ペルセポネ(ギリシャ神話)

登録日:2016/10/28 Fri 08:03:46
更新日:2023/06/11 Sun 14:30:22
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■ペルセポネ

ペルセポネ」は、ギリシャ神話に登場する女神。
冥府の女王として知られている。
象徴は水仙、柘榴、蝙蝠。

一般的には主神ゼウスと大地母神デメテルの娘だが、ギリシャ神話が確立する以前の神話ではポセイドンとデメテルの娘ともされていた。
「コレー(乙女)」という名前で呼ばれることもあり、冥府の女王として冥府にいる時の彼女を「ペルセポネ」、地上に戻っている時の彼女を「コレー」とそれぞれ呼ぶという説明も残る。
なおローマ神話では「プロセルピナ」と呼ばれ、春をもたらす農耕の女神として扱われている。

「ゼウスの娘の中で最も高貴」とまでゼウス自身に評される程に強大で有力な神性ではあるが、夫のハデスと同様に、を忌避する古代宗教の観点からかオリュンポス十二神には数えられていない。
反面、母のデメテルと共に女神の死と再生に纏わる「エリウシス密儀」の主神としても知られており、
古代オリエントから伝播したと考えられる大地の女神の暗黒面を示す神性の一側面であると分析されている。
※「エリウシス密儀」等の詳細に関しては“デメテル”の項目を参照。


【出自】

前述の様に父神はゼウス、母神はデメテル。
ギリシャ神話では色々と神話を纏めたり、面白おかしく信仰上の縁起が脚色されたりした結果、
デメテルがゼウスの姉とされているために姉弟相姦で生まれた娘となってしまっている。 

……一応解説すると、これはギリシャ神話が統一の後に大神ゼウスを中心に神系譜が再構築されていった事実を示しており、
ギリシャの支配に伴い迎え入れられた新たなる秩序(ゼウス)の下にアッティカの有力な氏神であったデメテルが組み入れられた事を意味している。
現在知られているギリシャの信仰の基本となっている「神統記」あたりだと“伏床に入り”と、女神との聖婚を伝える慎ましい描写となっているが、
後の下世話な脚色をされたギリシャ神話だと、姉(妹)の豊満な肢体に欲情したゼウスにレ○プされた事にされた。

ゼ「なんでや!?」

なお、ペルセポネはデメテルの娘とされているが、神話研究の場では“同じ女神の別の名前”とも考えられている。
これは、ギリシャではデメテルに至る古代オリエントから続く大地母神の神話の系譜がペルセポネにも見られるためで、この事からデメテル信仰から零れ落ちた属性が娘神のペルセポネとして分けられたと推察できるからである。

「神統記」以後のギリシャ神話成立以前の古代ギリシャの神話では、ポセイドンとデメテルの娘であるデスポイナとも同一視されていたが、これも上記と同じ理由で以前にはポセイドンが同地の主神の地位にある神だったから。
つまり、ギリシャ神話に於けるポセイドンはゼウスの支配の確立に伴い多くの属性を奪われた“閑な神”*1だったと言える。

天界のNo.2とされつつも妙に海皇様がdisられている印象があるのも、そんなところから来ているのかもしれない。

因みに、ポセイドンにもデメテルを○イプしたとされる神話がある。しかもお互いにに化けた状態で。
その辺の神話についても当人達の項目にどうぞ。


【ペルセポネ神話】

ペルセポネに纏わる神話として特に有名なのが、ギリシャに於ける四季の誕生と絡めて伝えられる、冥府の王ハデスとの婚姻の神話である。

例のごとく、神話によって面白おかしく脚色されてしまっているが大筋は以下の通り。


ある日の事、ゼウスは弟である冥府の王ハデスからコレー(ペルセポネ)を見初めたので花嫁として戴きたい、との相談を受ける。*2

建前上は三界の統治を分けあったとはいえ、特に貧乏クジを引かされてしまったといえる兄弟神の相談を受け、
ゼウスは母親であるデメテルに婚姻を赦して貰えるかどうか伺いを立てにいく……が、娘絶対溺愛するウーマンたる彼女には素気無く断られてしまう。

