シン・ゴジラ

登録日:2016/08/05 Fri 09:04:52
更新日:2024/03/23 Sat 01:12:19
所要時間:約 32 分で読めます


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  現実(ニッポン)虚構(ゴジラ)

シン・ゴジラ


『私は好きにした、君らも好きにしろ』
「諦めず、最後までこの国を見捨てずにやろう」






シン・ゴジラ』は、2016年7月29日に公開された空想特撮映画『ゴジラシリーズ』29作目の映画である。
東宝が制作する日本のゴジラシリーズとしては2004年の『ゴジラ FINAL WARS』以来、12年ぶりの作品となる。
タイトルが「ファイナルウォ-ズ(最後の戦い)」なのに終わる詐欺であるが、ミレニアムシリーズとしては最後の戦いなだけであった。

タイトルの『シン』には「新」「真」「神」などの様々な意味が込められているとされるが、映画を見た人なら他にも「シン」の意味を思い浮かべることだろう。
神・ゴジラだったらゴゴジラになっちゃうじゃないかとか言ってはいけない。


沿革


2014年のギャレス・エドワーズ監督の
GODZILLA ゴジラ』(ギャレゴジ)が公開に先駆け、東宝は同年12月に「日本でも再びゴジラ映画を制作する」と発表して「ゴジラ戦略会議(GODZILLA CONFERENCE)」を立ち上げる。

そして東宝は『巨神兵東京に現わる』を制作した重度の特撮ヲタクである名アニメーター・庵野秀明に白羽の矢を立てた。

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』後、酷い鬱病を発症していた庵野氏は水面下で断ろうとするが、東宝側の熱意と盟友の説得を受け、一作品限りの条件で承諾。6月に企画書「G作品メモ」を提出してシナリオや予算交渉を開始。

ギャレゴジの大ヒットから正式なゴーサインが出た2015年8月に総監督及び脚本担当として製作を開始した。

脇を固める面子は、監督(特技監督)に『平成ガメラ三部作』で名を馳せた樋口氏と、数々の特撮に携わった尾上克郎、音楽は数々の劇伴やアニソン、J-POPで著名な鷺巣詩郎。*1そこにアニメーター・摩砂雪を加え、主役格を演じる長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ。高良健吾、市川実日子、高橋一生、松尾諭、津田寛治、柄本明、國村隼、大杉漣、余貴美子、平泉成、塚本晋也、松尾スズキ等錚々たる実力派が名を連ねる。


しかし、

  • 逃げ惑うエキストラとスタッフ・キャスト字幕しか映らない劇場予告編。やる気あるのかコレ?
  • 2015年『進撃の巨人』2部作のシナリオが壊滅的だったヒグチが監督?
  • 目立つ出演者(長谷川氏、石原女史、松尾氏、國村氏の他、三浦貴大、ピエール瀧、神尾佑ら)やスタッフが『進撃二部作』から続投
  • アンノの実写写作品って殆ど話題に上がらないじゃん
  • つーかヱヴァ新劇場版はどうした!?

と、良きも悪くも混然なまま12年待ったゴジラ&特撮ファン、3年待っているエヴァ&庵野ファン、そして珍し物観たさのパンピーは期待半分不安半分で劇場に乗り込んだ。

そこで大多数の観客は、いい意味で炸裂する庵野節、日本特撮のツボを押さえた樋口演出、邦画全体で見ても良質な物語展開、戦後の大事件を踏まえた「2016年のゴジラ像」に脳天をぶん殴られる。

これはたちまち世間に広まり、不満を口にしていた層の掌もゴジラばりに大回転。

興行収入は同年邦画2位*2約82.5億円をたたき出し、観客動員数も『FINAL WARS』で果たせなかったシリーズ累計動員数1億人突破
業界からも2016年度キネマ旬報ベスト・テンでは国内特撮映画過去最高となる評論家/読者部門で邦画第2位に選出され、庵野氏が脚本賞を受賞。第40回日本アカデミー賞では作品、監督、撮影、照明、美術、録音、編集の7部門で最優秀章を受賞。第71回毎日映画コンクールや第59回ブルーリボン賞等で作品賞その他を受賞するなど、2016年度屈指の力作として評価されている。



