犬肉

登録日:2012/04/26 Thu 18:22:09
更新日:2024/02/09 Fri 13:04:29
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「犬という生き物は、白毛が1番、赤毛が2番、黒毛が3番、ぶちが4番、トラ柄が5番、灰色が6番の順番で……」

「美味しい」

~江戸時代の料理書、『料理物語』より~


犬肉とは、食用として飼育されたを加工した肉の事であり、犬食文化の根付いた国で食べられる。

現在は、北西アジア及びに東南アジア、オセアニア、ミクロネシア、ハワイなどにおいて見られる。
忌避のイメージがあるヨーロッパでも一部の国には伝統料理として犬肉の料理があったり、
アジアでも中央アジアやモンゴルでは強く拒否されている。
また、あまり有名では無いが、イスラムの教義でも豚肉同様に禁止されていたりする。


■味わい

脂身は少なく、赤身がちな肉であり、全体に薄くコラーゲンの膜がある。
やはり豚や牛に比べたら身が締まっているらしく多少固いが、全体的にサッパリとして美味である。
ゲテモノの認識があるが、食肉としての価値は十分である。
ヤミツキになる人がいるのも頷ける。


■忌避

…のだが、「大好物!」と目を輝かせる人々がいる一方、やはり犬肉にネガティブなイメージを持つ者も多い。
「主に狩猟国がこの傾向が顕著で、有史以来、犬をパートナーと認識していたからであり、
逆に農耕国ではその抵抗は少ない云々」言う学者さんもいたが、この説は現在否定されている。
単純に、頭が良くペットとして馴れた犬を食べてしまおうと言う発想が拒否感の根元である。

また、犬食文化そのものは存在する国でも皆が犬肉大好き!と言う訳でもなく、犬肉を拒否する人はその国にも割りといたりする。


■世界の犬料理


日本

現代ではあまり知られていないが、実は日本には古来からの伝統的な犬肉食の伝統がある。
縄文・弥生時代の遺跡からも(食用に)解体されたと思われる犬の骨が出土しているし、
文書資料が残る時代になっても「五畜(牛・・犬・猿・鶏)」としてかなりポピュラーな食肉の地位にあったことが確認されている。
「狡兎死して走狗烹らる」は史記出典の諺だが、日本では犬を猟犬として用いる一方で食用として飼われていた犬もいたと思われる。

しかし奈良時代以降仏教の普及が進むにつれ、「生き物を殺すのはよくない」ということで、犬を含む肉食自体に対し度々禁止令が出されるようになった。
「日本書紀」にも「五畜を殺して食べてはいけない」という天武天皇の法令が記録されており、段々犬肉は忌避されるものになっていったのである。

ただしこういった動きはあくまで建前上の話であって、実際に衰退したというわけでは全くなかった。
この後も「殺生・肉食禁止令」は度々出されることになるのだが、それはつまり実態としては全く廃れていなかったということなのだ。

武士の時代になるとこの辺はより大っぴらになり、鎌倉時代以降は犬肉食の資料がかなり豊富になる。
例えばこの時代の有名な騎射訓練「犬追物」では、鏃をつけない矢で犬を撃つのが一般的だったが、それでも死んでしまう犬はかなり出た。
この死んだ犬(専門の業者が捕獲して提供していた野犬)は、その後に参加者が食べてしまうことも多かったようである。

戦国時代に来日した宣教師ルイス・フロイスも「我々が牛を食べるように、日本人は犬を食べる」と記録しており、
当時の食肉の中でもかなりメジャーな地位にあったことがうかがえる。
ただしこれほど普及していたわりに、なぜか犬肉は微妙に地位が低いというか、「安物」的な扱いをされていたようである。
室町時代には武家礼式をまとめた本が多く執筆され、礼式の一種として調理を解説した今で言う「レシピ本」も多かったのだが、
そういった気取ったレシピ本には犬料理がほとんど確認されていないのだ。

