平清盛(大河ドラマ)

登録日:2016/3/25 (金) 20:54:00
更新日:2024/04/03 Wed 00:30:53
所要時間:約 11 分で読めます




「平清盛」とは、2012年に放送された第51作目の大河ドラマである。
脚本は連続テレビ小説『ちりとてちん』等を手掛けた藤本有紀。

タイトル通り主人公は平安時代末期の武将・平清盛で、その誕生(このドラマでは白河院の御落胤という設定)から、その死後の平家の滅亡までを描いている。



21世紀の大河ドラマの中でもかなりの異色作である。
主人公はどちらかといえば悪人のイメージが強い人物で、おまけに「若い頃は国を変える理想に燃えていたが、権力を握った後は闇堕ちしていく」という大河らしからぬ展開。
舞台になる時代もどちらかと言えばマイナーで、登場人物も、主人公の清盛とナレーションの源頼朝以外は一般に馴染みのない人物が多い。
ちなみに21世紀では最も古い時代を扱った大河である(同時期を扱った大河には「義経」があるが、あちらは清盛の晩年期から始まる)。

それに加えて映像や演出・音楽なども伝奇ものを彷彿とさせるような感じになっており、勇猛さや派手さを前面に出すことの多い大河の中でも異色の雰囲気となっていた。

また直接的な暴力表現こそ比較的控え目だが、日曜8時に男同士の濡れ場・怨霊化した崇徳院の怪演など強烈なシーンは今でも語り草である。






だがこの作品、視聴率は惨敗し、当時の大河ドラマ最低記録を更新してしまう*1
主役である平清盛はともかく、物語の中心となる平氏一族や彼らが活躍した時代は一般的にはややマイナーであることに加えて、
「序盤から主人公が汚い衣装に身を包み、某海賊漫画を彷彿とさせる台詞を吐きながらやんちゃする」、「主人公が権力掌握後にどんどん闇堕ちしていく」、
最終回では主人公が最初の数分で死亡、その後平家滅亡が打ち切り漫画の如くダイジェストで描かれる」という爽快さのない展開やくど過ぎる演出・音楽などが仇となったようである。
また、皇族に関する「王家呼称問題」や当時の兵庫県知事の発言に端を発する「画面が汚い問題」なども物議をかもした。

見どころがなくてそっぽを向かれたわけではなく、スタッフが力を入れた点が悉く裏目に出たというわりと珍しい形の低視聴率作であり、「明後日の方向に全力暴投した作品」などと呼ばれることもある。

そんなわけなので、大失敗に終わった大河として放送終了後は瞬く間に忘れ去られていった……



















……わけではない。

世間一般的には全くの失敗作だった本作であるが、一方で放送終了後も根強いファンが多数存在する大河でもあるのである。
非常に緻密に伏線が張られた硬派物の脚本や、俳優たちの名演はファンの間で評価が高い。
特に伏線の張り方は見事で、登場人物たちのわずかな言動や描写が、時には数か月をまたいで重大局面や、人物の行く末につながることもある。
上記のBLシーンや崇徳院、闇落ち後の清盛などの絵的な凄まじさはカルト的な人気を博し、また濃いキャラクターが多数存在したためキャラ萌え的な人気も盛り上がった。
視聴率で惨敗したにもかかわらず、2016年現在でもファンサークルやファンサイトが多数確認できるほどである。

中でも目立つのがアニオタ層である。
ほんの一例を挙げれば、2015年の冬コミで大河ドラマを扱っていたサークルはカタログでは5サークル確認できるが、そのうち3サークルが平清盛である。
(ちなみに当時放送中の「花燃ゆ」を扱ったサークルは確認できない)

放送中にもSNSサイトなどには本作のイラストが多数投稿され、「盛絵」と呼ばれた(これには本職の漫画家やイラストレーターも多数参加した)。
伝奇ものを彷彿とさせる雰囲気に、キャラ萌えしやすい登場人物など、アニオタ層に好まれる要素が多かったのが原因だろう。

