ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ(銀河英雄伝説)

登録日:2016/05/18 (水) 17:33:14
更新日:2024/02/19 Mon 01:20:08
所要時間:約 8 分で読めます





60歳近くまで、わしは失敗を恐れる生き方をしてきた。

そうではない生き方もあることが、ようやく判って来たのでな。

それを教えてくれた人たちに、恩なり借りなり、返さねばなるまい。



ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツは銀河英雄伝説の登場人物。
ゴールデンバウム王朝銀河帝国の将軍で、後に自由惑星同盟に亡命した。
CV:納谷悟朗(OVA)、石塚運昇山路和弘(TVアニメ版)


■[来歴]■

・帝国時代

ゴールデンバウム王朝の下級貴族の出身。
ラインハルトが生まれる以前から戦場で武勲を挙げていた人物で、長年に渡って帝国軍に奉職してきた銀河帝国の宿将。
本来ならラインハルトより先に帝国元帥に成っていてもおかしくない人物。
だが実直な性格から帝国軍上層部からは「有能だが扱いづらい人物」と判断されており、実力に反して軍内部では冷や飯を食わされていた。

本編にはアスターテ星域会戦において主人公であるラインハルト・フォン・ローエングラム麾下の分艦隊司令として登場。
自由惑星同盟の軍に包囲され2倍の戦力差が有りながら尚も戦いを続けようとするラインハルトにアーダルベルト・フォン・ファーレンハイト、シュターデン、エルラッハ、フォーゲルらと共に撤退を進言する。

だが、敵軍の動きをむしろ各個撃破の好機と見たラインハルトはこの意見を一蹴。
鮮やかな手腕で自由惑星同盟の軍勢に勝利した*1
当初はラインハルトの手腕に対して他提督同様少なからず不信の念を抱いていたメルカッツだったが、アスターテ星域会戦での鮮やかな勝利を目の当たりにしてからは考えを改め、
「もはや、我々のような老兵の時代は去ったのかもしれん」とラインハルトの能力を認めるようになる。

翌年、皇帝フリードリヒ四世の崩御によって勃発した門閥貴族とラインハルト・リヒテンラーデ同盟の内乱であるリップシュタット戦役においては、当初は中立を守ろうとした。
だがブラウンシュヴァイク公からの脅しを含んだ総司令官就任要請に対して抗しきれず、門閥貴族連合軍の艦隊総司令官に就任する。

「艦隊総司令官であるメルカッツに軍事に関する全権を委ねられる」という話しだったが、メルカッツが予想していた通り、いざリップシュタット戦役が始まると盟主であるブラウンシュヴァイク公が軍事へ口出しするようになり、
さらには各貴族がメルカッツの方針を無視して好き勝手に艦隊行動を起こしては反撃を受けて要らぬ損害を出すなど足を引っ張りまくり。
命令違反に対しても帝国への忠義心からやった事と貴族同士で庇い合いをして処罰もできないという有様であった。

その後、門閥貴族連合軍最後の拠点であるガイエスブルク要塞宙域での艦隊戦に於いて、ラインハルト以下諸提督の艦隊に包囲殲滅され、自軍の敗北が決定的になると、滅びゆくゴールデンバウム王朝に殉じるため自害しようとしたが、
副官のベルンハルト・フォン・シュナイダーに「同盟に亡命して捲土重来を」と諭されてこれを断念する。
長年同盟と戦ってきた事もあり、亡命者として受け入れられるか疑問視していたが、シュナイダーの勧めで当時イゼルローン駐留艦隊の司令官を務めていたヤン・ウェンリーを頼り同盟に亡命する。

・同盟への亡命後

自由惑星同盟に亡命後は、後見人となったヤン・ウェンリーの下でヤン艦隊の事実上の副将としてヤン・ウェンリーを支える。
宇宙暦798年/帝国暦489年に勃発した第8次イゼルローン要塞攻防戦においては、当初ヤンが査問会へ出頭していて不在だった為、
司令官代理のアレックス・キャゼルヌから艦隊の指揮権を借り受け、ダスティ・アッテンボロー、エドウィン・フィッシャー、グエン・バン・ヒュー各分艦隊司令の協力の下、
イゼルローン要塞至近に張り付いていたナイトハルト・ミュラーの艦隊を挟撃して撤退させヤンが首都ハイネセンからイゼルローン要塞に帰還するまでの時を稼いだ。

同年、銀河帝国皇帝エルウィン・ヨーゼフ2世が自由惑星同盟に亡命すると、帝国貴族の亡命政権「銀河帝国正統政府」によって勝手に軍務尚書の肩書を与えられてしまい、ハイネセンへ転属を余儀なくされ、一時的にヤンの下を離れた。
しかし、ラインハルトによる遠征「ラグナロック作戦」が発動し、フェザーンが占領されたことで、黒幕であり影のスポンサーだったフェザーンからの資金援助を期待できなくなった銀河帝国正統政府は、自然瓦解してしまう。
銀河帝国正統政府の要人が次々と逃げ出す中、メルカッツは尚も皇帝への忠誠を貫き、最後までラインハルトと対決する意志を見せ、再度ヤン艦隊に合流、司令部の幕僚としてヤン・ウェンリーらと共に旗艦ヒューベリオンに乗艦する。