血肉を分けあった肉親同士の子供を叔父が欲しがっている異常を止めようとした訳ではなく、
単に娘と別れるのを嫌がったからとか、ハデスが暗い冥府の神だったから……と語られる場合が多い。

デメテルに断られて困ったゼウスは、コレーが母親から離れたところをハデスに拐わせるという一計を案じる。
なお、誘拐はゼウスの提案という説もあれば、痺れを切らしたハデスが独断で行ったとする説もあるが、
後述のように天の理であるゼウスが略奪を認めてしまっているので、どちらにせよ同罪である。

そして、決行の日。
ニンフ達と共に花摘に出掛けていたコレーは、一際美しい水仙の花を見つけて近寄ったが、これこそが冥府の王の罠だった。
突如として黒い馬(黄金の戦車とも)に乗り大地を割って出現したハデスは、そのままコレーを拐って冥府へと連れ去ってしまったのだ。

さて、一瞬のうちに姿が見えなくなったコレーの行方をデメテルは聞いて回るが、余りに一瞬すぎて誰も目撃していなかった。
彼女は次に月と暗闇の女神ヘカテーを頼り、その松明を手に暗闇の片隅まで探すが、娘の行方は杳として掴めなかった。
このまま完全犯罪成立か……と思われていた所に、ヘカテーは「かくなる上は太陽神ヘリオスに訊ねましょう」と助言する。
はたせるかな本物の太陽神ヘリオスは白昼堂々行われた誘拐劇を目の当たりにしており、デメテルの詰問に応じて見たままのことを伝えた。

ハデスが娘を拐った事を知ったデメテルは、(ヘリオス)(ヘカテー)を伴いゼウスに抗議に行く。
これに関しては、誘拐がゼウスの差し金だと看破していた説の他にも、ヘリオスに告げ口された説、当のハデス以外には冥府に力が届く神が最高神くらいしかいないため、直々に罰を与えてもらおうとした説などなどがある。

しかし、前述の様にゼウスはこれを却下したばかりか、「冥府の王たるハデスなら夫として不足はあるまい?」として開き直り懐柔にかかる。
これにショックを受けたデメテルはゼウスの決定を覆せないならと、腹いせに大地の女神としての仕事を放棄してオリュンポスから去ってしまう
彼女が消えた事により、光は届かなくなり、水が弱まり、生気が枯れた大地からは実りも消えてしまう。

流石に焦ったゼウスは、いつもの様に伝令にヘルメスを立てると、地の果てで老婆に姿を変えて隠遁していたデメテルの説得にかかるが、
彼女は「娘を戻さなければ人間なんかどうなってもいい」とまで言うではないか。

人間からの貢ぎ物が無ければ神も困る、と云うことで、ゼウスは今度はヘルメスを冥府に送り、ハデスに事情を話してコレーを戻すように命じる。

そもそもゼウスの提案でコレーを誘拐したのに今更地上に戻せ、とは矛盾もここに極まれりというほかない。
だが、さしものハデスも最高神の決定は覆せないため、渋々その命令に従うしかなかった。
しかし、ここで彼は一計を案じ、コレーに地上に帰る前に冥府の果物である柘榴を一口でも食べていくように薦める。

これまで丁重にもてなされつつも、そもそも望んで冥府に来たわけではないこともあって頑なにハデスの誘いを断っていたコレーだが、地上に戻して貰えるという気の緩みや空腹もあってか、柘榴を一かじりしてしまった*3
だが、冥府の食べ物を口にしてしまった者は、その分だけ冥府の住人になってしまう。*4
地上に戻った娘を喜んで迎えにいったデメテルだが、そこで娘が柘榴を4粒*5食べていた事を知る。

こうして、コレーは地上に戻ることはできたものの、柘榴の実を食べた分の期間だけは冥府に入り、その間はハデスの妃である「ペルセポネ」として過ごす事になってしまった。

そして、コレーが「ペルセポネ」となっている間は、デメテルは隠遁していた時のように豊穣の女神の仕事を投げ出して嘆き悲しむため、作物などは実らなくなり、これが“冬”の始まりとなった……という。*6

