超重戦車 マウス

登録日:2017/02/13 (月) 23:56:44
更新日:2024/02/21 Wed 23:04:35
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マウスとは、第二次世界大戦中のドイツで開発された戦車である。ティーガーやシャーマン等とは違う意味で有名であり、戦車好きなら1度は名前を聞いたことがあるはずだ。

開発経緯

独ソ戦にてソ連に侵攻したドイツ軍。
そこで彼らが遭遇したのは分厚い装甲を持つKV-1、走、攻、守が高いバランスで纏まった傑作中戦車のT-34だった。
スターリンの大粛清で未熟な戦車兵が多かったが故になんとか練度でカバーしたドイツ軍だが、性能で見るとⅢ号戦車とIV号戦車ではまるで歯が立たず、ティーガーやパンター等の開発が急がれる要因にもなった。
これらの戦車はヒトラーに「ソ連はさらに強力な超重戦車を繰り出してくるのではないか?」と妄想を抱かせてしまう。
まあ、ドイツ軍の電撃戦を目の当たりにした当のソ連軍も「ドイツの戦車絶対ヤバいぜ!だから先にでっかい戦車作っとこう!」みたいな感じでKV-4やKV-5といった100トン超のマジキチ戦車を計画してたからあながち見当外れという訳では無い。
これらの計画はドイツ軍戦車を相手取るにはT-34で充分すぎたこと、何より実用性に大きな疑問符が付くことからキャンセルされてしまった。



ドイツでは本当に作っちまった訳だが。



1942年3月にヒトラーはクルップ社とポルシェ社に100トン級戦車の設計と開発を命じる。
この二重開発もヒトラーの意図するものであり、当然のことながら両社は激しい開発競争を繰り広げるが、最終的にポルシェ案が「マウス」の呼称で正式に採用され、設計はポルシェ社、部品の生産と組み立てはクルップ社、主砲を含めた最終組み立てはアルケット社が担当することになった。
なおマウスとは綴りが若干違うが英語同様にネズミのこと。最初はマンムート(マンモス)だったが、それじゃすぐ超大型兵器だって察するだろ、てことでモイスヒェン(子ネズミ)となり、採用時にマウスとなる。

開発・生産

こうして採用を勝ち取ったポルシェ博士はモックアップ等を経て試作車の制作に取りかかる。ヒトラーが言ったように、この戦車には武装、装甲共に当時の技術で制作できる最高レベルのものが求められていた。
その結果、装甲に関しては

砲塔前面:220mm
側面、後面:200mm

車体
前面:200mm(55°の傾斜装甲なので実に300mmに相当する)
側面:180mm
後面:150mm

普通戦車の弱点であるはずの背後でさえ、ティーガーⅡの砲塔前面装甲に匹敵する防御力があるのだ。
もはや巨大な鉄の塊である。

装甲100mmのティーガーが数々の伝説を残したことを考えると正に向かうところ敵無しだろう。

装甲がここまでブッ飛んでるんだから、武装も当然ブッ飛んだことになった。

当初ポルシェ博士の計画では、この戦車には150㎜戦車砲が搭載される予定だったが、ヒトラーが長砲身128㎜砲に変更を命じた。(そのくせに「この車体には128mm砲でもオモチャのようだ」とか言ってるけど)
これは後にヤークトティーガーにも搭載され、4キロ先の敵戦車を撃破したり、建物越しに敵戦車をぶち抜くという、我々にロマンを与えてくれる砲である。
そして、ご存知の通り戦車には主砲の同軸に何らかの武器を搭載しているものだが、もちろんこのマウスにも同軸砲として75㎜砲が搭載された。

繰り返すが、同軸銃ではなく、同軸砲である。
こいつは移動要塞か何かか?
…実際には主砲である128mm砲は砲弾の数が50発と少なく、かつその半分はすぐには撃てない位置に収容されているため、
長時間の戦闘には別の砲が必要だったという割と身も蓋もない理由だったり。
なお同軸銃も別に積まれている。

さらにさらに、初期の計画ではなんと車体の背面に火炎放射器を装備する予定だったという。ここまですると本当に移動要塞になってしまう。
ところが、燃えやすい燃料を積むのが危険なこと、車体重量がさらに重くなるという理由から中止されてしまった。

ここまで装甲と武装をてんこ盛りにしたマウスは、最終的になんと188トンに達した。

なに?ピンと来ないから分かりやすく例えろって?

