鳴き声の流用(特撮)

登録日:2017/02/15 (水) 00:07:00
更新日:2023/08/31 Thu 23:40:30
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本項では、映画や特撮番組に登場した怪獣の鳴き声が、別の怪獣等に使われた例を紹介する。

特撮ファンの間では、度々着ぐるみの改造・流用が話題になるが、忘れてはならないのが怪獣の鳴き声の流用である。

言うまでもないが悲しい事に我々の世界には怪獣はいない。よって怪獣の鳴き声が欲しくても、怪獣を捕まえてきてその鳴き声を録音する事はできない。
したがって、特撮スタッフは身近にある物の中から、知恵と工夫とイマジネーションを働かせて未知の生物の鳴き声を創造しなければならない。

例えばゴジラの鳴き声はコントラバスの弦を特殊な方法で弾いて作られ、
ガメラの声は「セメントがこびりついた鉄板の上に下駄で滑り込んだ音」を加工し、
ウルトラマンの声は徹夜で役者に様々な掛け声を叫ばせた末に、喉が枯れた状態で叫んだ声がちょうどよいとして採用された。

これはたいへんに手間も予算もかかる作業であり、
週1回のハイペースで放送される特撮番組では全ての怪獣にまったく新たな鳴き声を充てるのは不可能と言って良い。

そこで役立つのが鳴き声のリサイクルである。
すでにある怪獣の鳴き声をそのまま流用すれば、上記のような手間は一切かからない。
さらに既存の鳴き声に早回しや遅回し、ひいては逆再生やニコイチといった加工を加えたりする事で、
最低限の時間で新たな鳴き声を生み出すこともできる。

最近のウルトラシリーズでは再登場怪獣の出番が多いのと、
怪獣の鳴き声が鳴る玩具が登場していることからか、あからさまな流用は少なく新規も多め。


このほか、怪獣の鳴き声は特撮に限らず、アニメに流用されることもある。
アニメでの使用例は鳴き声の流用(アニメ)を参照されたし。

全てを載せるとキリがないのでまずは有名どころからご紹介したい。
また、「合体怪獣なので素材の怪獣の鳴き声が混ざっている」というケースも今回は紹介しない。(ファイブキングゼッパンドンなど)


昭和ウルトラシリーズ


ウルトラマン』の記念すべき第一話に登場した怪獣ベムラー。
鳴き声はゴジラの鳴き声を早回し・逆再生したものを利用している。
文字にすると一見、ただのコントラバスの音に戻りそうにも思えるが、様々な編集過程を経ているため、ベムラーのあの独特の鳴き声になる。
またどういうわけかケットル星人の巨大化時の声にも使われている。

ゴジラの着ぐるみを改造した事で有名なジラースは鳴き声もゴジラのアレンジである。
そのまんまじゃんというツッコミは禁句である。
なお、レオの宇宙人の中で一、二位を争う外道であろうアトランタ星人の声にも流用されている。
こっちじゃないよ。


ウルトラシリーズの顔として酒場の経営やお子様とのジャンケン大会などに忙しく飛び回るバルタン星人。

彼らはフォッフォッフォッと笑う事で有名だが、
実はコレは1963年の特撮ホラー映画『マタンゴ』に登場する怪物・マタンゴの発する笑い声の流用である。
なおバルタン星人の前にケムール人、後にフリップ星人にも同じ笑い声が流用されており、
ウルトラシリーズにはフォフォフォ笑いをする宇宙人が3種類も登場した事になる。
特に後者は分身能力も持つため、バルタン星人に近い一族なのではないか?とウルトラ怪獣大百科などでは紹介されていた。


マタンゴにはもう1つ、キャハハハハハハ!、またはアヒャヒャヒャヒャヒャ!と聞こえる甲高い笑い声がある。
これは『ウルトラQ』の悪魔ッ子リリーの笑い声に流用され、
その後『ウルトラセブン』ではペロリンガ星人、『ウルトラマンA』の24話に登場した妖女の声に流用されている。


「ギャオー!」というとても怪獣らしい、悪く言えば没個性的な高めの叫び声である。
アギラはそのまま。アントラーは早回し、ベロクロンやガゾートはアレンジが加えられているが、いずれも元はラドンの鳴き声である。
よほど使い勝手が良かったらしく、『ジャンボーグA』やら『恐竜大戦争アイゼンボーグ』やら平成ゴジラシリーズやらでさんざん使いまわされた上、
2006年の『ウルトラマンメビウス』でなお円盤生物ロベルガーの鳴き声に使用された。