江戸時代に入っても、レシピ本「料理物語」では、堂々と「犬の吸い物」「犬の貝焼き」のレシピが載せられていたり、
武士のエッセイでも「犬よりうまいものはない」「こう毎日犬の肉だと気分が悪くなる」という記述があったりと、
やはりメジャーな食肉として認知されていたことがうかがえる。
だが「下々の肉」「食糧不足の時にやむを得ず食べる肉」といったイメージはこの時代以降どんどん強くなっていったらしく、
徳川綱吉が「生類憐れみの令」を出して以降はこの傾向がさらに加速した。

特に江戸などの都市部ではこの傾向が強く、江戸っ子が薩摩人を「犬肉なんぞを好む田舎者」と馬鹿にした川柳が残ってたりする。
ちなみにお豊も大好きな「えのころ飯」は薩摩の伝統料理で、犬の腹に米を詰めて蒸し焼きにした料理である。

こうして安物、野蛮、鳥のエサ*1と罵られながらも命脈を保っていた犬肉だったが、
明治時代以降、犬食を忌避する西欧文化との接触によって本格的に廃れていくことになった。

ただし太平洋戦争のような食糧不足の時期になると、伝統的な救荒肉として一時的に復活もしている。
戦時中、「犬を飼うのは贅沢」として飼い犬が集められることがあったが、その犬達は前線の兵隊達のために缶詰にされていたようである。
戦後の闇市でも犬肉はかなりメジャーな存在であり、「犬の焼き鳥」「犬のうどん」などのメニューが料理屋に並んでいたらしい。

また動物の肉を「これは薬だから!」と言い訳して食べるのは日本の古い伝統だが、こうした「薬」としての犬肉はかなり長く生き残っていた。
戦前の宮古島では、ブツ切りにした肉や骨を煮て味噌とヨモギを加えた「犬汁」が万病の薬とされ、滋養食になっていたという。

現代日本では多くの人が犬肉を忌避しており、所謂「日本式の犬食文化」というものはほぼ絶滅したと言ってもいいだろう。
犬食料理があっても、せいぜい中国や韓国由来の料理店くらいである。

また、カップヌードルのダイスミンチに犬肉が使われていると言う都市伝説があったが、
牛より遥かにコストのかかる犬肉を使っているというのは非現実的である。


◆中国

「羊頭狗肉」という故事成語が示す通り、古来から食べられてきた地域。そもそも中国原産犬のチャウチャウは、元来は食用である。
ただし中国でも犬は狩猟犬や番犬としても広く使われてきた歴史があり、「犬=食用」というわけではない。

元々古代の中国では、祭事の際の「犠牲(サクリファイス)」として犬を使う習慣があり、犬肉を食用とする文化もそこから来たものと推察されている。
このため古くは犬肉が「由緒正しい肉」として上流階級から愛されていた時期もあったのだが、
仏教の影響などによって段々地位が下がっていき、最終的には下層階級用の肉、あるいはややマニアックな肉という立場に落ち着いた。

現代中国でも犬食に関しては地域によってかなり温度差があり、北方では、初代皇帝のヌルハチが犬に助けられたという伝説から清王朝が忌避したこともあって、
特に犬食を忌避する傾向がある(が、一方で先出の「羊頭狗肉」は、羊と称して犬肉を食べるための方便、という冗談もある)。
対していわゆる華南地域、広州や湖南、雲南などではかなり大っぴらに食べられている。

その歴史はかなり古く、漢方にも薬効が記載され、特に身体を暖める効果があるとされている。
味噌鍋にされるのが一般的だが、シチュー状の煮込み料理があったり、それのレトルトすらあったりする。
一方で英国の植民地時代が長かった香港ではその影響で犬食には強い拒否感があり、1950年に「猫狗条例」が成立。
以降、流通販売はおろか「犬肉を口にした者」も罪に問われ、最大640米ドル(約96000円)相当の罰金・禁錮6カ月と非常に厳しい。


