双亡亭壊すべし

登録日:2017/03/23 Thu 00:45:46
更新日:2023/11/06 Mon 12:22:56
所要時間:約 11 分で読めます






双亡亭(そうぼうてい)壊すべし


『双亡亭壊すべし』は藤田和日郎による漫画。
週刊少年サンデーで2016年17号から2021年34号にかけて連載されていた漫画。

【概要】

心霊現象・オカルト・超能力といった物や異能者が社会的に存在を認められているちょっと変わった世界を舞台に、双亡亭と呼ばれる巨大な幽霊屋敷を巡る物語。
「スペクタクル・モダン・ホラー」を銘打っており、今回もトラウマが目白押し。
だが蓋を開けてみるとホラー要素があったのは間違いないが、それ以上にSFファンタジー+ミリタリー+コズミックホラー+オカルト+サイエンス+能力者バトル+伝奇物など様々な要素が渾然一体になったとんでもなくカオスな異能アクションバトル漫画であった。
なおこれまで藤田作品の味方キャラクターで恒例になってた「若者に負けない位やたらと強い歴戦猛者の老人」の人数がかなり多めなのも特徴的。

当初作者は「10巻以内に終わらせます(意訳)」と述べていたが、いつも通り風呂敷が広がりまくり10巻を越えて25巻で完結した。*1


【あらすじ】


東京・沼半井町に傲然とそびえ立つ奇怪な屋敷、名を「双亡亭」。

立ち行った先で闇と出会ってしまったら、もはや己は己でなくなるだろう。

恐怖を知るものは叫ぶ。

「あの家を壊してくれ」
「あの家を壊せ」
と。


蠢く怪奇に、復讐者達は戦いを挑む。

その命を懸けて――――



【登場人物】

主要登場人物

  • 凧葉(たこは)(つとむ)
美術大学を卒業したばかりの売れない画家。双亡亭の隣のアパートに住んでいた。
絵本作家志望だが、絵柄が大衆向けではないと採用を受けられずにいる。
そんなある時、双亡亭の一角に引っ越してきた緑朗と出会い、自分の絵を見て喜んでくれた姿に励まされたが、
その日の晩、双亡亭の奥に探検に向かった緑朗は怪奇に出くわし、緑朗の父は人ならざる者へと変貌してしまった。
更にその直後、自衛隊による双亡亭爆撃が敢行され、アパートも吹き飛んでしまったため、家を失う事になった。

緑朗に軽い気持ちで探検を促してしまった事に責任を感じており、坂巻泥努が双亡亭について綴った本を読んだことがあると自ら双亡亭破壊作戦に参加を申し出る。
ちなみにその本は爆撃で家ごと吹き飛んでしまったらしい。

能力的には完全な一般人だが、メンタル面では作中屈指の強靭さを誇り、かつとんでもなくコミュ力が高い。
肖像画に引き込まれた際、学習塾の塾長であった父親の悪夢を見せられたが、
既に自力でそのトラウマを乗り越えていたため、体を乗っ取ろうとした「何か」を唯一自力で撃退した。
そして双亡亭のやり口を理解し、「こんなところはあってはいけない」と双亡亭の破壊に闘志を燃やすことになる。
その後も肖像画の中の男に与えられた「黒い手」の力によって肖像画に引き込まれた者を乗っ取られる前に助けるために駆け回ることになる。
元々前向きな性格だったのもあって、当初はバラバラだった双亡亭攻略メンバーを言葉だけでまとめ上げて団結させており、双亡亭攻略メンバーの精神的支柱と断言できる男。


  • 凧葉(たこは)青一(せいいち)
45年前に行方不明になった旅客機に乗って羽田空港に現れた謎の少年。
その旅客機に乗っていた務の遠縁の親戚と同姓同名だが、生きていれば老齢の筈が何故か小学生姿のままでいる。
カタコトでしか喋れないが双亡亭に強い敵愾心を抱いており、その気配を感じ取ると暴れ出すが、一方で子供らしい精神も残している。

