世界遺産

登録日:2016/06/29 Wed 17:29:07
更新日:2024/01/08 Mon 20:08:16
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世界遺産(World Heritage)とは、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)により世界遺産リストに登録された、人類が共有すべき顕著な普遍的価値を持つ遺跡・景観・自然などの物件のことである。






略史


世界遺産が誕生するきっかけになった出来事が起きたのは1960年。
エジプト政府が、ナイル川の氾濫防止と灌漑用水の確保などを目的としてアスワン・ハイ・ダムの建設を開始したが、ダムが完成した場合アブ・シンベル神殿などのヌビア遺跡が水没してしまう恐れがあった。
そこでUNESCOはヌビア遺跡の救済キャンペーンを開始、60ヶ国の支援を受けてアブ・シンベル神殿の移築が実現。
このことをきっかけに、歴史的価値のある遺跡や建築物などを国際的な組織運営により保護しようという機運が生まれた。

その後ICOMOS(後述)の成立などを経て、1972年のUNESCO総会で世界の文化遺産および自然遺産の保護に関する条約(世界遺産条約)が成立。1975年に正式に発効し、1977年からは年に1度開催される世界遺産委員会が開始。翌年の第2回世界遺産委員会にて、イエローストーン国立公園やガラパゴス諸島など12件の物件が初の世界遺産としてリストに登録された。
2015年現在191ヶ国が世界遺産条約を批准しており、世界遺産リストへの登録件数は1000件を突破している。

日本は1992年に世界遺産条約を批准。国内での態勢が未整備だったり、世界遺産基金の分担金拠出をどうするかでなかなか決着がつかなかったため、先進国としては最後の批准となった。2020年2月1日現在日本では23件の世界遺産がリストに登録されている。



世界遺産登録までの流れ


1.各国政府が登録したい物件を暫定リストとしてUNESCOに提出

暫定リストへの記載物件は各国独自の基準により選定される。日本の場合文化遺産候補は当該資産を保有する自治体の提案を受けて文化庁が調査・審議を行い、自然遺産候補は環境省・林野庁が選定後当該資産を保有する自治体や関係機関と管理計画について協議する。


2.暫定リスト記載物件のうち、準備の整ったものを推薦


3.UNESCOの依頼を受けて、諮問機関が現地調査し登録の可否を勧告

諮問機関とは国際記念物遺跡会議(ICOMOS)および国際自然保護連合(IUCN)の両機関。文化遺産候補についてはICOMOS、自然遺産候補についてはIUCNが調査し、それに基づき「登録」「情報照会」「登録延期」「不登録」いずれかの勧告を行う。


4.年1回の世界遺産委員会で最終審議、登録決定

諮問機関の勧告をもとに審議を行い、「登録」「情報照会」「登録延期」「不登録」いずれかの決議を行う。

登録:世界遺産リスト入りだよ! おめでとう!
情報照会:顕著な普遍的価値は証明されたが保存計画などに不備があるケース。書類の提出などを経て翌年の世界遺産委員会で再審査を受けられる。
登録延期:顕著な普遍的価値の証明が不十分であり、再審査には諮問機関の再調査を受ける必要があるため翌々年以降になる。
不登録:こうなると再推薦ができなくなるため、諮問機関の不登録勧告の時点で審議を取り下げる手続きが取られたり、不登録になったときと異なる理由で再推薦する場合もある(自然遺産ではダメだったのを文化遺産として推薦するなど)。

決議の結果は諮問機関の勧告を踏襲するケースが最多であるが、情報照会勧告であった物件が逆転で登録されたり、逆に勧告より低い評価での決議にもなり得る。また勧告通り登録が決まっても、物件名・登録基準・構成資産の範囲など細かいところでは勧告と違った決議となるケースも少なくない。



