SCP-571-JP

登録日:2016/11/09 (水) 00:51:45
更新日:2024/03/27 Wed 08:49:13
所要時間:約 7 分で読めます







SCP-571-JPは201█年に「馴染みの回転寿司屋の職人が突然奇声を上げ暴れ始めた」と119番通報があり、
その後現場に駆けつけた救急隊員及び店にいた客をSCP-571-JP-2が襲い始めたことにより財団に確保されました。




SCP-571-JPはシェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクトの一つ。
オブジェクトクラスはEuclid。

項目名は「ニギリ・オブ・ザ・デッド」



概要

SCP-571-JPは19██年に東京都で産まれた日本人男性である。人型SCPとしては珍しく戸籍上の名前が明かされており本名は「西行 ██」。
戸籍上の年齢は53歳。外見は同年代の一般的な男性と差異はなく、頭髪の脱毛など老化の兆候が見られている。要するに普通のおじさんということである。

SCP-571-JPはレベル0職員と同等の権限を与えられ財団の食堂で雇用されている。
毎月給料が支払われ、サイト管理者の許可を得た上で嗜好品の購入や自身の収容房の快適化に使うことが認められている。

とまぁ、ここまでなら財団の食堂で働く普通のおじさんである。
だがこのおじさん、ただのおじさんではない。なんとこのおじさんは・・・



生 き た 寿 司 を 作 れ る の で あ る



この生きた寿司はSCP-571-JP-1と表記される。
作成方法は以下の通り。

◆材料
  • シャリ
  • ネタ
  • わさび

ここまでは普通の握り寿司の材料である。さらに以下の材料をすりつぶして水に加え練ったものをわさびと共に挟みこむ。

  • トラフグの肝*1
  • カシワの根の煮汁*2
  • 三酸化二ヒ素*3
……フグの肝はなんとなくわかるだろうが、三酸化二ヒ素も立派な毒物である。

◆握り
寿司を強く握りしめ、約5分叫び声を上げながら上下に振る。体温でネタが傷みそうである
この時、叫び声の内容は寿司に対して美味しく食べられることの幸福を丁寧に説いたものになる。

「美味しく食べられろよ!」
「お前は寿司だ!美味い状態で食われることが幸福だ!」
「乾いたらもう美味しく食べられないんだぞ!」

完成。ね、簡単でしょ?
以上の手順はプロトコル西行と表記される。
ちなみにプロトコル西行をすっ飛ばすとSCP-571-JP-2となる。


◆SCP-571-JP-1
SCP-571-JP-1は自身の状態を摂食に最適な状態――自身の温度、水分、うま味、形状など、味にかかわる要素が完璧に保たれた状態――をできるかぎり維持しようとします。
例えば、長時間放置された場合ネタは這って移動し食塩水の中に飛び込み、シャリは乾燥した飯粒を排除し、その後再び握り寿司としての形状を保ち直します。
摂食がされないまま、摂食に最適な状態を維持できなくなった場合、およそ90%のSCP-571-JP-1は自ら最も近隣にあるゴミ箱に飛び込み、それ以後自律的な行動を行わなくなります。
残りのものは跳躍し、人間の顔面に張り付き、鼻孔を塞ぐことで口を開けさせ、強引に自身を摂食させようとします。
つまり自ら動いて自身を美味しく食べられる状態を維持し、どうしても食べられない場合は90%の確率で自らを廃棄、残り10%は自身を無理矢理食べさせるのである。なんだこの寿司。


◆SCP-571-JP-2
SCP-571-JP-2は前述したとおりSCP-571-JPがトラフグ、カシワの根の煮汁、三酸化二ヒ素を挟み込んだ寿司へプロトコル西行を行わなかったかあるいは中断してしまった時にのみ産まれる、凶暴な寿司です。
これらの寿司は主に人間に向かって跳躍し、喉に飛び込むことによって強引に摂食されようとし、概ね摂食されますが、時折窒息などをまねきます。
凶暴な寿司というパワーワードがすごい。
どうやらプロトコル西行を行わないと「美味しく」という目的を持たず、ただひたすら食べられようとするらしい。
毒性は消えるらしい。


