ヘカテー(ギリシャ神話)

登録日:2016/10/28 (金) 22:59:00
更新日:2024/01/25 Thu 23:32:31
所要時間:約19分で読めます









この御方に クロノスの御子ゼウスは

他の者たちに抜きんでた栄誉を与えられた



ポセイドンが獲物を授けようとも

ヘルメスが家畜を与えようとも



彼女はそれに勝るものをたやすくさずけたり

それらを造作も無く奪われたりもなさるのだ




その気ひとつで 気まぐれに

お気の向くままに ― 





― ヘシオドス「神統記」 ヘカテ(しょう)より抜粋






ヘカテー(Hecate)*1とはギリシャ神話に登場する女神である。
冥府神であり月の女神、そして魔女たちの長としても有名。
しかし実際はギリシャ神話成立よりもさらに古くから存在し、現代にいたるまで独自に信仰を集め続けてきた類まれな女神。


【概要】

ヘカテーはギリシャ神話の女神として広く知られている。
オリュンポス十二神ではないものの、後述するようにかなり優遇されている女神でもある。
魔術とその行使者、そして産婆の守護者であり、幽霊・豊穣・罪の(あがな)いと浄め・出産を司る。

名前は日本語では「ヘカーテ」や「ヘカーティ」とも表現されるが、原文の発音に近い「ヘカテー」がメジャーである。
名前の由来は諸説あり、アポロンの別名ヘカトス(Hecatos 遠くからはたらきかけるもの)の女性形とも
古代ギリシャ語で意思を意味する言葉、さらにはエジプト神話のカエルの姿をした女神ヘケト(Hecete)とも
言われているがどれが本当の由来かは未だに不明である。

多くの別名を持つことで知られており、「ラミアの母」「霊の先導者」「女魔術師の守護者」「死者たちの王女」「無敵の女王」「女救世主(ソテイラ)」、
カトリックからは「冥界の女王」「魔女たちの女王」「地獄の雌犬」という数々の厨二病じみたあだ名を進呈されている。
象徴はナイフ(助産術の象徴)、牝馬、蛇(不死の象徴)、松明、くぼみのある自然石。
また彼女を象徴するとされる花は、ケルベロスとも関係の深い事で知られるトリカブト


【経歴】

ヘカテーは非常に長い歴史を持つ女神で、かつ現在に至るまで信仰され続けており
しかもその経歴の中で多数の神々を取りこんできたため時代ごとの変化が非常に大きい。
なので便宜上ここではヘカテーの経歴を4期に分けて解説する。

○ギリシア神話以前のヘカテー

ヘカテーはギリシア神話の神として有名だが、その起源は女神信仰発祥の地といわれるアナトリア半島(現代で言うトルコ近辺)で信仰されていた神である。
それが紀元前6~5世紀ごろにギリシャ神話に取り込まれたものとも言われているが、
エジプトで初期王朝時代(BC30世紀ほど)より信仰され続けていたカエルの女神ヘケトが原型だという説も存在する。
ただ当のアナトリア語が既に死語となってしまっている上に資料そのものが少ない為、真実は謎のままである。

○ギリシア神話のヘカテー

血統・血縁について

ギリシャ神話におけるヘカテーは、古き神ティターン神族の直系とされる女神である。
ペルセースとアステリアの娘にしてティターン神族の末裔の一人でありアルテミスとは従姉妹の関係でもある。
ただしいくつかの異説があり、ゼウスデメテルの娘、コイオスポイベの娘、
あと夜の女王ニュクスの娘であるという説もある。

またアルテミスと同様、配偶神を持たない処女神であり夫・子供は存在しない。
…しないはずなのであるが、魔女の守護者であるためか数多くの魔女の母と同一視されることが多い。
有名なところではスキュラの母クラタイイス、キルケーの母ペルセーイスとメディアの母エイデュイアなど。
あとなぜか海の神との関係が深く、スキュラの父ポルキュスや、一説ではトリトンを愛人とするともされる。

またヘシオドスの名婦列伝では出自が異なっており、アルテミスの怒りを鎮めるために生贄に捧げられたミケーネの王女イーピゲネイアが、
彼女の毅然とした振る舞いに怒りをおさめたアルテミスによって救い出されヘカテーとなったと言われている。

