ルパン三世(1stシリーズ)

登録日:2016/12/01 Thu 09:49 :03
更新日:2024/01/16 Tue 07:32:33
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俺の名はルパン三世。
かの名高き怪盗ルパンの孫だ。
世界中の警察が俺に血眼!
ところがこれが捕まらないんだな~。
ま、自分でも言うのもなんだけど
狙った獲物は必ず奪う、神出鬼没の大泥棒……
それがこの俺、ルパン三世だ。




■ルパン三世 1st series


『ルパン三世』は、1971年10月24日から1972年3月26日まで日本テレビ系列で放送されたアニメ作品。
毎週日曜19:30~20:00放送。全23話。
アニメーション制作は東京ムービー(現トムス・エンタテインメント)。

【解説】


最も最初にアニメ放映された『ルパン三世』であり、後のシリーズとの区別のために「第1期」や「ファースト」と呼ばれる事が多かった。
実際に、後のソフト化に併せて正式に『ルパン三世 1st series』と表記されるようになっている。
ルパンのジャケットの色から取られた、「緑ルパン」という愛称も有名。

アニメ化に伴いルパン以外の登場人物の活躍や登場の場面が増やされており、ヒロイン格の峰不二子に現在のような「ルパンすら手玉に取る小悪魔的な美女」という個性を与えたのはアニメ版の功績である。

この他の特徴としては、後のレギュラーとは不二子と五ェ門の担当声優が違う事や、現在の『ルパン三世』が大ヒットを記録した『(新)ルパン三世』(2nd、赤ルパン)以降のイメージを基本としている事もあってか、後続作品とは雰囲気が大きく違っている事が挙げられる。

犯罪王国と称される「ルパン帝国」の存在など、後続シリーズには引き継がれなかった設定も多い一方、後の『ルパン三世 カリオストロの城』や『ルパン三世 ルパンVS複製人間』の原型になったと思わせるようなイメージがすでに見受けられるのも特徴。

作品人気に関しては放映当時のウケは余りよくなかったとの話が伝わっている。
元が青年向けの劇画であった事もあり、視聴ターゲットでもないのにメイン視聴層の子供には内容が難しい上にそもそも宣伝自体が全く行き届いておらず、視聴率はワーストを記録し上層部は路線変更を決定。
これを受けて第3話の放映直後に初代監督(役職自体は演出)の大隅正秋は上層部と揉め「子供向けにすれば視聴率は上がる保証はあるのか」と自ら降板*1。代わりにキャラクターデザインを担当した大塚康生の縁でAプロダクション(現在のシンエイ動画)に所属していた高畑勲と宮崎駿が呼ばれる事になった。

本作は大隅正秋の唐突な降板により、宮崎駿・高畑勲両氏が現場に入った時点で一部の作品は既に作画作業に移行しており、第4話から第13話までは大隅時代の作品を子供向けに修正して再利用し、以降は既に上がっていた第21話までの脚本を全て没にして、急遽新しい脚本をでっち上げるという異例の体制で行われたが、最終的に全26話という当初の予定より少し少ない全23話で終了する形となった。*2

……しかし、その魅力的な世界観や山下毅雄作曲の耳に残るBGMは視聴者の記憶に残るのは充分だったようで、それが再放送での大人気を経て、5年後の新シリーズの開始と国民的ヒーロー化への礎となった事は間違いない。

実際、当時の放送を見ていたマセガキ通好みのファンからは「ファーストこそ至高」と考える層も多く、後には公式でも1stの雰囲気を再現した、第2話に登場した魔術師パイカルとの邂逅を描いたOVA『ルパン三世 生きていた魔術師』が製作されたり、「ルパン三世officialマガジン」では早川ナオヤによるコミカライズ版も執筆されている。

シリーズ中盤から演出を担当した宮崎駿も1stでの仕事には思い入れと共に後悔があったようで、自身が監督を務めた『カリオストロの城』が当時テレビ放映中だった『(新)ルパン三世』とは大きく雰囲気の違う作品となった他、ゲスト脚本・演出を務めた末期問題作『死の翼アルバトロス』や最終話『さらば愛しきルパンよ』では、赤ジャケルパン否定するかのような演出やメタ的な視点を盛り込んでいる。*3

