歓喜天/聖天

登録日:2016/09/01 Thu 01:04:40
更新日:2022/07/16 Sat 09:49:49
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■歓喜天/聖天

「歓喜天」或いは「聖天」は大乗仏教(密教)の尊格。
梵名はビナヤカ・ガナパティ。ナンディケー・シュバラ等とされ、「毘那夜迦 」「誐那缽底」と音写される。
梵名を漢訳した「大聖歓喜天」「歓喜自在天」等と云う呼び名の他「天尊」等と呼ばれる場合もある。
象頭人身と云う特徴的な像形から「象鼻天」「大聖歓喜双身天王」と呼ばれる事もある等、非常に多くの呼び名を持つ尊格である。

我が国では民間では「聖天さん」と呼ばれる等、その一見ユーモラスな姿もあり親しまれている一方、実際に尊格を祀る行者にとっては付き合うのも命懸けと云う祟り神として名高い。

扱いの難しい「天部」諸尊の内でも非常に強力な護法神にして障碍神として知られており、
この尊格を扱う場合には少しでも扱いを間違えたならば祟りや神罰を覚悟しなければいけないとされる。
その起源は日本でも人気の高いインド神話の大神シヴァの息子で象頭人身の福徳神ガネーシャとされるが、更にガネーシャの起源となる障碍神(災いを為す神)であるガナパティ(ガナハチ)の属性も引き継いでいる暴神と福徳の神である。

【概要】

梵名のガナ(軍勢、庶民、大勢)・パッティ(主、所有)の意味から衆生の王と考えられており、大自在天(シヴァ)の三千の息子の筆頭にして、その軍勢を率いる者とされる。
また、大自在天の三千の息子の内の半分(千五百)は悪徳を為す障碍神であり毘那夜迦と呼ばれたが、歓喜天はその筆頭でもある。

このように、仏教に取り入れられた「歓喜天」はインド神話でも忘れられていったガネーシャ神の起源となる悪神の属性を色濃く残す神である。

しかし、その強大な力は真言密教の現世利益を願う修法の場で重宝され、障害を打ち破る力を持つ神として数多くの歓喜天を本尊とする修法が執り行われたと云う。

……一方、俗に「七代の福を一代で取る(集める)」と言われるまでに強大な呪力を持つ故に極めて扱いが難しく、信仰の行に於ける僅かな過ちも赦さぬ厳格な神であると云う。
そして、祀るのならば中途半端な信仰は赦されず全身全霊で遣えねばならぬとされ、疎かになる位ならば「祀らぬ方がよい」とまでされる。

事実、経典によっては歓喜天の種字や真言も祟りを畏れ記すのを避け、師から弟子への口伝のみで伝えられていた事実もあると云う。

また、その名と属性から仏教では大日如来観世音菩薩の化身と考えられており、それに倣った信仰が形作られている。

【姿】

象頭人身の神として有名だが、その姿も単身。男女の抱き合った双身。単身でも多面多臂。双身でも象頭と猪頭。……と、様々な像形がある。
稀に人面人身で単身の作例もあったと伝えられる。
この尊格を伝えた真言宗系の寺院に作例が多いが、その性格からか多くは厨子に入れられる等、秘仏として祀られたと云う。

前述のように魔王の中の魔王とも呼ばれる起源を持つ、厳しい修行を積んだ行者ですら祀るのに一生を懸けなければならぬと云う神ではあるが、その男女和合の姿から夫婦円満と子宝を授ける信仰も集めている。

無理矢理に障害を排除して身の丈を越えた福徳を願い命を懸けるよりは、細やかな幸福と円満を願っていた方が幸福なのでは無いだろうか?

【伝承】

歓喜天の特徴的な姿に纏わる縁起は、仏教では以下のように解説されている。

  • 象頭
元々は人頭であった歓喜天だが、ある時に大自在天の怒りに触れて首を切り落とされてしまったが、その死を悼んだ烏摩妃の願いを聞き入れた大自在天は「喪った首の換わりに最初に出会った生き物の首を持ってくるように」と言って従者を遣わせ、それが象であったと云う。
これはインド神話のガネーシャの縁起がそっくりと仏教に取り入れられたものであり、ガネーシャは入浴中のパールヴァティ(烏摩妃)が己の垢から生み出して見張りに仕立てた息子。
その死は、後から帰ってきたシヴァ(大自在天)とは互いに見知らぬが故の事故であったと云う事になっている。

……ここから、単身の歓喜天はその属性をガネーシャに由来していると云う事が解る。

  • 双身
大昔にマラケラレツと云う王が在って大根と牛肉を好んで食した。
しかし、牛が居なくなったので死人を換わりに食し、更に死人が居なくなると生きた人間を食い始めた。
これを止めるべく、大臣を筆頭に臣下と民は王を止めるべく反旗を翻すが、悪鬼と成り果てた王は大鬼王ビナヤカ(象頭の化物)に姿を変えると魔物を引き連れて姿を消してしまったと云う。
その後、ビナヤカの祟りにより疫病が蔓延して民は更に苦しめられる。
この苦しみの声を聞き届けた慈悲の菩薩である十一面観音は、自らをビナヤカの女に変えてマラケラレツの下を訪れた。
たちまち、その豊満な女体の魅力の虜となった王は交合を求めたが、女は「仏の道に入らなければ」肉体を許さぬと言う。
どうしても自らの欲望を抑えられなかった王は仏教守護を誓い、遂に女と結ばれると共に仏の道に入ったと云う。

……この時に、暴神であるビナヤカに云う事を聞かせて善心を呼び起こす為に最初に「歓び」を与えたのが「歓喜天」の名の由来となったのだと云う。
双身の内、相手の足を踏みつけて云う事を聞かせているのが十一面観音の化身である。

【その他】

繰り返している様に、非常に強烈な祟り神である歓喜天だが、大日如来。或いはその属性を分けた五智如来の化身である五大明王の一尊である軍荼利明王に支配されると云う。
明王は仏教由来の諸尊ながら、その姿や属性にインド神話の神々(ディーヴァ、アスラ)を起源に持つ者が多い事が由来となっているのかも知れない。

軍荼利明王の他、前述の縁起に倣い十一面観音にもまた、歓喜天の怒りを鎮めるのに力を貸して貰うと云う。

【種字・真言】


■ビ
■ギャク ギャク

■ガナハチイ ビナヤカ
■オン マカギャダハタエイ ソワカ
■オン キリク キャク ウン ソワカ



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最終更新:2022年07月16日 09:49