・神性・神格について

ヘカテーの神性として代表的なものはまず第一に死者を導く冥府神、そして月と闇夜の女神
大地の恵みをもたらす母神、そして魔術とそれを扱うものの守護神である。
しかし前述のとおりオリュンポス十二神には選ばれておらず、
彼らやそれに並ぶ神々よりは一歩譲る位置にいるような描写が多い。

冥府神の一柱としては冥王ハデス冥妃ペルセポネに次ぐと言われる。
格は諸説あるがハデス>ペルセポネ>ヘカテーの準に格が高いというのが有力であり、
某ジャンプ漫画の魔界三大勢力筆頭である雷禅黄泉風に言うなら
この三柱の神で三大冥府神を形成しているといってもあながち間違いではない。
つまるところ冥界のビッグ3であろう。

しかしヘカテーは「ハデス夫妻の侍女」として扱われることが多く、この二人とは厳然たる格差がもうけられている。
冥王たるハデスは無闇に冥府を離れず助言や道具の貸与・人員の派遣という形で他者とかかわる事が多いが
ヘカテーはその指示を受けて実力を行使したり冥界の亡者や魔物を直接統括したりする、
いわばハデスの切り札・懐刀といった立場にある。

平時は配下の妖精ランパスらとともに松明を手にして冥界を照らし亡者を導くほか、
冥府の刑罰を執行する実働部隊である復讐の女神エリニュスを配下に置く。
その他にも配下・眷族とされる魔物の数がやたらと多い。
そして主命とあらば自ら戦場に赴き、敵を冥界の業火で焼き尽くしてのける(詳しくは後述)

月の女神としては満月を象徴するセレネ、満ちゆく月・三日月を示すアルテミスと並び
欠けゆく月・新月を司ると言われている。
ただ前の二人ほどには月の女神として有名とは言えない。

大地の恵みをもたらす母神としては、特に出産に関してあらかたなるご利益をもたらすとされる。
ただその出産に関してもヘラ・アルテミス・エイレイテュイアら出産の女神たちほどメジャーではなく
母神としての格式では前述のペルセポネ、そしてその母デメテルにはとても及ばない。

唯一、魔術及びその使い手の守り神としての立ち位置はギリシャ神話の中でも特別で、他の神とは一線を画している。
数々の高名な魔女・魔術師たちの守護者として扱われ、後世の「魔女たちの女王」という立ち位置の源となっている(後述)

ただその序列のわりには不自然なほど格上として扱われるエピソードが多いのも彼女の特長。
血統としてはティターン神の末裔でその栄光を引き継ぐものとされ、
その力は天上・地上・地底の三界にまたがるほかポセイドンの領域である海上にまで及ぶとされる。
後述するが神話や伝承の中でも凄まじい実力や特別扱いを思わせる記述が多い。

ギリシャ神話では外様の神なので格付けでは一段下に置かれたものの、大衆からの人気・支持・信仰は絶大なものがあったということなのだろうか。

神話・伝承について

ギリシャ神話でのヘカテーは、基本的には冥王ハデス・冥妃ペルセポネ含めた12神や英雄たちをサポートするような役回りが多い。
その中でも一番有名なのはハデスによるペルセポネ誘拐の際のエピソードだろう。(詳細についてはこちらを参照のこと)

娘の行方が知れなくなったデメテルは、娘が何か悪いことに巻きこまれたのではないかと危惧した。
そんなデメテルは「悪いこと」にかけては他のどの神よりも詳しい、闇と罪の女神ヘカテーを頼る。
ヘカテーはペルセポネの叫び声を聞いていたが、姿までは見ていなかった。
デメテルはヘカテーに松明を借り暗闇のなかを片隅まで探すが、娘の姿はどこにも見当たらなかった。

途方にくれたデメテルにヘカテーは太陽神ヘリオスを頼るように助言する。
そのとおりにしたところ、果たせるかなヘリオスはニューサの野原で白昼堂々と行われた誘拐劇を目の当たりにしていた。
娘をかどわかしたのがハデスであることを知ったデメテルはすべてを理解し、(ヘリオス)(ヘカテー)を連れてゼウスのもとへと向かったのである。

