SCP-756-JP

登録日:2016/12/4 San 19:58:00
更新日:2024/04/08 Mon 16:00:12
所要時間:約 9 分で読めます




こりゃあ便利だ。是非優先して研究を進めてもらいたいな。潜入に使えるかもしれない。 ──エージェント・██




SCP-756-JPはシェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクト(SCiP)である。
オブジェクトクラスはNeutralized。

項目名は『便利なパスポート』。


概要

SCP-756-JPはアメリカの国務省から発行されている物とそっくりなデザインのパスポートである。
もっとも有効期限やIDといった、通常のパスポートに必ず記されているような項目は一切ない白紙の中身だが。


この オブジェクトの異常性は、海外渡航を行う際に発揮される。
このパスポートを提示すると、何らかのミーム的な効果により、手続上の不備や違反を一切認識されずに渡航ができるのだ。

この効果はこのオブジェクトを使用する手続の開始と同時に発現し、所有者が空港ないし海港を出発するまでの間続く。
しかも単に窓口対応した職員のみに影響するのではなく、出入国に関わる全てのスタッフに即座に効果が及ぶ。

飛行機による海外旅行の流れで説明すると、パスポートを使う最初の手続は大抵の場合、空港におけるチェックインであろう。
ここでこのパスポートを提示した瞬間から、SCP-756-JPの異常性が発揮されることになる。
以降の手続において所有者の不備はすべて見過ごされるため、「航空券を落とした」「預け入れできない荷物がスーツケースに入っていた」「機内持ち込み禁止の物品がポーチに入ったままだった」等といったあらゆる事態を気にせずに、飛行機に乗ることができるのである。
もっと言えば「ビザが切れていた」「爆発物や輸出入禁止の生物を所持していた」等というかなり問題となるケースでもスルーされる。

……もうお分かりですよね?




このオブジェクト、犯罪目的で利用すると手が付けられない代物である。




これさえあれば不法な出入国があっさり行えるため、犯罪後の高飛びや麻薬の密輸、さらにはハイジャックや自爆テロ等なんかが自由自在に行えてしまうのだ。
効果は出国と入国の両方の手続時にそれぞれ発揮される。そのため、この所有者が違法な利用をしていることを突き止めるチャンスは、飛行機なり船なりに乗っている間に限られる。
しかしながら、そもそも出国手続の時点でありとあらゆる違反がスタッフの認識から欠落しているため、このパスポートの所有者の手続に不備があるという記録自体が残らないことから、水際での追及は事実上不可能とみていい。


来歴


こんな恐ろしい代物、犯罪者は勿論のこと、要注意団体にでも渡れば大事である。
実際、財団がこのオブジェクトを確保したのは、この異常性を利用して日本国内に密入国していたカオス・インサージェンシーの工作員を制圧した時のことだった。
何かことを起こす前に制圧できたのか、既に事件が発生した後で対処したのかは不明だが……何はともあれこの厄介なパスポートは無事我らが財団によって収容・確保・保護されるに至った。

工作員の証言と財団の実験によって先述の異常性も明らかになり、エージェントも思わず冒頭のようなコメントを残すような形で、事態は収束した。







……かに見えた。


  • 20██年5月██日
カオス・インサージェンシーによる襲撃が発生、SCP-756-JPが再び奪取されるという事件が起こる。
向こうは自害的な攻撃(恐らくは爆破テロ等)まで用いてきたらしく、思った以上にこのオブジェクトを重要視していたようだ。
財団側は20名近くの死傷者を出したものの、直ちに再回収に向け調査チームを結成した。

財団 → カオス・インサージェンシー


  • 20██年5月██日
カオス・インサージェンシーの拠点を財団機動部隊が突き止め、見事制圧。
しかし突入時点で拠点は既に何者かの襲撃を受けた後であり、構成員4名の死体以外には何も回収できなかった。
残存する証拠を解析したところ、どうも襲撃者は蛇の手の構成員らしいことが判明。
調査対象が変更となった。