・動くシャーウッドの森

バーミリオン星域会戦の最中に、自由惑星同盟政府が帝国軍に対して事実上の無条件降伏し『バーラトの和約』が締結された後は、ヤン・ウェンリーの要請でヤン艦隊の人員と共に「動くシャーウッドの森艦隊」を結成し潜伏。
『バーラトの和約』によって廃艦予定の戦闘艦艇の奪取し戦力の収集を図っていく。
ヤン・ウェンリーとの合流後は、イゼルローン要塞攻略部隊の指揮官として参加。
ヤンから託された作戦を完璧に遂行して、コルネリアス・ルッツが守るイゼルローン要塞を無事占領せしめた。

ゴールデンバウム王朝から帝位を禅譲され、新銀河帝国の開祖となったラインハルトとヤン・ウェンリーの最後の戦いである回廊の戦いでは、ヤン艦隊の右翼を務め、
フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルトと、元同僚であるアーダルベルト・フォン・ファーレンハイトの両艦隊と交戦。
ファーレンハイト艦隊を壊滅させ司令官であるファーレンハイトを打ち取り、その後もカール・ロベルト・シュタインメッツの艦隊と交戦し、司令官であるシュタインメッツを打ち取るなどの功を上げた*2

・イゼルローン共和政府

皇帝ラインハルトとの会談のために巡航艦レダⅡで進発していたヤン・ウェンリーがテロにより還らぬ人になった後も、メルカッツはイゼルローン共和政府のメンバーとしてヤンの後継者であるユリアン・ミンツを軍事面で支え続けた。

両陣営にとっての最後の戦いとなったシヴァ星域会戦にも分艦隊司令として参戦。
ユリアン達がブリュンヒルトに突入した後、ビッテンフェルト率いる黒色槍騎兵艦隊の猛攻を受け、乗艦のヒューベリオンが被弾。
落ちてきた構造材の下敷きになってしまう。

皇帝ラインハルトとの戦いで死ねるのだ。せっかく満足して死にかけている人間を、いまさら呼び戻さんでくれんかね。
またこの先いつこういう機会が来るかわからん。なに、そう嘆くような人生でもあるまい。
何と言ったかな、そう、伊達と酔狂で皇帝ラインハルトと戦えたのだからな。

ゴールデンバウム王朝最後の宿将は、本来なら敵であったはずのイゼルローン革命軍の艦の艦橋で、副官のシュナイダーに看取られながらその波乱の生涯を閉じた。


■[能力]■

地味ではあるが堅実で隙の無い理に叶った用兵ぶりは、帝国・同盟両軍の間でも高い評価を得ている。
「老練」と言う点に於いては同盟軍のアレクサンドル・ビュコックと双璧を成し、オスカー・フォン・ロイエンタールも全宇宙で自分に勝ちうる数少ない用兵家の一人として名を挙げている。
近接戦闘を得意としており帝国時代には雷撃艇・同盟時代にはスパルタニアンを駆使した強襲でロイエンタールなどの名将に痛手を与えている。

事実ヤン・ウェンリー亡き後のイゼルローン共和政府の軍事面を支えたのは彼の存在があってこそ。
恐らくメルカッツが居なければ、ヤン亡き後のイゼルローン共和政府は、ラインハルト率いる新銀河帝国とまともに戦うことさえ出来ず敗北していただろう。


■[人物]■

良い意味で貴族的で礼節を損なわないその姿から「ヤン艦隊唯一の紳士」と評されており、各自が好きなように振舞う雰囲気の強いヤン艦隊にあっても、常に規則正しい生活を送る。
その規則正しさから「兵士達は彼の姿を見て時計の針を合わせる」などと言われていたほど。
貴族出身の将帥だが、部下に対しても居丈高に振る舞うことのない誠実な人格の持ち主であり、兵達からの人望も厚かった。

本人が言うには若い頃は他の貴族と同様に選民思想の持ち主だったと語っており、若い下級兵士達との交流を通じて自分の間違いに気がついたとシュナイダーに告白している。
一生それに気づかないまま終わってしまう無能・傲慢な貴族も沢山いたことを考えると、自らの間違いを認めその後の態度を改めたメルカッツは、やはり非凡な人格の持ち主であると言えるだろう。
この実経験があるためか、身勝手極まる貴族連合に対してもどこか同情的。諦めてるとも言える。

