マーラ(悪魔)

登録日:2017/02/18 Sat 22:32:18
更新日:2023/07/18 Tue 13:22:57
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■マーラ


マーラ(Māra)は、仏教説話に於て、菩提樹の下で瞑想する釈尊成道を阻むべく出現したとされる魔王であり「魔」その物。*1
マーラとは「死」の意。
正式にはマーラ・パーピーヤス(Māra Pāpīyās)と呼ぶとされ、漢訳では魔羅、天魔波旬、波旬、魔、悪魔、魔神、天子魔、他化自在天、第六天魔王……等と訳されている。
パーピーヤスとは「~より悪しき者」の意である。
漢字圏での波旬(はじゅん)とは梵語のパーピーヤス、或いは巴語のパーピーマント(Pāpīmant)の音写であり、仏教ではそのまま「悪魔」の意として用いられる。
尚、釈尊の邪魔をしに顕れた魔王の名はマーラ(死神)の他にもナムチ(悪魔)、ヤクシャ(夜叉)等とも記されていたと云う。

また、密教に於ける十二天の一つである伊舎那天とは、他化自在天の主であることから、この天魔のことだと云う。
伊舎那天は、他化自在天の字面の共通や、恐ろしい姿をしているから大自在天(シヴァ)の異名と言われることもあるが、それは誤りであるとのこと。
一方、仏教の影響を受けて編纂された古事記に於ける国生み神話を成した夫婦神で、冥界神話にも関わるイザナギイザナミの名は伊舎那天の梵名に由来し、ある説ではイザナギ即ち天魔波旬のことなりとする記述もある。流石はチ◯コ×マ◯コで何でも作った奴等だぜ。

インド神話の愛の神カーマとは原型的に近しい存在らしく、カーマ・マーラと云う呼び名もある。*2
インド神話ではマーラ(破壊者)はカーマの異名であるとして伝えられており、それが仏教での魔王の名として取り入れられたのだとも考えられている。
マーラの名はインド神話での悪魔=アスラの名鑑には無く、実際に初期仏典によればマーラは神=ディーヴァの一つであると云う。
また、某ゲームでの御立派様からも解るように、日本では仏教修行の完成を妨げる煩悩の大元(エレクチオン)として、魔羅が男性器の隠語となってしまっていることからイメージが沸かないが、原型的には「死」や「愛」を司る女神であったともされる。

【解説】

仏教ではインド~漢語圏を経て伝わってくる中で、様々な世界の分け方と云うものが存在している。
良く知られたものに六道輪廻(天・人・修羅・畜生・餓鬼・地獄)に四聖(仏・菩薩・縁覚・声聞)を加えた十界があるが、
この他の呼び方として、この六道輪廻による魂の循環の段階を物質や煩悩との結びつきに当て嵌めた三界(無色・色・欲)と云う呼び方がある。*3

これらの世界の正式な呼び方は非常に細やかに決められているのだが、要は物質に近い方が下等で、物質から遠く純粋な方が高等と云うお馴染みの理論が仏教にもあるのだな、と云う程度の事である。

この内、最も下層の欲界には人間界や八大地獄ばかりか、天界の下層部である六欲天(他化自在天・化楽天・兜率天・夜摩天・忉利天・四天天)までもが含まれるのだが、この内の最高位にある他化自在天(たけじざいてん)の主こそがマーラ・パーピーヤス……即ち第六天魔王波旬なのである。

この事からも解るように、マーラ・パーピーヤスとはキリスト教で云うところの西洋的な悪魔とは違い、堕天した天使とも零落した神とも違う、歴としたの一つだと云うことになり、それ故に天魔と呼び顕されるのである。

キリスト教の「魔」とは「」の理念の世界の敵対者と云う意味合いがあるが、仏教で云うところの「魔」とは純粋な「悪」であり、即ち煩悩、色欲、執着……と云った魂を解脱から遠ざけ、輪廻に留まらせるものその物である。

死を司るマーラにとっては、そうした永遠の輪廻の中で魂が彷徨い続ける中で積み重ねられた煩悩こそが力の源であり、それ故に輪廻を巡る原因となる「迷い」を取り除き、解脱の方法を見出だした釈尊の成道の邪魔に顕れたのである。


【釈尊との対決】

釈尊が菩提樹の下で真理を悟るまでの不動の禅定に入ると同時に、魔王の居城は偉大なる尊者の誕生を前に激しく揺れたと云う。
これに焦った魔王は絶世の美女の姿をした堕落の化身たる三人の娘、タンハー(渇愛)、ラーガ(快楽)、アラティ(嫌悪)を地上に使わせた。
彼女達は、瞬時に男の欲望を掻き立てて虜にしてしまえる力を持っていたが、釈尊はこの肉食系女子に対して「お前達は汚れた雑草のようだ、不浄なものが醜く腐って積み重なった便所の様だ」と、無表情に凄まじいdisりをかまして退散させた。ビッチを便所とかマジひどい。

