禁止カード(スタンダード)

登録日:2017/03/20 Mon 22:47:09
更新日:2023/12/31 Sun 02:03:48
所要時間:約 54 分で読めます




ここでは、Magic the Gatheringのスタンダードフォーマットにおける禁止カードについて述べる。


まえがき――フォーマットとローテーションについて

マジックの禁止カードはフォーマットと深い関係がある、と禁止カード(MtG)では触れているが、スタンダードの禁止カードを述べる上でもうちょっと補足しておく。
というのもフォーマットやローテーションというのはマジックをやっていれば常識だが、他のTCGのプレイヤーにはイマイチ掴み辛い概念でもあるのだ。遊戯王とかには無いしね。
復習も兼ねて、ここはそもそもの始まりの話から書き起こしたい。

むかーしむかしあるところに、…では流石に古すぎるが、それでもかなり昔の話。時期としてはマジック最初のエキスパンションが発売された頃。もう二十年以上前のお話である。

このころのマジックにはフォーマットという概念は存在せず、レギュレーションも「公認構築」の一種類しかなかった。
だが、マジックのカードセットが年々増えてくると、カード資産の関係上新規参入者が辛いという事情が現れてくる。
そこでマジックのカードゲームは、Type1(現ヴィンテージ)とスタンダード(Type2とも)に分離され、スタンダードにはローテーションの制度が設けられた。
要するに「新セットが発売される度に、古いセットは使えなくなるよ」という制度である。新セットを売りたい商売との相性もいい。
これにより、古参と新参との差をある程度減らし、古いカードも使いたい人はType1へという構図が出来上がったわけだ。

こうした古い時代にも規制されたカードというのは存在した。全ては黎明期、何もかもが手探りだった時代に作られたものであり、参考にすべき先例さえ存在しなかった時に作られたものなのだから、これはまぁ止むを得まい。
ただし、規制は制限カードという形でのみなされた。「一枚だけなら使えるから」という苦しい言い訳説明が成り立つからだろう*1

だが、これらのカードの多くはデッキを問わない汎用性を誇るぶっ壊れカードばかりであり、やがてどんなデッキにも(一枚ずつの)それらのカードが入ってくる事態となった。"パワー9"という呼称も本来はそうした時代の風潮に由来する*2
また「そういうカードを入れられないデッキでは勝てない」という事態も引き起こした。
ちなみに上記の公認構築で行われた唯一にしてマジック史上初の世界選手権で優勝したデッキには当時の制限カードが片っ端から詰め込まれている。
デッキ名「宝石箱」とはよく言ったものである。逆から言えばそれらのカードを持たない人には辛い環境であっただろう。

やがて時が経ち、上記のパワー9などもローテーションなどで徐々に整理されていくが、一部のぶっ壊れカードはそれなりに後々まで残っており、それらは制限カードとして猛威を振るい続けた。ネクロの夏での《天秤》トップデッキなどの逸話は、こうした事情が背景にある。
天秤も制限カードであり、一枚しか入れられなかったのだ。だからこそここぞという場面でのトップデッキが今でも話に上るわけだが。

が、「ぶっ壊れカード一枚でちゃぶ台返し」というのはあまり美しい話ではない。「引いた者勝ち」では「腕より運」となってしまい、それは頭脳ゲームを自称するTCGの理念に反する。高額賞金で争われるトーナメントなら尚の事。
制限カードには「引き勝負」「引いたもん勝ち」という負の側面が存在するのだ。

こうした観点からWotCはスタンダードにも禁止カードを導入。ぶっ壊れカードの整理も進み、環境は平和を取り戻したか…に見えた。

ちなみにこの時期に禁止指定されたカードは《チャネル》《精神錯乱》《露天鉱床》《天秤》《黒の万力》《象牙の塔》《土地税》《Zuran Orb》。
いずれも別のフォーマットで禁止経験のあるカードたちである。
現在のレガシーでも前から4枚は未だ禁止のままである。


スタンダードの禁止カードの特徴

さてここからが本題である。
だが、その前にまず確認しておきたいことがある。先に「禁止カードというのは製作会社にとって出したくないもの」と書いたが、
そうした意思はスタンダードにおいて特に強い。

その理由は、
  • 最も競技人口が多い
  • 現在発売中のブースターパックを利用して行われているしシングル売買やトレードも盛ん
  • そこで環境を荒らしたり、価値を大幅に下げる禁止カードなんて出したらプレイヤーからの反感は物凄いことになり小売り店も尋常ならぬダメージを受ける
  • 結果人が離れたり禁止を恐れて買い控えが発生するなど会社が被るダメージが半端ない
  • そして責任者は社長室送りの刑になる。んでコラムという名の反省文を書かされる。場合によってはバスに轢かれるかもしれない
からである。