【音楽】


劇伴・主題歌、共に作曲は山下毅雄が担当。*4

ルパーン♪ルパーン♪ルパーン♪ルパーン♪ (デッデッ) ルパンザサード♪
……でお馴染みの『ルパン三世その1』や『AFRO “LUPIN '68”』といった特徴的な楽曲が多く、これも1st独自の魅力として評価されるポイントである。
歌唱したチャーリー・コーセイ本人によると、歌詞は「スタッフが用意した断片的なキーワードを元に即興で歌った」との裏話が伝わる。
そのため、後年のリメイク音源では言葉の並べ方は原曲を忠実に再現できていない。

3回も変わった主題歌というよりはナレーションのBGMみたいな扱いだがと違い、最終回まで使用された『ルパン三世その2』も人気の高い楽曲。
夕日をバックにバイクで疾走する不二子を思い浮かべる視聴者も多い事だろう。

一方、完全な形で収録した音源が見つからなかったり、収録アルバムによってはタイトルが入れ替わっていたりとファンを混乱させてきた歴史もあるとの事。*5

【主な登場人物】


ルパン三世 (CV:山田康雄)
伝説的怪盗アルセーヌ・ルパンの孫。
原作のイメージに倣い、所謂悪漢(ピカレスク)ヒーロー”として描かれている。
飄々として不敵な笑みを絶やさないながらも合理的で残酷な犯罪者としての本性を隠しておらず、原作ルパンとの違いは女を犯さない事ぐらい。
このニヒルなキャラクターに関しては、演じる山田康雄が舞台で見せていた顔も参考にされているとの事。

犯罪組織「ルパン帝国」の現在の主でもあるが、個人で活動したり、一味と絡む事の方が多い。
後続シリーズに比べると狙っているお宝への執着も強くはなく、個人的なプライドに拘った末にお宝を手に入れられないままで終わる事も多かったが、後半の路線変更によって現在のルパン像に近いコミカルな性格が強調されていく。
この変化を宮崎駿は

富裕の倦怠を紛らわすために泥棒をする退廃したフランス貴族の末裔から、常にスカンピンで何かオモシロイことはないかと目をギョロつかせているイタリア系の貧乏人への変化」

と評している。

緑のジャケットで有名だが、パイロットフィルムやそれを一部流用したOPでのナレーション部分ですでに赤ジャケ姿を披露している。原作では赤ジャケであるが、これはスポンサーの兼ね合いなどではなく、ただ単に赤の発色が悪いという技術的な理由で緑に変更されただけ。

初期エピソードでの愛車は黄色いベンツSSK*6。オリジナルは200馬力だが、ルパン仕様はエンジンを第1話『ルパンは燃えているか…?!』でも使用したF1カー、フェラーリ・312B*7の水平対向12気筒(180°バンクのV型12気筒)に換装して500馬力にパワーアップさせている。
また、フロントのエンブレムがベンツ本来のマークではなく十字に変更されている。制作現場でこのベンツSSKを描けるのは作画監督の大塚康生と青木悠三(第1話でレーシングカーを描いた敏腕アニメーター)の2名だけだったそう。
路線変更後は映画『カリオストロの城』同様フィアット500を愛車としている。これはシリーズ構成も行っていた大塚康生の愛車でもあったとの事。*8
なお制作当初は本物のベンツSSKではなく、それを模したエクスキャリバーSSKの予定だったことが後の大隅正秋氏へのインタビューでうかがえる(大隅氏が「クラシックカーを模倣したスーパーカー」と発言している)。

本作以前に制作された『ルパン三世 パイロットフィルム』においては、野沢那智や広川太一郎がルパン三世を演じており、本作が開始する時期にも野沢はルパン役を希望していたもののスケジュールの都合上から出演ができなくなり、結果としてルパン役は山田康雄が抜擢された。
野沢は後に、「おれがルパンやっていたらこんなロングランにならなかったと思う。潰れただろうね。ヤスベエでホント良かったよね」と語っている。
また、山田とは口調が似ることがあったため、『スペースコブラ』でコブラ役のオファーが来たときは「似せないように演技しよう」と心掛けた。

初期の大隅演出の時期はスカしているという表現が合うような喋り方で声も若干低く、宮崎演出や後年のシリーズで見られるおちゃらけた口調は敵キャラを小馬鹿にする場面などでしか見られなかった。

