犬神家の一族

登録日:2016/03/04 Fri 12:06:10
更新日:2024/01/31 Wed 07:09:07
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     犬     
     神     
     家     
     の     
     一     
     族     

『犬神家の一族』は、横溝正史の長編推理小説で、『金田一耕助シリーズ』の一つ。


【概要】

探偵小説誌「月刊キング」に昭和25年1月号から26年5月号まで連載。
当時金田一耕助シリーズとしては余り人気のある作品では無かったのだが、1976年に市川崑監督による映画が大ヒットして以降、横溝正史ブームが巻き起こったこともあり、現在では金田一耕助シリーズの代表作として圧倒的な知名度を誇る。

テレビドラマ化など様々なメディアミックスが行われているが、アニヲタ関連では2017年に関智一が、自身率いる「劇団ヘロヘロQカムパニー」にて自ら主演・脚本・演出を行った舞台版を上演している。

映画が公開された当時は、松本清張に代表される所謂社会派ミステリーが隆盛期にあり、論理的なトリックのみが持て囃されて、本作の様な「通俗探偵小説」の扱う因習や異常心理や偶然に頼るトリックと呼べない様なトリックを使った懐かしの探偵小説は時代遅れとして軽んじられる傾向にあった。
しかし映画の大ヒットから猟奇的な探偵小説が人気を集め、本作の内容も改めての評価や研究がされて行く事になった。
特に、心理学研究の発展や普及により、寧ろ因習に根付いた狭い社会での異常な人間関係が生み出す複雑な心理や、論理的に見えて曖昧な人間の心理形態が明らかになるにつれ、今日では「古い所か先見性のある作風」として語られている。

以下、ネタバレ要素を含みます。

【あらすじ】

信州財界の大物・犬神佐兵衛が莫大な財産を残して他界した。
彼には母親の違う娘たちが3人いる。
皆婿養子を取り、それぞれに息子が1人ずついたが、お互いが反目し合っている。

遺産の配当や事業相続者を記した遺言状は、長女松子の一人息子佐清が戦地から復員してから発表されることになっており、一族は佐清の帰りを待つところとなっていた。

そんな中、金田一耕助は犬神家の顧問弁護士を務める若林豊一郎から調査依頼を受け、犬神家の本宅のある那須湖畔を訪れた。
若林は佐兵衛の遺言状を盗み見てしまったらしいが、耕助と会う直前に何者かによって毒殺されてしまう。

そんな中、佐清が帰ってきた。
しかし、佐清は戦場で手傷を負い、ゴムマスクを被った不気味な姿となっていた。

公開された遺書の内容は、
「全相続権を示す犬神家の家宝“(よき)(こと)(きく)”の三つを、野々宮珠世に与えるが、珠世は佐清、佐武、佐智の佐兵衛の3人の孫息子の中から、配偶者を選ぶものとする。もし、珠世が3人を配偶者に選ばないか、死亡した場合には、全財産を5分割し、5分の1ずつをそれぞれ佐清、佐武、佐智が、残りの5分の2を愛人との間に生まれた息子、青沼静馬が相続するものとする。」
という、3姉妹の確執を煽り立てるような、実に奇妙なものだった。

3姉妹の仲はいよいよ険悪となり、珠世の愛を勝ち得るための骨肉の争いが始まることとなる。
そんな中、佐武が生首を「菊」人形として飾られて惨殺される。
それは、“斧・琴・菊”に見立てられた、犬神家連続殺人事件の幕開けだった……。


【登場人物】


ややこしいので、最初に系譜を示しておく。


※編集者自身が作成



金田一耕助
私立探偵。じっちゃん。
貧乏書生風の見た目でもじゃもじゃ頭が特徴。
如何にも頼りなさげな風貌だが、実は明晰な頭脳の持ち主。


■野々宮珠世
本作のヒロインで副主人公。
絶世の美女で勘が鋭い。
佐兵衛の恩人、野々宮大弐の孫で、両親の死後に佐兵衛によって犬神家に引き取られた。
遺言の開示前から何度か命を狙われている。
遺言状により犬神家の財産の全ての相続権のカギを握る存在となってしまう。
警察からは容疑者として疑われてしまうが……?