◆韓国、朝鮮
朝鮮ではケゴギ(개고기)と称され、朝鮮三国時代以来の歴史を有する食文化が形成されて来た。
その中でも中国から伝わった犬肉料理である「ボシンタン」が今なお人気があり、京畿道城南市の牡丹(モラン)市場は韓国犬肉のメッカとして有名であった。
なお、韓国では毎年7~8月に日本で言う土用丑の日のような伏日と言うイベントが3回存在し、この時期になると飼い犬が盗難に遭い、
健康食品店に売り払うと言う事件が起きた程に定着していた。

しかし、この犬食は海外から批判される事も多く、1988年のソウル五輪の際には一時的に犬肉料理店を閉鎖する措置を取った事もある。
1996年に経済協力開発機構(OECD)に加盟した事を契機に犬食忌避が進行。2002年の日韓W杯でもやり玉に上がるなど、若年層を中心に
忌避を示す人々も少なからず存在し、近年では国際的な動物愛護団体の介入により犬肉業者の更生と犬の解放、それに付随するデモが頻発していた。

そして2024年1月9日、韓国国会において、2027年から施行予定として食用の犬の飼育や繁殖、食肉処理、販売の禁止を定めた
「食用を目的とする犬の取引などを禁止する法律」が可決・成立した。

一方で、北朝鮮では「甘い肉」として豚肉の倍以上の価格もする高級食材と化しており、平壌では盛んに食べられている。
韓国とは違って欧米に中指を立てるが如く、世界最大の犬肉レストランの建設も進められている程。


◆東南アジア

ベトナムやタイ等で盛んであり、市場には普通に犬の丸焼きが並んでいたり、韓国のように飼い犬の誘拐事件が問題になったりする。
フィリピンでは車に轢き殺された犬の死体はその現場前の家に所有権があり、その日の晩は豪華ディナーになるとか。


◆ミクロネシア・オセアニア

食用犬の養畜今だ普遍であり、タロイモやバナナなどが添えられていかにも南国な風情で供される。
ハワイの豚の蒸し焼き「カルア・ピッグ」も元は犬肉だった。


◆アメリカ

スー族などのネイティヴ・アメリカンがシャーマン的意味合いとして犬鍋を現在も食べている。
また、イヌイットが犬ゾリを引かせる犬は緊急時の非常食でもある。
史上初めて南極点到達を達成したノルウェーのアムンセンもイヌイットからソリ犬の使い方を学んでおり、
南極点に挑戦する前の最後のキャンプで生存していたソリ犬の6割を殺して探検隊と残った犬の食糧としている。
さすがに子供向けの伝記などではこのエピソードはカットされる場合が多いようだ。

◆ヨーロッパ

スイスではハムやソーセージの材料に使われ、フランスにも少数だが愛好家が存在する。ドイツでは1986年に法律で禁止されるまでは
犬肉専門の肉屋が多数あった程であった。

だが、やはりヨーロッパ全体において忌避の風は強い。



アメリカっぽい何処か。
巨大ゴキブリやネズミの肉や人の肉が食料となるこの場所では、犬肉も立派な食料。むしろ御馳走。
軟弱な我々としては調理したいところだが、多くの住人は生のまま美味しく食べています。
新鮮な犬肉が食べたくなったら町の外に出よう。新鮮で元気な野犬がいっぱいいるよ!
ヒャッハーな人たち先生には気をつけて。

あと、いくら美味しそうでもこの人の愛犬にはてを出さないように。
名前はドッグミートだけど!
それとこの人が火を通すと美味しいって言ってました。


●余談
実は漫画「はだしのゲン」でもピカドンの後に犬を食べるシーンがあった。
更に、鉄鍋のジャン!では五行が料理対決番組で犬肉を使用したが、それは事前に調理用に用意したものではなく、番組ひいては自分のスポンサーのペットの犬である。諸事情でスポンサーが審査員に加わった際は、内心で面白いと評する始末。
他にも美味しんぼ56巻で犬肉絡みの話が存在する。




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最終更新:2024年02月09日 13:04
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*1 当時「鷹狩り」用の鷹には、犬肉がエサとして与えられていた