ラインハルトに対しては、当初こそ能力に懐疑的だったものの、アスターテ星域会戦において鮮やかな手腕で第4艦隊を全滅させた頃からその才覚を帝国貴族中でも早くからラインハルトを認めていた。
ただ、長年ゴールデンバウム王朝に仕えていたため、帝室に対する忠誠心が高い。
ゴールデンバウム王朝から帝位を簒奪したラインハルトに与するのを良しとせず、最後までゴールデンバウム王朝の皇帝に対する忠誠を貫いた。
リップシュタット戦役においては、当初こそ中立の立場を取ろうしていたが、門閥貴族連合軍の艦隊総司令官に就任してからは、意に添わぬ上官に対しても精一杯助力の手を差し伸べ、
理不尽な非難にも口答えせず、敗戦後はゴールデンバウム王朝に殉じて自殺まで図った。

銀河帝国正統政府の面々によって勝手に軍務尚書に祭り上げられた時も、ただ一人心の底から幼い皇帝の身を案じていた。
ヤン艦隊にあっては、階級上はヤンに次ぐ高さであったにもかかわらず、銀河帝国から自由惑星同盟に亡命してきたという自分の立場を十分にわきまえ、
常に一線を引いた態度を保ち、自らの分を超えず、それでいて的確な助言を与えて艦隊首脳陣からの信頼を得ていた。
同盟敗北後にヤンから「動くシャーウッドの森艦隊」の統率を任されていたことからも、ヤンの彼に対する信頼がいかに高かったかが分かる。

その高潔な人柄といい、用兵の手腕といい、間違いなく同時代における最高水準の指揮官の一人だった。
もし、彼がラインハルトの下で働いていたら…という妄想を、想わずにはいられない人物でもある。
事実原作ではラインハルトは彼を幕僚に加えるつもりだったため、彼を登用できずむしろヤン艦隊に加わったのは大きな痛手であった。

だが前述のように彼は主君の死まで登用されることを拒んだシュトライトのように、ラインハルトの元に加わる可能性は0に等しく、仮に中立を貫き戦後登用されたとしても
ゴールデンバウム王朝終焉と共に自らラインハルトの元を離れた可能性も高い。
結局ラインハルトの元にいるよりはヤン艦隊に合流し、武人として死に場所を求め戦火で没した彼にとっては本望だったと言える。


■[部下]■

  • ベルンハルト・フォン・シュナイダー
メルカッツの副官、初登場時は少佐。
メルカッツが門閥貴族側の総司令官となったことを額面通りに喜ぶなど経験不足な面が見られた。
しかし咄嗟の機転でメルカッツの自決を防ぎ、ヤンを頼り同盟に亡命を促すなど頭も回る一面も見せている。
そのためメルカッツも当初ラインハルトの元に赴けば登用してくれると帝国に戻ることを勧めている。
だが彼はメルカッツと共に同盟に亡命する道を選び以後ヤン艦隊の重要人物となる。
ヤン艦隊では首脳陣とは第3者として一線引いた立場を貫き、あくまでメルカッツのことを第一に行動している。
またユリアンとの接点も多く、次第に彼に皮肉や不満を漏らす場面が増えていく。

後に誘拐したエルウィン・ヨーゼフ2世を擁立した銀河帝国正統政府では中佐となる、だが実態は名ばかりの政府に
「虚名のみで実情はありもしない。」「爵位を持つだけで何ら特徴のない貴族たちばかり」
「よほど気宇が壮大なのか、それとも精神の骨格がチョコレートの蜜漬けでできてるのか、おそらく後者だろう」と愚痴をこぼしている。
同盟の降伏後は同盟がメルカッツを罪人として処断することを回避するために共に戦死したことにし、共に動くシャーウッドの森に参加する。

その忠誠心はポプランからも「帝国軍に残っていれば皇帝ラインハルトのもとで出世できただろうに」と言われている。
彼はこの時何も言わず、ポプランに注がれた酒を口にするだけであったが原作ではこの時の心情は
「皇帝ラインハルトには多くの忠実な臣下がいる。メルカッツにもせめて自分ひとりぐらいいてもいいではないか……。」
と綴られている。
ヤンの死後もメルカッツと共にイゼルローン軍に残りメルカッツが戦死するその時まで副官として彼を支え続けた。
戦後はメルカッツの家族に最期を伝えるためにオーディンに赴き、何時か再会することをユリアンと約束し退場した。



60歳近くまで、わしはアク禁を恐れる生き方をしてきた。
そうではない生き方もあることが、ようやく判って来たのでな。
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最終更新:2024年02月19日 01:20

*1 この描写を見ると撤退を進言したメルカッツらが無能に見えるが、2倍の戦力の相手に包囲されつつある状況では、基本的に撤退する方が正しい。兵法的には間違ってはいない。

*2 元戦友であったアーダベルト・フォン・ファーレンハイトの戦死の報告を耳にした時は、会議を欠席して一人喪に服していた