八つ墓村(77年の映画)

登録日:2016/01/03 Sun 11:07:09
更新日:2024/03/08 Fri 22:44:27
所要時間:約 13 分で読めます





「祟りじゃ~!!」




■八つ墓村■

八つ墓村』は、1977年に公開されたサスペンス、ミステリー……に見せかけた松竹制作のホラー映画。
監督は野村芳太郎。

【概要】

横溝正史原作の金田一耕助シリーズの同名作品を映画化したもので、前年に公開されて空前のブームを巻き起こした『犬神家の一族』(角川映画)大ヒットを記録。

制作は監督の野村を始め、名作『砂の器』(1973年)を手掛けたスタッフが参加している。
入念なロケハンにより導き出された、山村への普遍的な郷愁を沸き起こさせるような画面作りは流石の一言である。

主演の寺田辰也役は『傷だらけの天使』『前略おふくろ様』などで当時人気を博していた萩原健一。
金田一耕助役は『男はつらいよ』で日本人に愛され続けた渥美清。
ただし、本作では出番が極力抑えられており、事件の調査も物語の合間に挿入されるのみで、他の金田一映画の様に推理が物語の中心には据えられていない。

『八つ墓村』は金田一耕助シリーズの中でも最も映像化された回数の多いタイトルなのだが、宣伝にも使用された「祟りじゃ~!!」のセリフはその年の流行語になり、『ルパン三世』や『8時だョ!全員集合』といったテレビ番組でパロディが登場したほど。
加えて格調高い音楽と映像、そして、歴代の映像化作品にて数々の名優が演じて来た多治見要蔵の中でも最も怖ろしいと讃えられる山崎努による鬼気迫る村人32人殺しの場面により、それらの中でも特に有名な作品となっている。


【作風】

金田一耕助の実写版は角川版『犬神家の一族』以降、原作の時代を再現するのが定番となっているが、本作では物語の舞台が現代(公開当時と同じ1977年)、金田一耕助の姿が洋装(と云うか普通のおっさん)という、と角川版以前の金田一耕助物に倣ったアレンジとなっており、その為か現在では金田一耕助のイメージからは外れた異色の作品となっている。

一方、物語の真相や演出面にて明確なオカルト的要素が加えられており、そうした部分から純粋なミステリー映画と呼ぶのには疑問を呈する声も。

ファンからも特に賛否両論の激しい渥美清の演じる金田一耕助だが、格好こそ原作とは違っているものの演者本人が「他に何の取り得も無いが推理だけは人並み以上の人物」として作り上げた金田一像は、原作者の横溝正史をして「最も自分のイメージに近い金田一耕助」と言わしめた事は知っておきたい話。


【物語】

――昭和52年。
幼い頃に実の母親と死別し、現在は義理の親の許からも離れて空港職員として暮らしていた寺田辰也は、上司から新聞の人捜し欄に自分を探す広告が出ている事を知らされる。
連絡先である大阪の諏訪弁護士の許を訪れた辰也は、そこで母方の祖父であると云う井川丑松に出会う。
しかし、会って間もなく丑松が変死。
検死の結果、毒殺である事が判る。
丑松の変死を知って駆けつけた森美也子から、出生不明の自分が岡山のとある村の分限者(金持ち)である「東家」こと多治見家の出身であり、母の鶴子が前当主の要蔵の妾であった事、それでいながら腹違いの兄である現当主の久弥が若くして病に伏せたまま余命幾許もなく、他ならぬ自分に家を継がせたがっている事実を聞かされる。
家を継ぐ事はともかく、自分の過去に興味のあった辰也は美也子に同行するが、そこで村の名前が少し前まで「八つ墓村」と呼ばれていた事と、その忌まわしい名前の由来となった村人による落ち武者殺しの故事と祟りの噂を知る。
そして、辰也が村に来たのに合わせるかのように義兄の久弥の毒殺を皮切りに連続殺人が相次ぎ、村には「八つ墓明神」の祟りの噂が流れ、辰也が犯人であるかの様な空気が流れる。
そんな中、辰也は偶然から入り込んだ多治見家の地下に広がる鍾乳洞の中で屍蝋化した鎧武者姿の死体を発見。
その死体こそが自分の父である先代の多治見家当主の要蔵の死体であり、20数年前に起きた要蔵による村人32人殺しの事実をも知った辰也は村を出ようとするが……。


※以下はネタバレ注意




【登場人物】

■寺田辰弥
演:萩原健一/吉岡秀隆(少年期)
実の母親に死なれて以来、孤独な人生を送ってきた青年。
物心付く以前から背中に大きな火傷跡がある。
自分の出生に興味を持ち「八つ墓村」を訪れた事から、数奇な運命に巻き込まれる。

ちなみに少年時代を演じた吉岡氏は後にNHKで『悪魔が来りて笛を吹く』(2018年)、そして『八つ墓村』(2019年)と金田一耕助役を演じることになる

■森美也子
演:小川真由美
「東家」の親戚である分限者「西家」の美しい若後家。
当主である義兄の荘吉に代わり家を仕切り、辰也の迎えにも来た。

■多治見久弥
演:山崎努
辰也の義兄。
現在の「東家」の当主だが若くして病み付き、後継者として大金を掛けて辰弥を探し出した。
辰弥と対面した直後に死亡。
検死により丑松と同じく毒死であると判明。
普段から飲んでいた薬にが混ぜられていた事が判るが……。