次元大介 (CV:小林清志)
ルパンの相棒としても知られる腕利きのガンマン。義理堅く頼りになる男。
早撃ち0.3秒のフレーズは本作からすでに登場している。

ルパンとの関係や役割は後続シリーズと変わりはないが、傑作エピソードとして知られる第4話『脱獄のチャンスは一度』のように、投獄されたルパンを黙って待ち続けて、「死ぬなら死ぬで……」と諦めるような素振りを見せるなど、特に初期エピソードではルパン同様にドライな面が際立つ。
ハッキリと語られるわけではないが、原作の「ルパン帝国」の生き残りという設定に沿っているような描写が見受けられる。

ボタンダウンのシャツは水色、ネクタイは白という以外は後年のシリーズとそうそう変わらないキャラクターデザイン。

声優交代で評価が悪い『ルパン三世 風魔一族の陰謀』を除きパイロット版2作含めて本作から一貫して小林が担当していたが、『Part6』第0話をもって勇退した。

峰不二子 (CV:二階堂有希子)
ルパンすら翻弄する謎多き美女。
OPでの紹介では「女スパイか怪盗か俺にもわからない」とルパンに評されているが、かつては殺し屋だった事もある。

不二子の扱いが原作より良くなり、騒動の黒幕になる事も多くなったのはアニメ版の影響が大きい。
茶髪でシャープな顔立ちをしているのが特徴で、宮崎駿は『カリオストロの城』でも1stを彷彿とさせる容姿の不二子を登場させている。
また、2nd以降の不二子が男を手玉に取りつつも絶対に手を触れさせなかったのに対し、1stの不二子は相手によっては性的な関係を持っている事を想起させるような描写もあり、ルパンへの思わせぶりな態度もより複雑な印象を抱かせるものだった。

次作からは声優が変更になるが、 長年不二子を演じた増山によると本シリーズを知る視聴者からは「なんで不二子の声が二階堂さんじゃないんだ」と言う抗議の投書が多かったと言う。
元々、2本製作されたパイロットフィルムでは増山が不二子を演じており本作にも参加予定だったが、実際に放送されると録音監督の田代敦巳から謝罪があり、何故か不二子役が二階堂有希子に代わっていたという。
一方、『TV第1シリーズ』の演出を担当したおおすみ正秋はこのことに関して後に「ルパンが不二子に挑みかかる場面があるんですよ。ところがその場面になるとシーンとしちゃって」「『どうしたの?』って聞くと『どうしてもできません』って」と、増山がお色気シーンをできなかったため仕方なく変更したと発言している。

■十三代目石川五ェ門 (CV:大塚周夫)
古の大泥棒・石川五ェ門の末裔で居合いの達人。
年齢差からかウブな面をからかわれてか、初登場時はルパンや次元に「坊や」呼ばわりされていた。

師匠格の百地との関係性が原作と違っており、百地の企みによってルパンとの同士討ちを仕組まれていた。
当初は不二子に籠絡もされており、手も握らせて貰えないのに「峰不二子ちゃん。某のガールフレンドで…」と語るなど、後の五ェ門が聞けば卒倒するような事を言っている。
ただし、ルパンとつるむようになってからは過去の経験からか次元以上に不二子を警戒する様子も。出番がとても少ないが。
原作同様にこの頃の斬鉄剣は技や技術の名前であり、刀に関しては「様々な名刀を溶かして打ち直した」などと説明されていた。

ルパンとは上記の通り利用される形で敵対した後で個人的なプライドからライバル関係を結ぶも、最終的にはルパンの度量や人間性を気に入り仲間となる。
とは言え、劇場版である『VS複製人間』では「ルパンを他人に殺させたくない」との台詞が出てくるあたり、初期シリーズに関わったスタッフの認識は「緊張感漂う関係」だった模。

シネスコ版パイロットで石川五ェ門を演じた納谷悟朗は、台詞が少ないことが気になり大隅に相談した結果、銭形警部役に変更となった。合わせて、スタンダード版で銭形を演じた大塚周夫は石川五ェ門役となった。

なお次作からは声が変更になるが、声優一斉変更後のルパン一味再集合のOVAでは部分的にまた声をあてた。
声優が変更された理由について後任の井上真樹夫はその理由を知らないとのことだが、「Part1では危険な男として描かれていたが、Part2では優男に寄っていっており、恐らく作品の路線変更のためだろう」と自身は語っている。

初登場エピソードのサブタイトル及びエンディングでは「五ヱ門」だったり、2パターン目のオープニングでは「五右ヱ門」だったりと最初期のシリーズからして名前の表記が安定しない。

