フランケンシュタイン(1931年の映画)

登録日:2017/02/22(水) 15:40:09
更新日:2023/10/06 Fri 23:57:39
所要時間:約 10 分で読めます





みなさんこんにちは。

カール・レムリが世にも恐ろしい映画を作りました。

フランケンシュタインのお話です。

自らの手で人間を創造しようとした、神を忘れた科学者が登場します。

世にも奇妙な物語です。彼は生と死という、人間の神秘を追及しようとしたのです。

ぞっとするような、恐ろしい場面が登場します。

どうぞ心臓の弱い方は今のうちにご退出をお勧めします。










フランケンシュタイン』は、1931年に製作されたアメリカのホラー映画である。モノクロ71分。
世界中で大ヒットし、後発の人造人間を取り扱った作品に多大なる影響を与えた。
この映画に登場する「怪物」は、現在でもゴジラキングコング狼男ミイラ男ドラキュラと並び、映画史上最も有名なモンスターの1つだろう。


【概要】


1931年にベラ・ルゴシ主演の『魔人ドラキュラ』を大ヒットさせたユニヴァーサル映画は、ホラーシリーズ第2弾として、メアリー・シェリーによるゴシック小説の古典名作『フランケンシュタイン』の映画化を企画した。
映画のベースになったのは1927年にハミルトン・ディーン主演・演出による舞台化作品だが、結果としてそれをはるかにしのぐ出来栄えの作品となった。
なお、監督には当初ロバート・フローリーを予定しており、彼に原案も考案してもらっていたが、直前になってジェームズ・ホエールに変更された。理由は書類さえ残っておらず不明。

演出面では、当時大流行していた『カリガリ博士』『吸血鬼ノスフェラトゥ』『巨人ゴーレム』といったドイツ表現主義映画の影響をかなり受けているらしい。
実際今の目で観直すと、本作の怪物と『カリガリ博士』に登場する眠り男チェーザレは、「ぎこちない歩き、精神薄弱の化け物」といった特徴がよく似ている。

26万ドルの製作費に対し、公開後はその10倍以上である1200万ドルの興行収入を記録。
以降『フランケンシュタインの花嫁』を始め7作の続編が作られた他、リメイク作品も多数公開された(イギリスのハマーフィルムプロダクションによるシリーズや、日本の東宝が制作した怪獣映画が有名)。その数は優に30作を下らないと言われ、現在も増え続けている。
そして2020年現在、新しいリメイク企画*1が進行中で、オファーが『パシフィック・リム』でお馴染みギレルモ・デル・トロ監督などに行っているという。

ちなみに『フランケンシュタイン』を原作とした作品は、本作以前にもトーマス・P・クックが演じた舞台(1823年)や、エジソン社が制作したサイレント映画(1910年)などがあったが、それらのイメージはほぼ全て本作のデザインに取って代わられている。


【あらすじ】


※以下ネタバレ注意

生命創造の野望に取りつかれた医大生ヘンリー・フランケンシュタインは、助手のフリッツと共に墓場から夜な夜な死体を盗み出し、「怪物」を作り上げていく。
途中で友人のヴィクターや恩師のウォルドマン教授、婚約者のエリザベスに計画が露見するが、ヘンリーは構わずに実験を続け、嵐の夜の落雷を利用して「怪物」に生命を吹き込むことに成功する。

しかし、フリッツのミスで犯罪者のが埋め込まれてしまった怪物は、その後彼やヴォルドマンを殺して脱走。更には村で出会った1人の少女も死なせてしまう。
少女の父親の通報を受けた市長は、村人と共に怪物の討伐へ乗り出す。
エリザベスにも手をかけたことでヘンリーの怒りを買った怪物は、暴徒と化した村人とヘンリーの手で古い風車小屋に追い詰められた後、燃え盛る小屋の崩落に巻き込まれて行方不明になるのだった……。