■犬神佐兵衛
犬神財閥の創始者で先代当主。
出自は不明(本人も最後まで語らず)でこの土地の神社の神官であった野々宮大弐に拾われ可愛がられ、成人後一代で犬神財閥を為した傑物。
(財を成した経緯は製糸会社だったり、製薬会社だったりと媒体によって異なる。本項目では原作の製糸会社として扱う)
一代で犬神製糸会社を設立した地元の名士だったが、生涯正妻を娶らず、娘の松子、竹子、梅子はそれぞれ違う妾との間に生ませた子である。
さらに、三姉妹とは別に青沼菊乃という愛人との間に青沼静馬という息子がいる。


■犬神松子
三姉妹の長女。
犬神家本家を預かる。未亡人。
非常に勝気で苛烈な性格で凛とした姿勢を崩さない。
亡き夫の忘れ形見である佐清を溺愛している。


■犬神佐清
松子の一人息子。
美青年かつ好青年で、珠世とも仲が良かったが、戦争で顔と頭に酷い傷(に加えて記憶障害まで)を負ってしまう。
このため、松子が東京で作らせたゴム製のマスク姿で犬神家へ戻ってきた。
また、戦争のつらい経験が彼を大きく変えたのか、人が変わったかのように暗い性格になってしまった。
4番目の犠牲者で、絞殺されたうえで凍った湖に足2本を突き出した状態で発見される。
これは「スケキヨ」という字を縦に描いてひっくり返して





これを半分かくして





という判じ物になっている。
おそらく本作で最も有名な人物。『犬神家』と言われたら思い浮かぶのは犠牲になった彼の姿。


■犬神竹子
三姉妹の次女。
小山のような体型。直情的な性格。
マスク姿の佐清が偽物ではないかと疑っており、梅子と結託する。


■犬神寅之助
竹子の夫。
犬神製糸東京支社長。空気。


■犬神佐武
竹子の息子。
プライドが高く、不遜なところがある。
2番目の犠牲者で、首を切り落とされたうえでその首を菊人形の首と挿げ替えられた状態で発見される。


■犬神小夜子
竹子の娘で佐武の妹。
親と違いおとなしい性格。
佐智の婚約者で、彼の子供を身ごもっている。


■犬神梅子
三姉妹の三女。
三姉妹では一番美人だが一番底意地が悪い。


■犬神幸吉
梅子の夫。
犬神製糸神戸支社長。寅之助同様空気。


■犬神佐智
梅子の息子。
卑劣漢で、珠世を薬で眠らせてレ○プしようとしたが、「影の人」と名乗る何者かの妨害によって失敗に終わる。
3番目の犠牲者で、首を絞められて殺される。
首には琴の弦が幾重にも巻き付いていた。


■古館恭三
弁護士。古館法律事務所所長で犬神家の顧問弁護士。
佐兵衛の遺言状の管理を任されていた。
金田一耕助に調査を依頼し、彼に信頼の念を抱くようになる。


■若林豊一郎
古館法律事務所に勤務する弁護士。
最初の犠牲者。
犬神家の遺産相続問題に関して金田一に捜査依頼をするが、金田一と会う直前に毒殺された。


■猿蔵
珠世の世話役の下男。
もとはみなしごだったが珠世の母・祝子に拾われた。
そのため、珠世には非常に忠実。
力自慢で、彼女の世話だけでなく、ボディーガードの役割もこなす。
菊の栽培が趣味で、菊人形作りの腕前は達人級。
怪しい言動が多いため、警察からは真っ先に珠世の共犯の容疑者として疑われていた。


■宮川香琴
松子の琴の師匠で犬神家にたびたび出入りしている。
目が不自由。


■青沼菊乃
50代の頃の佐兵衛の愛人となった女。
佐兵衛は正式に妻に迎え入れようとするほど入れ込んでいたようだが、財産を取られることを恐れた三姉妹の非常に苛烈ないじめにあい、行方をくらませた。
まぁ、自分たちと似たような年の女が父親の愛人になっていると知ったら、面白くない気持ちもわかるだろう。


■青沼静馬
佐兵衛と菊乃の息子。三姉妹にとっては異母弟にあたる。
菊乃が連れて逃げたため行方不明。
年齢的には佐清・佐武・佐智と同年代。
遺言状により犬神家の財産の相続権のカギを握る存在となる。


追記・修正は、ゴムマスクの下の顔を確認してからお願いします。

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最終更新:2024年01月31日 07:09
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