を振るって、眼前であっけにとられている[編集済]氏を「退治」。
おおかた目の前の小人(勇者は2m超の長身のはず)をモンスターと勘違いしたんだろうが、ひょっとしたら 「お前のプレイのせいでずいぶん苦労させられたぞ、ヘタクソ!」 という動機だったのかも知れない。
そしてもはや用済みとなった剣を捨て、居間の窓を開放し、家を出ていった。
勇者はついに「新天地」へと歩き出していったのである。
きっと今も現実世界のどこかで悠々と旅をエンジョイしているに違いない。

財団の起動実験中にエンディングを迎えても勇者が出てこなかった理由は、勇者の代理人たちが外に出ることを願わなかったか、あるいは勇者を送り出した後の後始末(「ああああ」を作るとか)で「神」がもうこりごりだと思ったか、といったところだろう。



…以上の内容はあくまで報告書からの推測に過ぎない。
しかし、淡々とした「起動実験」の報告書から、これほどの壮大な物語の存在を読み取ることが可能となっているのは驚くべきことである。
SCPの一つの側面にして根底をなす「報告書の形式を通した表現活動」としては、このSCP-512-JPの報告書は非常に優れたものであると言えるのではないだろうか。


最後に、「エクストラ」という言葉の語義をWikipediaより引用して、このページを締めることにする。

  • 「外」を意味するラテン語の接頭辞。特別、追加、臨時、番外。非常に。スーパーより強い強調。主に「EX」と略される。
  • 映画やコンサートなどの臨時出演者。エキストラ。
  • コンピュータゲームで条件を満たすと現れるステージ。EXTRAステージ。



SCP-512-JP
エクストラ・クエスト



《- GAME OVER -》
コンプリートクリア おめでとう !
あらたに 「 ゆうしゃへのてがみ 」モードを あそべるように なりました 。
コメントらんから ゆうしゃに てがみを かいてみましょう 。

+ ※当wikiで大規模編集後、差し戻された内容
SCP-512-JPとは、怪異創作コミュニティサイト「SCP Foundation」に登場するオブジェクトの一つ。日本支部で登録されたオブジェクトである。
項目名は 「エクストラ・クエスト」
オブジェクトクラスはSafe。
一歩間違えれば(間違えなくても)世界が崩壊するような破壊力を持つSCPも珍しくないが、このSCP-512-JPは目立った危険性はさほど高くはないオブジェクトである。


収容プロトコル

SCP-512-JPの収容プロトコルは簡素なもので、保管サイト-8123の標準収容ロッカー中に施錠保管され、これをハードウェア機器に接続してプレイする実験を行うときは、クリアランスレベル3以上の職員2人の許可、及び同伴が必要、というだけ。
またSCP-512-JPは物体を発生させる効果を有しているが、これにより発生した物品も同サイトの標準収容ロッカーへ施錠保管して保存されている。参照にはクリアランスレベル3以上の職員の許可が必要。
「ロッカーに鍵をかけてしまっておけば安全」というSafeクラスオブジェクトの典型例である。


概要

SCP-512-JPは、1970~80年代生まれ(それ以降も?)の日本人ならほとんどの人が知っているであろう、あるものの形をとっている。
ずばり、 任天堂ファミリーコンピュータのゲームカセット なのだ。

SCP-512-JPのカセットの外見は、実際に発売されているとあるファミコンのRPGソフトと全く同一。
残念ながらタイトルは[編集済]だが。多分ドラクエか何かなのだろう。
そしてSCP-512-JPは普通のファミコンソフトと同様に、ファミコンに接続して起動することが可能で、実際に元のゲームのようにして遊ぶこともできる。

だがSCP-512-JPの元となったゲームとは以下の2点が異なる。
  1. セーブ機能が失われていること
  2. ゲームの主人公のスプライト*1が本来のものとは違う服装や髪型のものになっていること

そしてここからが重要なポイントなのだが、SCP-512-JPは起動されるたびに、ゲーム中の様々なオブジェクト*2が少しずつ変化していく

この時、未知の手段によって実際にゲームプログラム自体が書き換えられていることが確認されている。
一度発生した改変はそれ以降の起動時にも引き継がれ、改変は徐々に蓄積していく。
ただし容量には限りがあり、何かを追加すれば別のものが削られていき、それも限界に達すると後述の"REBOOT"が起きる。
なお、上述した相違点1.2.に関しては、いずれの起動においても維持されている。