また、OPにも使われた「遊びをせんとや生まれけむ」も多くの人の記憶に残っている。

そもそも上記のように、「見るべきところのない駄作」というより「あまりにもクセが強すぎて受け入れられなかった作品」なので、作風が合えばハマる人はとことんハマる作品である。
ネタ抜きでも「近年の大河では清盛が一番好き」という人も少なくない。
もっとも、逆に合わなければとことん合わない作品でもあるが。



登場人物

平家

平清盛(演・松山ケンイチ)

主人公。
上述のように本作では白河院の御落胤という設定で、目の前で父にを殺されている。
ちなみに御落胤説は昔からある逸話であるが、細かい経緯は本作オリジナルである。
若いころは大河にありがちな、社会改革への理想に燃える無鉄砲な若者だが、正直他の濃いキャラに食われ気味。
当初は指針が定まらず、頼りない一面も目立ったが、多くの人間との出会いを経て叶えたい目標や理想を見出し成長していき、一門を率いる平家の棟梁としての頭角を現していく。
しかし、権力を掌握し掲げていた目的や理想をほぼ全て叶えてしまったことで逆に行動の指針となる”心の軸”を見失い、闇堕ちしていく。
晩年は松山氏の熱演に特殊メイクも相まってかなりの迫力。
最近の研究ではさほど野心的な人物ではなかったと言われるが、本作では伝統的な描かれ方をしている。
なお、松山氏は前述の低視聴率について「真摯に作品に臨みながら最低を叩き出すことは最高を達成することと同じように難しいので、むしろ光栄に思う」とクランクアップ時にコメントしている。


平忠盛(演・中井貴一)

大河でおなじみの、前半では主人公よりも主人公している父親キャラの一人。
清盛を引き取って我が子として育て、「武士の世を作る」というを託す。
ちなみに、中井氏は同時代を扱った大河「義経」では源頼朝を演じていた。


平家盛(演:大東駿介)

清盛と同じ家で育った悪左府頼長の犠牲者
祇園闘乱事件で立場が危うくなった清盛の強情さに反発し、頼長の寵愛(性的な意味で)を武器に兄に代わって平家を率いようと考える。
しかし頼長は平家を分裂させるために家盛を利用しただけであり、そのことを知ってショックを受けた後、落馬して若くして死去。
悲惨な最期だが、流れ的に「頼長にヤリ棄てられたのがショックで死亡」みたいに見えるのがなんとも……


平忠正(演:豊原功補)

忠盛の弟で清盛の叔父。
序盤では平家や忠盛を誰よりも思っているが故に、平家の血を引かない清盛を忌み嫌う(清盛の素行が悪かったからでもあるが)。
清盛が家督を継いだ後、保元の乱で一族滅亡を避けるために上皇側に付き、敗北した後斬首される。
無理やり斬首役を押し付けられた清盛との最期の会話は名シーンの一つに挙げられる。
史実では清盛だけでなく兄とも不仲で最初から頼長側(上皇側)であり、清盛も処刑に賛成していたと言われる。
本作で最も美化された人物かもしれない。


平時子(演:深田恭子)

清盛の後妻。初登場時は光源氏みたいな青年との出会いを夢見るドリーマーだった。
親友であった清盛の前妻の死後、光源氏とは正反対の清盛と結ばれることになる。
何かと前妻と比べるデリカシーの無い夫のせいで苦労するが、終盤には平家を纏め上げる芯の強い女性へと成長を遂げる。


平時忠(演:森田剛)

時子の弟。前半は軽いお調子者だったが、後半は姉の血を引く子を清盛の後継にしようと画策するなど腹黒さを見せる。
名言「平家にあらずんば人にあらず」ももちろん登場。しかし、このセリフが出た場面は今までの作品とはかなり異なる描き方をされている。


平重盛(演:窪田正孝)

