キノの旅

登録日:2009/10/09 Fri 06:48:32
更新日:2024/02/12 Mon 05:25:12
所要時間:約 12 分で読めます





―世界は美しくなんかない。―


―そしてそれ故に、美しい。 ―

●目次

【概要】

キノの旅とは、電撃文庫から発刊されているライトノベルである。
正確なタイトルは『キノの旅~The Beautiful world~』。

作者は時雨沢恵一。
絵師はサモンナイトシリーズなどで有名な黒星紅白。

各地に様々な「国(都市国家)」が点在する架空の世界を舞台に、それぞれの旅人たちがそれぞれの旅の途中に出会った事件を時にはコミカルに、時には寓話的に語っていく物語。
10巻台以降は露骨な社会風刺が盛り込まれ気味。
物話には時系列こそあるものの基本的に一話完結型のため、何巻からでも読むことができる。

時雨沢恵一による読者の想像の上をいく展開や設定からは、時には想像もつかない結末が描かれる。

電撃文庫から現在23巻まで発売中(2020年11月現在)。8巻以降は年1冊のペースで刊行されている*1

2010年で10周年を迎えた。
シリーズ累計発行部数600万部を越える電撃文庫の大ヒット作の一つであり、アニメ化、ゲーム化も果たしている。

基本的には軽く読めるライトノベルだが、たまに人の身体が吹き飛んだり等のエグい描写も平気で描かれるので苦手な人は注意。
パースエイダーというのは現実でも使う銃器の呼称のひとつだが、敢えてコレを選択している辺りでこの作品の方向性は何となくわかって頂けるだろう。

2016年には電撃文庫の企画として「多数決ドラマ」として再アニメ化がなされ、ニコニコ生放送で配信された。
2017年3月12日に再TVアニメ化する事が発表された。キャストは多数決ドラマで演じた方々が続投して同年10月から12月にかけて放送。
ちなみに多数決ドラマも2017年版アニメのブルーレイ上巻初回特典として製品化されている。

しかしアニメ二期以降は刊行ペースが鈍化し、20周年を迎えた2020年を最後に新刊は発表されていない。
21年の学園キノを含めても24年時点で刊行情報は一切なく、シリーズとしては沈黙となっている。
ただしその間も舞台版が公開されるなど、コンテンツとして完全に終わっているわけではない。


【登場人物】


この物語は主に三組の旅人たちの旅が描かれており、それぞれ異なる視点、異なる目的、異なる考えを持っている。
彼らが立ち寄ったことで、その国に大きな影響を与えることもあれば、何事もなく立ち去る場合もある。

【キノの話】

この話の主人公・キノの旅を描く話。作品中、最も数が多い。

キノ
CV:前田愛(2003年版アニメ、電撃学園RPG)/久川綾(ラジオドラマ・電撃文庫 FIGHTING CLIMAX)/悠木碧(多数決ドラマ、2017年版アニメ)
あてもないまま、色々な国を回り、旅を楽しむ少女。年齢は時系列によって、十代半ば~後半程度。
一つの国には長く滞在すると愛着が湧くから3日までしか滞在しないというルールを決めている。

国を飛び出してすぐに出会った「師匠」に鍛えられたため、
若いながらパースエイダー(銃器。キノの場合は拳銃)やナイフの扱いを始めとした身のこなしは達人級。
一方で料理の腕前は殺人級(あの師匠が裸足で逃げ出す程)。
一人称が「ボク」であることや、ショートカットのボーイッシュな外見、未成熟な体型などのため、少年に間違えられることもある。
だが、旅に出る前の、髪が長かった幼女キノは反則的な可愛らしさであると個人的には思……、

なぜだろう?

なにも見えな

ぬ?