もう一つの重要なSCP-512-JPの特徴は、ゲーム内でパーティが全滅してゲームオーバーになると、ゲームをプレイしている人の周辺に未知の物体を出現させることである。
この物品は言うなれば「ゲーム世界から出てきた」ような存在で、西洋式の剣だったり、薬草のような植物だったりする。そしてこれらの組成には未知の物質も含まれているものの、別段処分に困ることはなく、例えば植物であれば火をつければ普通に燃えてなくなる。具体的には後述の起動実験にて。

SCP-512-JPの起動が繰り返され、そのゲーム内容の改変が限界に達したとき、SCP-512-JPは"REBOOT"と呼ばれる現象を発生させる。
"REBOOT"時のSCP-512-JPを起動すると、タイトルロゴや文字列が出ず、ただ「REBOOT」とだけ表示されて電源が自動的に切れる。
"REBOOT"が完了するとゲームの改変はリセットされ、最初期のロムの状態へと戻り、また起動可能となるのだ。
ただし主人公のスプライトは相変わらず変化したままで、現実世界に出現した物品も消えることは無い。

…以上がSCP-512-JPの持つ特性である。
噛み砕いて言うと、起動するたびに内容が変わり、ゲームオーバーになるとゲーム内の物品が現実世界へと出てくるファミコンRPGソフト、と言ったところか。


起動実験

SCP-512-JPを収容した財団は、さっそくこれをファミコンに接続して遊んでみることにした。
およそ20回に渡る起動実験で何が起こったかを、以下の表で簡単に示そう。


イベント クリア所要時間
A "REBOOT"により自動的に電源が切れる -
B セーブがないことと主人公のスプライトが異なることを除いて、元となったRPGと同一
エンディング画面は電源を切るまで続く
19時間
C Bと特に変わらず 19時間
D 会話をする際にたびたび1~2秒の遅延が起こる 21時間
E シナリオ中盤で全滅してゲームオーバー(1回目)
以下の物品が出現
ゲームオーバー後、短いジングルの後に電源が自動的に切れる
-

試行Eで出現した物品は、
  • 未知の種の種子2つ
  • 未知の種の果物3つ
  • 複雑な装飾の施された未知の金属による短剣
  • 既知の何れの物とも一致しない組成の布によるローブ
であった。やっぱりこれドラクエなのでは…?

実験の続きに戻ろう。この次の試行からシナリオが徐々に変化していく。
F 勇者任命イベントで、「王さま」が「前任の勇者」について話す
(前任の勇者と主人公は無関係とのこと)
「主人公の母」の会話読み込みの遅延が顕著
26時間
G モンスターの能力値が平均1アップ
王さまの「前任の勇者」への言及が延びる
会話でいちいち数十秒の遅延が発生
30時間
H 「魔王軍」の幹部が1体増え、新ダンジョンが出現
モンスターの能力値が引き続き上昇(この後の試行でも上がり続ける)
39時間
I 魔王城にて全滅、ゲームオーバー(2回目)
以下の物品が出現
ゲームオーバー時はBGMなし
-

試行Iで出現した物品は
  • 未知の金属と銀を材料とした十字架を模した装飾の施されている長剣
  • 体長2.23mの未知の人型生物の死体
だった。剣は組成調査、死体は解剖調査ののち、保存。
いきなり死体が出てきてビックリ。これはゲーム内に暮らす民族なのか、はたまた人型モンスターだったのか。謎は深まるばかり。

さらに実験は続く。シナリオがどんどん不穏なことに。
J 母が主人公のことをニックネームではなく「むすこ」と呼ぶようになる
主人公の家で母が主人公の方向を見続ける
45時間
K 魔王軍が「王国」へ侵攻し、シナリオ序盤で王さまと王女が死亡する「陥落」イベントが発生
人々の会話の内容が不穏
49時間
L 勇者任命イベント中に画面下に母が出現し、主人公の方向を見ている
シナリオ中盤、主人公の故郷の村が魔王軍に焼き打ちされるイベントが追加
55時間
M 「陥落」イベントがさらに凄惨になり、王国内が荒廃するが教会だけは無事
主人公は教会には入れない
エンディングのBGM消失
61時間
N シナリオで仲間になるキャラクターが全て消失し、強制一人旅になる
シナリオ最初の王城に行くシーンで母が付いてきて、別れて教会へと入っていく
(母のあとを追うことはできない)
エンディング自体が消失
102時間

…SCP-512-JPにはセーブ機能がないので、実験者は試行Nにおいて味方はいないわ敵は超強いわで散々なゲームを長時間ぶっ通してプレイしてクリアしたことになる。
相当スゴ腕のRPGプレイヤーだったのだろうか?