超人的な身体能力・生命力に加えて「手足をドリルへと変形させる」能力の持ち主。
このドリルは〈侵略者〉に特攻と言える致命打を与えることができる〈侵略者〉にとっての天敵だが、人を傷つけるを忌諱する優しすぎる心を持つが故に乗っ取られた人間にはドリルを刺すことができないという唯一の欠点を抱えている。
ちなみにドリルの回転に巻き込むことで霊力や怨霊を吸収したり除霊することもできる。

実は45年前に〈侵略者〉によって旅客機ごと奴らの母星に連れ去られており、〈侵略者〉の養分にされるところを「あの人」によって救われた。
そして自分達を連れ去り、「あの人」の星をも侵略しようとする奴らへの「怒り」を「あの人」に教え、乗客たちは「あの人」と共に反撃を開始した。
その戦いは45年間続き、長い間「あの人」と同化していた事で頭と体の成長が止まり、テレパシーによる意思疎通が可能になった事で言語能力が退化する事になった。今でも子供の姿なのはその為。
この戦いで乗客たちは青一の両親含め、青一とマコトを残して全滅している。

そして〈侵略者〉達の母星に攻め込んだ最後の戦いの日、奴らが双亡亭へと逃げ去ろうとしているのを発見し、双亡亭を破壊する為に地球に帰ってきた。


  • 立木(たちき)緑朗(ろくろう)
双亡亭の一角に引っ越してきた少年。
引っ越してきたその日、務との何気ない会話から双亡亭の奥に探検に向かい、父が人ならざる者に変貌するのを目撃してしまう。
その事から双亡亭に憎しみを抱き、双亡亭の破壊の為に青一と行動を共にする事になる。
双亡亭に入ってから体質の変化が見られ、夜目が異様に利くようになる。


  • 柘植(つげ)(くれない)
緑朗の姉。
両親が離婚している為苗字が異なる。
母の家系である「柘植」は巫女の家系であり、紅は刀巫覡(カタナフゲキ)という悪霊を祓う事を生業とする巫女の任に就いている。
戦闘では霊視に加えて霊力を宿す二本の小刀と体術を駆使する二雷流短刀術(にらいりゅうたんとうじゅつ)の使い手で、実力は若くして日本でもトップレベル。

母は紅が天賦の才を持っていた事から刀巫覡を継がせようとしたが、父はそれに反対し、その結果両親は離婚。修行の為に九州に移り住むことになり、緑朗とも離れ離れになっていた。
そして3年の修行を終えたが、それ時を同じくして緑朗が双亡亭に関わってしまい、双亡亭への復讐を志す緑朗は青一と共に行ってしまった。
その為、緑朗が青一と共に双亡亭に入る前に先回りして双亡亭を破壊する為、双亡亭破壊の為の特別工作班に加わることになる。

緑朗についてはやたらと過保護だが、これは過去のトラウマによるもの。
小学生の頃にアイロンの不始末で火事を起こしてしまい、それに巻き込まれた緑朗は背中に大火傷を負ってしまった。
それに責任を感じ、「自分は苦しみ続けて緑朗に償い続けなければいけない」と思い込んでいる。
刀巫覡の厳しい修行に耐えていたのも、それが自分にとっての「罰」だと考えていたため。
双亡亭で肖像画に引きずり込まれ、そのトラウマを刺激されて体を乗っ取られかけるが務によって救われ、改めて緑朗を守るために双亡亭を壊すという決意を固める。


  • 斯波(しば)(あつし)
現総理大臣。
45年前、中学生の時に同級生の桐生信一と金山奈々子と共に双亡亭に探検に入り、そこで奈々子の変貌を目の当たりにした。
以来、悪夢に苛まれる日々を送っていたが、防衛大臣となった桐生と共に双亡亭の破壊を決意し、爆撃を実行した。
しかし双亡亭には全くダメージを与える事が出来ず、次の手段として双亡亭を破壊できる人材を招集するため、双亡亭の破壊に248億円という賞金をかける。

実は34代から現在の96代まで総理大臣の元には双亡亭から肖像画が送り付けられており、
何人かは体を乗っ取られたが、空気に弱い「奴ら」は双亡亭の外では体が長くは持たないらしく、乗っ取った後で直ぐに体が溶けるか、体が爆ぜるかという末路を迎えている。
その為、現在生き残っている総理大臣たちは全員が双亡亭の危険性を熟知しており、秘密裏に破壊作戦を展開した事もあったが、そのすべてが失敗に終わった。
乗っ取られた総理達は全員が「双亡亭に続く水路を作れ」という書置きを残しており、それが総理大臣を乗っ取ろうとする目的であると思われる。