そのラドンの声とゴジラの声という大変豪華な融合素材によって作られたバランの鳴き声は次にバラゴンの鳴き声に流用。
たいへん「怪獣らしい」鳴き声で極めて使い勝手が良かったらしく、実に50体近い怪獣に使いまわされている。

ウルトラシリーズだけでも、ナメゴンペギラパゴス(ウルトラQ)、ネロンガアボラス、ラゴン(マン)、アロン、ガブラ(セブン)、プルーマ(帰マン)などなど。
果てはゴジラシリーズに逆輸入されて『ゴジラ対メガロ』のメガロ、2003年の『爆竜戦隊アバレンジャー』の爆竜スティラコサウルス、2004年の『幻星神ジャスティライザー』などで使用されていた。


グリーンモンスが発していた「オォォオオオオオォォォォォォ…」という声はフランケンシュタインの声をスロー再生したもの。
『パワード』ではその外見からオリジナルのままでは似合わないという判断からかパワードジャミラの鳴き声に流用されている。


  • フランケンシュタイン→ヤプール老人(『ウルトラマンA』第23話)
『ウルトラマンA』第23話で子供達を洗脳していた謎の老人が北斗に詰め寄られた際、猿のような顔の獣人の姿になり
「キェェェェェェェェ!!」という奇声を出しながら口からを吐いて北斗に攻撃するシーンがあるが
この時使われている声はフランケンシュタインの奇声である。


  • ガイラ(パターンA)→レッドキング(『ウルトラマン』第8話)
  • ガイラ(パターンB)→ゴモラ(『ウルトラマン』第26・27話)
ウルトラシリーズ屈指の人気怪獣・レッドキングの鳴き声は、映画『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』に登場したガイラの鳴き声の流用。
善玉怪獣としての扱いが増え人気上昇中のゴモラの鳴き声は、ガイラのもう一つの鳴き声のアレンジである。
こちらもラドン同様、多数の怪獣に使いまわされた。


空の大怪獣ラドンに登場した巨大なヤゴであるメガヌロンが発していた「キュピキュピキュピ…」という音は、
『ウルトラマン』の第16話で登場したバルタン星人二代目の分裂した姿であるミニバルタンの声に流用されているが、
群れていてなおかつこの声なので気持ち悪いという声も。
その後『セブン』ではチブル星人や40話でセブンの復活にパニクったガッツ星人の声に流用されている。


メフィラス星人って鳴き声出してたっけ?と思う方も多いだろう。
実はウリンガの発する「フンアー!」という掛け声の元祖は初代メフィラス星人が発していた掛け声。
ここまでで何となく気づいた方も多いと思われるが、『レオ』の怪獣は予算不足のためかやたらと鳴き声の流用が多い。


当時のちびっ子たちがトラウマになったであろうミイラ人間が発していた「ウォォォォォォォウゥゥゥ…」という不気味な声は
『帰ってきたウルトラマン』屈指の強豪怪獣であるブラックキングに、『ウルトラマンA』で巨大ヤプールが戦闘時発していた唸り声に、
さらに『80』でもガルタン大王の唸り声に同じく流用されている。


ゼットンがピポポポポ…という電子音に交えてたまに発する「ゼットン…」という声は、飼い主(?)であるゼットン星人がマルス133を受け、今際の際に上げた断末魔の叫びをそのまま使ったものである。
同話でゼットン星人が上記の断末魔の叫びを上げたすぐ後にゼットンが登場しているため音源が同じであることが確認できる。
また、鳴き声ではないが、ウルトラマンが使ったキャッチリングの効果音もゼットンのバリアーの効果音に流用されている。


『ウルトラセブン』の代表怪獣であるエレキングの甲高い鳴き声は、映画『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』に登場したカマキラスの鳴き声を使っている。
ただし『ゴジラの息子』の公開は1967年12月、『ウルトラセブン』第3話の放送は同年10月なので、一般公開されたのはエレキングの方が先になる。