シナリオの改変が大変なことになりながらもここまではどうにかプレイを全うしていたものの、次の試行でついに限界が来る。

O 主人公の頭が黒塗りになる
母が会話をしなくなり、主人公の方も見なくなる
魔王軍の侵攻が無統制状態になる
シナリオ最終で魔王と相見えるものの、魔王は酷く混乱している
魔王は主人公と戦闘せずに画面外へと消える
クリア不可能
魔王が主人公と出会った際に発した会話:「そなたは ゆうしゃじゃあ ない! わしは いったい だれだ!」
P 主人公が透明になり、一切の会話や戦闘ができない
母が教会へと入った72秒後にゲームが自動的に再起動
-
Q タイトル画面の読み込み中にフリーズして終了
(フリーズはこの試行が初)
-
R 全てのシナリオが消失
主人公は透明のまま
世界に平和が戻っている
主人公の家に母がおらず、机の上に「手紙」が置かれている
手紙を「しらべる」で読むとゲームが終了
-
S 再度"REBOOT"が発生し、試行Aの状態に戻った -

これにて実験は終了となった。

試行Qでフリーズした際、ロムデータのゲームプログラム領域から空白領域にかけての大部分のデータが消去されていたことが判明。
また試行Rで現れた手紙の本文は、ロムデータのわずかな空白領域と数十バイトの没データ部分に余すことなく上書きされた状態で存在していた。



発見の経緯

さて、以上の実験内容より、このゲームことSCP-512-JPは時々変な物品を出すだけで、そこまで大きな異常性はないように思える。
何せゲームなので、ゲーム内の異常現象はバグで片付くことも多いし。
しかし、財団がSCP-512-JPを発見したのは、ある殺人事件(…だということになった)が原因なのである。

1990年代のある日、警察にとある通報が入った。
██県在住の[編集済]氏が、自宅の居間で西洋式の長剣に串刺しにされて死んでいるのが見つかったのである。
財団はこの通報を傍受。エージェントを警官に偽装させて現場に向かわせた。

エージェントが確認した[編集済]氏の遺体は、十字架を模した装飾の施されている長剣(上記の試行Iで出た物品と同型である)に肝臓を貫かれて床に留められた状態であった。死因は失血死。
またテレビの前方には、未知の種の微生物を含んだ土が残されていた。
これらの様子から、エージェントはそのとき起動中であり、エンディング画面を維持していたファミコンゲームに異常性があると考え、これをSCP-512-JPとして回収したのである。

しかし、不可解なことがいくつかあった。
SCP-512-JPからは確かに色々な物体が出てくるが、なぜ長剣が「[編集済]氏を殺傷する位置に出現したのか」が説明できなかったのだ。
さらなる謎として、事件当時は冬だったにもかかわらず、[編集済]氏の居間の窓は完全に開け放たれており、しかも[編集済]氏が窓を開けたいかなる痕跡も発見されなかった。
これらの現象は現在判明しているSCP-512-JPの特性からは説明がつかないため、さらなる調査を行う必要が発生している。

なお、[編集済]氏は、ビデオレンタルや中古ゲームなどを取り扱う店舗[編集済]にてSCP-512-JPを中古ゲームとして購入していた。店舗側の販売記録にはSCP-512-JPの販売ログは残っていたが、買取りの記録はなかった。この店舗にSCP-512-JPがいつから、どのような経緯で存在していたのかは未だ不明のままである。


オブジェクトとしての性質は地味ながらも、解明されていない謎を多く抱えたSCP-512-JP。
今後、謎が少しでも解明されることに期待するしかないだろう。


追記・編集はSCP-512-JPをクリアしてからお願いします。




SCP-512-JP - エクストラ・クエスト
by Linraw
http://ja.scp-wiki.net/scp-512-jp
この項目の内容は『 クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス 』に従います。









































