トミノの地獄

登録日:2016/09/21 (水) 17:20:00
更新日:2023/05/10 Wed 09:19:05
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「トミノの地獄」とは、詩人・作家の西条八十が1919年に発表した詩集「砂金」に収録されている詩である。

この詩の内容自体……というよりも、後述する都市伝説によって有名になってしまった感のある作品である。


トミノの地獄


作者の西条八十(1892~1970)は、大正期を代表する童謡作家の一人で、北原白秋と並び称された。
金子みすゞを見出したことや、日本で最初期に「不思議の国のアリス」を紹介したことでも知られる。

だが今や彼の作品の中で最も有名なのはこの「トミノの地獄」であろう。
なお一応著作権は切れているが、全て引用すると煩雑になるし本wikiの趣旨ともズレるため避ける。
2018年に著作権法が改正され、現在は作者の死後70年が保護期間となっているため転載はできない。


内容は題名通り、「トミノ」という少年が地獄を旅するというもの。
というと陰鬱で猟奇的なものを連想するかもしれないが、語感は非常に美しく、また「死後の再生」も歌いこまれており、絶望だけでなく希望も感じさせる詩である。

詩の背景としては、西条が死去した父または妹に捧げたものだという解釈が有名。
それ以外にも戦争(当時は第一次世界大戦終戦直後)の悲劇を詠んだものだとか、児童虐待や人身売買、近親相姦を暗示しているとかいった(それはお前の願望じゃね?というような)解釈もある。
まあそもそも文学作品なのだから、読む人が自由に解釈して構わないともいえよう。



発表年からも明白なように、富野由悠季は無関係である。




都市伝説


……というのが真面目な解説であるが、現在この詩について語られるときに必ず触れられるのがある都市伝説である。
それは、このトミノの地獄を声に出して読むと呪われる(特に「死んでしまう」と言われることが多い)というものである。

著名な劇作家の寺山修司(1935~1983)は、この詩に大きな影響を受けた映画「田園に死す」という作品を発表した直後に亡くなったとされる。
また、とある女子大生も同様にこの詩の呪いで死んだと語られる場合も多い。

ネット上でも、この詩を読んだがために具合が悪くなったとか、身内に不幸があったとかいう証言が溢れている。

これらのことから、この詩が呪われているのは事実であると言っていいだろう……





















真相は?



この話の出所は、比較文学者の四方田犬彦氏が2004年に出版した「心は転がる石のように」の中で、
「万が一にも朗読などしてしまうと、あとで取り返しのつかない恐ろしいことが生じる」
と述べたことが初出のようである。
前述のように、元の詩は1919年に発表されているにも関わらず、2000年代になるまで呪い云々の話は存在しなかったのだ

そもそも四方田氏自身、「恐ろしいことが生じる」と述べているだけで、死ぬともそれに近いニュアンスのことも明言していない。
当然、寺山修司や女子大生云々といった話は噂が転載されていく中で付けられた尾ひれに過ぎない。
四方田氏が何らかの噂もしくは事実をご存じである可能性はあるが、本人はこれ以上この詩に関して何も語っていないため、詳細は不明としか言いようがない。


寺山修司に関して言えば、彼が47歳という若さで世を去ったのは事実であるが、それは「田園に死す」を制作してから9年も後のことである。
呪いの定義にもよるだろうが、いくらなんでも呪いにしては遅効性過ぎよう。
更に寺山の死は急死でも不審死でもなく、若い頃からの持病によるものだった。
彼は10代の頃から肝臓が悪く、闘病を続けていたのだ。
第一、前述のように寺山はあくまでトミノの地獄に影響を受けたシーンを映画に取り入れただけで、詩そのものを引用したわけではない。
某女子大生の件に至っては、何のソースも無い作り話に過ぎない。

もっと言えば、小説家・テレビプロデューサーの久世光彦氏も1991年に「怖い絵」というエッセイの中でトミノの地獄を引用しているのだが、特に呪われたという話もなく
その15年後の2006年に71歳で没した。
更に言うなら、この詩の作者の西条八十自身が78という高齢までご健在だったのである(その死は1919年の詩の発表から51年後である)。


これで呪いの詩などと言えるだろうか?


ネット上の証言については、音読した人が大勢いれば、中には具合が悪くなったり直後に不幸なことが起きた人が何人かいたとしても何の不思議もあるまい。
呪いを信じる人なら、自己暗示効果によって具合が悪くなることだってあるだろう。
実際「音読したけど何も起きなかった」という証言もまた多い。




以上のように、この詩が呪いの詩なのか、少なくとも音読すると死んでしまうような詩なのかどうかは甚だ疑問であり、ただの都市伝説と考えてよさそうである。

この噂のせいですっかりネガティブな印象がついてしまった感のあるこの詩であるが、前述したように非常に美しい日本語で書かれており、
地獄という陰鬱な情景の中にも微かながらも希望を感じさせるストーリーは非常に感動的である。
「呪いの詩なんて」と敬遠している人がいれば、是非一度読んでみることをお勧めする(心配なら、音読はしなくても構わないが)。




追記・修正はこの都市伝説の出所を突き止めてからお願いします。


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最終更新:2023年05月10日 09:19