庵野氏の同期で何かとやっかみを含んだ対抗心を燃やしていた漫画家・島本和彦は「オレの負けだ」「語っていい上映会を設けてくれるなら俺が見本を見せてやる(意訳)」と絶賛。
それを知った庵野氏の計らいで、8月15日にどこぞのアイドル映画さながらの発声可能上映も行われた。
同上映会には東宝の計らいで席を確保してもらった島本氏が参加し、サプライズ登場した庵野氏と熱いトークをかわした。
本映画公開直後の夏コミで島本氏は「俺はお前のつくったもので感動せん! しかし、今日は俺の負けだ、庵野〜!! 素晴らしいものをつくった〜!!」とシン・ゴジラ本を新刊発売し、それを求めてか列が館の外にまではみ出た。

なお、庵野氏は本作の総監督を務めるうち精神的にも快復していったようで、エヴァ新作も無事公開することとなる。


あらすじ


11月3日、東京湾上を漂流する無人のプレジャーボートが確認される。
駆けつけた海上保安庁の巡視船がボートを曳航しようとしたところ、突如としてその真下で水蒸気爆発が発生し、海面は赤く染まった。
同時に東京湾アクアラインの海底トンネルに亀裂が走り、一部から浸水が始まる。

テロか、海底火山の噴火か。内閣官房副長官の矢口蘭堂を初めとする官邸官僚は情報収集に右往左往する。
幸いにして死者が出なかったことから、比較的楽観的な方向で政府は纏まりつつあった。
しかし、矢口はネット上にアップされた「東京湾で巨大生物を映した動画」に注目する。
彼は閣議前の総理レク(チャー)で生物災害の可能性を唱えるが、大河内首相を始めとする閣僚からは失笑を買うだけだった。

そして始まった閣議は火山災害の面で対応を進める方針に一本化されていくが、その最中に急報が入り、会議室のテレビがつけられる。
――そこに映っていたのは、矢口が指摘した通りの、紛れもない「巨大不明生物」。
どんな生き物なのか? 上陸はするのか? 捕獲するか駆除するか? 国民への発表は? 自衛隊は出すのか? 都民の安全は?
あらゆる点で「想定外」なこの生物を前に、日本国は揺れ動く。


登場人物


この映画では新しいキャラクターが登場する度に名前と役職を説明するテロップが入るが、その表示時間はせいぜい2~3秒。
おまけに漢字だらけなので、字幕に慣れていないとまず読み切れず、会話の内容についていけなくなる。というかそもそも読ませる気すら無いように思われる。


本作ではハリウッド映画でありがちな「真面目な主人公+勝気なヒロイン+陽気なスーパーハカー+マッドなメカ担当がスタンドプレーを連続して事態を打開する」展開よりも、
「真面目な凡人達のチームが奮闘していく」展開が目立つ構成になっており、「特に重要な人物」が存在しない。
強いて言えば主人公である矢口くらいのものだが、逆に言えば「矢口がゴジラ対策チームのトップ」とさえ認識していれば特に問題はない。
なので役職を無理に覚えずとも「この人はこのチームで頑張っているんだな」と大まかに捉える事が出来れば、少なくとも置いてけぼりにされる様な事態にはならないだろう。

そもそも本作の登場人物はどいつもこいつも妙にキャラが立っており、
そこに演者の熱演が加わってモブキャラ同然の役に至るまで印象に残り易い為、個人の名前が分からなくても然程問題は無かったりする。
実写なんだけどアニメっぽく、かといってこてこてのアニメ風ではない」絶妙なキャラ立ちが見物。

日本政府&自衛隊関係者

◆矢口蘭堂(演:長谷川博己)
一応の主人公その1。内閣官房副長官(政務担当)。39歳。山口3区当選。
巨大不明生物災害対策本部の事務局長に任命され、死力を尽くす事になる。
祖父の代から政治家の家系出身であり、父の死を機に大手商社を辞めて政治家へと転向した。
親たちが築いてきたコネを最大限に利用する野心家だが出世欲は希薄で媚びることは無く、政治家として国民を守るためなら、周囲の反感を買おうとも慣例に囚われない意見でもきっぱり口に出す気の強さと覚悟を持っている。
冷徹になりきれない成長途上の政治家として、理想論を掲げる役割を担っている。
実は鉄ヲタで、執務室には鉄道模型や蒸気機関車の図面などが飾られている。