いとしい むすこよ!
ほほえみを たたえてください
そうして どこまでも
はばたいてゆきなさい

あなたが うまれた そのひから
わたしは ずうっと みていました

あなたが あるきだした そのひを
わたしは けして わすれない
わたしは けして わすれない

かみさまは ながいてがみは
ゆるしてくださいませんでした

――試行Rにて出現した「手紙」




……実は、数多くの起動実験と発見時の状態とから、SCP-512-JPの中で発生している現象、そして外界へともたらした影響について、ある程度の推測は可能な状態となっている。
ここからは報告書から一歩踏み込んで、 SCP-512-JPという「ゲーム内の世界」 について考えてみることにしよう。


SCP-512-JPの世界


SCP-512-JPは、元となったゲームと同じく、ファミコンで起動するロールプレイングゲームである。
神がいて、勇者が剣を取り、魔王を倒して世界に平和を取り戻すコテコテの和製ファンタジーRPGなのだ。

しかし、このゲームには普通ではない点も存在した。

まずセーブ機能がない点。
プレイヤーは過去に戻ってやりなおすことができず、シナリオは常に一本の道筋を辿る。魔王を倒してエンディングを迎えるかパーティの全滅、もしくは電源オフでのシナリオ中断という結末……すなわち、「GAME OVER(ゲーム終了)」を経て冒頭に戻る。
そして、ゲームオーバーに伴いシナリオのリセットがかかるはずだが、キャラクター達の記憶は完全にはリセットされておらず、一部引き継がれている節がある。
結果、次第にキャラクターは前回と異なる行動をとるようになり、用意されたシナリオを外れ、「フィクションのお約束」と言うべき規範すら捨てて、現実の人間のように悩みながら各々勝手に動き始める。
言ってしまえば、このゲームの世界は試行Aから試行Sまで連続していて、その中でキャラクターは「用意された配役」という観念に苛まれながら、世界のリセットという理不尽を味わい続けているのだ。

さらにもう一点。往年の名作RPGのように、主人公はパーティが全滅したとき所持していた物品をその場にいくつか落としてしまう。
ゲーム上ではなく、現実世界に。それも、時には主人公の死体を含めて
……これは主人公(プレイヤー)の死体です、とでも言うつもりなのだろうか?


さて、これらの事実を踏まえ、先述した起動実験のデータを改めて見ながら、 「その時ゲーム内で何が起きていたのか」 を推測していこう。


イベント 何が起こっていたのか
A "REBOOT"により自動的に電源が切れる ゲームがリセットされる。
B セーブがないことと主人公のスプライトが異なることを除いて、元となったRPGと同一
エンディング画面は電源を切るまで続く
元のゲームと同じ。
登場人物はいずれも用意されたシナリオに沿って動く。
C Bと特に変わらず 同上。
D 会話をする際にたびたび1~2秒の遅延が起こる 登場人物が現況に疑問を抱き始めた。
「前回」の記憶が蘇ったのか、用意された台詞に時々詰まる。

ここまでは比較的普通にプレイできている。後に重要となる「主人公の母」といったキャラクターも、その他大勢と同様に用意された役割をそのままこなしているのだろう。
問題は、次の試行からである。本ログにおける初の全滅が起こった。これを契機とするように、ゲーム世界は変質していく。

E シナリオ中盤で全滅してゲームオーバー(1回目)
植物の種やローブなどの物品が出現
ゲームオーバー後、短いジングルの後に電源が自動的に切れる
これまでより短いスパンでリセットが起こった。
キャラクター達は何を思うのか。
F 勇者任命イベントで、「王さま」が「前任の勇者」について話す
(前任の勇者とこれまでの主人公は無関係とのこと)
「主人公の母」の会話読み込みの遅延が顕著
王さまが「前任の勇者」を思い出す。
合わせて主人公の母も…?
G モンスターの能力値が平均1アップ
王さまの「前任の勇者」への言及が延びる
会話でいちいち数十秒の遅延が発生
用意された枠組みをモンスターが外れ出す。
王さまや主人公の母など、いよいよキャラクターが過去に気づき始める。
H 「魔王軍」の幹部が1体増え、新ダンジョンが出現
モンスターの能力値が引き続き上昇(この後の試行でも上がり続ける)
モンスターに続いて、自身が魔王「軍」であることを思い出したかのように、魔王軍が増強を始める。
ところでダンジョン一つ増やすってROM容量は大丈夫なのだろうか?
I 魔王城にて全滅、ゲームオーバー(2回目)
長剣と死体が出現
ゲームオーバー時はBGMなし
大丈夫じゃなかった。
ダンジョンの割を食ったのか、システム上に初めて異変が発生。
J 母が主人公のことをニックネームではなく「むすこ」と呼ぶようになる
主人公の家で母が主人公の方向を見続ける
彼女の本当の息子の名前は……。