しかしなんだかんだでペルセポネが正式にハデスの妃として冥府に降り立ったときはヘカテーが侍女として傍に付き添い、
そのまま冥府の怪物や魂達の女主人というポジションにおさまった
ということになっている。
ハデスとペルセポネの出会いの物語は、ヘカテーの冥府入りのエピソードでもあるのだ。

また、ヘラクレス誕生を手助けしたためにヘラの怒りをかいイタチに変えられてしまったガランティスを憐れんで自身の守護獣にするという厚遇で迎え入れたという逸話もある。(詳細はこちらを参照)
ヘラにエイレイテュイアさらにはモイライと、出産にかかわるすべての神にうとまれたガランティスにひとりヘカテーだけが手を差し伸べたのだ。

あとアルゴナウタイではコルキスの守護神にしてメディアの信仰する神として登場し、実際に召喚されて力を貸したりしている。

またトロイアの女王ヘカベーはヘカテーの巫女とも化身とも言われている。
オデュッセウスに奴隷としてさらわれた彼女は犬に化けて逃げ出し、彼に苦難がふりかかるよう呪いをかけた。
これがオデュッセウスの長い漂泊の旅の引き金になったのだという。

またアテナアラクネを蜘蛛に変えた際には「ヘカテーの薬草の汁」を振りまいたとされる。

しかしそういった裏方の役割にとどまらず、絶大な実力をうかがわせる強烈なエピソードも同時に持っているところが彼女の独自性。
その中でも最たるものは巨人たちとの宇宙の覇権をかけた争い『ギガントマキア』参戦の際のものだろう。

「神の力では殺せない」巨人(ギガス)たちに対し12神たちが遠くから弓矢を射たり島や山などを投げつけたりして動きを封じる中、
冥王ハデスの命により主に代わって参戦した彼女は冥界の火をともした松明を手にギガスの一体であるクルティオスを
真正面から焼き殴り倒すというとんでもない活躍を見せた。
とどめこそヘラクレスに刺してもらっているが、オリュンポス十二神以外でギガスを倒せたのは多数参加した神々の中でも
これも青銅の棍棒を手に真正面から巨人に挑み圧倒した「時間」を司る三姉妹の女神モイライと彼女のみ。

また、上述したガランティスのエピソードにしても、見方を変えれば怒りに燃えるヘラでさえヘカテーのやる事に関しては沈黙せざるを得ないという、ヘカテーの強大さが露になった話であるとも取れる。
ヘラの怒りを(しかもゼウスの浮気絡みである)買った者を眷属として取り立てるなど、ヘラに喧嘩を売るに等しい行為であるにも関わらず、恐れる様子もなくそれをやってのける。これもまたヘカテーという女神の底知れなさの一端を見せたエピソードといえよう。

ちなみに冥府神になった経緯は、天界で出生したときのヘカテーの魔力に神々が恐れをなし、
アケロンの河に投げ入れ冥府に流れ着いたからという逸話もある。*2

なおヘシオドスの神統記ではまるまる一章使ってヘカテーへの賛辞が述べられている。(冒頭文参照)
それによるとゼウスによって天界、地上、海洋の全てで自由な行動権を与えられており、人間にあらゆる分野での成功を与え、
他の神に祈る前にヘカテーに祈っておけばご利益が増すとも書かれており、オリュンポス12神でないにもかかわらず、優遇されている。*3

信仰の対象としてのヘカテー

彼女を表すとされた像は、背中合わせに張り付いたような三面三体の女人像である。
この像は日本の道祖神のように三つ辻に、それぞれの道の方向を向くように安置された。
そして新月の夜には伝承通り手にした松明に火がともされ、これも道祖神と同じように旅人が旅の安全を祈願する場となった。

これはヘカテーが夜の十字路や三叉路に姿を現すと伝えられていたからである。
古来より十字路や三叉路に精霊が集まる為と言われており、古代人はそこで集会を開き神々を傍聴人としたという。
冥府を照らす彼女の灯火は、そのまま暗い夜道を照らす明りとなり、またこれから死にゆく人を冥府まで導く灯火ともなった。
このため彼女は三叉路を意味するトリウィア(Trivia)という言葉を冠して呼ばれることもある。*4
またこの姿から「三位一体」が彼女を示す一つのキーワードとなり、他の神々を次々と取りこんでいくことになった。(後述)

