原子怪獣現わる

登録日:2016/02/20(土) 13:00:19
更新日:2024/01/18 Thu 16:00:44
所要時間:約 6 分で読めます




原題は『2万尋から獣』(The Beast from 20,000 Fathoms)。
1953年6月13日(日本では1954年12月22日)に公開された米国製怪獣映画であり、
同時に、ゴジラ(1954)の元ネタになった作品である。

監督:ユージーン・ルーリー
特殊撮影:レイ・ハリーハウゼン

【作品解説】


ウィリス・オブライエンのもとでモデルアニメーションの手法を学んだハリーハウゼンの実質的なデビュー作。

当時のアメリカでは本作以外にも核の影響によって怪物が出現するという映画が数多く作られていたが本作の怪物の正体は核実験で目覚めた恐竜となっている。

この「水爆実験で蘇った巨大な怪獣が日常を攻撃する」というコンセプトは後に『水爆と深海の怪物』や『大海獣ビヒモス』、そして我が国のゴジラ(1954)にも受け継がれた。

また、本作は費用がかからないフロント・プロジェクションという手法*1を多用し、最終的にこの映画の製作費は20万ドルという当時でも非常に少ない予算で作られた作品である。



結果500万ドル以上稼ぎ出す大ヒットになったのだが、この作品以降映画界ではモデルアニメーションは低予算で作れるものと誤認され、怪獣映画は低予算のものが主流になるという弊害が生まれることになってしまった。

特撮ファンの中には「本作は巨大怪物による文明への攻撃的侵攻の原点であり、これをより大規模かつ現実的にしたものがゴジラである」とする意見も見られる(もっとも、1942年の時点でスーパーマンの映画がゴジラ型怪獣を描いており、それ以前にも『チーズトーストの悪夢:ザ・ペット』などといった作品でアメリカ製の怪獣は確認されている。ただし、この『原子怪獣現る』が怪獣映画の一種の特異点となったのは間違いないだろう)。




原作となったのはレイ・ブラッドベリの短編『霧笛』*2(東京創元社『ウは宇宙船のウ』などに邦訳版収録)。

語り手は友人の灯台守であるマックダンに誘われ、彼だけが知る灯台の秘密を聞かされる。毎年、その灯台には駆逐艦ほどもある大きさの怪物が出現するのだという。
太古からの生き残り、おそらく最後の一頭であろう怪物は、霧笛の音を仲間の呼び声と聞き違えて近づいてくるのだが、
棲み処との水圧の違いに体を慣らすのに手間取ってなかなか明るくなる前に近づけないのだという。
怪物が初めて上陸に成功したその時、友人は霧笛を止める。怪物は灯台を壊し、一晩中鳴き続けた。霧笛とよく似た声なので、
誰も異変に気付く者はおらず、語り手と友人は「灯台は突然の高波で壊れた」と報告し、
灯台の再建は進んでいるが、怪物が現れることは二度とないだろうと語るのだった。

「二度と帰らぬものをいつも待っている。
あるものを、それが自分を愛してくれるよりももっと愛している。
ところが、しばらくすると、その愛するものが、たとえなんであろうと、
そいつのために二度と自分が傷つかないように、それを滅ぼしてしまいたくなるのだ」

怪物の外見は「海産物を貼り付けた竜脚類」のような感じ。
「仲間を探し求める最後の一頭」のイメージは『原子怪獣』を通して『ゴジラVSメカゴジラゴジラVSデストロイア』等にも受け継がれたと言えるかもしれない。
怪物の大きさと体重はケイブンシャから出ていた『世界の怪獣大百科』によると「体長200m、体重120t」とのこと。

【あらすじ】

アメリカ軍による北極での核実験が行われる。そして、レーダーに映る正体不明の巨大な物体。実験後、見測所に向かい周囲を点検していた科学者トム・ネスビットとその友人は吹雪の中で恐竜を目撃する。
実験の影響で1億年前の恐竜リドサウルスが蘇っていたのだ。
その後ネスビットと友人はリドサウルスが起こした雪崩に巻き込まれ友人は死亡。九死に一生を得たネスビットも当然最初は誰にも信用してもらえず、精神病患者扱いされてしまう。
やがて北極海グランド・バンクス沖を航行していた漁船が沈没し、唯一の生存者が海龍を見たと主張していることを知ったネスビットは古生物学者のエルソン教授を訪ねる。
最初は彼のいう事をまるで信じていなかったエルソン教授も漁船の生存者とネスビットが見たものが同じであると気づき、事の重大性に気づく。
やがてリドサウルスは帰巣本能からかつて住んでいたニュ―ヨークを目指して航行しつつあった。
その後、各地で怪獣の目撃例が報告されるようになり、ネスビットの話を真実だと確信したエルソン教授の助けによりついに軍隊と沿岸警備隊による捜索が開始されることになるが…



