SCP-2719

登録日:2016/10/31 Mon 01:00:06
更新日:2024/03/01 Fri 21:25:26
所要時間:約 3 分で読めます





外側が内側になり、内側が内側となった。この時内側は外側であるか内側であるか。


SCP-2719はシェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクト(SCiP)のひとつである。
オブジェクトクラスはKeter。

項目名は『Inside』。日本語名もそのまま『内側』である。


概要

まずはじめに申し上げておくと、この項目はトップクラスに特別収容プロトコル及びオブジェクト説明が短い記事である。
なにしろ特別収容プロトコルが

SCP-2719は内側に留め置かれなければなりません。

というなにがなんだかわからない一文で終了しており、概要も

SCP-2719は可変性抽象的-形而上学的概念構成ポインタです。SCP-2719によって影響された概念は内側に入るか内側になります。SCP-2719についての更なる情報は知覚ある生物学的職員に提供されてはなりません。

たったこれだけである。本当に。

長いものになると普通に短編級もある*1これがどれだけ短いかを知ろうと思ったら、写真付きの彫刻クソトカゲの原典を見ればいい。SCP項目としては割と短いが、どういったオブジェクトなのか大体わかるし、
  • 「首をへし折るから常に誰かが見ていなきゃいけない」
  • 「塩酸に漬け込んでおかないとあらゆる生物種を殺す」
と取扱方法もわかる。
特別収容プロトコルは、そもそもそれを取り扱う人のためにどう取り扱うかを書くもので、執筆ガイドで「特別収容プロトコルには[削除済]を使うな」とまで明記されているほど。

つまりKeterな理由がさっぱりわからんが、オブジェクトである以上、なにかしら実験記録があるはずだし、とりあえず下を見よう。

おっ、これにもちゃんと実験記録があるじゃないか、どれどれ…

ポインタ 結果
2008 Opel Astra 内側だった。
D-5789 内側に入った。
D-5794 内側に入った。
D-5796 内側になった。
D-5802 内側に入った。内側は苦悩した。
収容ユニット2719-A 内側に入った。内側は死ぬ。
収容ユニット2719-B 内側に入った。
収容ユニット2719-C 内側になった。
D-5803 内側に入った。
D-5805 内側に入った。
D-5812 内側に入った。
D-5813 内側になった。
収容ユニット2719-B 内側になった。
ウレオボルイ、フィンランド 内側になった。
ウレオボルイの人々 内側に入った。避難手順として成功した使用法。
収容ユニット682-V 内側になった。
SCP-682 内側に入った。
SCP-682 内側になった。
SCP-682 内側に入った。
SCP-682 内側に入った。
SCP-682 内側に入った。
SCP-682 外側。
O5 内側になった。
Zermelo博士 内側に入った。
処罰 内側になった。
O5-7 内側に入った。
ブライト博士 内側になった。
腸の苦しみ 外側。(ナイストライ。)
腸の苦しみ 内側になった。
████博士 内側に入った。(もう二度としない様に。)
タリー、オーストラリア 内側になった。
タリーの人々 内側に入った。
超越性 内側になった。
O5-1 内側になった。
超越性 内側になった。
O5-2 内側になった。
超越性 内側になった。
O5-3 内側になった。
超越性 内側になった。
O5-4 内側に入った。
超越性 外側。
超越性 外側。
超越性 外側。

なんなのだこれは、一体どうすればいいのだ!

実験記録なのに何をしたんだか想像がつかない。
そこで読み取れるヒントから推理していこう。

解説


まずは概要。この時点でさっぱりわからない特別収容プロトコルはとりあえず無視。


SCP-2719は可変性抽象的-形而上学的概念構成ポインタです。SCP-2719によって影響された概念は内側に入るか内側になります。

順番にかみ砕いていくと、こう。

可変性 形やありようを変えられる性質
抽象的 決まった性質を持つが、あいまいであること。
具体的に「これだ!」「○○だ!」と表すことができない
形而上学的概念 姿かたちとして捉えられないもの。
たとえば、「心とはいかなる存在か?」「存在とはどういうことか?」のような議論//SCP界隈において頻繁に「実在」する神は例として不適かと
ポインタ 何かを指し示すもの。矢印