ちなみに上述の通り材料には明らかな毒物が使用されているが、人体に対して一切の害を持たない。
また、わさびと共に挟みこむ必要があるため一般的にわさびを使わないギョクや軍艦巻きはSCP-571-JP-1、2に変化させることができない。
当然ながらサビ抜き寿司もNG。

彼は元々回転寿司で職人をしていたが、客の前でプロトコル西行を行おうとした結果、項目冒頭のように客に通報されそのまま財団に収容された。当たり前だ!
お客はさぞかしびっくりしたに違いない…。

補遺1: インタビュー記録
対象: SCP-571-JP

インタビュアー: 住ノ江研究員

付記: 円滑なインタビューのため、収容スペシャリスト及びセラピストの許可の上でSCP-571-JPを、その名前である「西行 ██」と呼んでいる。

<録音開始, 20██/██/█>

住ノ江研究員: どうも、西行さん。今日もよろしくお願いします。

SCP-571-JP: へぇ、どうも、よろしくお願いしやす、先生。

住ノ江研究員: あなたに今日聞きたいのは、まず……その。SCP-571-JP-1、つまりあなたの作った動く握り寿司のことなのですが。あれを作るやり方をいつ、どこで、どうやって知ったのですか?

SCP-571-JP: ああ、そいつですかい。えーっと、まず、あたしの昔の実家が寺だってのは知ってますよね。空襲で焼けちゃったらしいけど。

住ノ江研究員: はい。[編集済]寺ですよね。

SCP-571-JP: あたしがこんな生臭の職業についたから勘当されてんですけどね。なんでもあたしの親父曰くね。どうもうちは西行法師の末裔とやらが作ったらしくてね。

住ノ江研究員: 西行法師とはまた。

SCP-571-JP: あたしだって信じちゃいませんでしたよ。まぁ寺のない坊主が親父なもんですからあたしも半グレになって、そんでもって……

住ノ江研究員: あいや、そっちはまた今度にしましょう。握り寿司の話をお願いします。

SCP-571-JP: おっと、こりゃ失礼。えーっと、あたしがチェーンの寿司屋とはいえ一国一城の主になった時に親父がとうとういけなくなりましてね。んで、通夜で兄貴から「親父がこれ、お前に渡してくれって言付けられてさ」って言って、ボロボロの半紙に鉛筆で書いたメモをあたしに渡してきたんですよ。あんだこりゃ、と思って見たら「西行法師の反魂の秘術」の作り方とかいう大層な名前が書いてあって、そこに材料とか呼びかけとかのやり方が書いてあったわけです。

住ノ江研究員: 反魂……でも、伝説によれば西行法師は失敗したそうですが。あと、わさびとかフグの肝については聞いたことがありませんね……。

SCP-571-JP: ああ、それですけどね。なんでも西行法師が死者蘇生をしくじったのは輪廻転生したがる魂をいつまでも引き止めたからだ、ということでね。わさびによってピリッと引き締める必要が有ることと、畜生道に進んだ者というのは何かに食われたりすることで次の道に進めるわけです。更に火というものはこういう秘術には相性が悪い。というわけでナマで食べられて、わさびを使う寿司にこの反魂の秘儀を行うのが仏門の人間として正しいとかなんとか。あと、真心を込めて美味く食われるよう呼びかけることと、なんでもなじませるために振る必要があるとか書いてありましたね。

住ノ江研究員: え、あの、それを信じて実行したんですか?

SCP-571-JP: え? 何か問題でも?

住ノ江研究員: え……(約5秒間の沈黙)。その、続けてください。

SCP-571-JP: んでもってね、やってみたらうまく行ってね。野良猫に食わせてみてもピンピンしとるし。あたしが食ってもなんともないわけです。毒を使ったのに毒が消えてる! そして回転寿司の問題としてネタが悪くなるなんてことがありますが、それも寿司が勝手に良いままにしてくれる。あたしゃ小躍りしましたね。んでもって、早速客に出してみたらね。

住ノ江研究員: はい。

SCP-571-JP: ちょっと張り切って気合を入れすぎましてね。通報されて、呼びかけがうまく行きませんで。美味しく食われることが幸福だと説かないと、とにかくがむしゃらに食べられようとしてああなるわけですな。それからは先生がよく知っていらっしゃるとおりですわ。

住ノ江研究員: はぁ……あの、ところでフグの肝はどういうわけで入れてるんですか?

