うさぎのわるぢえ(童話)

登録日:2016/03/21 Mon 00:02:38
更新日:2023/12/28 Thu 20:05:42
所要時間:約 3 分で読めます




アニヲタ昔話
うさぎのわるぢえ



昔々、何日も干ばつが続いたために、水が一滴も得られずに森の動物たちは喉が渇いて死んでしまいそうでした。

そこに、悪知恵のはたらくうさぎが現れて言いました。

「この地面の下には皆で飲んでも飲みきれないくらいの水が埋まってるんだ。だから皆で人間みたいに井戸を掘れば水が手に入るのさ!」

その言葉に、普段は敵対している動物であろうと力を合わせて、せっせと井戸を掘りました。
しかし、うさぎは岩場に上って文字通り高みの見物、まったく手伝う気配がありません。

そして日が沈むころ、ようやく水を掘り当てて、動物たちは水にありつくことが出来ました。


しかし翌朝のことです。
昨日は手伝いもしなかったうさぎの足跡が井戸のすぐ近くに残っていて、苦労した動物たちはカンカンです。

そもそもうさぎがアドバイスしなければ干からびていたわけですがそれはそれ。きっと動物たちの間にマネジメント料という概念はなかったのでしょう。


そこでうさぎに水を飲ませまいと夜通し見張り番を立てることになりました。

最初の晩は、陽気なガラガラヘビが見張りに就きました。
真面目に見張っていたガラガラヘビでしたが、夜も更けてくるとどこからか気持ちのいい歌が聞こえてきます。
それに合わせて踊っている間に持ち場を離れたところ、歌声の主――あのずるがしこいうさぎが現れて、まんまと水を飲んでいきました。


次の晩は、キツネが番に立ちました。

「おれは馬鹿じゃないからな。こうしておけば歌なんかに惑わされないぞ」

そういって木の実で耳栓をして、持ち場に就きました。
しかし、真夜中になるとキツネの前に骨をつるした振り子が伸びてきました。
左右にぶらぶらと揺れる振り子を眺めているうちに、キツネはすっかり寝入ってしまい、やっぱりうさぎは水にありつけたのでした。


騙されたことで頭に来たキツネは、人間のところからコールタールを盗んできて、それを人の形にして帽子を被せ、見張りの持ち場に立たせました。


そして、夜になるとやはりあのうさぎがやってきました。

「おや、手におえないからといって、あいつらめ人間の子供に頼み込んだんだな」

持ち場に見慣れない人影を見つけて、うさぎはそう判断しました。


そこでまず、得意の歌で気を引こうとしますが、人影はちっとも反応しません。当たり前ですね、人形なんですから。


次に、振り子を使った催眠術で眠らせようとしますが、これにも人影は反応しません。当たり前ですね、人形なんですから。


とうとううさぎは正面から出ていくことにしました。

「やあやあこんばんは。きみはいったいどこから来たんだい?」

しかし丁寧に挨拶したというのに、人影はぴくりとも反応しません。当たり前ですね、人形なんですから。

「なんだい、人が挨拶してやってるのに、失礼なやつだな」

とうとう怒ったうさぎは殴りかかりましたが、相手はコールタールで出来た人形です。
殴ればべちゃりとくっついて、振りほどこうとすればするほどべたべたになり、とうとううさぎは身動きひとつ取れなくなってしまいました。



そして翌朝、捕まえたうさぎをどうしようかという話し合いが行われました。

「こんなずるがしこいうさぎ、首をちょんぎってしまおう」

するとうさぎは

「首をちょんぎるだって? いいね、実は前から死ぬときはぜひ首をちょんぎられたいと思っていたんだ」

そう言われると、動物たちは首をちょんぎってしまうことに躊躇いを覚えました。

「なら、丸焼きにしてしまおうじゃないか」

それを聞いてうさぎは

「丸焼きだって? そりゃいいや、むしろこちらからお願いしたいね」

そう言われると、誰が丸焼きになんてしてやるものかと皆が思いました。
それにしてもこの森の動物たちのおつむが弱すぎる気がしますが、つっこんだら負けというやつでしょう。

「ようし、なら真ん丸に太らせて、高いところから放り投げて破裂させてしまおう」

その案を聞いて、うさぎはおいおい泣きだしました。

「ごめんよう。高いところから放り投げて破裂させるだなんて、それだけはやめておくれよう」

それを見た動物たちはしめしめと、うさぎを牢屋に閉じ込めて、野菜やごちそうをありったけ放り込みました。
うさぎは悲しむふりをして、投げ込まれるたくさんの食べ物を食べてぶくぶくと太っていきました。


しばらくして、みごと真ん丸に太りきったうさぎを動物たちは協力して高い岩山の上に運びました。
そして、勢いをつけて空高く放り投げたのです。


地面に墜落して破裂するだろう、そう思っていた動物たちでしたが。
うさぎは身軽に着地すると、驚く動物たちの目の前であっという間に茂みに隠れてしまいました。

こうしてひとりぼっちになったうさぎは、もう二度と誰の前にも表れることはありませんでしたとさ。



おしまい





アメリカに伝わる童話のパターン『ブレア・フォックス(きつねどん)とブレア・ラビット(うさぎどん)』のひとつ。

うさぎどんを食べようとするきつねどんを、知恵者のうさぎどんがあの手この手で掻い潜って逆にしかえしをするもので、『トムとジェリー』の原典ともいえる。


この話ではうさぎは主人公でありながら悪知恵を働かせて楽をする悪役として描かれているが、そもそも水のありかを教えたのはうさぎなので正当な報酬を貰っているだけのようにも見える。

さらに、捕まった後も上手い具合に処刑の方法を誘導し、たらふくごちそうを食べたうえにまんまと逃げおおせるなど、うさぎの独り勝ちになっている。

なお『まんが世界昔ばなし』の中でアニメ化されている。
また東京ディズニーランドのアトラクション『スプラッシュ・マウンテン』の最後のダイブは、ウサギが投げ込まれるところを表現したものである。




追記・修正は真ん丸に太って岩山から飛び降りながらお願いします

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最終更新:2023年12月28日 20:05