つまり、このオブジェクトは特定の概念を指し示す、目に見えないし触れない概念上の矢印である。
ただ、これだけでは何なのかハッキリしてこないので、もう少し踏み込んで考えてみよう。

まず、ポインタ

プログラミング言語のひとつであるC言語では、ポインタを用いて変数を操作する。
そしてSCP-2719によって「影響された」とする一連の現象は、これと非常によく似通っている。
まあ、とりあえず次のように覚えて欲しい。

変数 箱。容れ物。
ポインタ 箱の場所、位置、座標、それを記録したメモ書き

簡単な例を挙げよう。

  • ある箱におやつを入れ、戸棚2段目に仕舞った。
  • そしてメモ帳に「おやつ→戸棚2段目」と書いた。

「おやつ→戸棚2段目」のメモ書きがポインタで、面白いことにポインタ自身も「箱」の一種である。

プログラムでは「箱」に数字や文字列の「データ」を出し入れするが、ポインタもまた、メモ帳という「箱」に座標のメモ書きという「データ」が収まっている、と捉えればよいだろう。

そこでしばしば起こるのが、「データを箱に入れるつもりで、誤って『箱を指し示すポインタ』に入れてしまう」こと。

上の例なら「おやつ→戸棚2段目」のメモ書きにケーキを投入し、「おやつ→ケーキ」、つまり、「おやつはケーキの中に入っています」に変えた。
実際の「戸棚の2段目」ではなく、メモ書きの「戸棚の2段目」にケーキが入ったわけだが、新たにおまんじゅうでも買ってくるとおまんじゅうはケーキの中に仕舞われ、和洋折衷の暗黒デザートが誕生する……というわけである。


実験記録について

さて、前説明が長くなったが、SCP-2719は以上のようなポインタの性質を備えている。
端的に言えば、
A: 内側になった
「なにかしらの物質や概念」を入れ物にする
B: 内側に入った
Aの中に別の物質や概念を(入るかどうかはともかく)入れる

A, Bのどちらかの操作を提供する謎のツール、ということである。*2

じゃあそれを踏まえて実験記録を見てみよう。

ポインタ 結果
2008 Opel Astra 内側だった。
D-5789 内側に入った。
D-5794 内側に入った。
D-5796 内側になった。
D-5802 内側に入った。内側は苦悩した。
収容ユニット2719-A 内側に入った。内側は死ぬ。
収容ユニット2719-B 内側に入った。
収容ユニット2719-C 内側になった。
D-5803 内側に入った。
D-5805 内側に入った。
D-5812 内側に入った。
D-5813 内側になった。
収容ユニット2719-B 内側になった。
『2008 Opel Astra』はゼネラル・モーターズが販売している車の車種。
つまり財団がおそらく保有している車に、Dクラス職員を4人ぶちこもうとした。
ふたりはそのまま車内に入ったが、三人目は何の間違いだか、「内側になっ」ている。

その状態で四人目を入れようとするが、この時点で「内側」とはすなわち三人目であるため、「三人目」の中に四人目が入る。
…どういう状況なのか想像が難しいが、表現からある程度は推測できる。
ここでは「苦しんだ」「痛みを訴えた」「弾けて死んだ」ではなく「内側は苦悩した」、つまりこの時点での「内側」にあたる三人目が悩んだと表現されている。
つまり、「三人目と四人目が一つの体に入って二重人格のような状態になった」とか「あしゅら男爵よろしく合体した」とか、そんな事が起こったのだろう。

で、財団は何を血迷ったか、あるいはそれでこそ財団だからか。
人の中に収容ユニット、つまり大きなコンテナか装置のようなものを「代入」する。
とうぜん人は死ぬ。おそらくはじけ飛んだと思われる。
その後さらに2つ目のコンテナを入れた。財団は冷酷だが残酷ではない。

続けて3つ目のコンテナを入れようとしたが、今度はそっちが入れ物になった。
そして3人がコンテナに入るが4人目はなぜか入れ物になった。
そして再びコンテナを持ってきたが、4人目にとって幸運な事に、コンテナは入るのでなく入れ物になったので、死なずに済んだ。

