新耳袋

登録日:2017/02/25 Sat 20:32:20
更新日:2024/02/21 Wed 20:40:42
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『新耳袋』は、木原浩勝+中山市朗の共著による現代怪談集。
全十巻。(※第○夜とカウント。)

90年に扶桑社より『新・耳・袋 あなたの隣の怖い話』として刊行されたのを初として、怪談好きの間で話題の本となっていた曰く付きの一冊が98年にメディアファクトリーから『新耳袋 - 現代百物語』として、リニューアルされて復刊。
以降、メディアファクトリーと角川文庫よりシリーズ化されて全十巻で完結した。
90年代後半からのジャパニーズホラーブームの中で映像化もされ、実話怪談集の新たな代名詞として『新耳袋』の名前は定着していくことになった。

木原、中山の両氏は『新耳袋』発刊以前よりアニメや映像関連の仕事をする一方で怪異蒐集家、怪談コンサルタントとして活動していたが、それは本シリーズが完結して以降も変わらず、現在でも各々に怪談を語る他のみならず『新耳袋』のコンセプトを引き継いだ怪談集を執筆し続けている。

メディアファクトリー版以降は怪談之怪の同志である作家の京極夏彦による序文が付けられている。

※刊行の記録
  • 扶桑社『新・耳・袋 あなたの隣の怖い話』全一巻 (90年)
  • メディアファクトリー『新耳袋 - 現代百物語』新書版 全十巻 (98~05年)
  • 角川文庫『新耳袋 - 現代百物語』文庫版 全十巻 (02~08年)

【概説】

『新耳袋』と云う、奇妙なタイトルは江戸時代中期の役人で、寛政10年より南町奉行とまでなった根岸鎮衛(ねぎしやすもり)*1が趣味のライフワークとして纏めた怪異集耳袋(みみぶくろ)*2に由来すると、初刊行時に著者自らが解説している。

著者の二人は大阪芸術大学の同窓であり、幼い頃より怪談好きであった木原の話を面白がって聞いていた中山が、語り手の記憶のみでは折角の怪談の細部が変化していったり、欠落する部分も生じてしまうことを勿体ないと感じて記録として残し始めたのが『新耳袋』の始まりであったとされている。
当時の中山のアパートは仲間達の寄り合い場所となっており、其処で三日三晩も木原が怪談を語ったのが二人の作業の発端となったのだろう、とも木原は振り返っている。

ともかくも、自らや身内の体験談から端を発した“怪談”の蒐集は人伝を経て広がってゆき、著者の二人が東と西と分担して全国を飛び回りつつ膨大な怪異譚を蒐集して、文章に出来るものとして取捨選択されたのが『新耳袋』なのだと云う。

所謂、実話怪談と云うと稲川淳二に代表される事件の再現を目指した語り口が本にした場合でも守られていたが、二人はそれを体験談としての体裁をギリギリで保てるラインの本当に重要な箇所以外を省いて文章化。
当時の編集には一冊に百話もの怪談を収録するのは無理だと言われていたものを長くても数ページ程、短いもので僅か数行に収めることで一冊の本による百物語を実現させ、これが『新耳袋』のスタイルとなった。

……因みに、オリジナルとなる扶桑社版では本当に百話分の番号を振っていた為か
実際に読了後に不思議な体験をしたと云う報告が多数寄せられた為に、メディアファクトリー版以降は同じ内容を収録していても九十九話までしかカウントさせず、表向きには百物語として成立させない編集がされている。*3

+ ...
だが、序文にて語られているように、本来百話であるべきものを九十九話としたことで、別の弊害が生まれてしまっている。
百話目をもって閉じられるべき物語が、一話欠けることで、いわば「未完」の状態となってしまった(序文曰く「入口はあっても出口はない」)。
語られるはずだった百話目を補完するのは、他ならぬあなたかもしれない

【各巻の傾向】

■第一夜

90年の扶桑社版からリニューアルされた最初の『新耳袋』であり、著者自らの体験談や、彼等の親類や友人達から聞いた話が多い。
前述のように扶桑社版では百話で収録されていたものが、メディアファクトリー版以降は九十九話となっているが内容的に削られた部分は無い。
西日本に伝わる“くだん”の話題は中山氏のライフワークの一つである。