【主な登場人物】


◆トム・ネスビット
本作の主人公の若き研究者。北極でリドサウルスを目撃するも初期は信じてもらえず辛い思いをするが、
存在が認知されて以後はエルソン教授とともに中心になってリドサウルスへの対策を練る。


◆リー・ハンター
本作のヒロインでエルソン教授の助手。 ネスビットの見たという恐竜の種別の同定に尽力した。


◆エルソン教授
古生物学者で、リーの上司。ニューヨーク沖の海底でリドサウルスを調査するも襲撃されてしまい…。


◆ストーン伍長
射撃の名手。コニーアイランドに閉じ込められたリドサウルスにアイソトープ弾頭で止めを刺した。
演じたのは「荒野の七人」で有名なリー・ヴァン・クリーフである。


◆リドサウルス(レドサウルス)
一億年前に地球に生息していた四足歩行の巨大肉食恐竜で、大きさは60.96メートルで体重500tである。
(ちなみにケイブンシャから出ていた『怪獣もの知り大百科』には「リドサウルスはティラノサウルスの一種である」と記載されている)
北極で氷漬けになっていたが、米軍の水爆実験で眠りを覚まされ、かつての住処があったニューヨークへ襲来した。最終的な被害は死者:180名、負傷者:1500名、被害総額:300万ドルにおよんだ。
頭蓋骨は厚さ20センチほどもあって非常に分厚く、マシンガンの攻撃もものともしないが、首の下の柔らかい部分は拳銃やボルトアクション式のライフルでも十分通用する模様。
飛び道具は持っていないが血液中に恐ろしい感染力を持つ古代の病原体を含んでおり、攻撃にあたった州兵を何人も感染させて倒した。
また、二足歩行姿勢をとることもできる上に水陸両棲で、多くの漁船を破壊し、エルソン教授を乗せた潜水球も沈めた。
最後は遊園地のコニーアイランドに閉じ込められ、狙撃のためにジェットコースターに上ったストーン伍長の手で首の傷口にアイソトープ弾頭を撃ち込まれ絶命した。
名前は、レイ・ハリーハウゼンのイニシャル(R・H)をとって名付けられた。デザインは『サタデー・イブニングポスト』の挿絵を参考にしたとのこと。

なお、予算の都合さえなければ放射能を含んだ炎を吐くはずだった。

【ゴジラとの関係性】

ちなみに「ゴジラのリメイク」として第19回ゴールデンラズベリー賞の最低リメイク賞を受賞したハリウッド版ゴジラだが、「実は「原子怪獣現わる」のリメイクであったが、それでは資金が集まらないためゴジラのリメイクと称して制作した」とハリウッド版ゴジラのプロデューサーであるディーン・デブリンが暴露している*3と日本の映画雑誌で報じられている。
だがこの記事自体のソースが不明確で、海外のソースが見つかっていないのも事実であり(知っている人はご紹介ください)*4、様々な判断材料から前提条件が成り立たないデマであり、仮にデヴリンが本当に言っていたとしてもジョークや東宝への皮肉、或いはディーン自身の発言ですらなくAVGNのレビューのニュアンスを聞き違えた誤報なのではないか?という説もある。何より、ディーンはゴジラの大ファンであり、2018年には「エメリッヒと自分のゴジラに対する情熱のズレが一番の問題だった」と反省文を公開している
実際ゴジラのリメイクとしては酷評されているがこちらの映画により近く、怪獣パニックとしては高く評価されている。

ハリーハウゼンは生前に日本のゴジラを嫌っていて*5「パクリ」だと公言している
キングコング対ゴジラ」のせいで、敬愛するキングコングの生みの親であるウィリス・オブライエン*6が、東宝を訴えようとしていたが資金不足で諦め、失意のまま亡くなってしまった*7ことも関係しているからだろうか。ちなみに、東宝がキングコングの使用期間の残りで作った「キングコングの逆襲」も、ハリーハウゼンの前年の作品「恐竜100万年」との類似性が強く、キングコング作品だけにハリーハウゼンの感情を余計に逆なでした可能性もある。