清盛の長男で、平家におけるカワイソス担当。
権勢を誇った後の平家の中の良心で、父の行き過ぎた野心を止める役を担う。
同じ家で育った同母の弟には先立たれ、前妻の子であるが故に時子・時忠姉弟とは微妙な関係になり、
さらに主君の後白河院と父清盛との間でも板挟みになり、家督を継いだものの生真面目すぎるが故に一族からも軽んじられ、
それらに疲れ果てたせいか病に罹り、さらには他でもない主君・後白河に弄ばれて若死に。
不憫すぎる……

近年の研究ではむしろ清盛よりも強硬な人物だったと言われているが、本作では従来通りの上記のようなキャラとして描かれている。



兎丸(演:加藤浩次)

史料には登場しないオリキャラ
元々は瀬戸内の海賊で、海賊王に俺はなる!!などとどっかで聞いたようなセリフを放つ。
その後海賊討伐にきた清盛に惹かれて家臣に。
しかし権力の座に就いた後の清盛の暴走には嫌悪感を示し、もうついていけないと決別した直後に、誤解した平家のスパイによって惨殺される。
近年の大河のオリキャラの中でも存在感のあった一人。
というかキャストが海賊役に違和感が無さすぎである。
ちなみに演者のNHK出演は、NHK番組を諸事情で途中降板して以来約十年ぶりとなる。



源氏

源義朝(演:玉木宏)

清盛の親友かつライバルであり、前半におけるもう一人の主人公
清盛と同じく武士の世を目指し、武士にあるまじき行為を行う父は嫌悪する。
保元の乱で一族を裏切って帝側に就くが、露骨に冷遇され挙句平治の乱を起こす。
最期は親友清盛との対決に敗れて自害するが、彼のは清盛の心に大きな傷を残した。

ちなみに清盛との対決では、互いに大勢の兵を連れて戦っていたはずが突如清盛と義朝しかいない、固有結界のような異空間に二人してワープして一騎打ちを行う
というシュールな演出があった。
本作のファンからもこのシーンについてはネタにされがち。
(なお、この時代に大将同士が一騎打ちをするのはありえなくはない。突如ほかの兵士が全員消えているのがおかしいだけである)


源頼朝(演:岡田将生)

まさかのナレーション担当。
本作では前半生までの登場なので、一般的にイメージされる老獪さや策士っぷりは乏しく、むしろ線の細い青年として描かれている。
ナレーションにも「この頃は父が嫌いだった」などとふんだんに私情を入れており、従来の頼朝のイメージとは大きく異なる描かれ方をしている。


源為義(演:小日向文世)

義朝の父、頼朝の祖父。
一族を思う真面目な棟梁なのだが、忠盛よりもやや小物っぽく描かれており、最終的に源氏が凋落する原因を作る。
通称ダメ義。孫の頼朝からもナレーションで度々ディスられている。


北条政子(演:杏)

頼朝の嫁。伊豆に流された頼朝の支えとなるが、その出会いは頼朝を物の怪と勘違いして捕獲しようとしたという斬新なもの。
初登場時の田舎娘衣装がたいへんかわいい。
ちなみに亀の前事件*2はカットされた。


源為朝(演:橋本さとし)

平安のモビルスーツ。撮影現場では「ガンダム」と呼ばれていた(マジ)。
「古今無双の強弓」のに恥じぬカスタマイズされた巨大なで鉄芯のような矢を射る源氏のみならず凡そ武士の中でも屈指の剛の者。
「とんでもない化け物」と平氏側からも恐れられており、保元の乱ではもはや上皇方はコイツ一人でこと足りるのではと思わせる無双ぶりをみせた。
演者はTF熱血司令官の中の人である。




朝廷



白河院(演:伊東四朗)

鳥羽院の祖父で清盛の実父。だが彼に父としての愛情は全く注がず、それどころか生まれたばかりの息子の前で母親を殺害させる。
わずか2話で退場するが、強烈なインパクトを残した。


後白河帝(院)(演:松田翔太)