次に行ってみよう。

ウレオボルイ、フィンランド 内側になった。
ウレオボルイの人々 内側に入った。避難手順として成功した使用法。
これは「フィンランドのウレオボルイという都市に、ウレオボルイの人々をそのまま入れた」ということであろう。
勿論ウレオブルイの人々はそのままだが、これが成立するならば大勢の誰かを別の場所に避難させられる素晴らしいオブジェクトである。

便利じゃないかこれ…と思うがそうは上手く問屋が卸さない。
どうやら、影響させた概念や物質が「内側になる」か「内側に入る」かを選択することは出来ず、結構な確率でランダム選択になる模様。
つまり、上の例でも運が悪ければ「ウレオボルイの人々」が内側になってしまい、元に戻そうにも何を突っ込んだら無難に済ませられるか? という状況に陥りかねないのだ。

次に行ってみよう。

収容ユニット682-V 内側になった。
SCP-682 内側に入った。
SCP-682 内側になった。
SCP-682 内側に入った。
SCP-682 内側に入った。
SCP-682 内側に入った。
SCP-682 外側。

クソトカゲのお手軽収容法。
どこに逃げ出してもあら不思議、気付けば収容ユニットの中に……とはならなかった。
クソトカゲは何を思ったのか、内側になった自分自身に入るという入れ子構造を繰り返す。*3
そして突然の「外側。」
要はどうにかしてSCP-2719から抜けだしたのだろう。流石は公式チート、こんなよくわからないものにすら適応する。
…一体どういう状態になっていたのか絵がまったく想像も付かないが。

O5 内側になった。
Zermelo博士 内側に入った。
処罰 内側になった。
O5-7 内側に入った。

ここからちょっときな臭いが、先のDクラス実験を見てZermelo博士は
O5*4に入ろうとしたのだと思われる。
単純な興味だったのか、あるいは完全に政治力を欲しかったのか。

結果的には成功した模様だが、その後「処罰」という概念に「O5-7」が放り込まれている。
つまりZermelo博士の背信行為を処罰したことになる。元のO5-7ごと。*5
まあ他にないだろうし仕方ない*6

で、こんな実験が最初から承認されるはずもないので、おそらくZermelo博士は勝手に独断でやっているに決まっている。
財団の博士はいくら何でもむちゃくちゃとはいえこういう奴はそうはいないだろうと思ったら…

ブライト博士 内側になった。
腸の苦しみ 外側。(ナイストライ。)
腸の苦しみ 内側になった。
████博士 内側に入った。(もう二度としない様に。)

財団の名物博士、ブライト博士やりやがった。
ブライト博士はかわいいもので、どうやら「お腹の痛み」を外側にはじき出したあと、別の博士に移し替えたようだ。
ドラ○もんにもそういうひみつ道具あったな。

(ナイストライ。)と書いたのはもちろんブライト博士であろう。
そして、(もう二度としない様に。)とかいたのは当然████博士である。
二度としてはいけないことの公式リストが増えた瞬間である。████博士もかわいそうに。*7

そもそもブライト博士は本体がアクセサリでいくらでも残機に移動できるんだから残機に移動すれば良かったんじゃないのか。
あとクソトカゲ殺したり(殺せてないけど)誰かが背信行為やらかすようなぶっとんだ装置を胃腸薬代わりに使うなよ。

タリー、オーストラリア 内側になった。
タリーの人々 内側に入った。

再度避難装置としての使い勝手を検証。
このまま問題がなければ積極的な利用も視野に入ったのではないだろうか。
が、結局そうはならなかった。

超越性 内側になった。
O5-1 内側になった。
超越性 内側になった。
O5-2 内側になった。
超越性 内側になった。
O5-3 内側になった。
超越性 内側になった。
O5-4 内側に入った。
超越性 外側。
超越性 外側。
超越性 外側。

O5がおそらく、どうせなら自分たちが超越性を得ればSCPオブジェクトを押さえ込めると判断したのだろう。
そこで超越性を獲得するためにこれを使った。
普段O5はSCPに触れてはいけないので、今回は完全に期待を託して実証しようとしたんだろう。*8

で、O5-1、O5-2、O5-3はいずれも失敗するも、O5-4が見事に成功…。
してないよねこれ。
超越性が外側にあるってことは超越性を得たO5-4はどっか行っちゃったよねこれ。
三回も繰り返してるのが結果へのパニックを想像させる。
(つーかこのSCP絡みだけでO5が二人もログアウトしてるのだが…意外とメンバーの入れ替えが激しいのだろうか?)