爆撃によって双亡亭の空気を舞い上げてしまい、〈侵略者〉の母星と地球を繋ぐ門を開いてしまったが、それによって青一が地球に帰還する事になった。
彼がやった事がプラスに働くかマイナスに働くかは今後の展開次第。
実は45年前に双亡亭を壊すために桐生と共にダイナマイトを投げ込み爆破しようとし、その空気を舞い上げてしまった。青一ら旅客機の140人を戦いに巻き込んでしまったのは、若き日の二人だったのだ。



双亡亭攻略メンバー

斯波総理大臣が招集した選りすぐりのプロフェッショナル達。
当初、読者達からはよくある噛ませ犬かと思われていたが、蓋を開けてみれば序盤にやられた1人を除いて*2全員が最後まで生き残った上、誰か1人でも欠けていれば絶対に勝つことは不可能だった頼れる仲間達であった。


  • 宿木(やどりぎ) (かえで)
陸上自衛官二等陸尉であり環境省特殊災害対策室作戦課に所属する女性。
三白眼が特徴的な、厳しくも冷静沈着で勇敢な人物。
双亡亭突入部隊の隊長として双亡亭破壊作戦に関わる。
霊能力や異能、特殊装備の類は持っていないが、自衛官として鍛え上げられた武器の扱いや体術、判断力を駆使して戦う。特に銃の腕は自衛隊でも随一の実力を持っている。
また政府側と攻略メンバーとの間の連絡役としても尽力し、最前線で双亡亭攻略メンバーを支え続けた縁の下の力持ちであった。


  • トラヴィス・アウグスト
アメリカ超自然現象研究会のメンバーで優れた心霊研究者。
長い顎髭と身長190㎝という科学者には見えないかなり大柄な体格が特徴の、強面な老科学者。
実はマサチューセッツ工科大学出身の技術者であり、技術者としての能力に加えて、心霊研究家として不動産業界や企業、役人からの依頼を請け負ってきた経歴からそういった方面に対してコネがあり、そこからバックアップを受けていた。
科学者ではあるがかなりの行動派に属し、プライドが高く偏屈で頑固、おまけに短気とかなり気難しいものの、凧葉と並べるほどのメンタル強度と精神力を持っていた作中随一のツンデレ爺さん。
また緊急時であれば悩みこそはするがプライドを捨てることも厭わない割り切りの良さもある。

戦闘では両腕に装備した携帯式電磁エネルギー放射システム転換器(リバーサー)から直線的に放つ強力な電撃によって霊体・生物問わずダメージを与えることができる電撃使い。
本来は除霊用装備であったが、結局は超強力なスタンガンのようなポジションになってしまったことに対しては当初不満気であった。
単純な殺傷力だけで言えば前衛最高火力持ちだが、戦闘外でも持ち前の高い科学的知識で攻略メンバーを支える武闘派インテリ。

当初は研究チームを率いて双亡亭破壊作戦に参加したが、作戦開始早々に自分とフロルを除いてチーム全員が双亡亭に取り込まれてしまう憂き目に遭うも、そこから凧葉の説得を受けて再起し〈侵略者〉と戦う決意を固めた。
だが過去のトラウマに加えて上記の人を選びすぎる偏屈な性格から娘や部下にもキツく当たる毒親兼パワハラ上司になってしまっていたところがあり、終盤ではその因縁を〈侵略者〉に突かれ、己が犯してきた罪と向き合うことを余儀なくされた。


  • フロル・ホロパイネン
フィンランド出身のアウグスト博士のチームの一員で博士の養女。
物体を瞬間的に移動させる物質現出(アポーツ)能力」やテレパシー能力の持ち主。
ただし能力の使用後は体力を消耗する傾向があり、生まれながらの体の弱さもあり大量の物質を移動させることはできない。
肖像画に引きずり込まれそうになった際、咄嗟にチームが用意していた車両を転送する事で逃げ出した事で難を逃れる。
その後、再び肖像画の中に引きずり込まれそうになるが、「黒い手」の力で駆け付けた務と紅に助けられ、以後は凧葉に対して恋愛感情に似た熱い感情を向けるようになる。
体力面の問題から双亡亭攻略メンバーとして2度目の侵攻の際は亭内に行くことはなかったが、双亡亭の外から政府と協力して攻略メンバーを支えていた。