『ウルトラマン80』に登場したデビロンの鳥のような鳴き声は、アイロス星人とバードンの鳴き声を足して作られたもの。
よーく聴くと最初の「ピギャアアアア!」という声がアイロス星人、最後の「キュオオオン!」という部分がバードンの声である事が確認できる。
宇宙鳥人と火山怪鳥の鳴き声をくっつけたので鳥っぽいのも納得だ。


  • テペト→タッコング(『帰ってきたウルトラマン』第1話)→再生エレキング(『ウルトラマンタロウ』第28話)
テペトの鳴き声は実在生物の鳴き声を加工して作られたというなかなか珍しいもので、その素材はなんと豚の鳴き声。
実際に養豚場へ行って録音したのだが、気に入った鳴き声をなかなか出してくれず、相当苦労したようだ。
苦労して作った鳴き声はその後『帰マン』のタッコングに流用されたのを皮切りに『タロウ』の再生エレキングに流用。
このエレキングは『セブン』に登場したエレキングと同一個体が再生したという設定なのに、なぜか鳴き声まで別人に。
このように、昭和シリーズでは再生怪獣や2代目の鳴き声が初代とぜんぜん違うことが頻繁にある。


  • タッコング(NG版)→オイルドリンカー(『ウルトラマンタロウ』第1話)→アクマニヤ星人(『ウルトラマンレオ』第33話)→ガビシェール(『ウルトラマン80』第9話)→ガモス
実はタッコングには没になって本編では使われなかった鳴き声がある。
それをリサイクルしたものがアクマニヤ星人に使われ、『80』でガビシェールの鳴き声に使われたのを皮切りに、
ガモスやゴモラII、アルゴ星人の鳴き声に流用されている。

ゴモラIIに関しては上記した「初代と全然鳴き声の違う2代目」の例だが、
不思議な事に『80』では2話のギコギラー、15話のミュー、26話のゲラ、31話のゾラに初代ゴモラの鳴き声が使われている。
なぜ他の怪獣にゴモラの鳴き声を使い、ゴモラにゴモラの鳴き声を使わなかったのか。猛は不思議に思った。

超獣を代表するキング・オブ・超獣であろうバキシムの声はウルトラマン80でも
屈指の実力を誇る吸血怪獣ギマイラに流用されている。
一見何のつながりもなさそうだが両者には立派な一本角が生えているという共通点があったりする。

暴走族を投げ飛ばしたことで有名な妄想ウルトラセブンだが
時折発する「オォォォォォォォ…」という不気味な唸り声はホーの流用である。


ウルトラシリーズ屈指の問題作で初登場したムルチが発する悲鳴のような鳴き声はエースを
敗北させた火炎超獣の鳴き声に流用されている。
魚の怪獣の鳴き声を火炎を操る超獣の鳴き声に流用という不思議なチョイスである。



ゴジラシリーズを代表するライバル怪獣であるキングギドラの鳴き声は、昭和30年代当時としては革新的なエレクトーンによる電子音で表現された。
ところがこの鳴き声は後に『ウルトラマン』に登場する防衛チーム・科学特捜隊の基地の電話呼び出し音というまさかの転生を遂げる。

当時の電話といえば「ジリリリリーン」とベルの鳴る黒電話が一般的で、
「トゥルルルル」という電子呼び出し音は「ウルトラマン」の近未来的な世界観によくマッチしていた。

なおこの後電話は電子呼び出し音の方が一般的になり、逆にキングギドラの鳴き声が電話の音にしか聴こえなくなってしまったためか、
平成のキングギドラの鳴き声はラドンのそれを加工したものに変更された(またラドンか)。
SFに現実が追いついてしまった一例と言えよう。

後に、ウルトラシリーズのファンである庵野秀明が監督した『新世紀エヴァンゲリオン』では、ミサトさん携帯のコール音として同じ音が使用されている。


ウルトラマン80に登場した怪獣の一体であるメカギラス。
実は鳴き声はガイガンの声をそのまま使ったものである。


平成ウルトラシリーズ

平成に入ってコンピューター技術が進歩したことで電子音の合成が容易となり、
かつてのように怪獣の鳴き声1つ撮るためにゲタを履いてスライディングしたりする必要は薄くなった。
これにより鳴き声流用の必要性はやや薄くなったものの、それでも多くの鳴き声がリサイクルされている。
昭和ウルトラシリーズとの大きな違いとして、「特撮ファンが特撮クリエイターになっている」という点が挙げられる。
このため、予算削減ではなく「◯◯の鳴き声を使いたい!」というスタッフ側の希望で往年の名怪獣と同じ鳴き声があえて使われる事例もあるようだ。


