灰燼のカルシェール -What a beautiful sanctuary-

登録日:2016/06/16 Thu 13:14:56
更新日:2024/02/19 Mon 23:07:39
所要時間:約 12 分で読めます





ふたり寄り添いながら、すれ違いながら、
死んでしまった世界の果てで最後の場所(サンクチュアリ)を求め、旅を続ける――



灰燼のカルシェールとは、PCゲームメーカー・ライアーソフトニトロプラスのコラボ企画として発表された小説。
人類滅亡後の世界をたったふたりで旅する青年と少女を描いた、いわゆる終末ものである。



◆あらすじ◆

1907年。高度に発達した蒸気機関は文明の灯火となっていた。
けれども、ある日。排煙に満ちる空を引き裂いて超大なねじれた柱時計が――《大機関時計》が落ちてきた。
それと同時に全ての都市で原因不明の災厄が発生。世界人口の9割が失われ、生き残った人間も鋼鉄の異形・機械死人(サイバーゾンビー)に駆逐されていった。

時は過ぎ。
荒廃した世界を旅するふたりがいた。
ひとりはこの世界にまだ安息の地(サンクチュアリ)があると信じる少女。名前はジュネ。
もうひとりは最後の場所(サンクチュアリ)を目指す少女に寄り添う青年。名前はキリエ。
互いに想い合い、守りあうふたり。けれど、そこにある命はひとつだけ――



◆概要◆

ライアーソフトが展開しているPCゲームシリーズ、スチームパンクシリーズの外伝小説。
シリーズ本編の設定が物語の大きな基盤となっているが、一応これ単体でも独立した話となっている。

ニトロプラスとのコラボ企画として発表された作品で、ニトロプラスブックスから販売された後で星海社文庫からも文庫化された。
シリーズ外伝作品ではあるが、おそらく入手ハードルがシリーズ中最も低い。

小説本文を桜井光氏が、挿絵etcを漆黒のシャルノス紫影のソナーニルのAKIRA氏が、付属サントラの楽曲を鬼哭街デモンベインなどのZIZZ STUDIOと咎狗の血などのVERTUEUXが手がけた。
(※サントラが付いているのはニトロプラスブックス刊行の単行本のみで星海社文庫版には付いていない)

「シリーズ本編のバッドエンドが積み重なった結果がこれだよ!!!」というif世界が舞台になっており、ぶっちゃけどう足掻いても絶望。
設定を紐解けば紐解くほど念入りに人類、というか地球が殺されている。

そんな世界観のこの作品で主題になっているのは「どうすれば世界を救えるのか」「すべての元凶を倒せるのか」といったこと……
……ではない。

この物語で焦点が当てられているのは、とにかく「旅するふたりの関係性」である。

世界を救おうにもすでに人類は回復不能なまでに滅亡しており、元凶を倒そうにも諸々の要因からかなりの無理ゲーとなっている。

この作品は世界を救う英雄譚でも胸躍る冒険活劇でもなく、終わった世界で出会ったふたりがどのような結末へ向かうのかを見届ける物語である。



◆登場人物◆

・キリエ
黒い朽ちかけたコートを纏った青年。
機械の左腕、胴体上部、左脚を状況に応じて異形化させて戦う。
論理性と合理性に振り切れた思考回路をしており、元は人間であるはずの機械死人相手でも容赦がない。
根はとても素直で不器用。
一緒に旅をしている少女、ジュネのことを何よりも大切に思っている。

・ジュヌヴィエーヴ・ナインス
ぼろぼろの白衣を纏った少女。愛称は「ジュネ」。
キリエに色々なことを教えたり身の回りの世話をしたりする姉か母親のような存在だが、その一方でキリエを異性として意識して動揺する年頃の少女のような一面もある。
キリエの体調管理を徹底したり窮地に陥った彼を助けるためにグレネードランチャーをぶっぱしたりする気丈さを持つ。が、基本的にはとても大人しい性格。
絶望的な状況に心が折れそうになりながらも彼の前では柔らかな表情を絶やさないように気を張っている。

・機械死人
終末世界を跋扈する異形。人間の死体を素体として作られた存在。
人間だった頃の記憶の有無については個体差が大きいが、正常な精神を保っているものはひとつも存在しない。例外なく狂っている。

原則としてひとつの都市に1体存在する。自分の領域の命を喰らい尽くすと動かなくなり、その残骸はやがて物理法則の死と呼ばれる現象を引き起こす。
この現象を起こした土地には誰も立ち入れなくなるため、あらゆる命が喰い尽くされて機械死人が次々に朽ちていっている今の状況は人の住める場所が現在進行形でどんどん失われているということになる。

世界を終わらせた存在によってあらゆる物理法則を無視する加護を与えられており、焼こうが貫こうが粉砕しようが圧縮しようが破壊することは不可能。
機械死人を殺せるのは同様の加護を受けた存在の攻撃のみである。