  • 鬼離田(きりた)三姉妹
現代最高の感知能力を持つと言われる占い師の三姉妹。
どんな状況でもけたたましく笑っている。
加幻満流道術(かげみつりゅうどうじゅつ)」の使い手で、三人の眼を一人に集中させることで千里眼の域にまで感知能力を引き上げる宿眸の法(すくぼうのほう)や、自身を依り代に「鬼神」と呼ばれるスタンド存在を招請・使役する術などが使える式神使い。
そしてその感知能力により、長女の菊代は双亡亭について何かを知ったようだが、その直後に肖像画に引き込まれて人ならざる者に変貌し、
妹の雪代と琴代を肖像画に放り込んでしまう。

実は双亡亭と関わる何者かの子供。
母は人間だが、19の頃に神隠しに会い、10日後、双亡亭の前に佇んでいるのを発見され、その時にはもう彼女たちを孕んでいたという。
その為、生まれた時から「バケモンの子」と蔑まれ続け、「笑っている自分は本当の自分じゃない」と自分を偽ることでその辛い境遇に耐えていた。
双亡亭の破壊作戦に参加したのは双亡亭に復讐する為であり、笑いながら腹の底では怒りと憎しみを抱いている。

末っ子の琴代は心の隅で抱いていた「『バケモン』である父に敵うはずがない」という無力感を増幅され乗っ取られかけていたが、
務の叱咤によって「父は得体の知れない化け物ではなく、双亡亭に乗っ取られ手先と化したただの男に過ぎない」ということを認識したことで
身体を乗っ取ろうとする「何か」を撃退し、姉の雪代を救うことにも成功する。
……後に判明した彼女たちの父親の正体を思えば、「バケモン」というのは実に的確な表現でもあったのだが。


  • ジョセフィーン=マーグ
元舞台女優で焼けただれた腹話術人形を抱えた老婆の霊能力者。
車椅子に乗って常にメアリーに向かって話しかけており、周囲からは「とっくに正気じゃない」とも言われている。
とはいえ性格自体は穏やかであり、凧葉や紅に優しくされた恩もしっかり記憶してその恩を返そうとする心優しい律儀な女性。

戦闘では、自分が抱えている人形「パイロメアリー」を介して火球や火炎放射を放ち悪霊や物体を焼き払う発火能力(パイロキネシス)の使い手。
双亡亭破壊作戦に参加した霊能力者の中でも屈指の実力者であり、これまで数多の霊現象に見舞われる事故物件を霊体ごと物理的に焼き滅ぼして除霊してきた世界最高峰のゴーストバスター。
瞬間的にはアウグスト博士をも上回る火力と殲滅力を発揮する、攻略メンバーの頼れる後衛である。

その霊能力の根源は、夫婦揃って仕事に没頭し過ぎた余り家庭を蔑ろにし、愛娘・メアリーを自宅の火事で喪った後悔であり、火災現場から運び出される娘の焼死体を目にして以来その心は半ば崩壊している。
しかし双亡亭攻略の中で凧葉や紅を含めた攻略メンバーの皆と交流を深めていき次第にメンタルが回復。
メンタルの回復に比例してより複雑で繊細な火球のコントロールが可能になった他、他者が持つ銃火器を異常加熱させて武装を持てなくさせるような小技もできるようになった。
終盤己の中のトラウマを打ち破ったことで精神も完全に健常化しており、以後は人形なしでも発火能力を使用して〈侵略者〉が乗り移った人間を焼き滅ぼしてしまっている。