■第二夜

八年を経て遂に発売された待望の続巻。
第一夜のコンセプトを踏襲しつつ、多数の取材により著者が得た怪談が多くを占める様になった。

■第三夜

前巻からの傾向を引き継ぎつつ、映像に残された怪異として“生き人形”や、多くの人々の記憶に残る連続幼女誘拐殺害事件に纏わる“たちけて”の話題が語られる。

■第四夜

扶桑社版の後書きにて“公にしてしまうと、著者の身があぶないと思われるものも除外してある”とまで語っていた話題の一つである、シリーズ最大の問題作“山の牧場”が公開。
黒い男たちの話題すら枕詞に使われる現代怪談最大の問題作と、大事な部分を省いてもなお怖いとされる“八甲田山”までもが収録された最凶の一冊。

■第五夜

著者自ら“原点回帰”をテーマとした折り返しの巻。
第一夜に収録された作者達の体験談から二十年を経た後輩達の怪談の他、不動産業者が明かす“ブラックリスト”の話題に始まる“建物”の話や“戦争”の話を収録。

■第六夜

矢張り『新耳袋』により知られるようになった現代怪談の代表作の一つである“京都の幽霊マンション”に纏わる話が最終章に収録。
今巻の漢字一文字でカテゴライズされた最終章前の怪談を枕詞とする現代版稲生物怪録の怪異の記録。

■第七夜

前巻に引き続き漢字一文字でカテゴライズされた……しかし、作者本人の仕掛けによる奇妙な章立ての最後に待ち受けるのは、ある女性の奇縁による遭遇が呼び寄せた“Nさん”に纏わる怪異の記録。*4

■第八夜

作者達の行っていた怪談会に纏わる話の後に続くは“外”と“内”として分けられた、怪異との遭遇の記録……。

■第九夜

様々な漢字の“き”に纏わる章を受けての最終章は、ある迎賓館の移転に纏わる、多くの人々を巻き込んだ“記”の物語。
I課長こと、現在は怪異との出会いを経てルポライター、怪談蒐集家として活躍する西浦和也氏が明かす傑作怪談。

■第十夜

遂に、扶桑社版の刊行から十五年を経て到達した『新耳袋』最終章にして、今なお広がりを見せる現代怪談の語り部達の活躍を告げる始まりの書。
章立てをせずに“百物語”として記されるた九十九の怪異の最後に待ち受けるのは……。
メディアファクトリー版はデザインにも注目。
現代百物語、一先ずここに完結!

【関連映像作品】

  • 日本テレビ 怖い日曜日(99年)
ジャニーズアイドルが出演していた30分枠の再現ドラマ。
『新耳袋』関連のドラマ化としては初となる。

  • TBS系BSデジタル放送BS-i(BS-TBS) 怪談新耳袋(03年~10年)
五分枠のショートフィルムとしてスタートした後に、劇場版やスペシャルとして一時間枠のドラマが制作された。
制作は日本を代表する気鋭の監督達が手掛けており、原作ファンからは不評もあるが、面白い作品も多い。
ショートフィルムの方は原作に倣い九十九話への到達を目標としており、06年の第五シリーズにて達成したが、以降も『怪談新耳袋』を冠する作品が登場している。

  • 『怪談新耳袋 殴り込み!』(08~13年)
DVD(ビデオ)作品として発売された、作者も巻き込んだ取材記者や業界人による素人バラエティー企画。
カルトな人気を誇り劇場公開もされた。
“怖い”として語られる『新耳袋』や有名心霊スポットに突撃して、実地調査&除霊や実験と称した悪フザケをすると云う、オッサン達が身体を張って危険に挑む戦いの記録である。
内容その物はおフザケだが、後日談として洒落にならないような話が語られるのもお約束である。
メイン出演者である『映画秘宝』の名物ライターであるギンティ小林による書籍版も上梓されている。



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最終更新:2024年02月21日 20:40

*1 ※根岸九郎左衛門鎮衛。鎮衛は“やすもり”と“しずもり”の読みが振られている。

*2 ※『耳嚢』の表記もある。内容は鎮衛が役人として働きながら耳に入れた不思議な事件や噂話を纏めたもので所謂“怪談”のみに限らないのが特徴。人々が不思議と云いつつも、怪しい光=水面の反射である…等。正体が解るものについては考察が入れられていたりもする。

*3 ※リニューアルに際して作者本人から扶桑社版を読んだことによる体験談が紹介されたことで扶桑社版はある種のバイブルと化してしまった。また、第八夜では“『新耳袋』にまつわる話”として体験談が収録されている。

*4 ※ここでは、ある理由からイニシャルのみとさせていただきます。