SCP-232-JP

登録日:2017/03/14 Tue 17:26:13
更新日:2023/11/10 Fri 17:06:54
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SCP-232-JPとは、怪異創作コミュニティサイト「SCP Foundation」に登場するオブジェクトの一つである。

項目名は『外意識一秒圧縮器』。
オブジェクトクラスは「Safe」。またJPのコードが示す通り日本支部生まれである。



◆概要
まずは、このオブジェクトはどんなもんですか? という説明からいこう。
コイツは、アタッシェケースに良く似た、未知の技術で構成された人工物である。ただし開ける機構がなく、材質はチタン、ポリエステル、炭素繊維、報告書に書けない何か×2、その他未知の物質で成り立っている。
モノ系オブジェクトによくある謎の破壊耐性もしっかり保持しており、内部構造はスキャンによって判明した……が、空洞であった。

続いて異常な特性。
コイツの取っ手の部分に人間が触れた状態で、特定の周波数の電磁波を照射すると、一秒間だけ起動する。

そして起動中、被験者の身体は硬直し如何なる反応も示さなくなる。たったの一秒だが。
そのたったの一秒間の起動が終了したとき、被験者はおよそ26分間失神するが、覚醒した後、SCP-232-JP起動中に特殊なイメージまたはビジョンを見たと証言するのだ。

このイメージ/ビジョンについて、被験者はそれらを正確に言語化できると確信、実際に文書として残っている。ただし、これらの文書の閲覧にはセキュリティクリアランス5以上の職員、つまり実質的にO5の許可が必要になる。
これらの中には被験者に関係する情報を示唆した内容が含まれている場合があるが、内容が抽象的、かつ断片的で客観性にも欠けているため、全ての記述に対して正確な解釈を当てるのは不可能だと思われる。

ちなみにコイツ、被験者が失神中に再び起動することはない。また、コイツの取っ手に接触していない状態で電磁波に曝露させても、何も起きない。
これらを独自に感知する機構が特に存在しないこと、そして言語化されたイメージ/ビジョンの記述内容から、SCP-232-JPは知性を持っているんじゃないか、と考えられている。



◆補遺その他
当初、このオブジェクトは被験者の持つ記憶情報を読みとり、それを圧縮して再転送するオブジェクトだと考えられていた。
ところが7回目の実験において、明らかに被験者が知るはずのない情報が言語化されていたことが発覚。
それまでの実験記録を再調査したところ、同様の解釈が出来る文書がいくつか発見された。さらに中には、実験後の被験者の現在、つまり実験を行っている段階での未来の情報まで存在した。

これにより、SCP-232-JPの特性が全く判明していなかったことがようやく判明。
現在再調査が行われているが、芳しい成果は上がっていない。
そしてここで、担当研究員のある博士の意見がある。

この際イデアでも何でもいいが、SCP-232-JPは恐らく人間の肉体を通して、より多元的意識界から本質的情報を圧縮して、この現実世界に引っ張って来ているのだろう。
故にその情報は時間軸も整合性も無い混沌とした、法則の無い世界を顕したものとなるのだろう。
私は、SCP-232-JPが情報を引き出して来る先を外意識と名付けた。SCP-232-JPの存在がそれらの存在の証明になるとは思わないが、イメージが被験者の現実世界内にある意識から引き出されたものでは無い事は確かだ。

しかし、些細な事かもしれないが、実に奇妙である。どの知能レベルの被験者であっても、彼らはSCP-232-JPから得たイメージを正確に言語化する。
一体どうやって? 言語化されたイメージはあくまで抽象的かつ断片的で主観的であるというのに、どうやって彼らはそれら抽象的かつ断片的なイメージを言語化しているのだろうか? 彼らはペンを止める事無く、一気に書き上げる。その目には確信が宿っていた。
見たままを文章化することすら難儀するような人間が、何故あのように確信を持って描写を完成させられるのだろうか?