彼女へのお供え物は卵や黒い山羊(冥府神なので黒い獣が捧げられた)・タマネギ・魚で、貧民達の食料とされた。
(これらの供物は「ヘカテーのご馳走」ともよばれる)
また彼女への供物として、家の戸口に鶏の心臓と蜂蜜の菓子を供える風習があったという。
また出産を司るため、彼女に祈れば陣痛を和らげられ、安産できるとも言われた。

あとギリシャの穀倉地帯テッサリアでは、彼女を信仰する巫女たちが彼女の力を使い魔女の薬を作っていたと言われている。
一説では彼女らは血なまぐさい儀式を行っていたともされ、「ラミアの母」「魔女たちの女王」という伝承の基になったと言われている。

○中世のヘカテー

魔女たちの女王

中世において欧州全土でキリスト教の布教が進んだが、その当時ギリシャの神々はすでに信仰の対象から外れており
神話・物語の中だけの存在となっていた彼らは教化の妨げとして問題視されることは無かった。

その中でヘカテーは中世でもなお魔術やその行使者・そして産婆たちの守護者としての信仰を集めており
また他のギリシャ神話の神やルーツとなるアナトリアの神々のように生贄を要求することもあったため
それらを忌み嫌うキリスト教からは異教の神、デーモンとして迫害されることとなった
そして彼らから彼女に進呈された異名が「魔女たちの女王」である。

デーモンとしての彼女は犬、獅子、馬の三つの頭を持ち地獄の猟犬を引きつれた異形の女神として描かれた。
「地獄の雌犬」とは、この姿のヘカテーに対する蔑称である。
また生贄としてカエルを要求したと言われ、ヘケトの影響を受けていた可能性もある。
しかし異端として迫害されながらも彼女への信仰は細々と続けられ、現代へと至ることになる。

ワイルドハントの首領

欧州全域に伝わる妖精、妖怪、精霊、魔女、死者で編成された狩猟団「ワイルドハント」。
兵隊の構成種族も代わり、ドラゴン悪魔、トロールなども加わる事がある。
そのリーダーの一人としてヘカテーの名も挙げられている。

北欧神話とヨーロッパ各所の伝承で出現した軍団の集合体のような組織だと思ってもいい。大体一緒くたで扱われる。
活動場所はヨーロッパ全域で、地域によって率いる者が変わる。支部長みたいなもんだろうか。

日本での紹介

日本では江戸時代後期の蘭学者・山村才助の著作である「西洋雑記」にその名を見ることが出来る。
この本ではディアナ・アルテミスのもう一つの姿、呼び名としてヘカテーが紹介されている。

彼女らは地獄及び現世と天上を統べる神であり、「此神神通廣大」などの仰々しい表現までされている。
西洋、東洋で地獄が分かれているという認識では無いらしく、ヤマ(閻魔)よりもやばい神様のような扱いにされている。
見様によっては三相の力でヤマも兼任してる節がある。
また何故かヘカテーは三相の力でアテナや月そのものと合体しており、この時点で大分よく分からないモノに変貌している。
ちなみに当時の日本ではカタカナで「ヘカッテ」と呼ばれていたらしい。

○近世~現代のヘカテー


現在ヘカテーは慈悲深い母神というよりは冥府の女神・魔女の王といった、禍々しい存在としてのイメージが強い。
しかし近現代の多神教的信仰・女神崇拝の再評価という流れの中、
ウイッチクラフトウィッカと呼ばれる現代魔女信仰者たちの信仰の対象となり
発祥から数千年の時を経て今なお魔術とその実践者たちの守護者として存在し続けている。


【解説】

○起源について

前述したが、彼女が本来どのような女神であったかは明らかにされていない。
起源である古代アナトリア語がすでに死語化しており、発掘物などの資料も少ないためである。

しかし確実なのは、神の力が及ばないはずの巨人を真っ向からねじ伏せる力を秘めた恐るべき女神でありながら、
一方で暗い夜道に明かりをともし、貧しい人々に精のつく食料を与え
死にゆく人々をその手の松明で導き、求めるものには知恵と力をさずけ
なにより女性にとって何ものにも代えがたい喜びであると同時に避けがたくこらえがたい苦痛でもある出産に際しはるかな高みから直接助けの手を差し伸べ寄り添ってきた、
市井に暮らす人々にとって最も近しい神でもあったという事実である。