持ち歩くナイフはスペツナヅもびっくりの仕込ナイフから多種多様。ナイフ屋と呼ばれたことも。


ちなみに、新アニメ版のキノ役である悠木碧旧アニメ版の最終話が声優デビュー作だったりする。


◆エルメス
CV:相ヶ瀬龍史/斉藤壮馬/野田順子(ラジオドラマ)
キノを乗せて走る相棒のモトラド(二輪車。空を飛ばないものだけを指す)。自我を持ち、人間の言葉を話す。
元々は別の旅人が修理したものだったが、ある理由からキノの相棒となった。

非常に博識で、人間が誰も読み解けなかったマスドライバーの計算式を一瞬で理解するなど、スーパーコンピューターでも積んでるんじゃないかという高性能だが、慣用句を(おそらくはわざと?)微妙に間違えた言い回しで使う癖を持つ。
(幼女キノの癖であったので意趣反しだと思われる)
ただし乗り物であるモトラドの宿命故、キノが動かしてくれないと自分だけでは何にもできない。乱暴な運転をされたり、転倒させられると文句を言う。

だが、宿敵の笑ったような顔をしているいけすかないモフモフ犬に勝つためならば水中を泳ぐらしい。

モデルは、ブラウ・シューペリアという古いバイクで実在するが、買おうとすると2000万円くらいする。

ちなみにこいつ、一人称を使ったことが殆どない。「大人の国」にて「ぼく」と一度言ったきり。


【シズの話】

キノが旅の途中で出会った青年・シズが安住の地を探す旅を描く話。

シズ
CV:入江崇史/梅原裕一郎
バギー(Chenowth社製デザート・パトロール・バギー)に乗って、安住の地を探す旅を続ける青年。
キノとは現時点で二度(コロシアム、船の国)出会っており、
いずれも殺し合いじみた勝負になるなど物騒な経緯を持つが、関係そのものは良好であり、
キノと出会った事件は二度ともシズの旅に大きな影響を与えている。
刀を武器とし、その腕前は達人レベル。

真面目で困っている人を放っておけない実直な性格のはずなのだが、キノやティー(後述)など、出会う女性が未成熟な少女ばかりであることや、
「キノをつけ回すロリコンストーカー」と作者自らあとがきでネタにしてしまったせいで、多くの読者にロリコン扱いされている。
出番が少なかった時期、魔法少女になって人気を得ようと画策したこともあったので、実はイカツい美?少女である可能性が宇宙の塵程は存在する。

◆陸
CV:大塚芳忠/松田健一郎
シズに忠誠を誓う白い大きな犬。犬種はサモエド。サモエド仮面とかいう変質者とは関係無い筈である。
人間の言葉を話す。
いつも笑ってるように見えるが、そういう顔なだけ。
モノローグは結構毒舌。
ティーのお気に入りで口の減らないモトラドさんの永遠のライバル。
モデルは作者の友人の犬。

◆ティー
CV:能登麻美子佐倉綾音
物語の途中(船の国)、シズと知り合い、ある理由から旅に同行した少女。
非常に無口で手榴弾がお気に入りという変わった少女だが、心優しい子である。
ポーカーフェイスで心情を殆ど吐露しないが、上記二名のことを大事な家族のように想っているようで、シズがティーを気遣って
「この子の為にここで別れて定住させる」
等と言い出すとマジでキレて朴念仁を殴る。ツンデレ
ちなみに旧版のキャストである能登麻美子はゲーム版第二作でおまけのコーナーで少し話しているくらい。つまりおまけのために能登麻美子をキャスティングしている。


【師匠の話】

キノに稽古をつけ、旅を教えた「師匠」の若い頃の旅を描く話。時系列的にはキノとシズの時代の数十年前にあたる。

師匠
CV:渡辺明乃(昔)、翠準子(現在)/Lynn(昔)、沢田敏子(老人)
ポンコツ(スバルR360)の車に乗って各地を旅する若い女性。キノの師匠の若い頃の姿である。
谷超え2km狙撃の伝説を持つヴァヴァア・ザ・スーパーとは特に関係無い……筈。