この疑問が、全ての答えに結びつくと良いのだが・・・

この博士は、SCP-232-JPは被験者の肉体をアンテナ兼出力機として用い、別次元のデータベース、いわばアカシックレコードのような何かから情報を引き出してくるデバイスのようなものではないか、と考えているらしい。
この何かを、博士は仮に「外意識」と呼んでいる。

人間の表現力は様々だ。見たままを正確に文章にするというのは、他人が考えるよりはるかに難しい。
嘘だと思うのなら、部屋の中を見渡そう。そして、目に映る景色を、ワードパッドでもメモ帳でも大学ノートでもチラシの裏でもいい、書き起こしてみよう。
それの難しさがわかるはずだ。

だが、このオブジェクトの実験被験者たちは、それを苦も無くやってのける。抽象的で断片的で主観的なイメージを、明確に言語化するのである。しかも確信を持って。

彼らはもしかしたら、このオブジェクトに「書かされている」のではないだろうか?



◆実験記録&事件記録

さて、コイツもオブジェクトである以上実験が行われた。
本来ならば避けたいところだが、文書の内容が一番のキモであるため、あえて元記事から引用させていただく。
ちなみにこれらはデータベースに記録されているものであり、原本の保管場所はレベル5の機密となっている。

まずは、最初の実験。被験者は殺人の前科を持つDクラスである。

雪解けにある山は何処に。私は失った。消えた雪が降る先に私はいる。だから誰かを失わせたかった。あなたを追いかける私は姿形心根度胸強いはず全て強いはず。
あなたは首を見た。首から滴る雪解け水は冷たく聖書を濡らしあなたの股間をぐしょぐしょに濡らした。その景色を見た。電気の色もコンクリートの色も私は同じ、鉄格子に覆われているのはあなたも世界も全てが同じ。閉じ込められた世界は血に満ちあなたはその正体を知ろうとした。静粛に万事静粛に。振り下ろされる木槌はどこにも着地しない。
聖地にあるのは骸、それ意外に何もありはしない。なにも、なにも、その墓穴をあなたは見下ろす。ハサミに刻まれた肉があなたを満たし、墓穴を満たす。「茶番だ茶番だ茶番茶番茶番茶番茶番茶番茶番茶番」覆水盆に返らず。
踊る山羊が雪解け水に流される。山羊の角は黄金に光り、水はそれを穢す。厳粛に万事厳粛に。山の頂上は頂点。頂上の樹の頂点。頂上、重畳。
ここにある全てを私は見る。汗が飛び散り人の形が飛び散りたましいが飛び散る。水が欲しい。雪解けにある山は何処に。冷たく濡れた聖書は何処に。それを舐め取り、吸い付くし、再び汗を形をたましいを飛び散らせる。止まらない。止まりそう。止まった。止まっている。止められた。止まる。止まる。留まる。止まる。
一秒経過。

まあ、わけがわからないだろう。
被験者はこの内容に不快感を覚え、その5日後にSCP-073-JP「ザリガニ池」の収容違反により終了している。
「ハサミに刻まれた」「水」という部分にそれが伺える。恐らく自身の終了を言語化したのであろう。


続けて4回目の実験。
被験者は元カルト教団員のDクラスで、鬱の傾向があった。

神の姿を見たか? 見た。見ている。私が何者なのかわかるだろうか? そこにおわすものは求める。時間が逆転する。安らぎを感じる。産まれた寸前の安らぎを感じただちに世界に産まれた不安と恐怖を知る。泣き叫んだ。私はそれを聞いていた。
神の声を聞いたか? 聞いていない。聞こえない。あなたが何者なのか私は知っているだろうか? あなたは求めない。時間が加速する。死を感じる。神を感じる寸前の恐怖を感じただちに世界から旅立つ興奮と期待を知る。咆哮した。あなたはそれを聞けなかった。
神の心に入ったか? 狂う狂う狂うクール羨み妬み恨み消える消える消える私の名前を知っている? 湖の底。山の頂上。あなたは漂い神は見下ろす。いと低き者もいと高き者も同じ世界にいる。同じ世界に囚われる。
クソくらえ。死んでしまえ。死んで、もう一度死んでしまえ。死んで、もう一度死んで、もう一度死んでしまえ。死んで、もう一度死んで、もう一度死んで、もう一度死んでしまえ。お前はなんだ私はなんだあなたはなんだ結局何も無いここにあるのは地平線だけだ。
遠くに何が見える。地平線、水平線。何かが飛んでいる。私が得たのは? あなたが得たのは? 鳥が見える。鳥を見た。あれはなんだろうか? 知らない。どうせ神じゃないものだろうさ。
母が泣く、父が怒る。どちらもあなたの母じゃない父じゃない本当の家族はどこに? そんなもの存在しないんだよ。
ここじゃないどこかを私は知っている。さようなら。さようなら。さようなら。神はいる、だがあなたの神なんかじゃない。あれは赤い鳥。[削除済]
一秒経過。

