ゴジラ対山田係長(THEゴジラCOMIC)

登録日:2016/10/25 Tue 23:49:24
更新日:2024/03/29 Fri 12:25:57NEW!
所要時間:約 7 分で読めます




1990年に宝島コミックスより刊行された、東宝公認のコミックアンソロジーTHEゴジラCOMIC』収録の短編漫画。
著者は『虚無戦記』や『極道兵器』など、本Wikiでもその名を知らしめているサブカル漫画界のレジェンド、故・石川賢*1
本作を掲載したアンソロジーに関する詳細などは『Gからの警告』を参照。

ケン・イシカワと怪獣王ゴジラのコラボレーション、古くは『ウルトラマンタロウ』、新しきは『神州纐纈城』の如く、
どんな魔界転生バイオレンスが繰り広げられるか……と思った人も多いだろうが
本作の内容は「念願のマイホームを買ったサラリーマンの前に、町を破壊し尽くすゴジラが出現する」という大筋。
雰囲気もどちらかといえば、『ブルーベリードール』や『特別非道捜査隊』に近いコメディタッチ寄りの作風で、
アンソロジーを企画した町山智浩氏もバイオレンス路線を期待してたら、ホームコメディが届いて云々だったとコメントしている。
とはいえ、内容を総括すれば「家族を支える一サラリーマンの視点から見た、マイホームローンの敵・ゴジラ」と
微妙にリアルなテーマであり、映像作品の裏側で星の数ほど起きていたであろう悲劇に焦点を当てたという見方をすれば
ある意味アンソロジー収録の他作品よりはゴジラをトリビュートしている方なのが困り所。

いずれにせよ、本作もまた石川賢のバイオレンス路線とはまた異なる、「コメディ」方面の真髄が込められた一作。
ケン・イシカワのフリークを自認していながらも本作未読ならば、チャンスを見つけて是非とも一度目を通してもらいたい。

余談だが、アンソロジーの目次では「ゴジラ対山田課長」と誤植されている。


登場人物


  • 山田係長
本作の主人公。下の名前は不明。眼鏡をかけた中年男性で、一サラリーマンとして山田家を支える大黒柱。
苦節15年働き続け、ようやく手にしたマイホームを家族と同じくらい大事にしており、
ピカピカの新築に傷一つでも付けようものなら家族だろうと野良猫だろうとバイオレンスに構える
……が、そんな矢先ゴジラが街に出現。折角のマイホームが住んで間もなく破壊されかねない危機を前に
なんとしてでも新築を守るべく、家族一丸となってゴジラに立ち向かおうと試みるが……

  • 山田の妻
下の名前は不明。山田係長を長年にわたって支えてきた、恰幅の良いかあちゃん。
ゴジラ出現に際しては、家族ともども落とし穴を掘るなど対策を練った。

  • 山田ルミ子
山田家の長女で、家族では唯一フルネームが判明している。
セーラー服を着る年頃でありながらも煙草を吸う不良少女だが、山田係長からあんまりな言い分(後述)で打たれる羽目に。
その後のゴジラ襲撃に際しては家族一丸で協力しており、家族中は悪いわけではなくむしろ良好。

  • 山田の長男
下の(ry
漫画中ではほぼ空気だが、母親と共に対ゴジラ用の落とし穴を掘ったり、
家の前でウンコをすれば、ゴジラが嫌がって進路を変えるかもしれないと彼なりに作戦には協力した。

言わずと知れた怪獣王。この漫画における役割は「マイホームローンの敵」といっても過言でない。


『ゴジラ対山田係長』内容(※ネタバレ注意!)


山田家の家長・山田係長が苦節15年、雨にも負けず風にも負けず満員電車もなんのその、
上司の罵りにも耐え、部下の陰口にも耐え退職金を前借りしてまでようやく手にした、念願のマイホーム。
その引越しが無事に完了し、4人家族は細やかなパーティーに興じていた。

一戸建4DK5200万、千葉東西町通勤時間3時間、日当たりよし海まで30分……
アパート暮らしから脱却し、遂に一国一城の主となった山田係長は、家族の称賛を受けつつ長年の苦労を思い返しながも、
それさえ苦にならない「これから」のことに想いを馳せ、悦に浸る。

そんな山田係長の目に移りこんだのは、悠々とセーラー服のまま煙草を吹かす長女・ルミ子の姿。
山田係長が激高してルミ子の頬をビンタすると、
タバコは火事になるぞ、俺の建てた家が灰になってもいいのか、あー、シンナーはやってもいいがタバコはやめろ!
と、あんまりにも程のある言い分でルミ子を一喝。
そこに現れた、飼い猫だか野良猫だか知らない黒猫が柱を爪で引っ掻こうものなら、出刃で首チョンパ執行は当然。
山田夫人も畳に煙草の吸殻が落ちるわ、猫の流血が垂れるわで、引越し初日から大忙しだ。