登録基準と分類


世界遺産登録基準は以下の10項目から成る。

(1)人類の創造的才能を表現する傑作。
(2)ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
(3)現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
(4)人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。
(5)ある文化(または複数の文化)を代表する伝統的集落、あるいは陸上ないし海上利用の際立った例。もしくは特に不可逆的な変化の中で存続が危ぶまれている人と環境の関わりあいの際立った例。
(6)顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの(この基準は他の基準と組み合わせて用いるのが望ましいと世界遺産委員会は考えている)。
(7)ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの。
(8)地球の歴史上の主要な段階を示す顕著な見本であるもの。これには生物の記録、地形の発達における重要な地学的進行過程、重要な地形的特性、自然地理的特性などが含まれる。
(9)陸上、淡水、沿岸および海洋生態系と動植物群集の進化と発達において進行しつつある重要な生態学的、生物学的プロセスを示す顕著な見本であるもの。
(10)生物多様性の本来的保全にとって、もっとも重要かつ意義深い自然生息地を含んでいるもの。これには科学上または保全上の観点から、すぐれて普遍的価値を持つ絶滅の恐れのある種の生息地などが含まれる。

このうちどの項目を満たしたかにより、世界遺産は次の3つに分類されている。

文化遺産:(1)~(6)のうち1つ以上を満たした物件
自然遺産:(7)~(10)のうち1つ以上を満たした物件
複合遺産:(1)~(6)のうち1つ以上かつ(7)~(10)のうち1つ以上を満たした物件

物件数は文化遺産>>(超えられない壁)>>自然遺産>>(超えられない壁)>>複合遺産(30件ちょっと)となっている。


以降、本項目での世界遺産物件名はこれらの文字色により文化自然複合の分類を表現することとする。
ちなみに世界遺産の物件名は英語とフランス語で登録されており、日本語での名称には文献により多少差異があることも付け加えておく。


非公式分類


  • 負の世界遺産
人類が犯した悲惨な出来事を伝える物件。原爆ドームなどが相当する。
上述の世界遺産登録基準では(6)のみが適用されていることが多く、他の基準と組み合わせるのが望ましい基準(6)のみでの推薦ができるのはこの負の遺産タイプの物件のみとも言われている(もちろん例外もあるが)。

(物件例)
アウシュヴィッツ・ビルケナウ―ナチス・ドイツの強制絶滅収容所(1940年-1945年)(ポーランド)
ナチスによるユダヤ人虐殺の舞台として有名。

ビキニ環礁の核実験場跡(マーシャル諸島)
1945年3月1日の核実験により日本の第五福竜丸など多くの漁船が死の灰を浴びた。

ゴレ島(セネガル)
首都ダカールの沖に浮かぶ島。奴隷貿易の拠点となった。

ロベン島(南アフリカ)
ケープタウンの沖に浮かぶ島。アパルトヘイト時代、後の大統領ネルソン・マンデラら多くの黒人が収監された。


  • 裏世界遺産
日本のネット上で使われることがある表現で、世界遺産委員会で登録以外の決議が下りた物件を指す。再度世界遺産委員会で審議され登録され、晴れて裏世界遺産リストから脱出した(?)物件もある。


世界遺産登録後


登録後保有国には景観や環境の保全が義務付けられ、保全状況を6年ごとに報告し世界遺産委員会での再審査を受ける必要がある。
また、世界遺産登録により観光客が増加するケースがあり、場合によっては保全の妨げにもなる。このため、一部の物件では一般人の立ち入りが禁止されていたりする。一方で世界遺産登録に伴い観光が活性化することで貧困が解消され保全にプラスになることもあったり、世界遺産登録により観光客を呼び込もうとする動きもある。

危機遺産


周辺環境や生態系の悪化・周辺情勢の悪化などにより世界遺産の保有する価値が危機にさらされた場合、そういった物件は{危機遺産]リストに加えられる。保全状況に改善が見られれば危機遺産リストから除外され、逆に世界遺産としての価値が失われた場合世界遺産リストから抹消される場合がある。

(物件例)
スマトラの熱帯雨林遺産(インドネシア)
オランウータン、スマトラサイ、悪臭でもお馴染みのラフレシアやショクダイオオコンニャクなどの生物相を有するが、残念なことに違法な森林伐採が横行している。

バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群(アフガニスタン)
2001年タリバン政権により石仏が爆破され(同時多発テロのおよそ半年前)、2003年世界遺産登録と同時に危機遺産リスト入りした。

パルミラ遺跡古代都市アレッポなどシリアの世界遺産全6件
2013年、シリア騒乱により国内の世界遺産が全部いっぺんに危機遺産リスト入りしてしまった。

エルサレムの旧市街とその城壁群(イスラエル、ヨルダンによる申請)
キリスト教・イスラム教・ユダヤ教の聖地として知られる。何かとデリケートな問題を抱えているためヨルダンが申請するという異例の手続きが取られ、1981年に臨時の世界遺産委員会にて登録が決定、翌年危機遺産リスト入りし保護が図られた。臨時の委員会で登録された世界遺産は2015年現在これが唯一の例であり、また現在最も長い間危機遺産リストに入っている物件となっている。

ガランバ国立公園サロンガ国立公園オカピ野生生物保護区(コンゴ民主共和国)
それぞれキタシロサイ、ボノボ、オカピの生息域として知られているがいずれも密猟が横行している。

カスビのブガンダ歴代国王の墓(ウガンダ)
2010年に中心的建造物である旧宮殿が火災により焼失。

エバーグレーズ国立公園(アメリカ)
フロリダ半島の南端に広がる湿地帯。ハリケーンの被害により1993年に危機遺産リスト入りし、改善が見られ2007年に除外されたものの、水生生物の生態系の悪化などにより2010年に再び危機遺産リスト入りした。


世界遺産リストからの抹消


世界遺産としての顕著な普遍的価値が失われた場合や、条件付きで登録された物件がその条件を満たさなかった場合、世界遺産リストから抹消される場合がある。このような抹消された(元)世界遺産は過去に2例が存在する。

アラビアオリックスの保護区(オマーン)
物件名の通り、野生種が絶滅したアラビアオリックスの保護区。
2007年1月、オマーン政府は天然ガス・石油の資源開発を優先させるために保護区を約1/10に縮小。IUCNは抹消を勧告し、世界遺産委員会ではこれへの反対意見も出たが、オマーンが開発優先の意向を堅持したこともあり初の抹消事例となった。

ドレスデン・エルベ渓谷(ドイツ)
エルベ川上流の渓谷にドレスデン市などの文化的景観が広がる。
ドレスデンでは車両交通量の増加に悩まされており、その解決策としてエルベ川に橋を架けることが提案された。これに対しUNESCOは橋が建設された場合景観が破壊されると見なし2006年危機遺産リスト入り、色々議論はあったものの住民投票では建設賛成派67%という結果が出ていたこともありドレスデンは橋の建設に踏み切り、これにより2009年の世界遺産委員会で抹消が決定した。

海商都市リヴァプール(フランス)


日本の世界遺産


世界遺産(日本)を参照。

世界各地の主な世界遺産








余談


  • 自然遺産の登録基準(7)~(10)を全て満たしている物件は多数あるが、文化遺産の登録基準(1)~(6)を全て満たしているのは上で紹介した莫高窟ヴァネツィアとその潟に加え(7)も満たし複合遺産となっている泰山(中国)のみ。また満たしている登録基準が最も多い物件は2つあり、この泰山{(1)~(7)}とタスマニア原生地域(オーストラリア){(3),(4),(6)~(10)}が10項目のうち7つを満たしている。

  • NPO法人世界遺産アカデミーにより世界遺産検定が実施されている。級は4級~1級(1級のみ2級に合格していないと受験できない)と、1級の合格者のみ受験でき世界遺産保全に対する考え方を論文形式で問われるマイスターが存在する。芸能人にも受験者が多く、中でも俳優の鈴木亮平は1級に合格した。世界遺産検定についての詳細は地理歴史科・公民科の項目を参照。

  • アーケードゲームのクイズマジックアカデミーでもかつて世界遺産検定が実施されたことがある。世界遺産関連の問題はオンライントーナメントなどを遊んでいても出題される可能性があり、相当マイナーな物件の問題もあるので正解できれば差をつけられるはずである。







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