  • バレット=マーグ
ジョセフィーンの夫で大富豪の老紳士。
ジョセフィーンの車椅子を押して歩く他、言っている事を理解できるらしく、通訳も担当している。
実はデジタル家電の多国籍大企業「バレット・コーポレーション」の元社長。
アメリカや日本にある関連会社だけでなく米軍やアメリカ大統領などに深い繋がりを持ち、財力を駆使して攻略メンバーをバックアップしている。
本人も結構な肉体派であり、車椅子を押しながら高速戦闘に対応するだけでなく敵の打撃を剛腕で受け止めたりする筋肉ダンディ。
仕事から身を引き妻に寄り添っているのは、ジョセフィーンと同じく家庭を蔑ろにしたことや娘を救えなかったことに対する後悔からである。


  • 黄ノ下(きのした) 残花(ざんか)
突如現代の双亡亭に現れた旧日本軍少尉。
隻眼で顔を包帯で覆った不気味な憲兵のような姿だが、性格は高潔な武士道精神の体現者。
軍人気質な堅物であり、軍人らしく上下関係に厳しくやや高圧的で激情家なところはあるが、理路整然とキッチリ説明すれば落ち着いて受け止めてくれる。

武器は帰黒の霊水を刃に塗った軍刀で、霊水の効力によって<侵略者>相手にも有効打を与えられる。
剣術に非常に長けており、身体能力の高さもあってこと対人戦に於いては攻略メンバー最強の漢。
その実力は〈侵略者〉に乗っ取られ超人と化したかつての部下達を、持ち前の剣技だけで悉く正面から斬り伏せ消滅させていったほど。
しかし他の破壊者の様に異能は一切持っておらず、双亡亭で負ってしまった重傷の影響でスタミナが低下しており、長期戦は出来ないのが欠点。
おまけに霊水も定期的に補充しなければ時間経過で尽きてしまうため、こちらも彼が長時間の戦いに向かない理由の1つとなっている。

五一五事件における犬養毅総理銃撃犯を追って部下を率い双亡亭に乗り込むも、部下諸共絵の中に引き摺り込まれたことで侵略者と接触。
彼らの精神干渉を気力で打ち破るも顔の皮が剥がれ全身血塗れになる重傷を負い、傷を癒す放浪の末に帰黒と接触する。
泥努とは同郷の幼馴染であり、泥怒への復讐と彼が姉に対して行った凶行の謎の追求、そして双亡亭破壊に執念を燃やす。


  • 帰黒(かえりぐろ)
突如現代の双亡亭に現れた女性。
大正時代の新興宗教『白城百水教』で「生き本尊」を務めていた美女。
普段は黒子の姿に扮しており、素顔は白い肌の儚げな絶世の美女だが、本尊だった頃の教育により「己の顔は醜い」という歪んだ認識を抱いている。

髪の毛を自在に操る異能の持ち主で、周囲の者を弾き飛ばしたり、逆に味方を髪で繭のように包むことでダメージを防ぐ事もできる。
この髪に宿る水分は霊水でもあり、負傷した者の傷を癒すだけでなく、青一のドリル同様<侵略者>の肉体に特攻が入る特性を持つ。
更に空気を舐めることで周りの状況を理解する異能味智覚(みちかく)も持つ、攻撃・索敵・サポートなど幅広く活躍できる戦うヒーラー。

傷を癒す霊水を持っていたことで復讐と憎悪に燃える残花と関わり、残花に同行することになる。


双亡亭陣営

双亡亭を作ったクソコテ男。本名は坂巻由太郎であり、泥努はペンネームらしい。
大正時代の生まれのはずだが、現在は若い姿で双亡亭の肖像画の中で絵を描いている。
自身の芸術表現は「診察」と称し、凡人には決して理解できないものだと語る。
肖像画に引き込まれた務と意気投合し、彼に双亡亭の中を自由に動き回ることを可能とする「黒い手」の力を与える。
他人の思っている事が分かる不可思議な能力を持つ。

90年前、自分の絵が認められずに苛立ち、自分の頭の中の色彩を表現できる絵の具を求めていた泥努は、双亡亭の地下室に湧き出していた自在に色を変える水を見つけた。
その水こそ地球まで辿り着いた〈侵略者〉であり、それを使って泥努が絵を描いたことで〈侵略者〉の母星との間に道が開通。絵の中に引きずり込まれた泥努は肉体を乗っ取られそうになった。
が、その読心能力によって〈侵略者〉の思考を理解した泥努は逆に奴らを侵食し、支配下に置いた。
詳細は個別項目を参照。