◆赤坂秀樹(演:竹野内豊)
一応の主人公その2。内閣総理大臣補佐官(国家安全保障担当)。42歳。東京8区当選。
東大卒で外務官僚を経て現職へと至った硬派な男。広い視野・高い外交能力・強運を備えたベテラン。矢口と対比的に、冷徹且つ現実的な意見を示す役割を担う。
しかし非人間的な人物というわけではなく、現実を見据えた上で日本を支えていく覚悟を抱いている。
何のツテも持たない貧乏な家庭から己の実力だけでのしあがってきた努力家であり、休日は母親の面倒を見ている家族思いな一面もある。
別の世界にも良く似た男がいるが詳細不明。


巨大不明生物災害対策本部

矢口を事務局長に、厚労省の森課長を実質的な仕切り役に据えて発足したゴジラ対策会議。通称「巨災対」。
泉政調副会長が集めてきた「首を斜めに振らない」「骨太」の連中が集まっている。
森課長曰く「そもそも出世に無縁な霞ヶ関のはぐれ者、一匹狼、変わり者、オタク、問題児、鼻つまみ者、厄介者、学会の異端児、そういった人間の集まりだ。気にせず好きにやってくれ」


海外

◆カヨコ・アン・パタースン(演:石原さとみ)
一応の主人公その3。米国大統領特使。
政治家一族パタースン家の令嬢で、日本人の祖母を持つ日系人。
WASP至上主義の米国の上流一族の「非アングロサクソン系要人」というだけで実力が覗える。40代で大統領になるのが目標らしい。
時折日本語に英単語を混ぜる話し方が特徴。
祖国米国への忠誠心は本物だが、生粋のお婆ちゃんっ子で日本に対しても同情的な立場を取り、矢口へ個人的に協力を行う。

◆カヨコのボディガード(演:マフィア梶田
カヨコの横に突っ立っている(たまに書類を配る)人。秘書役も兼ねているのだろうか?
演者が演者(スキンヘッドにサングラスの巨漢)なので、台詞はないにもかかわらず出演場面での存在感がすごい。

その他の人々


ゴジラ(アクター:野村萬斎)
ご存じ怪獣王。野村氏はゴジラのモーションアクターとして参加していた「329人目のキャスト」である事が公開初日に公表された。
着ぐるみではある意味絶対に不可能な、古典芸能の達人の技法を取り入れたCGゴジラも乙なものである。


メカニック


戦車、自走砲、回転翼機、戦闘機、艦艇、電車、消防車、重機、大型バスにトラック……と、非常に多彩なメカが出てくるのも本作の魅力。
メカ描写に病的にこだわる庵野氏だけあって、兵器描写はとことん凝っている。

CG制作担当は『ARMORED CORE V』や『寄生獣』二部作で技術力を見せつけた白組
実はほぼ全ての兵器はCGで描かれている。予告編2で登場する、ビル街を抜けて飛ぶヘリ編隊、移動射撃するドアップの10式戦車も全てCG。
YouTubeではCGメイキング映像が公開されているので一見の価値あり。実物の質感に近づけたマット(艶消し)なCGが特徴的。

登場人物と同じように、やっぱり新しいメカが出てくるといちいちテロップが挿入される。最早庵野氏の芸風と化している。
だが、作品を何度も観返すうちにテロップ芸にハマる人も多いとか。自信のある人は速読に挑戦してみよう。


ゴジラ


牧教授の出身地・大戸島の怪物「呉爾羅(ゴジラ)」が由来の巨大不明生物。

11月3日、東京湾出現当初は古代の水棲ないし両棲生物と考えられ、仮に上陸したとしても自重で潰れるだろうと判断された。

しかし、「上陸の可能性は無い」という政府見解を覆し、呑川を遡上して蒲田より上陸。歩くだけで甚大な被害を与え続けながら、如何なる理由か東京中心を目指して移動し続ける。

歴代最大の身長118.5m、体重92000tの体躯と長い尻尾もさることながら、焼け爛れたようにも見える外皮、魚のようなぎょろ目、全身に走る赤いライン、そして大きく裂けた顎が特徴的。
最も膨大な数の遺伝子を持つ = 最も進化した完全生物であり、さらなる進化の可能性さえ示唆されている。

