巨神兵東京に現わる

登録日:2016/07/17 (日) 20:13:48
更新日:2023/10/08 Sun 20:13:16
所要時間:約 6 分で読めます




企画 庵野秀明

巨神兵 宮崎駿

監督 樋口真嗣


巨神兵東京に現わる






『巨神兵東京に現わる』とは、2012年に製作された短編映画。
2012年に東京で初開催された、アニメ監督庵野秀明が主催する「特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」の企画展示として製作された。
宮崎駿監督、原作のアニメ/漫画『風の谷のナウシカ』に登場する生体兵器『巨神兵』が、もし現代の東京に現れたら」というコンセプトに基づき、東京で破壊の限りを尽くす様子をドラマチックに描いている。
制作には、東映の子会社特撮研究所があたり、監督は、平成『ガメラ』シリーズ樋口真嗣が担当。
企画、博物館館長の庵野秀明は脚本としても参加している。宮崎駿はキャラクター創造として、「巨神兵」表記でクレジットされた。
そのため、オープニングのロゴにはスタジオジブリマークが入り、鈴木敏夫も製作に加わっている。
劇中モノローグは作家の舞城王太郎が手掛け、ナレーションは林原めぐみが担当。


本作の製作目的は、「特撮の魅力、面白さを再考し、その答えの集合体となった作品を創る」こと。
長年培ってきた特撮技術を改めて全力で手掛け、特撮の面白さを観客に伝えるという、ある意味前時代的な技術の伝承を目的としている。
そのため、近年の日本映画でほとんど見かけないような操演、ミニチュア、爆破といった技巧に富んだ撮影方法が用いられる、いわゆる自主製作映画のようなノリが強い。
撮影には樋口監督や尾上監督補や特撮研究所の面々が工夫に工夫を凝らした「昔ながら」の技術が用いられ、CGは一部を除いてほとんど使用されていない。
特撮博物館では、映画と一緒にメイキング映像や撮影技術の資料が展示されており、併せて鑑賞した方がより楽しめる。




物語

普段通りの、何も変わらない一日のはずだった大都市・東京。

「私」の一人暮らしのマンションに突然やってきた大学生の弟。

「この日常、ぶち壊すって感じで申し訳ないんだけどさ、」

「大きな災いがやって来る」

「何なのあんた…誰なの?」

「僕は警告だよ。」


不思議なことが起こっている。何が起こったのか、全く理解できない。

「じゃあ、姉ちゃんに任したからな」

「意地悪するみたいで申し訳ないけど、もちろんその反対だよ。」



…その次の日、突如として「それ」は始まった。
東京上空に現れた「それ」は、唐突に街に降り立ち、瞬く間にすべてを塵に還し、世界を炎に包んでいった。

…これは、世界が終わる「火の七日間」の、始まりの日の物語。





撮影技法

概要で触れたように、この映画には「特撮」映画で使用された技術がふんだんに用いられている。
その中でも、「こんなところにも特撮が?」と思うところもあるのでは?

