トンカツ慕情(美味しんぼ)

登録日:2016/04/23 (土) 13:49:29
更新日:2018/08/22 Wed 19:19:49
所要時間:約 5 分で読めます







いいかい、学生さん、トンカツをな、トンカツをいつでも食えるくらいになりなよ。
それが、人間えら過ぎもしない貧乏過ぎもしない、
ちょうどいいくらいってとこなんだ。




概要


トンカツ慕情とは、美味しんぼの11巻に収録されたエピソード。

美味しんぼの名エピソードとして語り継がれる代表的な話である。
「人生が変わる1分間の深イイ話」でも紹介されたことがある。


あらすじ


東西新聞社で『食べ物相談室』という欄を作ることとなった。

最近食べ物に関する投書が増え、その中から面白く意義のある質問に答えるという趣旨らしい。
本来このような仕事は家庭部の仕事なのだが、食べ物の事なので文化部に回された。
それで小泉編集長が山岡と栗田をその担当として推薦したらしい。

山岡は究極のメニュー作成に忙しいのにと愚痴を漏らすが、普段の勤務態度が態度なだけに他の編集者から失笑を買う。
不満を持った様子の中、富井副部長から早速業務命令ということで一枚の投書を託される。

投書した人間は、全米に150の支店を持つスーパーマーケットチェーンのオーナー・里井という男だった……。


主な登場人物


■山岡士郎

本作品を代表する主人公。

物語冒頭で『食べ物相談室』の担当として栗田と一緒に任命される。
士郎は担当として指名してきた小泉編集局長に不満を漏らしたが、周りから嘲笑される。

早速指令を受けた山岡は、投書の本人である里井の願いを叶える為に動く。


■栗田ゆう子

本作品のヒロインであり、山岡の相棒(この時期はまだ結婚していない)。

山岡と共に『食べ物相談室』の担当として任命される。
山岡の発言が原因で、自分まで怠け者扱いされたことに不満を漏らした。


■里井新一

本エピソードの重要人物。

アメリカ在住の日本人で、三十五年前に夢を求めて渡米した。
アメリカでの生活は苦労し、人並みの生活を送れるようになるまでには一苦労したらしい。
その苦労が実り、今やアメリカで150支店を持つスーパーマーケットチェーンのオーナーとして大成した。

昨年に三十年ぶりに帰国し、日本でトンカツを食べることを楽しみにしていた。
幼いころ両親を亡くして一人で生活を送っていた里井にとっては、トンカツは最高の食事だったのである。
ところが、帰国して食したトンカツは自分が昔食べた物とは違う味で、何軒回っても自分の記憶通りの味には辿りつけずに終わる。

しかしまた日本に来日することとなったので、東西新聞社に昔通りのトンカツを食べさせてくれる店を探すように依頼をしていたのだが……。


■中橋夫妻

里井に思い出のトンカツを食べさせた、トンカツ大王を営業していた夫婦。

若き日の里井を暴漢から助け出し、彼に無料でトンカツ定食を食べさせた。
その時に里井を強く激励し、項目冒頭の名言を残す。

里井がトンカツを食べるより熱望していたことは、この夫婦にもう一度会う事だった。
里井はアメリカで人並みの生活を送るのに苦労しているうちに、夫婦に手紙を出すことすら忘れていたのである。

ようやく生活が安定して手紙を出したところ、宛先不明で手紙は返却されてしまった。


■川杉永二

東西新聞社社会部部長。

新聞は伝言板じゃないと言い切り、中橋夫妻の所在を探ることを拒否した。
ところが、山岡が彼の目の前で電話を使って帝都新聞の同級生・土森にトンカツ大王のネタを売ろうとする。
そして、依頼主の里井が有名監督で映画制作を行うという特ダネを売り飛ばそうとしたため、
それを止めてトンカツ大王の記事掲載と中橋夫妻の居場所を探ることとなる。


あらすじ以降のお話の流れ(ネタバレ注意!!)


里井の思い出


里井の依頼を聞いて、昔のトンカツの味を尋ねる栗田。

その時の味を振り返る里井だったが、二十五年前の里井自身は貧乏な青年である。
彼は、昔食べたトンカツの味を美化しすぎたのだと振り返る。
しかし山岡はそうとも言えないと口にし、里井氏に昔食べたトンカツの話を聞き出す。

それは、三十年前の東京・渋谷での話だった。

労働を終えて給料を渡された里井氏は、作業着の状態で帰り道を歩く。
外は強い風が吹いていて冬が来ることを知らせており、里井はオーバーを買いたがっていたが新品は無理だろうと頭の中で考えていた。

そんな時、彼の肩に手をかけて呼びかける声を聞いた。
振り返ると怪しい容姿の男が数人で取り囲んできており、里井は激しい暴行を受ける。
しばらく暴行を受けていた彼だったが、一人の男性が警察を呼ぼうとしたために何とか救われた。
男性の手を借り、何とか立ち上がるとともに感謝を伝える里井。

里井を助けた男性は、『トンカツ大王』という店の店主だった。

里井の前に出されたのは、立派なトンカツ定食だった。
先ほど暴行を受けた際に金を失った里井は思わず遠慮するが、店主はおごりだとして食べさせる。
笑顔の内にトンカツを口にする彼は、その味の上手さに思わず声を上げる。