大正時代に産まれた加幻満流道術開祖にして、呪術界の生ける伝説。
外見は陰陽師の服装をした50歳前後の壮年の男性だが実年齢103歳。
特殊な呼吸法と丹薬、山籠りによる修行の果てに不老不死の仙人となった現役の呪禁師。
泥努とは昔馴染みで、双亡亭の外に出られないことを不便に感じたしのに雇われ、88年間泥努に仕えている。
泥努曰く「屋敷の近所の薄汚い子供がいつの間にか働いていただけ」「外の用をさせるための小使い」
その正体は鬼離田三姉妹の実父であり、鬼離田三姉妹の母親を双亡亭内に拐い、強姦した上で孕まさせ放り出した鬼離田三姉妹にとっての仇敵。
飄々とした態度を取りながらも嬉々として殺し合いを好む残虐非道の戦闘狂で、古いわらべ唄を好んで口ずさむ。
「90年掛けてこの世の有りと有らゆる修行を極めた」と豪語しており、「降神送鬼」と謳われる式神使い。その技量は「名人」と称される。
詳細は個別項目を参照。


「あの人」の星を侵略していた存在。
「あの人」と同じように黒い海の体を持つ。
〈侵略者〉の星は核の対流が止まり、太陽の粒子を防げなくなった事で死にかけており、奴らも粒子に蝕まれ、滅亡の危機にあった。
その状況を打開するため、自分達と似たような体を持つ「あの人」を取り込もうとしたが、
青一達が反撃を開始した事で存続が危ぶまれるほどにその数を減らし、いよいよ滅びに瀕していた。
そんな中、「予知」の力を持つ奴らは双亡亭に大きな力が働き、門が開くことを感知。一斉に地球に向けて逃げ出そうとする。
しかし、「あの人」が全ての力を使って攻撃を仕掛けたことで奴らが大挙して地球に押し寄せる、という事態は何とか防がれた。

だが双亡亭と奴らの星が繋がる限り、いずれ奴らがやって来るという脅威は残ったまま。
それを防ぐためには双亡亭を壊さねばならない。
壊すべし。壊すべし。〈双亡亭〉壊すべし。

詳細は個別項目を参照。


  • しの
泥怒に支配された〈侵略者〉の意思を代行する存在として、泥怒がイメージを固定させた〈侵略者〉の端末であり、地球におけるリーダーポジション。
見た目はおかっぱで着物を着て鞠を付くなど、泥努の姉・しのぶの幼き頃の姿を転写されている。
第1話のナレーションで遊んでいた少女の正体。


その他登場人物

  • 凧葉真琴
青一の下の「キョウダイ」。
青一と同じく〈侵略者〉と戦っていたが、地球に帰還するための通路を通る際、旅客機が破壊されるのを防ぐため〈侵略者〉相手に特攻を仕掛け外に飛び出した。
青一と双亡亭での再会を約束して、時空の狭間に巻き込まれ行方不明となったが…?


  • 「あの人」
〈侵略者〉の母星に連れ去られた青一達を助けてくれた恩人。
正確には人間ではなく、白い海のような液体状の知的生命体。コミュニケーションを行う際は、青一の記憶から読み取った彼の祖父の姿を取る。
同じような液体生命体である〈侵略者〉によって養分として吸収されており、間もなく全てを奪われて死を迎えるという状況だった。
感情に乏しかった彼らはそれに対して何も行動を起こす事はなかったが、自分と同じく養分にされそうになっていた青一達が乗っていた旅客機を発見し、咄嗟に彼らを自分の星に匿った。
そして青一から感謝された事で「嬉しい」という感情を覚え、青一達の為に出来る限りの事をしたいと思うようになる。

青一達の為に町を作り、彼らの記憶を走査して大切な人を模倣し、少しでも穏やかな時間を過ごしてもらおうとし、そんな彼らに青一達も心を許した。
しかし、〈侵略者〉達がいよいよ彼らの体を全て奪い尽くそうとし、死の時を迎えたが、
青一達によって「怒り」を教えられたことで彼らと一体化し、〈侵略者〉への反撃を開始する。