  • 宙を舞う火の粉
発泡スチロールに照明を当て、スタッフが起こした風に舞わせている。

  • 民衆
写真をミニチュア人形に貼り付け、ミニチュアセットに並べて撮影。

人形で、スタッフが動かしている。

  • 巨神兵
ブルーのタイツを身に付けた操演スタッフが人形を動かし、ブルーバックで背景と合成。
プロトンビームはCG合成。

  • 爆発するビル群
実際にセットで爆破させている。

  • 溶けるビル
ジェル状の液体をゴム風船に入れて、破裂させた場面を合成している。

  • 崩れ落ちるビル
ミニチュアに特殊なギミックを用いて、内部から崩れ落ちる仕掛けを作った。埃を追加し、巨大感を見せている。

  • キノコ雲
アクリルと綿で作った模型の雲。電飾で明るくさせている。




劇場版

特撮博物館の東京展示終了から1ヶ月後、館長で製作の庵野秀明監督作品『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』で本作が「劇場版」として同時上映されることが決定。
劇場版では、博物館展示版からCGエフェクトや小道具の追加、セリフの一部の変更、スタッフロールの追加といった編集が加えられている。
当初は、ビッグネームアニメ『エヴァ』とのミスマッチ感や、ジブリの鈴木プロデューサーの抱き合わせ商法のような「あざとさ」にファンからの不評が相次いだ。
また、実際に公開された後も、「特撮博物館」の展示用に作られた意図を知らない観客から「CGがチャチ」、「何が言いたいのかわからない」と不評が寄せられている。
しかし、実際に公開されると、本作と『ヱヴァ:Q』本編は地続きのような演出がなされた。
それはソフト版、地上波放送版でも同様で、『Q』の開始前には必ず本作が挿まれる。
劇場版の本作は、昭和映画をフィルム上映したかのような粗い画質であり、上映後にはフィルムの終わりを意味する「TAIL」と表示された後、そのまま『ヱヴァ:Q』が開始される。(さらに、『Q』も昭和邦画を意識したような映倫、東映ロゴが表示される)

このことから、本作が同時上映されたのは庵野秀明の何かしらの意図があったのではないか、と推察される。
奇しくも、『Q』の劇中では『破』ラストのニア・サードインパクトがきっかけで発生したサードインパクトの影響で、人類が人工進化した「インフィニティ」と呼ばれる巨人が地表に蔓延り、世界が滅びたという説明がなされている。
(主人公碇シンジが眠っていた14年間の間に起った出来事だが、詳しい説明は劇中でなされておらず、観客は画面とわずかなセリフから推測するしかない)
このことから、『巨神兵』はインフィニティが世界を闊歩したサードインパクトの状況を軽く補完するために挿入したのではないか、という説がある。
また、ラストのモノローグも、『Q』のテーマに通ずる「生きる意志」が語られている。


ただし、2019年に公開された配信版、およびリバイバル上映版の『Q』には本作は付属していない。
また2021年上映のIMAXリマスター版である「3.333」およびそのBD版も未収録となった。


公開後

特撮博物館の「特撮を手法が分かるように撮る」というのは特撮本来の趣旨からすると邪道のため反発の声もあった
(例えば『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』の鬼神兵は本作の演出へ物申す意図があったと語っている)が、
本作公開後、「特撮博物館」は好評につき全国各地を巡回。また、特撮技術の伝統を見直す動きが活発になり、レジェンダリー版『ゴジラ』公開も相まって、特撮映画の技巧が再評価されることになった。
そして、実写映画『進撃の巨人』製作の後押しにもなり、監督には樋口真嗣をはじめとする本作の主要製作陣が参加。
本作で培った特撮技術が存分に生かされている。(ストーリーはともかく)
さらに、庵野秀明を総監督に据えた日本製『ゴジラ』シリーズの最新作『シン・ゴジラ』の製作も決定した。
今後の特撮映画の発展に、追い風を立てたことは間違いないだろう。




想像の神は七日間でこの世界を創ったらしい。

僕たちだってこの世にいろんなものを作ってきた。

こんなふうにして一瞬にして壊されてくように見えるけど、たぶん壊す方だって同じくらい時間がかかるに違いない。

炎が世界を壊すのに七日間かかるのなら、それだけ逃げるチャンスもある。

逃げろ。生き延びろ。新しい世界を自分で創ればいいんだ。

世界の意志なんて知るものか。神の気持ちなんて構うものか。

終わる世界の中で、私以外の存在に希望を抱きながら、私は生き、逃げながら待っている。

新世界の訪れの前の、巨大な炎がやってくる。






第一の日、コメント欄が荒らしで埋まる。

第二の日、アニヲタWikiの全ての項目が荒らされる。

第三の日、相談所が廃止され、追記も修正もなくなる。

第四の日、項目は消え、全ては白になる。

第五の日、ユーザーもデータも失せる。

第六の日、サーバーから消え、全ては闇と混沌に包まれる。

第七の日、管理人は仕事を終え、安息の喜びの中で静かに泣く。

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最終更新:2023年10月08日 20:13