ただ、そんな状況下でも強すぎるカードというものは学習能力が無いせいである程度のインフレを伴う強さがなければ売れないカードゲームの宿命にある以上、やっぱり印刷されてしまう。
そこで開発側は、禁止カード候補への露骨な対策カードを出して誤魔化したりもするのだが、それでもどうしようも無い場合もたまにある。○○の冬とか夏なんてつく時は結構な確率でどうしようもないときである。
ところが環境を整えるために禁止カードを乱発したら、今度はシャークトレードが横行したとか*3ぶっ壊れカードを規制したら残りが暴れたとか、悪い逸話には事欠かない。
そもそも黎明期のぶっ壊れカードを除けばスタンダードで禁止カードが出ることはありえないとプレイヤーもWotCも思っていたフシもある。ウルザ・ブロックの頃までは。

その後戦乱のゼンディカー+イニストラードを覆う影+カラデシュ期に3枚の禁止カード(後述)が出て話題になったが、
このときには「極端なオーバーパワーなカードしか禁止しない」から「ある程度のオーバーパワーは許容するが、トーナメントシーンの多様性をあまりに歪めるカードは許さない」という思考にスイッチしたという部分が大きい。
ただ「禁止は10年に1枚くらいに抑える」という目標は変わってないとされているので注意。
流石にタルキール龍紀伝+マジック・オリジン+戦乱のゼンディカー+イニストラードを覆う影期の「カンパニーほぼ1強環境」でも禁止カードを出さなかったのを反省したらしい。
この時期は禁止カードこそ出なかったがスタンダードにおけるメタゲームが完全に固定化された時期でもあり、「スタンダードのローテーション間隔の変更*4」などもあってプレイヤー離れが進んでしまった。

確かに、禁止カードは出ないに越したことはない。しかし禁止カードが出ていない環境が無条件に楽しいのかというとまったくそうではないことは忘れてはいけない。

カラデシュ+アモンケット+イクサラン期に一気に4枚出た時は
「Tier1で他のデッキにまんべんなく強い【ティムール/スゥルタイ/4Cエネルギー】、そしてエネルギーに不利だが他デッキにさらに強いことで喰らいつけた【ラムナプレッド】という2つのデッキがあまりにも勝率が高すぎてデッキの選択肢が無くなる」
というアナウンスと共にこの2デッキのキーカードが一気に規制された。
この表明を見るに、スタンダードもモダン同様に環境を支配するデッキ、もしくは4ターン目で大勢が決まるデッキが規制対象とする方針が固まった模様。
ちなみにこれで1年間で9枚の禁止カードを出したことになる。10年で1枚どころか1年で9枚の禁止カードを出したウィザーズの明日はどっちだ。(2020年追記:だめでした…)

その後はラヴニカの献身あたりまでは禁止になるようなカードも出ず平和な環境が続いていた(おかしいパワーのカードが無いとは言ってない)が、
スタンダードのパワーを引き上げる目的で灯争大戦以後はスタンダードのみならず下の環境でも通用するようなパワーカードが多数作られるようになり、
最終的にラヴニカの献身~エルドレインの王権から合わせて1年間で10枚の禁止を出す大惨事再びとなった。相棒10枚のルール変更も加味すればさらに多い。
一応フォローを入れておくと、その内の何枚かはこれまでの基準であればスタン落ちを待っていいはずだったが、ソーシャル・ディスタンスの影響でデジタル上でのゲーム、特にMTGアリーナがこれまでの紙のゲーム以上に活発に行われていた*5ため、スタン落ちを待たずにテコ入れするべき、という判断をしたとのことである。

その後ローテーション後にも禁止カードが立て続けに出てしまい、信頼が揺らいでいるというのが現状。
特に《記憶の壺》の記録を21年ぶりに塗り替えた《創造の座、オムナス》の禁止は、その少し前に行われた《自然の怒りのタイタン、ウーロ》の禁止とともに「スタンダードでもいつ何が禁止になるか分からない」という風潮を生んでしまうことになった。

この朝令暮改的な禁止カード制定の理由は、公式の説明にあったデジタル上でのゲームの増加に加えて、特にMtGアリーナではカード1枚ごとの価値が好きなカードの生成に使えるワイルドカードの存在によって等価であるためTier1のデッキを組むのが最適解というゲームシステム上のテーブルトップとの差異もプレイヤーから指摘されている。
一部のプレイヤーからは同時期の壊れメカニズムであるデュエル・マスターズGR召喚や限定商法など他のウィザーズのやらかしも合わせて「社長を禁止にしろ」という声まで上がる始末。

こうした禁止改定の方針やそれに対する意見は紙とMTGAどちらを中心にプレイしているか、どういうプレイスタイルかによって異なる部分も大きく、もはや正しい答えというものは存在しないに等しい。
どちらにせよ、多様なカード、デッキが使われる環境が維持され、禁止カードが出ないに越したことはないが……

禁止カード一覧














禁止解除されたカード

  • 《暴れ回るフェロキドン/Rampaging Ferocidon》
上記イクサラン・ブロックにて禁止されたフェロキドンが帰ってきた。
ちなみにスタンダードで禁止されたカードが同ローテーション内で禁止解除されたのは今回が初。
理由は流行している《風景の変容》コンボや白黒吸血鬼といった、大量に小型クリーチャーを展開するデッキに対するアンチカードとして有力なため。
ローテーション落ちまで40日、閃光のような最後の輝きを終えた。