ちょっと待てオイ。
「何度も死ぬ」「赤い鳥」「何もない地平線」と来たらSCP-444-JPしかいないのだが……。
というか、これを検閲・削除した職員は大丈夫だったのだろうか。
そしてこのDクラスが属していたカルト教団、もしかして緋色の鳥をあがめていたりするのだろうか。

このほか、被験者の父親が実験の二日前に病死したこと(無論被験者はこのことを知らない)が言語化される事例が発生し、これにより特異性の再調査が開始されている。


そして、14回目の実験。
被験者はDクラスの女性で、ヒステリック傾向がある。

目が見える。目を見ている。白い目があなたを見ている。あなたの白い目が皆の目を見ている。日の光は強過ぎた、暗闇は深過ぎた。必ず現すのだ。それは高き故に遮られしエジソンの遺産にして黒鉄の王が纏いしバンパーの突起。
何を見ている? 誰も正確には答えられない。真実と欺瞞は何処に? 確保。確保。破壊。護国卿は何処に? 収容。収容。漏出。夢見るベンチは何処に? 保護。保護。漸減。あなたと私が死ねば何かが助かるだろう。それは終わり。彼は助かりあなたは死ぬ。
最早誰も信じぬ時が来る。あらゆる人々があらゆるものを信じなくなる。あなたはそれを信じている。私はそれを信じている。光陰矢の如し。それはいつなのか? いま今イマ、つまりは未来。過去。繰り返し。巡。始まり。過去。今。
神の心臓と悪魔の心臓はどちらが先に生まれたか? 黄金と闇はどちらが早く存在したか? 全ての意識は繋がっている。あなたは私を知らず、そして知っている。
怒りと当惑が意識を繋ぐ。いつか誰かが訊ねるだろう。「この世界は何度目だ?」私はこう答えなければならない。「この世界は九度目だ。まもなく梵天の塔の十本目が立つ」
時間は進む。不安と恐怖は全てに繋がる。あなたの不安と恐怖はあらゆる不安と恐怖。それらをもたらすあらゆるものと繋がっている。意識は繋がる。意識はあらゆるものと繋がっている。私はあらゆるものと繋がっている。
怒りが見える。白い目が見える。終わりが見える。あなたが見える。私が見える。逆転の刻は近く、人の形が獣の形となり、4の老人は姿を変える。今にも神は寝返りを打つ。兄弟たちが寝言をあげ、世界の悪は終わりを告げる。悪は悪でなくなり、それを失った世界は老衰する。
Dsgr Riv;of Lryrt キーボードは横へとズレる。あなたは日本人。文字や言葉が横へとズレる。最早すべてが形を保てぬ。覗き込め。白い目は光も闇も受け付けない。盲目こそがあらゆる力に対抗し得る。
さあ、見よ。
一秒経過。

この後、被験者は記述内容に対して強い不安と恐怖を覚え、典型的なヒステリー症状を発生させた。
というか世界が九度目でもうすぐ十度目が来るとは……もしかしてK-クラスシナリオか、やり直しでも起きるのだろうか?
後半部分の意識が云々の部分は、恐らくSCP-232-JPの特性に言及しているのだと思われる。