銭形警部 (CV:納谷悟朗)
ルパンを追い続ける東京警視庁の腕利き刑事。
2nd以降に設定されたICPOでなくてもいいのは、無国籍感漂うものの1stの舞台のほとんどが日本のため。
……ただし、対ルパンの専門家として明らかに外国と思われる現場にまで出張している姿が見られ、こうした姿が後続シリーズの「頼まれてもいないのに世界を飛び回る、警察の厄介者」というイメージの原型となっていると思われる。

腕前は原作に近いためか相当なもので、第4話ではルパンが「本気なら殺されていた」と考え、プライドを懸けて復讐を誓ったほど。

大隅演出作品ではルパン逮捕のため不二子と取引して彼女の逮捕状を抹消する機会を与えるなど、おカタい警部というだけではないちょっとクセ者な側面も持ち合わせていたが、Aプロ演出グループ作品ではガリマール警部の物量作戦に対し「これじゃ税金の無駄遣いだ」と抗議する真面目な公務員という感じのセリフがある。

演技の印象が後続シリーズとは大きく異なる。

【余談】


  • 2004年7月、WOWOWにて日本初となる本作の高画質のハイビジョン・リニューアルマスター版が放送された。これ以前に発売されたDVDでは当時の時代背景を考慮した上でオリジナルのまま収録されていたのに対し、ハイビジョンリマスター版では、原本である35mmネガフィルムをHDネガテレシネを行い修復する事で、より鮮明のある画質になっている。
    これが所謂『デジタルリマスター』であり、CSのキッズステーションや独立局などで放送、配信されている。

  • 2001年発売のDVD版は16mmポジフィルムからテレシネを行い放送当時の雰囲気を再現したという触れ込みがブックレットにあるものの、端的に言えばただただ画質も色味も悪い。北米版DVDのほうが画質が格段に良いことが1stルパンのコアなファンの間で有名。

  • 時代ゆえかキ○ガイといった単語が普通に飛び出すため、地上波では修正必至の作品でもある。ソフトやネット配信なら問題ないのだが。

  • 【音楽】の欄にてちらりと述べられている通り、1stシリーズの音楽のマスターテープは全て紛失されている。そのため劇中そのままの音楽を聞くことは制作・放送から50年経った現在も不可能で、おそらく未来永劫絶望的と思われる。
この経緯から、劇中BGMを再びレコーディングし直し収録したCD・レコードなども発売されているものの、いずれもかなりアレンジが加えられている。
また、アフレコ前のMEテープ(音楽・効果音のみが収録されている)からなるべく効果音のない部分をツギハギにしてクリアな音源を目指した一風変わったCDも発売されたが、当然効果音のない音楽のみの部分などルパン三世というアクションの多いアニメの性質もあってかなり少ないため完全とは言えない。

  • 17話「罠にかかったルパン」のBパートは35mmネガフィルムを紛失しているため、16mmポジフィルムを元にソフト化するしか方法がない。DVDにしてもリマスター版のBDにしても他のエピソードよりも画質がかなり悪いほか、画面全体の色味が赤っぽい。


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最終更新:2024年01月16日 07:32

*1 スタジオの机に私物を残したままいなくなった、とのちに大隅本人が語っている。その怒りは相当なものだったらしく、その後15年ほどはルパンについての取材も断っていた。

*2 時間の都合もあり第5話・第11話以外はそこまで両氏の手は入っていないらしい。また第13話の脚本も当初は没にする予定であったが、高畑勲の意向で没を免れ映像化された。このように本作は何処までが大隅正秋の仕事で何処からが宮崎駿・高畑勲両氏の仕事かがはっきりしない。

*3 宮崎駿氏も2nd最終回に関してはそういった意図を盛り込んでいたのを認めており、後年のインタビューではああいったことしなければ良かったという後悔している発言もしている

*4 TBSの時代劇「大岡越前」の主題歌を担当している人で有名

*5 このせいで“あし~もとに~♪”の方を『その1』と長らく覚えていたファンも少なくない。

*6 SSKは1971年当時で既に珍車だったため資料探しに難航したが、作画監督の大塚康生が新宿の空き地に放置されていた個体を見つけ出して、大隅正秋にド深夜に電話し、大隅はその場でタクシーを呼んで見に行ったという。2008年放送のBSアニメ夜話スペシャル「とことんルパン三世」より。

*7 劇中では「フェラリー」と呼称

*8 ベンツSSKと違い誰でも描けることと、当然制作スタジオの外まで現物を見に行けばスケッチできるため好都合だった。