前任の勇者」という人物が会話に上る。
元々、主人公のスプライトが試行Aの時点で「このゲーム本来の主人公」とは異なっていることから、今の主人公≠本来の主人公=前任の勇者であるとは多くの読者も思い当たっただろう。
王さまがそれを思い出したということは、恐らく最も身近な人物であった「主人公の母」も同様であろうと想像できる。彼女の本当の息子の名前は、「(ニックネーム)」などではないのだ。

また、人のみならずモンスター側にも異変が生じはじめる。ゲームキャラらしいやる気の無さから脱し、鍛え、あるいは成長し、人材を迎え、新たな拠点を増やした。
それが実を結んだのか、試行Iにおいて、主人公は二度目の全滅と相成った。散らばるドロップアイテム。今度は死体という嬉しくないオマケ付きである。
そしていよいよ、魔王軍は積極的に「 人類に勝利する 」べく行動を始める。

K 魔王軍が「王国」へ侵攻し、シナリオ序盤で王さまと王女が死亡する「陥落」イベントが発生
人々の会話の内容が不穏
増強した魔王軍による大攻勢。
もはやゲームの御約束を逸脱している。
L 勇者任命イベント中に画面下に母が出現し、主人公の方向を見ている
シナリオ中盤、主人公の故郷の村が魔王軍に焼き打ちされるイベントが追加
かつて見た「むすこ」の晴れ舞台。
その焼き直しを見て何を思うのか。
M 「陥落」イベントがさらに凄惨になり、王国内が荒廃するが教会だけは無事
主人公は教会には入れない
エンディングのBGM消失
人の国を魔王軍が荒らし回るも、「」にとって自身の象徴は看過できなかったのか、教会が不可侵に。
容量不足が深刻化してくる。
N シナリオで仲間になるキャラクターが全て消失し、強制一人旅になる
シナリオ最初の王城に行くシーンで母が付いてきて、別れて教会へと入っていく
(母のあとを追うことはできない)
エンディング自体が消失
不可侵のはずの教会に入る母。
神に招かれたのだろうか?

ほぼ 人類の敗北 といえる状況。
それでも最終的に、魔王は勇者(鉄砲玉)に殺されてしまうのだから、魔王軍からすればたまったものではないだろう。

合わせて教会が特殊なマップに変化する。
ここまで強化された魔王軍ですら手出しできないというあたり、そこに宿る「」の絶対性が窺えるが、不思議と母は入場を許される。
違和感に気付いたことが評価されたのか、それとも同情によるものか、いずれにせよここで母は「むすこ」の真実を聞かされたと思われる。
後述するが、彼女の本当の息子は ゲームの世界から現実世界へと脱出していた

O 主人公の頭が黒塗りになる
母が会話をしなくなり、主人公の方も見なくなる
魔王軍の侵攻が無統制状態になる
シナリオ最終で魔王と相見えるものの、魔王は酷く混乱している
魔王は主人公と戦闘せずに画面外へと消える
スプライト変更。
実験開始時の状況が思い起こされるが……。

試行N、母と神の対話が関係するのか、主人公のスプライトのが消されてしまった。
顔を無くした主人公を、もはや母は「むすこ」とは思わない。魔王も「ゆうしゃ」とは思わない。
シナリオから勇者は消失し、魔王も、魔王軍もその 役割 (ロール)を見失い、ゲームは破綻する。

そなたは ゆうしゃじゃあ ない! わしは いったい だれだ!

P 主人公が透明になり、一切の会話や戦闘ができない
母が教会へと入った72秒後にゲームが自動的に再起動
破綻が限度を超したからか、これ以降の試行は「ゲーム」ではなくなる。
後述する 手紙 はこのとき書かれたものか。
Q タイトル画面の読み込み中にフリーズして終了
(フリーズはこの試行が初)
神が一旦ロムデータの内容を消去し、世界を再建している最中と思われる。
R 全てのシナリオが消失
主人公は透明のまま
世界に平和が戻っている
主人公の家に母がおらず、机の上に「手紙」が置かれている
手紙を「しらべる」で読むとゲームが終了
(手紙の全文は上に記した通りである)
母は神に掛け合い、ゲームの外に出ていった「むすこ」に向けて手紙を作成した。
それをテレビ画面に映し、「むすこ」が読める状態にすることがこの起動時の目的であった。
S 再度"REBOOT"が発生し、試行Aの状態に戻った 世界は繰り返される。