そうであるからこそ彼女ははるか古代から現代に至るまで、弾圧を受けた時期もありながらも信仰の対象でありつづけたのだろう。
最も古き神の一柱にしていまなお信仰を集め変化し続ける類まれな神性として。

○三位一体について

古代アナトリアでの女神信仰において、女神は3つの相を持つとされた。
すなわち躍動する生命力を体現するうら若き乙女慈愛にあふれる成熟した母親
そして知恵をたくわえ死を暗示する老婆の三相である。
三面三体のヘカテー像もこの考え方に基づくものであり、乙女:ヘベ、母親:ヘラ、老婆:ヘカテーの三相で表されていた。
そしてその後も数々の女神の老婆の相、闇の部分として同一化されるようになっていったのである。

彼女の代表的な神話であるペルセポネの略奪においても、ヘカテーはデメテル・ペルセポネ母娘にとってもっとも近しく頼れる存在として登場する。
また、デメテル自身もヘカテーのように松明を持ち闇の中をさまよった。
これはこの三者が明確に同一視されていたことを示す神話であろう。
そして芽吹きの春・収穫の秋がそれぞれペルセポネ・デメテルによって象徴されたように暗く閉ざされた冬
あるいはすべての命を焼き尽くす夏ヘカテーに割り振られ彼女らは季節の三相を示す女神として定着したのである。

他にもヘカテーは半月、満月、新月の月の三相を表したり(セレネ・アルテミス・ヘカテー)
天界・地上・冥界の世界の三相を表すとされたりもした。(セレネ・アルテミス・ペルセポネ)
言い換えれば、名だたる女神たちの闇の部分を一手に引き受けていたとも言えるだろう。
後代においては三相とされた女神をすべて自身と同一化し、デメテルやアルテミス、ペルセポネらの化身として扱われたこともあったという。

見方を変えれば、ヘカテーが他の女神を自身に取りこんだというよりもむしろ、すべての女神の起源をたどれば
女神信仰の祖となった存在のひとりである彼女に行きつくという解釈もできるだろうか。
またヘカテー自身はキリスト教においては異端とされたが、彼女の「天上・地上・地下に力を及ぼす」という立ち位置は
神の子イエスのものとして引き継がれていった。

○配下・眷族について

前述のとおり冥界で魔物たちを直接率いる立場の彼女は、配下・眷族とされる魔物がやたらと多い。
代表的なのは彼女とともに松明を持ち闇を照らす、冥界のニンフであるランパス
東方Projectクラウンピース」のモデル)
罪人を執拗に追い立て残酷な刑罰を下す復讐の女神エリニュス*5の三姉妹アレークトー・ティーシポネー・メガイラ。
(FFシリーズ・女神転生シリーズ「フリアイ」、ファイブスター物語「アレクトー」「ティスホーン」「メガエラ」のモデル)
青銅とロバの足を持ち悪夢を操る女怪物エンプーサ*6(女神転生シリーズなど)、変身術に長けた女吸血鬼モルモーが有名。

また彼女はしばしば犬を引き連れて現れるとされているが、その犬はヘルハウンド・ブラックドッグと呼ばれる地獄の猟犬、
果ては冥王ハデスの直轄である地獄の番犬ケルベロスのことさえあるという。

もともと他の地域での主神格で眷族・配下ごとギリシャ神話入りしたのと、
それ以降も多数の女神たちと関連付けられたように、類似した要素を持つ魔物たちを取りこんでいったためであろうか。

なお彼女の異名の一つに「ラミアの母」というものがある。
ラミアという言葉は蛇の姿をした魔物の固有名詞であると同時に
吸血鬼夢魔などのあらゆる女の怪物たちを指す総称でもある。
これを踏まえれば「ラミアの母」とは、すべての女怪たちの母という意味なのかもしれない。


【創作文化におけるヘカテー】

ヘカテーはギリシャ神話の神々の中ではわりと有名なほうではある。
さすがにオリンポス12神にはかなわないが、それでも数多くの創作物の中に彼女の名を見ることが出来る。
ただその場合慈悲深い母神というよりは「冥府の女王」「魔女たちの王」のダークなイメージで登場する事が多い。
これはキリスト教の影響が大きいのはもちろんだろうが、暗闇や地獄、魔術など悪とされることが多い分野をつかさどりながら、
けして単に邪悪な神というのではなく光り輝く神々と対等の地位と同等の力を持つ女神だという独自性を買われてのことでもあるだろう。