【登場人物】


◆ヘンリー・フランケンシュタイン
演:コリン・クライヴ

本作の主人公。若き医学生で、生命を創造するという野望に取りつかれている。
序盤ははっきり言ってマジキチで思いあがっており、人の意見を全く聞かなかったが、途中から理性を取り戻していく(とは言え、怪物の脱走を知っても自分の結婚式の心配ばかりしているなど、自己中心的な部分は変わっていない)。
クライマックスで燃え盛る風車小屋から転落したが、奇跡的に生還する(続編で判明)。
ぶっちゃけすべての元凶といえるが、彼もこうなるとは予想外だった模様。

なお、演じたクライヴは重度のアルコール依存症のせいで早世してしまった。

◆フリッツ
演:ドワイト・フライ

ヘンリーの助手の背むし男*2
研究所から脳を盗む際、ヘマをして犯罪者のそれを持ち去ってしまい、怪物が狂暴化する原因を作った。
このことさえ無ければ、怪物は恐らくヘンリーの予想通りの人造人間になったと思われる。
最期は怪物を虐待している最中、反撃を食らって死亡するという自業自得の末路を遂げた。

◆エリザベス
演:メイ・クラーク

ヘンリーの婚約者。心優しい女性で彼のことを案じている。
自宅に侵入してきた怪物に襲われて失神してしまった。

◆ウォルドマン教授
演:エドワード・ヴァン・スローン

ヘンリーの恩師。怪物の危険性を見抜き、ヘンリーに怪物を始末するよう進言するも、怪物に処置を施そうとして反撃され死亡。

スローンはユニヴァーサル映画の常連俳優で、『魔人ドラキュラ』のヘルシング教授役でも知られる。

◆ヴィクター・モーリッツ
演:ジョン・ボリス

ヘンリーの友人。彼のことを心配して実験を止めに来た。
終盤では怪物が脱走したことをヘンリーたちに伝える。

◆市長
演:ライオネル・ベルモア

ヘンリーが暮らす地域の統括者。フルネームは不明。
逃げた怪物の討伐を宣言し、自身も捜索に加わる。

◆マリア
演:マリリン・ハリス

逃亡中の怪物が出会った幼女
怪物と川で花を浮かべて遊んでいたが、狂暴化した怪物に川に投げ込まれ*3、溺死してしまう。
今の目で見ても結構かわいいのと、惨劇前の怪物の笑顔がいい意味で印象に残るので、このシーンを見た後は非常にやるせない気分になる。
怪物役のカーロフもこのシーンを入れることには反対したというが、監督に「怪物の悲劇性を強調するため必要だ」と言われ了解したらしい。

なお、演じたマリリン(当時7歳)は本作の怪物が大好きだったとか。また続編にも別役で出演している。

◆怪物
演:ボリス・カーロフ*4

ヘンリーの「被造物」。もともとは完全な人間を作る予定だったが、フリッツの不手際で狂暴化してしまった。
根は子供のように優しく純粋だが、脳のせいで時たま暴走してしまう。また言葉はしゃべれず、フガフガウガウガ言うだけである。
クライマックスで風車小屋に追い込まれ、炎に包まれて行方不明となったが……?


【本作の怪物について】


本作に登場する怪物の 「眉が厚く顔面が四角く面長で、平らな頭部に広くせり出した額、さらに首からボルトが飛び出している」 というデザインはあまりにも有名である。
後発の作品では『怪物くん』のフランケンや、『ヴァンパイアセイヴァー』のビクトル・フォン・ゲルデンハイム、『ドラゴンボール』のハッチャンなどにも改変されて使われているので、「映画本編を観たことはないがビジュアルだけは知っている」という方も多いのではないだろうか。

このデザインの考案者はよくわかっていないが、ホエール監督かメイク担当のジャック・P・ピアースであるという説が有力。
彼ら曰く 「頭が平らなのは脳を取り出しやすくするため」 で、特徴的な四角い顔はエジソン版『フランケンシュタイン』(1910)からヒントを得たという。