勉強して偉くなって頂戴と励ます主人の妻。
それに対して主人はそこまで偉くなる必要はないと語り、人間ちょうどいいってものがあると語りだした。


いいかい、学生さん、トンカツをな、トンカツをいつでも食えるくらいになりなよ。
それが、人間えら過ぎもしない貧乏過ぎもしない、ちょうどいいくらいってとこなんだ。


現在の中橋夫妻


川杉の力を用いて、中橋夫妻の居場所を突き止めた山岡と栗田。

夫妻は千葉県の田舎の老人ホームで暮らしており、山岡達はタクシーに夫妻を乗車させる。
随分昔の話だったが、夫妻はしっかりと里井の存在を覚えていた。

アメリカから最初の内は手紙も送られていたらしいが、しばらくするとその手紙も途絶えていた。
前述したように、これは里井の生活が不安定だったことが原因なのではあるが、
夫妻はアメリカで彼が上手くいかなかったのではないかと思っていたようだ。
しかし、里井が大成功して帰ってきたという話を聞いて喜んでいた。

何故お店を辞めたのかと問う栗田。

それはトンカツ大王があった『恋文横丁』が再開発されてビルの建築が行われることが原因だった。
夫妻は信用していた人間に騙され、権利を横取りされてしまったのだ。
このような不幸を経験した夫妻は、これ以降その日暮らしの仕事を転々としながら老人ホームに辿りついた。

もう一度店を始めないのかと栗田に問われたが、そんな資金はないと言う夫妻。
主人は若者に体力は負けないし料理の腕も落ちていないと語りかけたが、どこか気が抜けたよう話を止めた。

話題を切り替え、里井の忙しさに触れる主人だったが、山岡と栗田は互いに目を合わせた。


再会


タクシーは定食屋らしき店の前に付き、店の前では里井が立っていた。

久々の対面を果たす里井と夫妻。
夫妻は立派になった里井の姿に感動し、お互い久々の再会に震えていた。

里井は親父さんのトンカツを味が忘れられなかったと述べ、三十年ぶりに作ってくれるように頼む。
入店した店を使って良いのかと主人は気に掛けたが、山岡に構わず使ってくれと了承される。

しかし、まだ何か気になる物がある様子。
夫妻がトンカツ屋を辞めたのは資金の問題もあるが、手に入る豚肉の問題もあったようだ。
年々豚肉の質が落ちていき、夫妻が気に入る豚肉の味が手に入らなくなったことも原因だったようだ。

すると、山岡は何かを取り出す。
山岡が手にしたのは、サツマイモをたっぷり与えて育てた種子島の黒豚の最上肉だった。
黒豚の脂身も大量に用意していた山岡の用意の良さに、思わず山岡の肩を叩いて称賛する主人。

気分がマックス状態となった主人は、早速特製トンカツの調理を行う。

まずはラード作りから始めると宣言し、鍋に水を少々入れて沸騰させた後に脂身を加えてラードを作る。
水を少し入れたのは、最初の脂身が焦げ付かないためである。
鍋の中に油が増えることで水は蒸発し、後は純粋なラードだけが残るのである。

香りを嗅ぐことによって、昔の記憶を取り戻す里井。

主人が言うには、良いラードだと揚がり方が綺麗で表面がカラリとしているのだという。
変な油だと切れが悪いだけでなく、表面がジトジトして美味しくないのだ。
こうして出来上がったトンカツを綺麗に切り、トンカツ大王のロースカツ定食は完成した。

肉を噛みしめると肉汁が口中に溢れる。
そして脂が舌の上でとろりと溶けて広がるほどの脂身の甘さ。
定食を食した面々はその味を絶賛し、これこそが長い間里井が夢見たトンカツの味だった。

自分の腕は少しも落ちていないと自画自賛し、今日からでも現役復帰できると自信満々に笑う主人。
すると里井はその台詞に安心を覚え「この店は大丈夫だ」と語りだす。
何のことか理解できない夫妻だが、店の看板を見ていなかったのかと言われて外に出る。

そう、夫妻が迎えられた店の看板は『トンカツ大王』だったのである(昔のトンカツ大王より立派)。
この店は里井の夫妻に対するプレゼントだったのだ。
無料で提供するようだが、タダで貰うのが嫌なら儲けの中から少しずつ返してくれればと語る。
感動のあまりに涙を浮かべる夫妻と、涙ながらに受け取ってもらえるか問う里井。

両者は涙を流しながら抱擁し、その光景を見た山岡と栗田は満足そうな表情を浮かべたのだった。


結末


舞台は移り、東西新聞社。

トンカツ大王に関するエピソードの記事は評判が良かったらしく、大原社長は川杉を讃える。
それに対して人情味の大切さを語り、
殺伐たる社会記事に人情話は一種の清涼剤になるだのと喋っていた川杉。
そんな川杉に対して、後ろから彼の肩にトントンと指が叩かれる。

彼が振り返ると、そこにいたのは山岡と栗田だった。
困惑する川杉に対し、ちょっと飲み食いが過ぎたから川杉が落としてくれと満面の笑みで頼む。
何で社会部が山岡のツケを負担するのかと不思議がる大原。

焦るかのような笑いをする川杉と不思議がる大原を目にして、社会部がいるから当分飲み食いは大丈夫だと口にする山岡と栗田だった。







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