人間離れした戦闘力と洞察力を持ち、頭の回転も早く、おそらく作中最強の人物。
特に金目のものが関わると一片の情けも容赦も相手にはかけないため、「オニだ」とよく呼ばれる。
作中無茶をしまくるが、とりあえず無分別に暴力に訴えるタイプでもなく、狩れる獲物から的確に狩るかなり打算的な人間。
極々稀に情らしきものを見せるが、それよりはクッキングの如きノリで人間で挽肉をこさえる件数の方が遥かに多い。
欲望の赴くまま、儲け話に首を突っ込み大暴れする場面が多く、平気で悪人を撃ち殺しまくる物騒な人物だが、幽霊が苦手と思わせる意外な一面もある。

キノ曰く逆立ちしても勝てないらしい。

相棒
cv:千葉進歩/興津和幸
小柄でハンサムな顔立ちの、師匠の旅の同行者。
お尋ねものだったがある事件で師匠に仲間もろともコテンパン(滅殺。彼一人だけ生き残ったことだけを指す)にされ、師匠の腕に惚れ込み同行することに。

戦闘力や洞察力は師匠には適わないが十分に達人レベル。銃の整備や修理の腕は師匠以上。
一見、キノとは接点は無さそうだが……?


【フォトの日々】

キノが出会うことのなかった元奴隷の写真家の少女・フォトとモトラドのソウの話。旅ではなく定住した状態で進む異色のシリーズ。
10年代になって始まった比較的新しいシリーズだが、実はかなり初期の話の前日譚から続いている。

フォト
cv:水瀬いのり
ある宗教国家出身の孤児の少女。17歳。
旅の商人一団に奴隷として売られてしまったが、とある悲劇(または幸運)から自由の身となる。

祖国の教義を頑なに信じるあまり他人を疑ったり恨むことを知らない、真面目で正直者。
ソウと過ごすうちに明るく元気になったが、元々素直な上に世間知らずで学が足りないため少々アホの子に見える。
一見損をしそうな性格だが、それを補って余りある凄まじい幸運の持ち主で、その誠実さが報われることが多い。
定住後は金持ちになったが持ち前の真面目さから仕事をすることを望み、ソウの勧めで始めた趣味の写真撮影を仕事とするようになる。
撮影のために他所に出向いたり、住人が撮影依頼に訪れることがきっかけで毎回話が始まる。

◆ソウ
cv:緒方恵美
珍しい折りたたみ式のモトラド(ホンダ・モトコンポ)。旅商人一団の扱う商品だったが、ずっと買い手がつかずしまわれていた。
絶望するフォトに話しかけ生きることを諭し、以降フォトの相棒となる。

口は悪いが世話焼きで、馬鹿正直で世間知らずのフォトにいつも助言を与えている。
定住後のフォトの話は、基本的にソウの一人称視点で語られている。モトラドの視界など気になる設定にさらっと地の文で触れることも。
時間や距離など数字に妙に細かい。


○その他の旅人の話
数は非常に少ないが、メインの四組以外の旅人の話。ある破壊対象を探してさ迷う空飛ぶ戦車の話などがある。


【用語】


世界各地に点在する人間達の生活の場。
城壁で覆われ、一つの国だけで生活基盤が整えられているものが多く、
イメージとしては現代社会で言う「国家」というより、独立した「自治区」や「集落」に近い。
文明レベルや生活の豊さなどは国によって大きく格差がある。ただし言葉は基本的にどの国でも通じている。

  • パースエイダー (persuader)
銃器。名前には「説得する者」という意味がある。「『説得』する」という表現が出てきたらだいたい荒事。
キノや師匠のパースエイダーは拳銃だが、他にも機関銃タイプ、狙撃用タイプ、対戦車タイプなど様々なタイプが登場している。
ちなみに作者は重度の銃器マニアであるため、出てくる種類も描写の細かさも相当なものである。

  • 旅人
国から国へ、何らかの目的や事情を持って旅をする人間。
大多数の人間は自分の生まれた国を出ようとはせず、旅人になる人間には必然と「ワケあり」が多くなっている。
旅の途中には盗賊、飢え、野生動物、自然災害など危険も多く、時として命がけな目に遭う者も多い。
大抵の国では旅人が入国を希望すれば受け入れられるが、入国してからの待遇は国によって様々である。