演じたのは当時無声・トーキー合わせて80作品以上に出演していた英国人俳優ボリス・カーロフ。レストランでランチを食べていた時に、偶然居合わせたホエール監督がカーロフの顔面骨格に惚れ込みオファーした。

当時は特殊メイクの技術が未発達で、ピアースは手に入る物をうまく使いながらカーロフの顔をメイクした。記録によれば、メイクとその除去に何と片道4時間もかかったらしい。またコロジオンという薬品を使ったため非常に臭かった模様。
撮影も時には24時間に及ぶほど過酷だったためカーロフは撮影中に腰を痛めてしまい、手術しても一生治らない障害が残ってしまったという。
だがその苦労に見合っただけの成果もあり、カーロフは本作や後の『ミイラ再生』の成功を経て、 「20世紀最高のホラー映画スター」 と呼ばれるようになっていくのだった。

怪物役はもともと、『魔人ドラキュラ』でドラキュラ伯爵を演じたベラ・ルゴシになるはずだった。当時のポスターには彼の名前がクレジットされているものがあるが、これはその名残である。
しかし、ルゴシがセリフの無い役を嫌がったことと、いざメイクされた怪物が『巨人ゴーレム』に登場するゴーレムにしか見えなかったことから没になってしまった。
これは後の目で見れば結果オーライだったかもしれない。ルゴシは後年『フランケンシュタインと狼男』(1943)で怪物を演じることになるが、どうにもミスマッチとしか言えない出来なのである*5

いずれにせよ本作のヒット以降、後発のフランケンシュタイン作品は本作から何かしらの影響を受けているものが多い。
また怪物と博士を混同して 「フランケンシュタイン」 と呼ぶことも本作以降増加した。

その影響力の大きさは、ユニヴァーサル映画がデザインを商標登録しているところからも窺い知れるだろう。


【余談】


  • 本記事の冒頭に掲載したオープニング前の警告は、当時世界恐慌で心理的・肉体的に大ダメージを負っていた観客への配慮だったらしい。ちなみにこの文中に出てくる「カール・レムリ」は本作のプロデューサーにして、当時のユニヴァーサル映画の社長。

  • フランちゃんや『エンバーミング』でも改変モチーフが見られる 「雷によって怪物に命が吹き込まれる」 シーンはシェリーの原作には存在しておらず*6、本作が初出である。


  • 後に『怪物くん』でフランケンを描くことになる藤子不二雄A氏も本作の大ファンであり、子供時代はよく怪物の絵を描いたという。氏曰く「どうせ海外の怪物だし日本に攻めてくるはずないと思っていた」とのこと(『コロコロ伝説』のインタビューより)。






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最終更新:2023年10月06日 23:57

*1 正確には、続編である『フランケンシュタインの花嫁』のリメイク。

*2 背骨が曲がっていること。差別用語なので現代では使わない方が無難。

*3 劇中の描写はやや曖昧で、(無知ゆえに)「花と一緒に彼女も浮かべて遊ぼう」と考えて投げ込んだ可能性もある。

*4 OPクレジットでは、「?」と表記されている。

*5 もっとも、これは撮影当時のルゴシが老齢であったためとも言われており、オリジナルの『フランケンシュタイン』当時であればもっと迫力のある怪物を演じる事ができたのかもしれないが。

*6 原作では近所の落雷から幼少期のフランケンシュタイン(製作者)が科学に興味を持って勉強を始めるので、ある意味では「怪物誕生のきっかけ」だが、実際の人造人間完成場面では雨は降っているものの雷の描写はなく、起動時に何か機械を使ってはいるが、電気機械かは不明で淡々と目覚めている。また外見も「工作精度の限界でサイズが大きい以外は美しくできているが、なぜか耐えがたく不気味に感じる」というもので、内面も知的で自らの境遇を嘆いていたり色々と印象が異なる。