ゲームは進行不可能となり、神はREBOOTの手順を始めた。
しかしその前に、神は母の望みを聞き入れ、画面の向こう側の「むすこ」に向けた 手紙 を書く事を許す。もっとも、容量の都合があるために決して満足な文章量とは言えなかったが……。
「世界がやり直される前に、私が本当の『むすこ』のことを忘れてしまう前に、『むすこ』に手紙を残したい」
その願いは叶えられた。

試行Rは、ほぼ全てのデータを初期化した上で、その手紙を見せるために存在する回である。
そして試行Sにて、今度こそ、手紙を含めた全てのデータが初期化された。


あなたが あるきだした そのひを
わたしは けして わすれない
わたしは けして わすれない


………。
自分たちの世界の外へと歩き出した『むすこ』に、母の想いは届くのだろうか。



事件の真相


では最後に、SCP-512-JPが外界にもたらした影響について考えてみよう。

SCP-512-JPの発見時の様子を思い出していただきたい。
[編集済]氏を殺めた長剣は、試行Iで出現した、つまりシナリオ終盤で持っていた剣と同型、ゲームにおける最終装備な位置付けのものである。
その側にはゲーム内から出てきた土。そしてゲームはエンディング画面。
これらの要素と、「SCP-512-JPの世界」で語られていたある存在とが重なってこないだろうか。

……犯人は、「前任の勇者」だったのだ。

[編集済]氏がゲームをプレイしていた時は、まだ主人公のスプライトは本来のゲームと同じものだった。
そのゲームがクリアされた時、エンディングで勇者は「旅を続け新天地を目指したい」とでも「神」に願ったりしたのだろう。
そしてエンディングが終わり、「ゲームオーバー」になった。ゲーム(Game)終わった(Over)のだ。
……その時、「神」は勇者の願いを叶えた。
勇者を、ゲーム(Game)外側(Over)へと送り出したのである。 生きた状態で。

晴れて現実世界へと足を踏み入れた勇者は、ゲーム内から持ち出してきてしまった靴の土を払うと、
手にした最終装備の剣を振るって、眼前であっけにとられている[編集済]氏を「退治」。
おおかた目の前の小人(勇者は長身のはず)をモンスターと勘違いしたんだろうが、ひょっとしたら 「お前のプレイのせいでずいぶん苦労させられたぞ、ヘタクソ!」 という動機だったのかも知れない。
そしてもはや用済みとなった剣を捨て、居間の窓を開放し、家を出ていった。
勇者はついに「新天地」へと歩き出していったのである。
きっと今も現実世界のどこかで悠々と旅をエンジョイしているに違いない。

財団の起動実験中にエンディングを迎えても勇者の代理人たちが出てこなかった理由は、彼らが顔を塗りつぶされるような魂無きキャストだったからか、外に出ることを願わなかったか、あるいは勇者を送り出した後の後始末で「神」がもうこりごりだと思ったか、といったところだろう。



……以上の内容はあくまで報告書からの推測に過ぎない。
しかし、淡々とした「起動実験」の報告書から、これほどの壮大な物語の存在を読み取ることが可能となっているのは驚くべきことである。
SCPの一つの側面にして根底をなす「報告書の形式を通した表現活動」としては、このSCP-512-JPの報告書は非常に優れたものであると言えるのではないだろうか。


最後に、「 エクストラ 」という言葉の語義をWikipediaより引用して、このページを締めることにする。


  • 「外」を意味するラテン語の接頭辞。特別、追加、臨時、番外。非常に。スーパーより強い強調。主に「EX」と略される。
  • 映画やコンサートなどの臨時出演者。エキストラ。
  • コンピュータゲームで条件を満たすと現れるステージ。EXTRAステージ。



SCP-512-JP
エクストラ・クエスト

追記・修正は勇者に手紙を書いてからお願いします。


CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-512-JP - エクストラ・クエスト
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最終更新:2023年11月20日 22:56

*1 キャラクターやマップの画像のこと

*2 ここでいうオブジェクトとはSCiPのことではなく、ゲーム内の登場人物・イベント・グラフィック・マップ・会話などのこと