米国で牧が記述した英語名「GODZILLA」に「GOD」を使ったのはいかなる思惑があったのだろうか。

世界観


度々世界観のリセットされてきたが第1作目ごとリセットされたのは(ハリウッド版を除けば)本作が初。

「初代ゴジラを現代の技術で再構成する」事を前提とした舞台は「怪獣一切登場したことがない現在」。
防衛省を初めとする官公庁へのインタビューや、3.11時の政府内議事録の取材は庵野氏自らも出向いて徹底的に行われた。
現職or元現職の人間がTwitter上で会議プロセス*3の再現度や自衛隊出動シーンのリアリティを絶賛している。


群衆シーンのエキストラに参加したTwitterによれば、庵野氏は円谷英二が生まれず、怪獣映画が全く世に根付かなかった世界だと思って欲しい」という旨の説明を行ったらしい。
大きな生物を「怪獣」と呼ぶ概念を知らしめた円谷氏の巨大ヒーローや怪獣ブームも一切存在せず、怪獣文化(?)に触れる機会*4も無かっただろう。
ゆえに、初代ゴジラの「怪獣」という単語は登場せず、名付けられるまでは一貫して「巨大不明生物」

初代『ゴジラ』、84年度版『ゴジラ』同様に「現代日本にゴジラが現れたら、政府や自衛隊のお偉いさん達はどう対応するのか」を大真面目に考えた2016年度版ゴジラ対応シミュレーションとして見る事もできる。

作戦計画の立案で「この装備はバックファイアが怖いから後方は1km空けておきたい」とかいうマニアックな助言もする自衛隊だったが庵野氏の「対巨大生物駆除プラン」はあまりに細部の状況まで考えられていたので、流石に「下手に助言を出すと、これが省の公式見解と取られかねない」と慎重になり、野戦作戦本部の構造は非公開。取材スタッフは他国の軍事資料を片っ端から広報に突きつけて「自衛隊に近い方を指差して下さい」という添削方式でかまをかけた。


シナリオ


突如現れた「虚構」の破壊の権化に翻弄される、どこまでも「現実」的に描かれた日本。


キャッチコピーの「現実(ニッポン)虚構(ゴジラ)」を体現する大まかな流れは「社会的な物語が書ける」アニメ監督・神山健治の初期稿で仕上がっているが、ヒューマニズム要素が大分強く、色々詰め込み過ぎた*5ので現場の評価はイマイチ。

途中離脱した神山氏はものすごく名残惜しそうにしていたが、ここからブラッシュアップ。

東宝の上層部も恋愛要素を入れる提案をしたが、樋口氏が「絶対このまま行かなきゃダメだ」と押し通した庵野氏の決定稿は

「ヒューマニズム要素がほぼ皆無、役人達が最初から最後まで巨大不明生物駆除の為に全力を尽くし続ける」

……というイロモノに吹っ切れて、東宝の「2時間以内」「皇室ノータッチ」「極端な異形のゴジラはアウト」以外を全て蹴っていった結果、一切の無駄を削ぎ落した恐ろしくテンポの良い何度も見たくなる作風となる。

よって昭和中期以降や平成VSシリーズ、ミレニアムシリーズのノリを想像していくと色々な意味でショックを受けるので、ド派手で爽快な怪獣プロレスや、民間人の悲喜こもごもは期待しない方がよい。


初回鑑賞時は無理に細部まで飲み込もうとせず、何も知らない方が楽しめる映画だが、あえて予習するなら『初代ゴジラ』や『日本のいちばん長い日(67年版)』、『帰ってきたウルトラマン第5・6話辺り。庵野監督繋がりなら傑作同人特撮『帰ってきたウルトラマン マットアロー1号発進命令』や『八岐之大蛇の逆襲』もオススメ。
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』もいいが、しかし頻繁に「エヴァっぽい」「ゴジラ版エヴァ」と言われているものの、そうじゃない。「庵野の芸風」で「ゴジラと岡本喜八へのオマージュ」なんだ。そもそもエヴァ自体特撮へのオマージュ満載だったし。
むしろ『トップをねらえ!』の方が近い様にも思われる。