とはいえハリーハウゼンも初代ゴジラの内容自体は評価していたらしく、「一番最初の作品はとてもすごいと思う。時々、ハッとするようなテクニックがあったりしてね。Mr.円谷はとても賢い特撮をやっていたと感じるよ。でも、基本的に縫いぐるみというテクニックそのものが私にとってはそれほどエキサイティングじゃないんだ」*8との発言も残している。

ちなみに、東宝は怪獣アゴンをゴジラのパクリだと訴えようとしたがゴジラに携わったスタッフの作品なので流したこともある。

【余談】


◆『ゴジラ』は企画段階では『海底2万マイルからきた大怪獣』という題名であり、内容も「ビキニ環礁から核実験の影響で目覚めた古代の恐竜が東京を襲う」という内容である。いかに『原子怪獣現わる』の影響が大きかったのか見て取れる。

◆1978年に作られた『恐竜の惑星』という自主製作作品にもリドサウルス似の恐竜が登場しているが、開始一分でティラノサウルスに食い殺されている。

◆山本弘氏の『MM9』シリーズにもリドサウルスは「レイ」という名前で登場している。
ただ微妙に設定が異なり、血液に含まれている病原体が放射性物質ということになっていたり、
最期がアイソトープ弾頭によるものではなく「ナパーム弾で焼却された」となっている。

◆リドサウルスのフィギュアは国内ではビリケン商会やエクスプラスから出ているが、figmaシリーズで有名なマックスファクトリーからも1990年代にキットが出る予定があった。
これは最終的には没になってしまったがソフビの軸可動で四足と二足を組み替えて遊べるものになる予定だった。
ちなみに原型を担当した方はビリケン商会のリドサウルスも担当しており、2013年にも新規にリドサウルスのキットを個人製作していた。
(現在は金型撤収と原型がハリーハウゼンの財団に寄贈されてしまったため絶版である。)

◆1980年代に桃園書房から出ていた『大怪獣もの知り大博士』で、リドサウルス(本文中では「原子怪獣」と記載されている)とゴジラ(モスゴジ)との対決が実現している。
戦闘の結果はリドサウルスの顎を引き裂いてゴジラが勝った模様。

◆1956年のアメコミ『The Creature from 20,000 Fathoms(20,000尋からの生きもの)』で太平洋の島に定期的に現れる怪獣としてバットマンと共演しているが、絵で見る限り思い切り後ろ足で立ち上がって鼻から火を吹いている。名前は「Babgonga(バボンガ)」。
バットマンとロビンを騙して連れてきた50尋クラブに命を狙われていたが生きて保護され、次世紀に孵るという卵はバットケイブに引き取られた。


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最終更新:2024年01月18日 16:00

*1 半透過のスクリーンの裏側から映像を投写しその手前に役者や人形を配置して撮影する合成方法であるリア・プロジェクションに対して、フロント・プロジェクションは手前側から投写する。

*2 初版での題は同じく『2万尋から獣』で、再販されたときに『霧笛』に改められた。小説の純粋な実写化というわけでもなく、本作のプロデューサーはキングコング(1952年)を見て『海の下からの怪物』(Monster from Beneath the Sea)の題で企画を進めていたが、構想中の作品と類似した小説が先に有名作家によって出版されてしまったため、ハリーハウゼンの高校時代からの親友であるブラッドベリにメディアミックスを持ち掛けて映画化権を買い取ったという。

*3 発言の出典:『DVD&ブルーレイでーた(大日本印刷株式会社)』2013年8月号59ページより

*4 英語ではThe Angry Video Game Nerdのレビューの中にほぼ同じ言い回しが出てきて、ディーンではなくAVGNの発言として様々なところで引用されている。また、AVGN以外では2005年に刊行された『ゴジラとアメリカの半世紀(中公叢書)』の著者であるカンザス大学の教授のウィリアム・M・ツツイ氏が同著において「気の抜けた『原子怪獣現る』のリメイク版のようなトライスター版『ゴジラ』」と評していることから、米国では同様の評価を下している人間は一定数居た模様

*5 ゴジラのTシャツを着ている人物を見て気分を害するほどだった。

*6 ハリーハウゼンが特撮の道を目指したきっかけもキングコングだった

*7 オブライエン夫人は、「夫の寿命が縮んだのは恨みのため」と述べている。

*8 発言の出典:宝島社『ニューウェイブ世代のゴジラ宣言(1985年1月1日刊)』152ページ。インタビューをしたのは聖咲奇氏