いずれにしても、このマイホームこそ山田係長の血と汗と涙と英知、そして愛と労力と夢の結晶の産物。
自分の目の黒いうちは、何人たりとも傷つけさせはしないと山田係長は豪語した。


……と、その矢先、山田係長が邸宅を構える街にゴジラが突如出現
人々が逃げ惑う中、親切な近所の警察官が山田家にはやく避難するよう勧告する。
が、当然のことながら、山田係長が引っ越したばかりの新居をゴジラに蹂躙させることなぞ良しとするはずもなく、
あまりの事態を前に狼狽するしかない家族達に、「戦うのだ~~~ゴジラを倒すのだ~~!!」と一喝。
かくして、山田係長たちの対ゴジラ作戦が始まった……

頭に鍋、獲物は竹槍一本と、まるでWW2終戦間際の日本みたいな戦闘コスチュームに身を包んだ山田家。
幾らなんでも流石にこれでゴジラ相手は無茶ではないかと山田夫人はもっともな疑問を持つが、
山田係長は昔見た映画『七人の侍』では野武士を相手に百姓がこの手で勝ったと豪語。
ゴジラが家に近づいて来たら足を竹槍で攻撃し、よろけた隙に山田係長が屋根に登ってゴジラの目を竹槍でつついて目を潰すという
どう考えても無茶にも程のある対ゴジラ作戦を立案する。
「うーんわれながらカンペキな作戦だ、自衛隊はなぜ思いつかないのだろう」

かくして日本全国の読者の疑問をよそに、放射能を吐きつつ着々とマイホームに近づいてくるゴジラを前に、山田家の準備も進む。
すっかり山田夫人や息子らも山田係長に感化されて、彼のことを「隊長」と呼んで、第二作戦を提案。
万が一ゴジラが家の庭に侵入した時のことを想定して落とし穴を掘り、ゴジラが落ちたらみんなでやっつけると宣った。
更に息子も、家の前にウンコを置けば、ゴジラがバッチイと思って進路をどけるかもしれないと言い出す始末。
「オオスバラシィわが妻よ、お前は美人だけでなく頭もよかったのか!」

何にせよ、ゴジラ襲来という一大事を前に、一団結した山田家の心。
ビルを壊し、車を跳ね飛ばして迫りくるゴジラを迎え撃つべく、山田係長は家族達を、そして自分自身を鼓舞する。
がんばれ、山田係長!
「自衛隊やスーパーXの力はあてにはできない、日本をゴジラの魔の手から守れるのは家族の愛だ!!これっきゃない!!」




――――だいたい予想はついた読者も多いだろうが、ゴジラは山田係長の想定よりも遥かにビッグサイズであり
遠くから遠近法でゴジラを小さく見積もりすぎていた山田係長は流石に焦ってしまう。
だが、もはや退路はない。山田家は我が家を守るべく、竹槍を抱えてゴジラに突貫する……

言うまでもなくそんなものゴジラに通用せず、山田家のマイホームは哀れゴジラに踏み潰されてしまうのだった。
(ちなみにこのシーン、ゴジラの背後からスーパーXが砲撃している)


マイホームもろともゴジラに踏まれながらも、コメディ補正かなんとか軽傷で済んで全員無事の山田家。
しかし、山田係長が15年をかけて築いたマイホームは、跡形もなく木端微塵の惨状となってしまっていた。
夫人の手料理でコツコツ頑張った日々を思い返し、号泣する山田家……が、山田係長はめげることなく家族を励ます。
「ゴジラなんかに負けてたまるか、わしがまたガンバッテもっとリッパな家を建ててやる」

山田係長に鼓舞され、一家にも笑顔が戻る。気付けば、もう山田係長が会社に出勤する時間だ。
かくして、未だ暴れまわるゴジラを尻目に、瓦礫となったマイホームで待つ夫人と息子、学校に通学するルミ子のために
山田係長もまた、家族のために一介のサラリーマンとして会社へと向かうのであった……





日本のサラリーマンはゴジラなんかに負けない ゴジラが怖くて満員電車にのれるか
                                            山田係長談



追記・修正は、マイホームローンをゴジラにフイにされてもめげないと胸を張って言える人がお願いします。

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最終更新:2024年03月29日 12:25

*1 クレジットは「石川賢とダイナミックプロ」。