  • 坂巻しのぶ
泥努の姉。
泥努は彼女との思い出を最も美しいものと語っているが…

  • 月橋詠座
坂巻泥努が幼少期の頃に絶大な人気を博した流行画家。
貧乏ながら独学で絵を学んで弱冠31歳にして大成し、彼の手掛けた画集や版画、絵葉書、便箋は大売れに売れ、京都で展覧会を開けば客が長蛇の列を並ぶほどの人気だった。
本人は善人の類なのだが、彼が起こした事件とトラブルが坂巻泥努の心に深い影を落とした、ある意味で悲劇の発端となった人物。


【用語解説】

  • 双亡亭
1925年(大正14年)より坂巻泥努によって建設がはじめられ10年の月日を経て1935年(昭和10年)に完成した木造家屋。
所在地は東京都豊島区の沼半井町。7200平方キロメートルの敷地内に各棟が複雑に並び、それらが廊下によって連絡されている。
坂巻泥努は紡績業で財を成した資産家の長男であり、幼いころから芸術の才能を認められていた画家志望の男だったが、
関東大震災後に言動がおかしくなり始め、世界旅行の後、全財産を使って双亡亭を建築したという。
務が読んだ本によれば、泥努は「亡び」に憑かれており、双亡亭も亡びの絵を描くためのアトリエであったという。

建てられてからしばらくはよくある幽霊屋敷として見られ、
中に入っても無事に出てくる事が出来た者も何人もいたが、肖像画を見た者は一人として帰っては来なかった。
そして1970年代の心霊番組で肖像画の中に人間が引きずり込まれる映像が撮影され、警察が動く事となったが、
精神に異常をきたす者、行方不明になる者、人間ではなくなる者が続出し、捜査は打ち切られる事となった。
この事から霊能力者の間でも双亡亭は有名であり、「不祓案件」の曰く付きの建造物として語られていた。
ドローンなどによる調査も行われたが、双亡亭に入った直後に画像が送られなくなり、失敗に終わっている。

双亡亭の材質には〈侵略者〉が混じっている為、外部からの攻撃は全く通用せず、破壊できるのは外壁まで(それもすぐに直る)。
屋敷はどんな方法を使っても外部からは破壊できず、最悪の場合攻撃を跳ね返して来る。
しかし、内部からの破壊工作には一定の効果は認められている。
例外として、〈あの人〉と同化した青一の攻撃だけは通用する。

霊能力者たちは憑霊や地縛霊の気配は感じられないとしており、務や緑朗もそういうものとは違うと直感的に悟っている。
務は奴らが人間に成り替わるための「更衣室」ではないかと考察した。
上述した通り、双亡亭は異星と繋がる門でもある為、〈侵略者〉が関わっているのは間違いないと思われるが、
青一は奴らともまた違う「何か」の悪意を感じているらしい。

元々は平安時代に星が落ちてきた土地であり、江戸時代に村が出来てからもその星が落ちた場所だけは人間はおろか生き物は一切近付かなかったという。
しかしその土地を坂巻泥努が購入し、双亡亭を建設した。

一体双亡亭とは何なのか。
それはまだ不明である。


  • 肖像画
双亡亭に飾られた絵画。
人間が近付くと内部から無数の腕が伸びてきて人間を取り込み、
その人間のトラウマを刺激・増幅して精神に衝撃を与え、理性を崩壊させて体を乗っ取る。
しかし、肉体を乗っ取る前にその人間が理性を取り戻してしまうと乗っ取ることが出来なくなる。
弱点は窒素。窒素を含む地球の大気に触れた腕は、短時間で崩れて崩壊してしまう。その為、双亡亭の空気は窒素の割合が低く、代わりに酸素の割合が高くなっている。
青一によればこれは絵ではなく、奴らがこちらにやって来るための「通路」であるという。

乗っ取られた人間は双亡亭の地下で穴を掘る作業を行っており、
奴らが海へと脱出するための水脈を探している。
奴らは水の中では何の問題もなく体を維持でき、しかもその水はいずれ生物の体内へと入っていく。
そうなれば奴らはこの星を完全に乗っ取ることになる。



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最終更新:2023年11月06日 12:22

*1 とはいえ藤田作品長編の中では一番(『月光条例』よりも)巻数が少なかったりする。

*2 しかもその1人も死後に一矢報いている