SCP-571-JP: 当たる心配のないフグ肝ほど旨いものってないでしょ?

住ノ江研究員: え……ヴードゥーのゾンビとかそういうのではなくて?

SCP-571-JP: ありゃ映画の作り話でしょうに。

<録音終了, 20██/██/█>

どうやらプロトコル西行の正体は西行法師の反魂の秘術であるらしい。もう色々とツッコミどころ満載である。
ところでフグの肝は美味しいから入れてるだけらしいが、入れなくてもSCP-571-JP-1、2にできるのだろうか…?
ちなみにインタビューの最後に映画の作り話と言っているが、寿司が人間を襲う映画は実在する*4

元ネタ解説

インタビュー中に出てきた「西行法師の反魂の秘術」の伝説だが、
説話集『撰集抄』の『西行於高野奥造人事』にて高野山で修行中、孤独に耐えかねた西行が
鬼(妖怪)人骨を集めて人を作ると聞いたのを真似てみた という話がある。鬼の手先生も真似たことがある。
「砒霜(三酸化二ヒ素)」や「イチゴとハコベの葉」はこのとき骨に塗ったものである。
このときは心がなく吹き損じた笛のような声を発するばかりで、 人のいない山奥に捨ててしまった という.
後に参内した機会に前中納言源師仲にこのことを話し、理由を教えられているが、
失敗したのは正しい手順の「乳香」ではなく死の穢れをを祓う「沈香」を焚いてしまったからとされている。
……ちなみに師仲曰く、「作られた人だとばらすと作った人も作られた人も消えてしまう」というが、寿司の場合は大丈夫なのだろうか?


財団で提供収容されているお寿司


どの寿司も食べることはできるようだが…


SCP-389-JP - WARSHIPS


軍艦巻き。
軍艦らしく艦隊行動を行って敵を攻撃する。寿司だよね?
行動中は鮮度が落ちないのでいつ食べても問題ないようだが、勝利の味はまた格別らしい。


SCP-520-JP - いなり虫


いなり寿司。
油揚げの方に異常性があり、米類や米料理を突っ込むと芋虫のようなかわいい挙動を見せる。慣れ寿司?
しかしひとたび食べると強い依存症にかかってしまう上に、油揚げのまま食べると自分が同等の異常性を保持した油揚げと化してしまう。


SCP-1047-JP - Data食う寿司もムキムキ


握り寿司…に酷似している、名前の通りデータを食べて筋肉を鍛える生き物。
人が寿司を前にして話す言葉や食べるための習性を理解しているようで、寿司に擬態して摂食されようとする習性がある。
口に入れると美味しく食べられる。口に入れた方がな


SCP-1134-JP - 爆転ニギリ スシブレード


回転寿司屋。
回転寿司屋らしく、寿司を回して勝負することができる。寿司を食べるところですよね?
食べても問題ないようだが、敗北の味はその場から走り去るほどしょっぱいらしい。



追記・修正はプロトコル西行を行ってからお願いします。


CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-571-JP - ニギリ・オブ・ザ・デッド
by tokage-otoko
http://ja.scp-wiki.net/scp-571-jp

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最終更新:2024年03月27日 08:49

*1 フグは有名なゾンビパウダーの材料。一説によれば、神経毒であるテトロドトキシンが酸欠と限定的な脳死状態を引き起こすというが……効能は眉唾物とされる。

*2 古来より常緑樹は永遠の命の象徴とされてきたが、落葉樹である柏も、春の新緑まで決して葉を絶やさないため、同様の扱いを受けてきた。また、柏餅に使われる葉に殺菌作用=魔除けの力があるのは広く知られているだろう。

*3 またの名を砒霜(ひそう)。『撰集抄』において西行法師が反魂の術に使用した秘薬。

*4 2013年公開「デッド寿司」