カオス・インサージェンシー → 蛇の手


  • 20██年7月██日
2ヶ月近くに渡り蛇の手を追う最中、当の蛇の手構成員から調査チーム宛に連絡が届く。
それによるとSCP-756-JPは何らかの取引により、蒐集院の残党へと引き渡したと言うのだ。
加えて、SCP-756-JPを再回収しようとするのはやめた方がいいという遠回しな忠告も添えられていたらしい。
このメッセージを直ちに信用したとは思えないが、ともあれ最終的には財団の目標が蒐集院残党へと向けられる形になったようだ。

蛇の手 → 蒐集院残党


  • 20██年8月██日
残党勢力の一派である"呪禁道持禁医疾社"というやたらカッコいい組織と財団が交渉中、突然この組織の拠点が同質量の人糞に置き換わるという異常事態が発生する。地獄絵図ですか?
調査の結果、やはりこの組織がSCP-756-JPを所持していたであろうこと、今回の異常現象が人為的なものであることが判明。
後者については下記のようなメッセージが残されていたことが論拠となった。

久しぶりだね! 楽しい楽しい博士のにぎやかしバクダンはたっぷり味わってくれたかな? お友達がたくさん集まったパーティーは楽しく盛り上げなくちゃ! 大はしゃぎの時間はまだまだ終わらないよ。夕日が沈むまで、皆で思い出に残る遊びを考えよう。楽しもうね!

ま た お ま え か。

蒐集院残党 → 『博士』


  • 20██年11月██日
3ヶ月後、なんとマーシャル・カーター&ダーク株式会社がSCP-756-JPを販売していることが発覚。
ご丁寧にデザインも若干変えてあったらしい。
即座に財団エージェントが回収に向かったものの、一足早くUIUがこれを入手してしまっていた。こういう時だけは手際がいいんだから…
財団米国本部へ連絡し、当該オブジェクトを財団へ引き渡すよう、UIUに働きかけてくれと要請を出した。
ちなみにどういう経緯でMC&Dにパスポートが渡ったのかは不明。『博士』が資金繰りに困って売り払ったのだろうか。

まぁUIUが持ってるならあとはいつも通り適当に何癖つけて取ってくるだけだし、ようやくこの問題も解決かな。

『博士』 → MC&D → UIU





  • 20██年11月██日
ORIAがFBIを襲撃、SCP-756-JPを奪われる。
UIU捜査官2名を含むFBI職員47名が死傷し、2名が行方不明となる被害を出した。もやは様式美のようなUIUの扱いである。
ORIAは他にもいくつかの異常性物品を奪取していったようだが、作戦行動から推察するに第一目的はやはりSCP-756-JPだったらしい。
ちなみにUIUがこれを持ってるという情報はMC&DからORIAに流れたそうな。まーた話をややこしくしやがって…

これ以降、財団は2ヶ月に渡りORIAの動向を追ったが、目立った成果は挙げられず、再び調査は振り出しに戻った。

UIU → ORIA



真相


さて、初めはしっかり確保・収容してケリが付きそうに思えたこのオブジェクト、いつの間にやら各種要注意団体を巻き込んだ大騒動に発展してしまっている。
これを承けて、財団内部でもある種の疑惑が浮かび上がり、ORIAの追跡と合わせてもう一度SCP-756-JPの調査をやり直す次第となった。
調査といっても肝心の現物がないので、過去の事件の経緯や実験記録の様子をもう一度見直すようなものにとどまったのだろうが……。

――その結果とんでもないことが判明した。



SCP-756-JPには、もう1つミーム的特性があったのだ。
それは、「SCP-756-JPの第1の異常性(出入国手続の無条件許可)を知る者すべてが、過剰なまでにその利便性を評価するようになる」というもの。

過去に実験を行ったDクラスのインタビューを見返しても、ただただ「こいつはスゲェ便利だぜ!」的なことを言うばかりで、具体的にどんな用途が考えられるか等には全く触れられていなかったという。