撮影手法


ゴジラが暴れたり、ビルが破壊されたり、戦車やヘリの砲撃を行ったりするシーンはほぼ全てVFXを使用したCG合成である。
専門的な説明は端折るが、街の風景は基本的に現実の風景を撮影して、それらをベースに煙やゴジラなどを重ね合わせている。
登場する兵器も実在する兵器の本物をベースにして、現実の風景に合成している。
「ミニチュアじゃないのかよ」と思うかもしれないが、合成素材に本物の建築物を使っている為、ミニチュアでは再現出来ないディテールまで再現可能で、視覚的なリアリティはミニチュアを超える。
破壊される様子も精巧に作ってある為、実写邦画に於けるCG合成でありがちなチープさは皆無。
クライマックスの建物倒壊シーンでは恐ろしい量のデータを処理している。

だが、CG一辺倒というわけではなく、一部のシーンには従来のミニチュア特撮が採用されている。
予告編でも使用されているゴジラが日本家屋と崖を踏み崩すシーンや、倒壊するオフィスビルの窓ガラスから机やコピー機が飛び出してくるシーンがそれ。
実物ならではの動きの面白さを表現するために用いられ、CGパートと絶妙に織り交ぜることによってリアリティをより深く描写すると同時に、フルCGに対してミニチュアでどこまで表現を追求できるかに挑戦している。

ゴジラに関してもやはりCGではあるが、ゴジラの動き自体は上述したように野村萬斎氏が演じている。
分かりやすく言えば、あらかじめ撮影した野村氏の動きに対し、CGのゴジラがシンクロして動くようにしたのである。
着ぐるみを使わない為、スーツアクターが重くて苦しい思いをする事もなく、更には尻尾を接地させない状態で動き回る事も可能としている。
野村氏の演技力とCG技術力が高レベルで融合し、21世紀の新しい「シン・ゴジラ」として実に見事な動きを見せてくれる。
また、昼間のシーンが多い所にも注目したい。暗いとCGの粗を誤魔化し易くなるのだが(『ギャレゴジ』でもよく使われた手法)、そのために一部のシーンではゴジラが浮いて見えている。
しかし、敢えて暗闇に頼らない姿勢は評価されるべきだろう。

製作中には樋口氏を中心に「ゴジラのミニチュアモデルも作った方がいいだろう」との話が上がり、上半身のみの1/38アニマトロニクス(サイボット)が作られたが、スタジオ納入日に庵野氏が「これは撮らなくていい」と、あっさりボツにしてしまい、編集作業の参考にするための資料映像撮影にしか使われなかった。


サウンド


本作では随所に伊福部昭が手掛けた過去作の音源が用いられている。
伊福部サウンドはゴジラと切っても切り離せない存在だが、「それっぽい音が欲しい、作りたいと考えるのなら、原曲を使った方が良い」というのは鷺巣氏の弁。

また、鷺巣氏が手掛けた『エヴァ』の楽曲も少数がアレンジされて引用されている。
「Spending Time in Preparation」の新劇場版アレンジ「EM20」は、ゴジラ風に6つのアレンジを施されて流されている。
「デン↑デン↑デン↑デン↑ ドン↓ドン↓」のティンパニイントロを聞いた観客は爆笑するか呆れるかの二択。
とはいえこれは『エヴァ』抜きに「公務員たちが頑張る様子を撮影した特番」などで頻繁にBGMに使われていたことから、そのイメージで持ってきた節もあるとのこと。

本作は5.1サラウンドではない。サウンドトラック解説曰く、庵野氏が伊福部サウンドの再現を重視し、無理にサラウンドにする必要はないと判断した結果。
更に言うと、当初は原曲を再演し、それをモノラル録音の原曲に被せ、左右の音の振り分けを行って疑似ステレオ風に編集するアイデアがあった。
実際に、限りなく原曲に近づけて再演する難しい録音と、それ以上に困難な超アナログ編集作業が行われ、5ヶ月を要してサウンドトラックが構築された。
しかし土壇場で庵野氏は「原曲のままでいこう」というこだわりを発揮し、実際の映画では没になってしまっている。
鷺巣氏としては伊福部氏の音を追体験する良い経験ができ、サウンドトラックのCDとして記録を残すことが出来たので満足出来たらしい。