ちなみに、拐われてからしばらくの間はハデスを拒絶していたペルセポネだが、婚姻を受け入れてからは仲の良い夫婦となり、
彼女の冥府の女王としての威厳を伝える神話や、後述のように夫に独占欲を見せる逸話も伝わっている。……神って。
※余談だが、この時のデメテルが嘆き悲しむ様子を星座にしたのが乙女座。
なんでコレー(乙女)が居るのに母親の方、と思わないでもないが、母娘が元は一人の女神であると言われている事も関係しているのかもしれない。



【その他の神話】

ペルセポネに纏わる他の神話として有名なのが、ニンフのメントーに纏わる神話と悲劇の美少年アドニスに纏わる神話である。

メントーの悲劇に関してよく知られているのは、ハデスが地上に棲むニンフであるメントーに懸想して、
これに嫉妬したペルセポネがメントーを打ちのめした上に香草であるミントに変えてしまったという神話である。
……一方、神話の順番が入れ替わっている場合もあり、元々は冥府を流れるコキュートスのニンフであるメントーこそがハデスの愛人で、そこに妻としてやって来たペルセポネをメントーが罵った事でペルセポネ、またはその母親であるデメテルの怒りを買い、ミントに変えられてしまったというパターンも伝えられる。
此方のパターンはデメテル母娘の悲劇性が薄れるためか、あまり採用されていない印象である。

ハ「そんなに僕を悪役にしたいのか……」


また、前述のように婚姻してからは夫となったハデスを慕っているペルセポネだが、珍しく浮気心を出した事もあり、
その相手がアフロディテと取り合った、アッシリア王女スミュルナが父王との不貞の末に生んだ美少年アドニスである。
アドニスに関してはアフロディテの項目に詳しい。

この神話では、二人の女神の美少年の所有を巡る争いを見かねたゼウスが仲裁に入り、一年の1/3ずつをペルセポネとアフロディテが分け、残りの1/3をアドニスの自由にさせる事を決定しているが、
嫉妬したハデス、またはアレスが大猪に化身してアドニスを襲い殺してしまったと云う。

この時にアドニスが流した血がアネモネの花になり、
嘆き悲しむアフロディテが溢した涙が薔薇を紅く染めて、薔薇は赤い花も咲かせるようになった……とも語られている。

何となくペルセポネ神話に似ているのも当然で、デメテル母娘の四季の神話と同様に、この神話も古代メソポタミアで誕生してギリシャにも伝わった“冥府下り”神話のパターンの一つと分析されているからである。

ちなみに、実はアフロディテもまたデメテル母娘と同じ起源を持つ女神と考えられている。
こうしたルーツが上記のアドニスに纏わる神話やセイレーンの異聞*7へと繋がったとも考えられる。


この他、冥府の女王としての仕事ぶりを伝える神話として、プシュケーやシーシュポスを冥府で助けた話や、ディオニュソスの母であるセメレを救い出した神話に於いて名前が登場する場合がある。



【余談】

項目の通り、ペルセポネとはこの女神の冥府による呼び名であるが名の意味には諸説がある。
冥府の女王らしく「光を破壊する者」や「破壊する者」。
それとは逆に「目も眩む光」とする記述もある。




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最終更新:2023年06月11日 14:30

*1 神話学の用語で、「新たなる主神に地位を奪われた古い神」を表す。

*2 生み直しによる順番の場合、ゼウスは長男となる。

*3 ハデスが無理矢理ペルセポネの口に押し込んだとか、逆に次第に彼に惹かれるようになっていたペルセポネが自らの意志で口にした、とする異説もある。

*4 日本神話でいうヨモツヘグイである。

*5 ※12粒=一年の内の1/3。半分となる1/2との記述もある。

*6 ※半分の場合は作物の枯渇が始まる秋も含む。

*7 元はペルセポネに仕えるニンフだったが、主人が拐われて嘆いていたのを煩く思ったアフロディテに呪いをかけられて怪物となった。ちなみにハデスがペルセポネに惚れたのは、処女神に憧れるコレーを疎ましく思ったアフロディテの嫌がらせという説もある。