追記修正は、禁止改定が発効されてからお願いします。

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最終更新:2023年12月31日 02:03

*1 遊戯王やデュエマも初期はそうだった。禁止カードというのは製作会社にとってやっぱり出したくないものなのである。

*2 「黎明期ですら飛び抜けて強く、その後のマジック史に大きな影響を与えた9枚のカード達」の意。「デッキに入れないと勝てない」という誤った認識をされるほどであった

*3 当時はインターネットも普及しておらず情報格差があったため、禁止が告知されたカードを禁止前の価値でトレードしたり、強力なカードを「それ禁止になるらしいよ」と価値を下げさせてトレードするなど

*4 以前は1年毎だったのを半年ごとにローテーションするように変えた。1年間硬直してしまうメタゲームを一気に変えようという狙いがあったが、これによって「遊ぶ時間があまり取れない社会人プレイヤー」や「半年しか使えないことを嫌う資金不足のプレイヤー」が離れてしまった

*5 ソーシャル・ディスタンスの影響を抜きにしても、デジタルならば大会に行かなくても不特定多数のプレイヤーと瞬時に対戦できるし、また自動化によりルール上のトラブルや記憶問題が解決されたことも短い時間に何度もゲームを行えることに繋がった。このことがメタ・ゲームやカード・シナジーの研究を加速させ、開発側の想定以上の暴れ方をするカードがプレイヤーに発見されやすくなっていた。

*6 実際レガシーでは【ウーズ・サバイバル】のせいで相方が規制されている。そのデッキができなくても「制限の緩い軽い永続サーチ」なのでいずれ禁止にされたとは思われるが

*7 それでもヴィンテージで制限解除を検討されたという話が公式でなされた。アカデミーには全くそういう話がないあたり壊れ具合が分かる

*8 45日。大会で使えたのは31日

*9 一応《水蓮の花びら》がコモンで禁止という前例はあるが、「コモンかつクリーチャー」は初ということ

*10 実際にはスタン禁止からの初再録。エクステンデッドに広げれば《惑乱の死霊》が第4版禁止→第8版再録という実績有り

*11 他の3体は《闇の腹心》、《瞬唱の魔導士》、《タルモゴイフ》で残りは《若き紅蓮術士》or《悪意の大梟》

*12 そもそも霊気池一本ではカウンター擁する【白青フラッシュ】にボコボコにされてしまうため昂揚ギミックをハイブリッドさせたという背景があるのだが

*13 テフェリーが登場しているドミナリア以降のイラストを見れば一目瞭然。長い間旅をしていたのかかなり生えているイラストもある。

*14 クリーチャーをパワー合計が一定になるようタップすることでターン終了時までクリーチャーになるアーティファクト

*15 スタンダード当時は周りのカードパワーの高さに救われて禁止にならなかったが、モダン禁止済

*16 つまり禁止改訂直後から新環境で遊べる

*17 霊気池が上位メタになっていたプロツアー「カラデシュ」にて、【グリクシスコントロール】で優勝したヤソ曰く「霊気池はBYE(不戦勝)みたいなもん」と言われるほど酷い相性だった

*18 だから禁止改訂後も戦えるよという意味

*19 メインデッキでは不利なデッキも存在するがサイドボード後はほとんどのデッキに勝率5割以上を誇る。唯一サイド後も5割を超えない【赤緑《静電気式打撃体》】デッキはそのデッキ自体がピーキーなためそもそもほとんど環境に存在しなかった

*20 基本的に環境末期には最強のデッキでも52~53%に落ち着くのが普通。上記のエネルギー系デッキもだいたいそのくらいだった。

*21 現実には「【ラムナプ・レッド】には強いが【エネルギー】系に弱いデッキ」があったかもしれないのでエネルギー系が弱くなればそれらが出てくるかもしれないものの、あくまで可能性の話である。しかも低い

*22 この当時は黒にはスタンダードでは範囲が狭い《致命的な一押し》くらいしか軽量除去がなかった。むしろ《蓄霊稲妻》や《稲妻の一撃》を擁する赤のほうが除去が強いと言われる始末。そしてこれらのカードはエネルギー系デッキや【ラムナプ・レッド】で採用されていたのだ…

*23 クリーチャーに付随するソーサリーまたはインスタントであり、出来事として唱えた後は追放領域からクリーチャー面を唱えられるようになる

*24 使用率72%、内訳はオムナスアドベンチャー19人、オムナスランプ4人

*25 予め2マナ払って追放領域に移動させると、後にマナコストを軽減して唱えることが出来る能力

*26 手札を1枚ルーティングするか講義カードという専用カードをサイドボードから手札に加える能力

*27 これにはいくつか理由があり、『黒であれば採用しない理由がなく、また複数投入されること』『パイオニアや統率者など他のフォーマットにも採用されることがあること』『そもそもMTGAの存在とコロナ禍によりカードの流通枚数が少ないこと』『神話レアである』など複数の要因が重なった結果である。

*28 次の終了ステップの開始時に、それを生け贄に捧げる。

*29 枚数は23枚。鏡割りの寓話は5人20枚。