アニヲタの諸兄はボーイング747を知っているだろうか。「ジャンボ」の愛称で有名な大型旅客機である。聞いたことがなくても、政府専用機として世界を飛び回るジャンボの姿をテレビで見たことがある人も多いはず。

何が言いたいかもう察しがつくだろう、マウスは、このボーイング747の空虚重量(燃料、乗客等を含めない機体そのものの重さ)とほぼ同じ重量なのだ。
実際はマウスの方が少し重いが。

言うまでもなくこの重量は実際に製造された戦車としては文句無しに世界最大重量であり、こんなゲテモノ作ろうなんて変態は現れないだろうから今後も更新される可能性は低いと思われる。いや更新されてたまるか。

ここまで肥大化してしまったマウスだが、戦車と言うからには動かなくてはならない。
これだけの重量を持つ戦車を動かす案として、ポルシェ博士はポルシェ・ティーガーと同じく「エンジンを回して発電し、その電気でモーターを回して動力を得る」というガス・エレクトリック方式を採用した。
車重の影響をモロに受けやすい変速機要らずなこの方式は正にうってつけだったのだ。
最初はディーゼルエンジンを使う構想だったが、ベンツから「要求を満たすディーゼルなんか作ってないし作れない」と言われたのでガソリンエンジンになっている。
そのエンジンも1080馬力と当時の戦車としては有り得ないパワーを誇っていたがそれでも出力不足であり、整地でもせいぜい時速20km、不整地では13kmが限界だった。
元々ガス・エレクトリック方式は変速機を使った場合に比べてエンジンから起動輪に伝わるパワーが少ないという欠点もあるのだが。

ヒトラーはこの怪物戦車を気に入り、1943年5月に月産10両、最終的に135両の発注を出した。
ところが、この時期はソ連が攻勢に移り、翌年には連合軍がノルマンディー上陸に成功し、ナチス・ドイツをジリジリと追い詰め始める頃である。

そんな芳しくない戦況でこんな妄想戦車に使う手間も資源もあるハズもなく、ドイツ軍内部からも「役に立たんくせに資源ドカ食いする戦車よりティーガーとかパンターの生産優先しろ!」という至極真っ当な意見も飛び出して計画の遅延、縮小を繰り返した挙げ句に2両の試作車を残して打ち切られてしまった。
それでも2両の試作車で細々と試験が行われていたが、重量故の欠点が次々と浮き彫りとなった。

その1つが(当たり前と言えば当たり前だが)燃費の悪さである。
マウスは車内に1600リットル、車体後部に1000リットルの増槽タンクと計2600リットルの燃料が搭載可能だったが、整地では186km、不整地では68kmという大食感。
単純に計算しても整地だとリッター約71メートル、不整地だと26メートル
燃費悪い悪いと有名なティーガーIIの半分以下である。

もう1つは渡河の準備の面倒くささ。
188トンもあると渡れる橋なんてある訳がない。そうなると必然的に河を直接渡る必要が出てくるのだが、その準備が↓

①マウスに防水処置を施し、シュノーケルを装備する。
②もう1両のマウスを用意し、2両をケーブルで接続。
③地上のマウスのエンジンで発電し、渡河するマウスに電力を供給。
④向こう岸に着いたら同じ手順でもう1両も渡河。

ただ河を渡るだけでこれだけの手間がかかる。
戦場に着く前に日が暮れちまうわ!

他にも泥に埋まったり、登坂能力の低さや燃費の悪さが想定以上、機械的故障も頻繁、と次々とボロが出てしまい、その上試作2号車はエンジンが故障して行動不能に陥ってしまう。
そして総統官邸から正式に「超重戦車の開発計画の中止」が言い渡された。

その後

1945年にソ連がドイツに侵攻してくることが確実となると、故障して放置されていた試作2号車は壊れたエンジンを交換してソ連を迎え撃つために試験場を出撃したことが記録されている。
残念なことにこの2号車はまたもや故障してしまい、さらに燃料不足で行動不能になってしまう。
エンジンを直せたとしても燃料を補給するあてがないし、敵が迫ってるなか回収するのも時間的に不可能と判断されて爆破解体されてしまう。
その後、原型を留めていた2号車の砲塔、車両試作車に無傷で放置されていた試作1号車と共にソ連に鹵獲された。そしてソ連はマウスを本国に移送することを決定し、1号車の車体に2号車の砲塔を乗っけることにした。
因みに、2号車の砲塔を回収するのに、同じくドイツから接収した18トンハーフトラックが6台必要だったらしい。
そりゃそうだろう。マウスの砲塔だけで55トン、ティーガーⅠに匹敵する重さがあるのだから。
こうして1号車の車体に2号車の砲塔を乗せたマウスはクビンカの試験場に送られ、様々な試験に供された後はクビンカ戦車博物館に展示され、平和な余生を送っている。