  • 携帯食料
キノの主食。安価で日持ちをするからという理由で買い込みまくる。
カロリーメイトのようなマシな味の代物ではなく、見た目も味も四角い粘土みたいな非常にアレな物体らしい。
どこの国でも同じものが売っている、この世界観では何気にメジャーな物体X。


【世界観】

舞台は複数の大陸が存在する架空の世界であり、大陸間の移動には船や橋を用いている。
なお、球体の惑星であることが「日時計の国」で明言されている。
文明レベルは国によっては無人の自動車やクローン技術、マスドライバーなど、現代より進んでいる国も存在する。


【あとがき】

この作品においては、作者はあとがきに非常に力を入れている。
例えばあとがきなのに場所が意外なところ(巻中やカバーの裏)にあったり、ネタに走りまくって内容が非常にカオスだったりと、
一般的常識で考えられるあとがきとは大きくかけ離れており、あとがきが本編と言っても過言ではない。
荒野を駆ける殺伐とした旅の物語を読んでいた気がしたが、あとがきでは宇宙大戦的なものを解説している、なんてことはザラにある。
なお、1度目のアニメ化の際に、あとがきのアニメ化が夢だと作者が語っていた。そして…

それはキノシリーズに留まらず他のシリーズにも見受けられる。
ついには、あとがきで使ったカオスなネタを基にして「学園キノ」というパラレル作品まで作られてしまった。
作品自体もあとがきのノリをそのまま持ってきたかのようなハチャメチャでカオスな内容になっており、
帯に「キノの旅ファンは読んではいけない」と書かれたほどである。


【アニメ版】

03年に制作された1期と17年に制作された2期が存在する。
スタッフや制作はほとんどが異なるものの、1期が黒歴史にされていない珍しい例。

【1期】

アニメーション制作はACGT。芸能人キャストを中心に、寓話的な雰囲気を盛り上げるため、
原作初期の童顔っぽく絵本的なイラストを元に、ジブリなどの大衆向けアニメ映画のような雰囲気で作られている。

声優としてキノが女優の方の前田愛、エルメスの相ヶ瀬龍史は所謂天才てれびくん(天てれ)コンビとして話題になった。
芸能人吹き替えとして嫌う人がいる一方、絵柄や作品の雰囲気には十分合っており、
なんだかんだ言って『電撃学園RPG Cross of Venus』まで担当するくらいには定着していた。
なお先の通り悠木碧が子役時代に出演しているが、アニメ版と同時にゲーム版でもさくら役を担当しており、
声優が楽しいと思ったことで結果として声優業へとシフトしたとのことである。

それは人気も現れており、本作のキャストで劇場版が2作(片方は他の電撃作品との同時上映)、ゲーム版が2作制作された、
なお2作目の劇場版のみシャフトが担当し、キャストこそ同じだが絵柄はかなり当時のキノのそれに近づけられた萌え系のデザインに近づいた。

【2期】

アニメーション制作はラルケ。かつてさくらを演じた悠木碧がキノを演じるということで話題になった。
それ以外のキャストも一新されているが、このキャストの初お目見えは多数決ドラマの時からである。

前作と同様に原作における最新の絵柄を元にデザインされているが、大衆向け作品を目指したそれと違い、
完全にアニヲタ向けに振り切ったデザインと内容へとシフトしている。
よって絵柄的な抵抗感を覚える人が少ない一方で、エグい話については前作とは別ベクトルで胸糞である。
また、コロシアムと優しい国は前作アニメと同じ原作を使用しているので、見比べてみると面白いだろう。(特にコロシアム)


エルメス「読者のみんな、積み木・銃声頼んだよ」
キノ「……追記・修正?」
エルメス「そうそれ!」

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最終更新:2024年02月12日 05:25

*1 21巻から22巻まではおよそ2年近い開きがあるが、これは著者が別作品の執筆に時間を取られてしまった事が原因。