自慢の娘達が泣き帰ってくると魔王は自ら軍勢を率いて釈尊の前に立った。

しかし、釈尊は全く動ぜずに魔王の軍勢の正体が欲望、嫌悪、飢渇、盲執、怠惰、恐怖、疑惑、虚勢、傲慢の九つの軍勢からなる事を見抜くと死を賭して戦うことを宣言した。

これに怒り心頭に達した魔王は岩の雨、刃の雨、泥の雨、火の雨を降らせ、醜い化け物をけしかけ、闇の奥底に閉じ込めた。
恐るべき魔王の攻撃は世界を粉々に打ち砕くかと思われる程のものであったが……。

釈尊は魔王の攻撃の凡てが所詮は実体の無い幻であると見抜いていたので、如何なる責め苦も通じずに魔王は真理の力の前に退散せざるを得なかった。

この、釈尊が魔王を降したことを降魔(ごうま)と呼び、インド等で多く見られる地上に触れる釈尊像の印相である触地印(そくちいん)は降魔の印であるとして伝えられている。

【その他】

日本では仏教が伝わって以降、朝廷に仇なした政敵や仏門に逆らった相手を天魔波旬に倣った名前で呼び糾弾することがあった。
多くは勝利した側が自らの正当性をアピールする為のマスコントロールなのだが、中には仏門の増上慢を戒める為に本願寺派を討った織田信長の様に、自ら第六天魔王と名乗ったダークヒーローも居る。*4

※呼ばれた人物(神)の纏め。
※○の付いた人物は自ら名乗った者。
安日長髄彦
葦原高丸
安倍広庭○
平将門
蘇我入鹿
後醍醐天皇○
足利尊氏
足利義教
細川政元
織田信長○

古事記にも呼び名が登場してくるのは、古事記、日本書紀自体が仏教伝来の影響で纏められた書物であるからである。
更に、神武天皇と戦った長髄彦が「織田」や「伊達」「安倍」「安東」の祖ともされている。



マーラを元にしたキャラクター

メガテンシリーズ

本家のマーラをろくに知らない人でも知っているであろう、アトラスが誇るゲームシリーズ「女神転生」に登場する魔王。
多分スタッフに一番愛されている悪魔。なぜか「マーラ様」と様付けで呼ばれる。
ギンギンにエレクトした逸物に口と触手がついているという、薄い本で大活躍しそうな容姿が特徴。
…ごめん。嘘をついた。むしろこいつは特徴しかない。
当初から専用の思考パターンが与えられていたり先端から白くてぬらぬらしたものを発射するスキルを所持していたり、と出てくるたびに異様な存在感を放っている。
IV Finalではフルボイスで精子とか言い放った(表記上は「精気」)。そのシーンはモノローグも特殊であるが、残念ながら同行している女性陣のセリフはない。
たまにフニャチンヤローだったりもするが、それはそれで結構面倒という魔王の鑑。


マーラ(聖☆おにいさん

半人半蛇で上半身裸、頭に王冠のようなものを被っている。そしてコミュ障。
とても繊細で傷つきやすく、度々表れては何気ない一言で凍りつき、勝手に退散する。
かつてブッダの修行中に表れ、必死で入滅させようと勧誘した挙げ句ブッダが悟るのを助けてしまったという過去がある。


追記修正は御釈迦様の邪魔をしてからお願い致します。

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最終更新:2023年07月18日 13:22

*1 ※元々の当て字は「摩」であったが、梁の武帝蕭衍(しょうえん)が「魔」と改めたのだと伝わる。

*2 ※愛欲を掻き立てる弓を持つインド版キューピッド。カーマ自身にも理由があったとは云えシヴァ神の修行の邪魔をしたことで滅ぼされてしまうと云う神話がある。

*3 ※仏教では他に三千大世界の略語や、過去・現在・未来を纏めても「三界」と称することもあるので中々にややこしい。

*4 ※寺を焼くなんてヒドイ!とネガキャンされたりもしていたが本願寺派は一向一揆の黒幕であり、当時の仏門の堕落と武装集団と化した生臭坊主共の増長は若き信長にとって看過出来ないものだったのである。また、焼いたといっても実は伝えられていたよりは遥かに小規模だったことが近代に入り明らかになってもいる。