柚葉に貴龍様と呼ばれたその少女こそが、本当の霧夢の正体であった。年齢は潤たちと同年代の11歳。
彼女は双龍島において「御霊代」と呼ばれる、龍の神子として崇められる存在であった。
御霊代とは貴龍の血を引くとされる一族の女性が負う役目である。
生まれてから神社の敷地内でのみ暮らし、18歳で結婚する。そして実子または養子で女児をもうけ、その子が5歳になった時に子供と入れ替わりで自由を得る。
監禁されているわけではなく、その気になれば逃げることも可能だが、自身が島民の心の寄りどころであることを理解しているために実行はしない。
柚葉は代々御霊代に仕え、身の回りの世話などを行う家系の子であった。ただし霧夢とは実質親友といえる関係である。
霧夢にネットをすすめたのも彼女であり、霧夢の母親の理解もあり環境を揃えることができた。
そしてネットを始める以前から好きだったイラスト作りを中心に活動を始め、やがて「ひびきP」と出会うことになる。
自身の境遇を知られたことで響との距離が二度と縮まらないと思い、未練を絶とうと霧夢としての活動を終わりにすると宣言する。
チャットでの響の説得も通じず、今までの響との活動すら否定しはじめるのだが……
「うるせえバーカ!つまんない意地はってんじゃないちんちくりんのクソガキが!」
希美が勝手に打ち込んだ文章で怒りを引き出される。
チャットで荒れ狂う霧夢を放置し、響たちは貴龍神社へ直接赴くことを決める。
柚葉はこれ以上貴龍の意志に背けないと同行を断るが、霧夢にとって響が決して軽い存在でないと、壁画を根拠に自信付ける。
神社で壁越しに行われた会話が決め手となり、響にムキになりやすい性格を看破される。
そして響は、土に埋もれてしまった壁画を前に霧夢を引っ張りだす作戦の実行を決意する。
一方、その直後の【霧夢メモ】では、自分の行いへの反省とともに、境遇への諦観が綴られていた。
島おこしイベント当日、島外からの観客も多く集まる中、リヤン・ド・ファミユも演奏を続けていく。
そして島の和太鼓とのコラボ演奏が終わった瞬間に、霧夢がステージ上へと姿を現す。
それは天岩戸よろしく賑やかさにほだされて、などではなく、一人蚊帳の外で楽しげな様子だけを聞かされることへの苛立ちを掻き立てられての行動だった。
冷静さを取り戻しその場を去ろうとする霧夢に、響は一つの質問を彼女に投げかける。
「霧夢。……霧夢は、僕のこと、好き?」
本来は、「僕の曲に絵を付けるのは好き?」と尋ねるはずが、ここに及んで盛大なミスをする。
だが霧夢は全身を真っ赤にし、その場から動けなくなっていた。
そこに畳み掛けるように、「霧夢とともにいたい」という気持ちを思いつくまま口にする響。
揺らぎを見せる霧夢に、かねてより準備していたリヤン・ド・ファミユとの競演の誘いをかける。
用意された自分のためのブースに歩き出す霧夢だが、年寄りを中心とする島民に阻まれる。
柚葉も歩み出て、霧夢にただ一度だけでも自由をと懇願するが聞き入れられない。
そこに現れたのが尾城小百合。霧夢の母親にして先代貴龍の神子からの交渉により、島民もしぶしぶ納得する。
彼女は元々、貴龍の神子という風習を無くすために、島おこしのイベントを計画した。
すでに島民もこの風習の危うさを自覚しつつあり、島に外部の注目が集まることで、自発的かつ平和的に信仰の形を変えようとしたのである。
信仰自体は純粋なものであり、性急な手段は取りたくなかったが、本来の計画では悠長すぎて霧夢を救うことはできなかった。
響たちが知らずに状況をひっくり返したことで計画が前進したことを、小百合は感謝する。
そして始まったリヤン・ド・ファミユと霧夢のコラボステージ。
新曲「Cloud's Connect」(アニメでは「INNOCENT BLUE」)の演奏に合わせ、失われた壁画をPCとスクリーンで再現していく。
島の人々含め、全てのオーディエンスが魅了されていた。
ステージ終了後、描き上げた絵のデータを響が欲しがるも、霧夢はすぐさま消去してしまう。
嘆く響を残し社へと戻っていく霧夢だったが、言い残したのは「またね」と再会を意味するフレーズだった。
響たちが島を去る日、柚葉により霧夢から直筆の絵が届けられる。
同時に、「着色が終わったらメールで送るから、3秒以内に開け」という伝言も。
響は霧夢と元の関係に戻るため最後に試される誠意と捉え、必ず成し遂げると誓うのであった。