清盛、義朝に並ぶ第三の主人公であり、ライバルその2。
老獪な老人のイメージが強く、過去の大河などでもベテラン俳優が演じてきたが、本作ではイケメン若手俳優の松田氏が演じることになる。
そのため当初は不安視する声もあったが、これが見事なハマリ役だった。
性格は視聴者からドSかつドM、中二病、(主に清盛に)ツンデレなどと言われる。
政争や生きることを博打や道楽のように捉えており、清盛との権力闘争と今様(当時の流行歌)、そして他者を弄ぶことをなによりも好む非常にクレイジーで鬼畜なお方(褒め言葉)。
特に彼の斜め45度のアングルからの「ゾクゾクするのう……朕は生きておる」という名台詞は視聴者に強烈な印象を与えた。本作と言えばこのシーンを連想する人も多いのではないだろうか。
何気に重用する人物や愛する人が次々死んでいく不幸なキャラでもある。


鳥羽院(演:三上博史)

崇徳院と後白河帝の父親で、朝廷では数少ない常識人であり、それ故に苦労人。
愛する妻すらも、夫に対して、
「私が愛人に会えなくて寂しがってた時に愛人のところに行かせてくれた、そんな優しいあなたが大好き!!」
とか言うような闇インである。
ちなみに上記のセリフ、悪意0パーセントである。
清盛にとってはよき理解者であり、朝廷に影響力を持つきっかけを与えた人物である。


崇徳院(演:井浦新)

本作のレジェンドその1
朝廷内のドロドロに巻き込まれて散々心身をすり減らされた挙句、保元の乱で後白河帝に敗れて流罪となる。
それでも当初は帝を許そうと穏やかに過ごしていたのだが、和解のために送った経典を送り返されたことと最愛の息子の訃報を聞いたことにより復讐の鬼と化す。
姿まで大きく変わり、清盛を含めて仇敵たちを呪い殺そうとするのだが、この時の怨霊モードの熱演はもう大河ドラマとしてギリギリのレベル。

退場の際の頼朝のナレーションは本作屈指の名セリフとされる。


藤原頼長(演:山本耕史)

本作のレジェンドその2
前述したように、家族そろって見ていた家庭も多いであろう日曜8時の大河ドラマ内で男同士の濡れ場(しかも二回)を演じた。
しかしその最期は泣ける。
ちなみに演者さんは10年後、本作終盤の時代から始まる『鎌倉殿の13人』にも出演している。


信西(演:阿部サダヲ)

清盛と同じく世直しの意気に燃える貴族として登場。
最初はつかみどころのない、うさん臭いながらもユーモラスなキャラだったが、出家して実権を握った後は理想実現のため強引な手段に出ることも多く、盟友だった清盛にも叔父の処刑を強要した。
それでも清盛は彼を支持していたが、平治の乱で敗死。
ある意味清盛が行く道を先に行った人物。

ちなみに信西は一説には白拍子の生みの親とも言われる。
だとすれば白拍子フェチの清盛が頭が上がらなかったのも無理はない。


藤原信頼(演:塚地武雅)

後白河院の寵臣で、信西のライバル。
最終的には彼を死に至らしめるが、結局清盛によって斬首される。
近年の研究ではそれなりに有能な人物だったとも言われているが、本作では従来通りの無能な人物に描かれる。

ちなみに、史実の信頼はかなりのイケメンだったとされているのだが……本作では演者が…そのー……

さらについでに言うと、彼を寵愛する後白河院との間にはボディタッチを含めてやたら親密さを強調する描写が多く、
頼長のようにはっきりした描写こそないものの、彼らも一線を越えている可能性が高いとも言われている。
というか、伝承では実際そうなっている。



その他

西行(演:藤木直人)

解説役。通称「知っているのか西行!?」
また反魂の術の使い手でもある。




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最終更新:2024年04月03日 00:30

*1 後に平均視聴率では「花燃ゆ」(0.01ポイント下)、平均・瞬間視聴率両方だと主役級の一人が信西役の阿部サダヲな「いだてん」とさらに低視聴率な作品が登場した。

*2 頼朝が密かに亀の前という愛人を囲っていたことを知って激怒した政子が、「後妻打ち」という当時の風習に倣ってその家を打ち壊させた事件。2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』ではほぼ一話使ってその顛末が取り上げられている。