また、機械死人が動かなくなるのは彼らを作った存在がすでにこの宇宙に意識を払おうとしていないから。
もしもその存在がまだこの宇宙に在ったなら他の世界で出現した機械びとのように動き続けていたのかもしれない。人間性を削り取られたまま、意味もなく。

  • ビリー・パーシング
過去パートの語り手。合衆国先住民との紛争で軍功を挙げた父を持つ若き軍人。
軍の命令でA国最大の研究組織《大協会》の基幹研究所、ロス・アラモスを訪れる。
友の不可解な死の真相を知るべく《大協会》主宰に誘われるまま黄金螺旋階段を下ったが…
あらゆる意味で人類の黄金比となる肉体を持っていたために国家と文明に尽くす個体として機械死人を作ろうとしていた《大協会》に狙われており、ロス・アラモス訪問も仕組まれたものだった。
最後は黄金螺旋階段を下った先に設置されていた魔術と呪術とその他詰め合わせの狂気の数式に捕らわれて、精神を混乱させられたまま機械死人・タナトスの素体となる。なお友人はビリーをタナトスの素体とすることに反対した結果死んでしまっていた模様。

・どこかで嗤う何者か
直接的には登場しないものの文章の端々で存在を匂わされる。
世界をめちゃくちゃにした張本人。



◆用語◆

  • 大機関時計
世界が終る際、一斉に世界中に突き建った存在。邪悪の円柱(カルシェール)とも呼ばれ、この作品のタイトルにもなっている。
見た目は巨大な時計塔の形をしており、針は常に零時ちょうどを指している。
大きさは最小で数キロメートル以上あり、大小三十三ものこれが、空から一斉に惑星の中心核に達する勢いで降り注いだ。
これほどの質量が落下したにもかかわらず落下地点の損害は衝突した物体の破壊のみであり、ジュネはこの時のことを回想してこれは後に言われる「物理法則の死」がすでに始まっていたからだと推測している。

  • 終わった世界
世界中に《大機関時計》が突き立ち、その後の物理法則の死によって大地は枯れ、機械死人によって人類はほぼ刈りつくされている。
しかし、世界が終った確定的な要因ははっきりしない。上記にあるように、何者かの思惑によって引き起こしたことはおぼろげに語られているが、その存在が何をどうやって世界を終わらせたのかは分っていない。
僅かな生き残りの記憶は混乱しており、様々な説も立てられたというが、そうした人物はすでに機械死人によって刈りつくされている。

  • 物理法則の死
大機関時計や朽ちた機械死人から発生する現象。
周辺の重力と引力を狂わせた後、無機物を形容しがたい粘液へと変える。
一連の事象が終わった後には不毛の空間が残る。
キリエたちが撃破した機械死人からも起こるため、ふたりの旅路は本格的な世界の終わりを早めていることにもなる。



◆小ネタ◆

  • ソナーニルに登場するモールの別名は機械びと(サイバーゾンビー)
  • ソナーニル回想パートでデートに使われた遊園地はロス・アラモス同様フォード系列
  • 過去エピソードで登場するビリー・パーシングやF社主宰のビジュアルとプロフィールはスチパンワールドガイド01に載っている
  • 《大機関時計》はシリーズ正史世界にもひとつ突き立っていた。が、シャルノス本編終了後のThe Mによって食べられた。まずかったらしい。
  • 途中で存在を匂わされたけどフェードアウトした「ローゼンクロイツ」はシリーズ別作品のラスボスである。この方、「シリーズ正史世界では悪役だがカルシェールとは別のif世界では正義の味方」という善人(ヒーロー)なのか悪人(ヒール)なのか灰色の人である(そしてほぼ確実に人外)。
  • ビリー・パーシングの愛読書、マン・オブ・スティールとはスーパーマンのことなのだが、スチパン世界におけるコミック「マン・オブ・スティール」には実在のモデルが存在する。…冷静に考えるととんでもない設定のような気がする。
また、(if世界なので当然といえば当然だが)カルシェール世界の年表とシリーズ正史世界の年表は間違い探しのようにズレがある




すべてにおいてジュネを優先し彼女を守るために戦うキリエと、彼のために自分自身すら簡単に投げ出してしまえるジュネ。
そんなふたりの歪で純粋な関係は物語の終盤で大きな転機を迎えることになる。



*1


果たしてその後にも変わらず存在するものはあるのか否か……




追記・修正はジュネおねえちゃんにやさしく叱られたい人にお願いします。



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最終更新:2024年02月19日 23:07
添付ファイル

*1 画像出典:灰燼のカルシェール -What a beautiful sanctuary- 著:桜井光 イラストレーター:AKIRA 出版社:Nitroplus Books(単行本)、講談社(文庫版) 刊行年:2013/2/4(単行本) 2014/10/10(文庫版)