ウルトラマンティガ』のラスボス、ガタノゾーアの発する甲高いゾウのような鳴き声は、映画『モスラ』(1996年版)に登場したデスギドラの声の流用。
ちなみに本当にゾウの鳴き声を加工して作ったらしい。


ゼルガノイドは『ダイナ』の最終章に登場した人造ウルトラマンがベースのスフィア合成獣
「ン"ン"ー!シ"ョ"ワアアアア!」とやたら力が籠った声を出すが、実はこれは劇場版のダイナの声の流用。
劇中で口を開けて一瞬だけ出した「キシャー!」という声は『ウルトラマンガイア』のサイコメザードIIの腹部の声に使われている。


『ウルトラマンガイア』に登場した名前の由来が「アンキモ」である事で知られる怪獣モキアンの独特な鳴き声は
劇場版の怪獣キングオブモンスの声をそのまま使っている。


『ウルトラマンメビウス』の記念すべき一話に登場したディノゾール。
よく聴かなくてもガイガンの鳴き声が加工無しにそのまま使われている。


その他


特に悪いことをしていないくたびれた怪獣をやたら好戦的なヒーローがその辺の草むらでシバキ倒す超低予算特撮番組『レッドマン』。
怪獣の鳴き声も超低予算仕様で、数種類の鳴き声を使いまわしているので数回観るだけですぐにパターンが尽きたことが分かる。
もちろん宇宙人とかカネゴンも適当な怪獣の声で「ギャオー!」と叫ぶ。
鳴き声の元ネタはザンボラーテレスドン、マグラ、ガブラなど。中盤以降はシーボーズなどが追加され若干パターンが増えた。


メタルヒーローシリーズの記念すべき一作目である『宇宙刑事ギャバン』。
主人公である一条寺烈ことギャバンの相棒であるドルは「ミ"ャァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ!!」と
何とも言えない独特な鳴き声を発するが後に同じ東映が製作した『ダイレンジャー』に登場する星龍王の鳴き声に流用。
どちらも東洋の龍をモチーフとしているのであまり違和感はないかもしれない。

番外編(鳴き声の素材)


さて、上で怪獣の鳴き声の流用例を述べたがその鳴き声の素材となった音声について様々なケースを載せていく。

人工物の発する音

色々なパターンの中で恐らく最も多いケース。
楽器の音やのブレーキ、鉄扉が開閉する音等を加工して作られるがその音だけでは
鳴き声らしいものにするのが難しいのでロボット怪獣でもない限り他の音声と併せて使われることが多い。

人工物の発する音を加工したパターン一覧

  • ゴジラ(鳴き声の素材は複数あるがその中にコントラバスがある)
  • キングギドラ(エレクトーンの音を加工)


人間の声

先述の様に怪獣の鳴き声の多くはコントラバスやエレクトーン、車のブレーキ音といった人工物が発する音から作られているが
中には人間の笑い声や叫び声を早回ししたりスロー再生したりして作られることもある。
マタンゴの笑い声やゴース星人の発する奇妙な声がこのケースだが
中には赤ん坊の声を加工というレアなケースも。
とはいえいくら加工できると言っても人間の声のみでは限界がある為他の音声と併せて使われることが多い。

人間の声を加工したパターン一覧



動物の鳴き声

恐らく様々なパターンの中でもあまり数がない稀なケース。
というのもこれは実在する動物の鳴き声を使う為リアリティのある鳴き声になる一方、
思ったような鳴き声を出してくれなかったり中には鳴き声そのものを出してくれないことも。
このように素材となる音声を収録するのにもっとも手間が掛かる為あまり多くない。

動物の鳴き声を流用したパターン一覧



追記・修正はどれがどの鳴き声かわかった人がお願いします。

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最終更新:2023年08月31日 23:40

*1 断末魔の叫びに赤ん坊の甘える声が使われている

*2 アマギ隊員を連れてくるくだりの前、なにやら報告しているシーンをスロー再生すると…。ちなみに担当声優(?)はレギュラー出演者のひし美さんと毒蝮さんではないかとのこと

*3 人間の赤ん坊の声を加工

*4 人間の赤ん坊の声を加工