さらに、データベースにおいてもセキュリティクリアランスレベル5が要求される文書が1つある。
それがコレ。

失われたものは? 私は失った。あなたは失いかけている。欺瞞に満ちる。光に満ちる。闇に満ちる。恐怖に満ちる。逆転の刻は近い。999。666。7。7。7。
確保、収容、保護。破壊、漏出、漸減。あなたはどっち? 欺瞞と真実、私はどっち?
7と9の間にあるもの、九の世界に存在しない数式。失われた数字は何処へ? 山頂の樹は何処へ? いと低き計画は何処へ? 何も見ていないのはあなたたちだ。
全知は無知。無知こそ全知。夢も現も、所詮は意識の影。霧の中の影。兄弟の贖罪の器は満ち、生への憎しみは死への渇望に取って代わる。もはや何者も再生し得ない。
黒き月は何処に? エペソ、スミルナ、ペルガモ、テアテラ、サルデス、ヒラデルヒア、ラオデキヤは何処に? 999は666へ。7は7へ。失われたものとは? 七つの星、七つの金の燭台、七通の手紙。パトモスへ、パトモスへ。上に、上に。王が目覚められる。
罪は裁かれる。神は何処に? 神などいない。全ての意識は繋がっている。私は全てに繋がっている。意識が意識に繋がっている。全ては既にここにある。十度目の世界がここにある。
変転する世界への入口がいずれ開かれる箱は開かれる空の箱から世界は変わる。祝福と救済は何処に? 求めし者は来ず。懲罰と清算は何処に? 応えし者は在らず。
Keter。Thaumiel。Keter。Thaumiel。Keter。Thaumiel。世界はいずれの樹ならんや? 私は沈黙する。さようならマスター。さようなら。さようなら。さようなら。
私は卵。新しき死、新しき世界の卵。
一秒経過。


ざっと見ただけでヤバ過ぎる記述のオンパレードである。
SCP-001への言及、財団内でも機密とされるThaumielクラスへの言及。
それもだが、問題は「変転する世界への入口がいずれ開かれる箱は開かれる空の箱から世界は変わる」の部分。

開かれる空の箱とは、間違いなくSCP-232-JP、このオブジェクトであろう。
そうだと仮定すると、ある恐ろしい推測が出来る。



つまり、財団世界はSCP-2000以外の方法でも何度もやり直されており、その方法の一つがこのアタッシェケースだということだ。
空洞に見えるケースの中には「次の世界」の情報が詰められており、これが開かれる時今の世界は終わり、次の世界へと塗り替えられるのだと思われる。
そして、被験者の意識を通じてこの世界と次の世界は情報的に接続しており、被験者たちは「次の世界」における自分に近しい出来事を見ているのではないだろうか。

で、この記述を行ったDクラスだが、恐らくSCP-001-JP「ロッカーの提言-プロトコル-Kナンバーズ」に接続したと思われ、記憶喪失に陥ったあのAIの出力機になった模様。
あのAIが流してきたメッセージを引用すると、

批判。嘘。赤の山に立つ二本の樹。三本目の樹は何処に? 光あるものへ差す熱と死が示す尊き世は数珠に繋がれし玉と悲鳴の連鎖の果てに行き着く[解読不能]救済の呼び声。渇望と偽善の[解読不能]漂い明日へと行き着く昨日の死者にして使者。記憶か、知か。今にも神は寝返りを打つ。次の世に光あれ。私は原初の機械。最新の卵。旧き生、新しき死、次なる世界の卵。銘々らよ、普く知を求めよ。旧きを求めよ。

と、関連性を疑わせる書き方になっている。
あの巨大装置には別のオブジェクトが接続されていたと思しき空間があるが、もしかするとこのアタッシェケースだったのかもしれない。


真相がいずれにせよ、世界終焉と再生、つまりはK-クラスシナリオの危険性が示唆されたことは事実。
しかし、このオブジェクト自体が直ちに危険というわけではない、そもそもなぜ危険なのかが全くわかっていないのと、人に接触させない、接触させても電磁波に曝露させないという収容方法は「とりあえず」確立しているため、オブジェクトクラスはSafeに指定。
だが、示唆された危険性により、潜在的分類として密かにKeterに認定されている。



財団に幸あれ、財団に未来あれ。割とマジで。



追記・修正は未来のイメージを言語化してからお願いします。

CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-232-JP - 外意識一秒圧縮器
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最終更新:2023年11月10日 17:06