有名なところではシェイクスピアの四大悲劇のひとつマクベスで、3人の魔女達の崇める女神として登場している。
ヘカテーは魔女らに、主人公マクベスに「予言」を伝えたことを諫め、彼に新たな(かつ不吉を齎すような)予言を与えるように仕向けたのである。
またゲーテの戯曲ファウストでは哲学者ターレスと口論するアナクサゴラスが月の女神に対し「ディアナ、ルナ、ヘカテの三つの名と姿を持つ神」と呼びかける描写がある。


現在でも多くの媒体でヘカテーの名を見ることが出来る。
上記した独自性からか、ソーシャルゲームなど実在の神話を世界観の下敷きにしたユニットが多数存在するゲームには大抵出演している。(LOV、神撃のバハムート他多数)
また灼眼のシャナ頂の座ヘカテーGのレコンギスタMSヘカテー
また現実世界でもPGM社の対物ライフル「へカートII」の名前の由来になっている。

その中でも女神ヘカテーをモチーフとしたキャラクターとして特筆すべきものは女神転生シリーズの魔王ヘカーテ
そして東方projectシリーズのヘカーティア・ラピスラズリだろう。

  • 魔王ヘカーテ(女神転生シリーズ
    伝承の神や悪魔をコンピュータを用いて召喚するという一連のシリーズ。
    この作品でヘカテーは「ヘカーテ」名義で初作から一貫して魔王として登場しており、しばしばストーリー上のボス役も務めた。
    初作(旧約Ⅰ)ではマズルカの回廊をあずかる魔王として登場。その姿は人間とあまり変わらず、美しい女性のもの。宵闇のような色の髪と肢体の美しさが印象に残る。
    Ⅱ(旧約Ⅱ)では蛙の顔をした鬼女「ボルボ」名義で登場。公式の解説によると、ヘカテーと同一視された地母神であるらしいが詳細は不明。
    そして真・女神転生Ⅱ以降は獅子・犬・馬の三頭を持つ「地獄の雌犬」の姿で登場。
    服装はなんとボンテージファッションで、異様な頭部と妖艶な肉体のギャップが強烈な印象を残した。

  • ヘカーティア・ラピスラズリ東方Project
    東方紺珠伝7面ボスとして初登場したキャラクター。
    月、地球、異界それぞれの地獄を司る女神で、それぞれの世界にひとつずつの体を持っている。
    また配下に松明を持つ地獄の妖精クラウンピースを持つなど、随所にヘカテーの要素がちりばめられている。
    また首のチョーカーから異界・地球・月を象徴する球体を鎖につけてつないでいるというファッションをしており、
    「三つの世界を縛りつけつなぎとめる女神」すなわち「重力」 を具象化した存在であるということを暗示するような外見をしている。
    なお現時点で設定上東方Projectの全キャラクター中ぶっちぎりの最強キャラである。ヘカテーがモチーフの時点で察しがついていた人が多かったとか。

と、数々の凄まじいエピソードをもつ彼女であったが、何故かアニオタwikiにヘカテーの項目が作られなかった。
前述の通り、ヘカテーをモチーフにしたキャラや兵器は少なくないのだが…




追記・修正はギガスを松明で殴り殺した方がお願いします。

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最終更新:2024年01月25日 23:32

*1 ヘカテー:ギリシャ語 Hekátē 古代ギリシャ語:Ἑκάτη

*2 なおこの逸話では、最終的にヘカテーはハデスの妻になった。

*3 ただしホメロスの著作にはヘカテーはいっさい登場しない。

*4 このトリウィア(Trivia)という言葉は、テレビ番組で有名になった「トリビア」と全く同じものである。

*5 エリーニュス(古代ギリシャ語:Erīnys ローマ神話ではフリアエ(Furiae) 「フリアエ」は英語では「フューリー」(Fury)、複数形はフューリーズ(Furies)東方紺珠伝6ボス純狐のテーマソング「ピュアヒューリーズ~心の在処」のヒューリーズとは彼女らのことを指す。

*6 詳細はラミア(ギリシャ神話)の項目を参照。