SCP-988-JP

登録日:2017/03/10 (金) 12:22:13
更新日:2024/04/12 Fri 16:29:57
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SCP-988-JPとは、怪異創作コミュニティサイト「SCP Foundation」に登場するオブジェクトの一つである。

項目名は『わたしへ』。
オブジェクトクラスは「Safe」。またJPのコードが示す通り日本支部生まれのオブジェクトである。
支部生まれって表現もどうかと思うが。



◆概要
このオブジェクトは、神奈川県のとある工場に存在する高ーいハシゴである。
外観とは裏腹に無制限に上ることが出来る、という異常特性を備えているが、もう一つある種の現実改変能力を備えている。

このハシゴを人間が上ると、上る高さ10mごとに、その人間=被験者が手に入れて一番嬉しかったもののオリジナルと同一の組成のものを根本から半径10m以内の地面に出現させるのである。
その基準は、「被験者の年齢-上った高さ÷10m」の計算式から導き出される。
例えば30歳の被験者が100m昇れば、30-100÷10=20、20歳の時に手に入れて一番嬉しかったものが出現するのである。
繰り返すが、オリジナルそのものではなくオリジナルと同一組成の別物、つまりコピーである。
なお、年齢以上登った場合に何が起こるかについては[編集済み]となっている。

異常な特性は本当にこれだけであり、プロトコルも非常に簡単。
廃工場ごと財団が買い取り、8時間ごとに10人の職員が見回って一般人の立ち入りを防いでいる、というだけである。
また、出現する物品、SCP-988-JP-1は自然消滅することはないため、実験終了後に処分、異常性があれば収容棟に収容、と財団ではごく普通の対処が成されている。


◆実験記録
オブジェクトとしての特性はかなり単純であるため、実験はずばり、Dクラスを実際に上らせてみることで行われた。
44歳で殺人の前科を持つDクラスの男に、位置を記録するための発信機を取り付けて登らせてみた。
結果、次のようなものが出現した。

  1. 10m:肉じゃが(Dクラス職員用の食堂で配給されているものと同一)
  2. 20m:一冊の本(拘留中に被験者の配偶者から支給された書籍と同一)
  3. 30m:モンゴロイドの男性の死体(被験者がかつて殺害した被害者の一人)
  4. 40m:人物写真(被験者が子供と一緒に写っている)
  5. 50m:被験者への感謝の手紙(被験者の子供の筆跡と一致)
  6. 60m:ホールのショートケーキ
  7. 70m:3人の人物が描かれた絵(被験者の家族と考えられる)
  8. 80m:折り紙で作られたチューリップ
  9. 90m:████社製の財布
  10. 100m:モンゴロイドの女児の死体(DNAは被験者の子供のものと一致)
  11. 110m:████████████社製の腕時計
  12. 120m:モンゴロイドの女性の死体(DNAは被験者の配偶者のものと一致。だが当該女性は存命)
  13. 130m:モンゴロイドの女性の死体(上記と同一)
  14. 140m:40万円分の紙幣(当時の被験者が貰ったボーナスの金額と一致)
  15. 150m:█████社製の自動車1台

こんな感じである。
入手して嬉しかったものは生物も含まれるようだが、どうやらこのオブジェクトが出せるのは「モノ」に限られる=生命体は出せないため、死体で代用させているのが実際のところらしい。

ちなみに被験者となったこのDクラスだが、実験終了後に中度の精神疾患を発症。
オブジェクトに認識災害特性があるわけではないため、出てきた物品を見て過去を思い返したのか、あるいは何かしらのトラウマを刺激されたと思われ、アフターケアが検討されている。

この記録をよく読んでいくと、このDクラスが殺人を犯した理由、そして実験でトラウマを刺激された理由が推測できるようになっている。
ポイントとなるのは
  • 30歳までは順風満帆で、31で交際を始めて32で結婚、34の時に娘を授かったが、41の時に複数の人を殺して捕まった。
  • 妻は存命だと書かれているのに、娘には存命だと書かれていない。
  • 自ら殺害した男性が「手に入れて一番嬉しかったもの」として出てきている。
    • これはオブジェクトが「男性」を出そうとして代わりに死体を出したのではなく最初から「男性の死体」を出している、つまりDクラスはこの男性を殺害できたことが嬉しかった、と推測できる。
といったところ。