最後に

実験記録については以上である。
こいつがKeterなのはおそらく、スナック感覚で世界を滅ぼせるオブジェクトにもかかわらず、まともな研究が行えないからであろう。
Zermelo博士やO5のような悪用や濫用、無謀な試みの歴史があるため、現在SCP-2719は
SCP-2719についての更なる情報は知覚ある生物学的職員に提供されてはなりません。
と半ばアンタッチャブルな扱いを受けている。
流石にみんながみんなブライト博士みたいにお茶目じゃないだろうし。
…ブライト博士がお茶目のカテゴリに入る財団も財団だが。
あと結局、内側になったり入ったり挙動が変わる点についても、ランダムなのか別の理由があるのかハッキリしないし。

そう考えると、「一応はちゃんと収容されててそれ自体は意思を持たないし勝手に動かない」*9のにKeterという
ある意味珍しいオブジェクトである。


最後に、冒頭にあった一行だけの収容プロトコルについて述べよう。
SCP-2719は内側に留め置かれなければなりません。
(SCP-2719 should be kept inside.)
オブジェクトは当然、収容(is kept inside)されていなければならない。
メタ的に言えば、「SCP-2719 - Inside」が「Insideでなく(is not inside)なってしまう」のも問題だろう。

しかし、こうも考えられないだろうか?
もしSCP-2719という特異な概念が「内側にある(Was inside)」のではなく、ありふれた何かの「内側に入った(Went inside)」としたら……。


ちなみに「ユカ上手」というTaleではこのSCPの収容違反を起こした博士が暴走。
SCP-877-JPとクロステストをするというとんでもないことをやらかしている。
何故かその場に居たのはブライト博士と思われる猿の姿まで確認されている。
何を内側に入れたのかは現時点では特記されていない。
が、ブライト博士がSCP-297とか持ち出してる時点で容易に想像できるだろう。

加筆・修正 内側になった。
このページ 内側に入った。


CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-2719 - Inside
by Randomini
http://www.scp-wiki.net/scp-2719
http://ja.scp-wiki.net/scp-2719(翻訳)

ユカ上手
by crow_109
http://ja.scp-wiki.net/shark-of-sappho
この項目の内容は『 クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス 』に従います。
この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • SCP Foundation
  • SCP
  • SCP-2719
  • Keter
  • Randomini
  • 内側
  • 外側
  • 概念
  • プログラミング
  • 変数
  • ブライト博士

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2024年03月01日 21:25

*1 大概は繰り返しになっているので、見た目ほど読むのに時間はかからない

*2 Aが行われたとき、それまで入れ物だったものがどうなるかは不明。C言語のポインタの性質上、おそらくは単にSCP-2719の捕捉対象から外れるだけなのだろうが、もしかすると消えてなくなるのかもしれない

*3 あるいは、財団がトカゲを殺害しようとして不可思議な入れ子に突っ込んだ、という解釈もある

*4 財団の一番偉い人たち。全部で13人いる。

*5 「O5」だけを概念にセットしていることから、人の中に入ったのではなく役職だけ奪ったという見方も存在する。その場合でも元のO5-7がどこに行ったのかは結局不明だが

*6 別解釈として、Zermelo博士が別のO5に入っていて、ムカつくO5-7をO5権限でぶっ殺したというものもある。この場合、もうZermelo博士は完全にO5としての権限を握ってしまったことになり危険である。…がそんな記録が報告書に記載されるとも思えないのでおそらくはO5-7がZermelo博士というのが有力であろう

*7 ちなみに英語圏の「Nice try」は「惜しかった」という意味なので、ブライト博士にお腹の痛みを入れようとして失敗し、やり返されたのでは? という話もある。

*8 というか超越性を下の職員に与えたら自分たちの首がヤバイし。

*9 詳細な説明がないので「恐らく」という断りが付くが