「劇中使用された楽曲(伊福部曲はステレオ編集版)全て」+「短縮して使われた鷺巣曲のオリジナル版」を収録したサウンドトラック『シン・ゴジラ音楽集』も大ヒット。
映画館近くのCDショップや通販サイトからは瞬く間に姿を消し、再販までの約1週間、難民が溢れかえる事態が発生。
そしてその再販した週のオリコンアルバムチャートでは5位にまで食い込む快挙を成し遂げた。


小ネタ




コラボ/タイアップ


2016年4月1日、まさかの「ゴジラ」と「新世紀エヴァンゲリオン」のコラボ企画「ゴジラ対エヴァンゲリオン」が始動したことが発表。
遂にゴジラとエヴァが戦う映画の製作が決ま……というのは冗談。

前田真宏、開田裕治、西川伸司、さらに庵野夫人である安野モヨコといったイラストレーターによるゴジラとエヴァ(およびそのキャラクター)とのシリアスな対峙、あるいはコミカルな共演を描いたキービジュアルが続々と製作されており、加えてそれらのイラストや両作のコンセプトを組み合わせたデザインを採用したTシャツ、ストラップ、キーホルダーなどの各種グッズが多数販売されている。
それだけでなく、立体造形物も数多く作られておりエヴァ風のカラーが施された平成ゴジラおよび同じくエヴァカラーの3式機龍や、逆にバーニングゴジラをイメージしたカラーのエヴァ初号機、しいては身体がゴジラに変態しつつあるエヴァ初号機などのプラモ、フィギュアが発売されることになっている。
また、スマホゲーム『スーパーロボット大戦X-Ω』では2016年8月期間限定の参戦作品として「ゴジラ対エヴァ」がラインナップ。ゴジラ並びに三式機龍が、変則的ながらもスパロボ初の特撮作品からの参戦枠として登場を果たした。

さらにさらに本作公開の迫る7月22日にはTVアニメ「クレヨンしんちゃん」とのコラボ回として『しんのすけ対シン・ゴジラだゾ』が放送。
突如春日部に出現したゴジラに対し、しんのすけが巨大化して挑むというストーリーで、その回に登場するゴジラも東宝に許可を取って本作と同じデザインのゴジラをそのまま使用させてもらっている。

映画公開に合わせてバンダイのTCGバトルスピリッツで「コラボブースター【怪獣王ノ咆哮】」が発売された。
パッケージイラストにはシン・ゴジラが大きく描かれ、劇中場面を再現したカードが数種類収録されている。
詳細はシン・ゴジラ(Battle Spirits)で。


シン・ゴジラ:オルソ


2023年、『シン・ゴジラ』に続く日本産ゴジラ映画として『ゴジラ-1.0』が公開された。それに先立ち、本作の「モノクロバージョン」である『シン・ゴジラ:オルソ』が公開された。
なお、「オルソ」とは「オルソクロマチックフィルム」の略称で、白黒フィルムのうち、赤色が黒く輝くタイプのフィルムを指す。
モノクロの陰影により、人物シーンは引用元の岡本喜八作品の作風が増し、ゴジラの異様さもパワーアップ。
更に、夜のシーンでは白く輝くゴジラや熱線が恐怖を倍増させている。


関連項目


両方ともゴジラに対処するための作戦。

使用されていた場面も相まって、特に観客に大きな印象を残したであろう音楽(劇伴)。




「諦めず、最後までこの項目を見捨てずに追記・修正しよう。」

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最終更新:2024年03月23日 01:12

*1 因みに庵野・樋口・鷺巣は『ふしぎの海のナディア』でゴジラシリーズのパロディをやった。

*2 1位は「君の名は。

*3 2度の首相官邸内取材では会議室の実測や写真撮影は許可されなかったので、美術班は報道で公開された写真と歩幅や適当な物差し(鞄の厚み何個分)でデータを取り、対比させて作り出していった。

*4キングコング』や『原子怪獣現わる』が、果たしてどんな邦題で公開されたのか、それとも公開すらされなかったのかを考えてみても興味深い。

*5 ゴジラの「脱皮」を見物していた民衆が急性被爆で死ぬなども盛り込まれていた