考えてもみてほしい。

確かにこのパスポートは密入国も海外逃避も容易く行える魔法のアイテムだが、国内に居る段階で公安や警察等にマークされていた場合には空港を出る前にアッサリ捕縛されてしまいかねない。
それにこのパスポートが効力を発揮するのは空港・海港のほぼ2つに限定されており、例えば「警察署や銀行、IT企業のサーバールームといった機密性の高い施設になら何でも入れる」といった類の利便性はない。
極端な例に思えるかもしれないが、異常存在ひしめくSCPの世界ならば認識災害や現実改変等でそれらを可能にし得るオブジェクトが存在しても何らおかしくはないのである。

SCP-756-JPは確かに便利な物品ではあるが、これだけたくさんの組織が手を変え品を変え、流血も辞さずに奪い合うほどの価値があるとは言い難い代物なのだ。


この重要な異常性が見過ごされていたのは、担当に当たった財団職員たち自身が影響下にあったことに加え、あくまで便利だと思わせるだけで「絶対にこのパスポートを手元に置いておきたい」という中毒性や独占欲を抱かせる効果はなかったことも理由に挙げられる。

もしそうした精神的な影響があるならば、実験に使用したDクラスがこのオブジェクトの返却を拒む、抵抗してでも死守しようとする等といった異常な行動に出ただろうし、そこから第2の異常性にたどり着くこともできたろう。

実際は「便利である」という認識の付与こそSCP-756-JPの効果だが、「こんなに便利なんだからぜひ活用したい」という心理への移行には異常性は関わっていない。
要注意団体の動向もすべて自発的なものであり、彼らもまたこの第2特性には気付いていなかったのだと考えられる。
意味深な忠告をしてきた蛇の手だけは、何かしら掴んでいたのかもしれないが…





ともあれ、真の異常性が発覚したところで、事態は進展するどころか悪化する一方である。
何しろこの第2特性は現在所有している者だけではなく、過去に第1の特性を知った者すべてに及ぶのだ。
国内外、要注意団体・一般人を問わず、果たして世界中に現在どれだけこのオブジェクトの影響を受けた人間が居ることだか、皆目見当もつかない状態である。
財団は今後、SCP-756-JPに関する徹底した情報統制と記録の隠匿・改変に努め、これ以上このパスポートの情報が広まらないようにしていく予定だが、
肝心のSCP-756-JP本体を収容できていない事実が最大のネックとなる。


とにもかくにも我々には、ようやく状況を掴んだ財団がここから巻き返し、無事にSCP-756-JPを収容・確保・保護してくれるよう、祈ることしかできないだろう。

がんばれ財団! 君たちだけが最後の希望だ!




































希望は、ひとつだけではなかった。


















  • 20██年1月██日
世界オカルト連合(GOC)より「SCP-756-JPをORIAより奪取後、破壊した」との情報が財団へ届く。
合同調査の結果、SCP-756-JPの破壊と同時に、その異常性も消滅したことが判明している。
残骸は財団へ返還され、両組織立会の下、 焼却処分 が完了。

ORIA → GOC → [破壊済] → 財団



GOC「ほう、確かに便利だな。――で、それがどうした。破壊する、というか既にした」




絶望的な状況を打開してくれたのは、他ならぬ要注意団体・GOCであった。

確かに彼らは徒にアノマリーを破壊することで、その異常性を変質させ、結果的に事態を悪化させる場合も多々ある。
しかし今回のように、彼らが活動することによってきちんと問題が解決されるパターンも多いのだ。
実際、GOCについての設定をまとめたハブページでは、彼らが財団とはまた違った形で規律を定めて異常存在に臨んでいることや、破壊することで見事対処に成功したアノマリーの数々についても記述がある。



収容を理念とする財団のエージェントでさえ、無意識のうちに本項目冒頭のような「このオブジェクトを利活用しようと考える発言」をしてしまう事態において、ORIAから奪取したSCP-756-JPを躊躇いなく破壊した今回の判断は英断と言えるだろう。



追記・修正はパスポートを提示してからお願いいたします。


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SCP-756-JP - 便利なパスポート
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最終更新:2024年04月08日 16:00