その他

2014年、World of Tanksの運営会社のウォーゲーミング社がこのクビンカ戦車博物館のマウスの復元計画を発表した。設計図や資料をもとに外見、内部機構まで再現するという。しかも失ったパーツはわざわざ工場に発注し、走行可能な状態を目指すという徹底ぶり。

…が、現在に至るまで何の情報も更新されていない。今マウスはクビンカ戦車博物館所有であるため、博物館との調整、資料の収集、パーツの発注、そしてレストア専門家の確保など、復元以前にやることが山ほどある上に、戦車の復元は実は大変な労力とお金と時間がかかるのである。
実際、映画FURYにも登場したことで知られるイギリスのボービントン戦車博物館が所有する世界唯一の自走可能なティーガーIは復元までに実に13年もの月日が費やされているのだ。
しかもマウスは世界にたった1両、そして外見だけで中身はすっからかんという噂もあるし、綿密に計画を進める必要があるのだろう。 貴重なマウスに変なことしたら総統閣下の亡霊に取り憑かれそうだし

しかし中止になったという情報もないから、少なくとも計画自体は進行しているハズである。
長い目で見守っていこう。

■フィクションのマウス
史実では戦うこと無くその役目を終えたマウスだが、極限まで高めた攻撃力と防御力、そして超重戦車というロマン溢れる肩書きから今も多くの人を魅了し、ゲーム等への出演は意外な程多い。


敵国、Qシュタイン帝国の精鋭。超重戦車の名に恥じない破格の強さでダンケロリ高原を護る。
ここでは理不尽と言いようが無い強さで、変種第2号と共にこのゲームのトラウマでもある。
砲撃の威力は凄まじく、離れていても衝撃波で傷つけてくる。四隅の丘や中央の家屋に隠れて戦うことになるが、時間が経つとその巨体で家屋をぶち壊しにかかる。
攻撃を跳ね返す電波兵器がないとまず太刀打ち出来ないだろう。

生前はナチス・ドイツの軍人だった機械将軍が、府中基地の戦いでMe262とともに増援として瞬間物質電送装置で送り込んだ。
基地反対のデモ隊や近隣住民への配慮から61式戦車を動員できず、二線級の旧式軽戦車や対空戦車で茶を濁していた守備隊が叶う相手ではなく、
成人男性6,600人相当の怪力を発揮出来る迫撃のゲートキーパー近衛かおるでも数十ミリの鋼板を打ち抜くのが精々で万事休すの状態に陥った。
3両のマウスは最後まで健在だったが、機械将軍の居場所へ急行した主人公の瞬に瞬間物質電送装置を破壊されたため戦線離脱を余儀なくされている。

黒森峰女学園の所持戦車として登場。
上記の通り、史実のままのスペックならまともに運用できる代物ではないが、それはそれ。
謎の万能特殊カーボンや人体に被害を与えない特殊弾を始めとしたよく分からんレベルの技術力により、平地での運用程度ならばカタログスペック通りの理不尽極まりない強さを見せつける。なにせあのポルシェティーガーですらなんとか動かせるもんね!
作中では、黒森峰の性質や戦力、姉である隊長まほの性格を知り尽くしたみほの奇策とも言える戦術によりなんとか表面上は互角の戦いを繰り広げていた大洗チームの前に、文字通り立ちふさがった要塞が如き超重戦車。
瞬く間にカモさんチームが吹き飛ばされ、戦友の仇と立ち向かったⅢ号突撃砲の直撃を物ともせずこちらもあっさり撃破。
カバさんチームⅢ突は、これまで数多の敵チームを撃破してきた文句なしのエース車であり、大洗にとっては(無理なく扱える中で)最高の火力保持車である。
そんなⅢ突の砲撃が直撃してもビクともしないのであれば、ただでさえ装甲・火力共に他校に劣る大洗にとっては“普通に”やれば撃破の仕様がない最悪の敵。
そのあまりの要塞ぶりに、一同は途方に暮れることになった。
よりにもよって大洗チームが得意とする市街地に配置されている辺り、まほの優れた戦術眼と容赦の無さがうかがえる。

  • シェイファーハウンド
ティーガーII二両を撃破されたマーナガルムが投入。
実在しない3両目と思われる。
その防御力と攻撃力によりシェイファーハウンドのIII号突撃砲とティーガーIを撃破する。
直接には撃破されなかったものの車長として搭乗していたトリスタンが車外に出た後、III号突撃砲の車長であるカヤに射殺され、その他の乗員は降伏している。



追記、編集はマウスを愛する人がお願いします。


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最終更新:2024年02月21日 23:04