◆発見された文書
ところでこの工場とハシゴについてだが、実は1974年6月25日に、この工場の工場長が自殺するという事件が発生している。
この工場長はどうやらこのハシゴを上っていたらしいが、なぜ彼は自殺してしまったのか?
それは、財団がこの工場とハシゴを収容した際に、内部で発見した工場長の日記から読み取ることが出来る。

まず、2月24日。
今日は30mまで登ることが出来た。この歳になってもやろうと思えばなんとかなるものだ。そして降りた時に見つけた手紙。これは私の還暦のお祝いに社員たちがくれたものだ。よく覚えている。一度もらったものなのに涙が出てくる。これも歳のせいだな。

この工場長のじいさん、どうやらハシゴの異常特性に気が付いていたらしい。

3月8日。
90mを達成した。あともう少しで3桁に入る。今のところは体もまだなんとかなるしみんながいない夜の間にことを終わらせることができる。しかしこうならなくなる時はどうしようか。まあ、それはその時考えればよいか。大事なのは目標まで登ることなのだから。そして今日見つけたのは財布だ。誕生日に妻がボロボロだからといってプレゼントしてくれたものだ。まあ、これも今はもうボロボロだが。

奥さんにもらった財布が出てきたようだ。
現在持っている方と同じようだが、使い込んでいる辺り相当の家族思いのようだ。

4月12日。
190mにもなると往復でかなりの時間がかかってしまう。もう夜中でやることは無理そうだ。一日中人のいない休日にやろう。頻度は落ちてしまうが仕方がない。それはそうと今回は妻の得意料理であるエビフライを発見した。これが私がもっとも喜んだものであるらしい。まあ、この年はまだ心の傷も癒えていないときではあったのでこういうことなのだろう。美味しかったがソースが欲しかった。

今度はエビフライである。奥さんの得意料理らしい。
ところで「心の傷」という文面と、ハシゴをひたすら上り続けると言う状況から、何かが見えてこないだろうか?
それは、次の記述が物語っている。

6月9日。
ついにあの子がいた時間にたどり着いた。240mまで登れるようになり帰ってきたら私は発見した。1枚の絵だ。そこには私と妻、そして自分が描いてあり皆笑顔であった。そしてあと少しでこの笑顔がまた帰ってくるのだ。私は決意した。次に登る時はどんなに疲れていようと目標の300mまで登りきる。そしてまたあの生活を取り戻す。

工場長はどうやら30年前に生まれた愛娘を、20数年前に事故か病気かで亡くしていたようだ。
そして、このハシゴの特性を何らかの形で知り、実際に上ることで証明してしまった彼は、上り続けることで娘を取り戻そうとしていたらしい。
そして彼はきっと、こう思っただろう。
300mまで登り切り、そして地上に降りれば、在りし日の姿の娘が出迎えてくれると。






……だが、思い出してもらいたい。このオブジェクトの限界は何だっただろうか?





6月15日。記述はたったの一行。


はしごを降りたら娘があった。


SCP-988-JPが呼び出せるのは「モノ」のみ。
工場長を待っていたのは、在りし日の娘の遺体だったのだ。

この後、工場長は身元不明の遺体の火葬を依頼し、25日に自殺。
亡くした娘への愛が深かったがゆえに、それを取り戻せるかもという希望が実際に現れたがために、それが否定された時の絶望は計り知れないものであったのだろう。

財団はあくまで因果関係は不明だとして調査を進めているが……もはや、結論は出ているも同然だろう。


だが、工場長はどうやって、このハシゴの特性を知ったのだろうか?
それとも、実際に上る機会があったのだろうか。



追記・修正はなくしたモノを見つけてからお願いします。


CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-988-JP - わたしへ
by solvex
http://ja.scp-wiki.net/scp-988-jp

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最終更新:2024年04月12日 16:29