■多治見春代
演:山本陽子
辰弥の義姉。
余所に嫁いでいたが病により子宮を失い、生家に戻された。
そうした事情からか肩身が狭く、様々な事実を突きつけられて複雑な感情を抱く辰弥にも理解を示し同情的。

■多治見小竹
演:市原悦子
■多治見小梅
演:山口仁奈子
『八つ墓村』を代表する名物キャラクター。
要蔵の大伯母で、一卵性双生児の双子の婆。
無駄に怪奇的な演出をされている。
高齢だが、絶大な支配力により多治見家を仕切っている。
※市原悦子は当時まだ40ちょっとの年齢なのに流石の演技力である。

■多治見おきさ
演:島田陽子
要蔵の正妻であったが、20数年前の虐殺事件の最初の犠牲者となる。

多治見要蔵
演:山崎努
先代の多治見家当主であり、妻帯者でありながら鶴子を力ずくで犯して強引に妾にして辰弥を生ませた。
しかし、鶴子の生んだ辰弥が鶴子の恋人と言われる亀井陽一の子ではないかとの噂を聞いて嫉妬に狂い、鶴子に暴行(辰弥の火傷はこの頃に要蔵が火鉢を押し付けて出来た物)。
命の危機を感じた鶴子が辰弥を連れて姿を消した事で完全に狂い、日本刀と猟銃で村人32人を次々に虐殺。
山に逃れた後に家に戻り、落ち着くまで鍾乳洞に匿われていたが、大伯母達に毒入りの食事を運ばれて密かに殺されたと見られている。

■久野恒実
演:藤岡琢也
多治見家の親戚。
村で唯一の医者だが腕が悪く薬品管理も杜撰。
本人も政界に出たがっており、湯水の様に金を使うのを諭されている。

■森荘吉
演:浜村純
「西家」の当主だが本人は盆栽弄りに興味を示し、家の事は弟の未亡人である美也子に任せっきりで言いなりになってしまっている。

■吉岡太一郎
演:浜田寅彦
多治見家の親戚。

■井川丑松
演:加藤嘉
鶴子の父親で辰弥にとっては母方の祖父。
大阪まで辰也を迎えに行くが面会直後に死亡。
司法解剖により毒殺された事が判明する。

■井川勘治
演:井川比佐志
鶴子が要蔵に浚われてしまった後に井川家に迎えられた養子。
辰弥に村に居た頃の鶴子の話を聞かせる。

■濃茶の尼
演:任田順好
一応は尼僧だが、28年前の事件で家族を失い狂信に捕らわれた。
「祟りじゃ~!!」の名言の人。

■工藤校長
演:下條正巳
分校の校長。
辰弥の本当の父親の事を知っている。
金田一の調査にも協力していたが……。
別に金田一から「おいちゃん」とは呼ばれたりはしていない。

■諏訪弁護士
演:大滝秀治
大阪に事務所を構える弁護士で、依頼を受けて辰也を探していた。

■亀井陽一
演:風間杜夫
28年前の分校の訓導。
辰也の実の父親との噂がある。

■井川鶴子
演:中野良子
辰弥の母。
要蔵から逃げ出した後には過去の事を話さなかったが、幼い頃の辰弥に「あんたは竜の顎で生まれた」と、繰り返し言い聞かせていた。

■尼子義孝
演:夏八木勲
毛利に滅ぼされた尼子義久の弟。
■落ち武者
演:田中邦衛
演:稲葉義男
……etc.
義久と共に逃げ延びて来た家臣。

嘗て(1566)、戦に敗れて村に逃れて来た義孝を主とする8人の落ち武者。
狼藉を働くでもなく荒地を開墾し住み着き、村人とも交流していたのだが、毛利の出した報奨金に目が眩んだ村人達に祭りに誘われ、毒入りの酒を呑まされ身動きがとれなくなった所を惨たらしい方法で惨殺された。
五朗さんがリンチを受けた末にを点けられ、首を曝されるなんて映画は後にも先にも本作位の物だろう。
原作ではこの事件は、彼らの祟りを装った財産目当ての殺人だったのだが、本作では祟りを装った復讐劇と見せかけてやっぱり祟り、という二段構えになっている。
ラスト間近の炎上する多治見家を見下ろす武者達の亡霊が凄まじくもいい笑顔なので注目したい。

■庄左衛門
演:橋本功
多治見家の祖。
騙し討ちで落ち武者を殺した村人のリーダー。
その功績により毛利から土地を与えられ、村一番の金持ちになるも後に発狂し、村人7人を殺した後に自らの首をはねて死んだ。

■磯川警部
演:花沢徳衛
岡山県警本部の責任者。
原作同様に「岡山編」を代表する金田一の理解者の模様。

■矢島刑事
演:綿引洪
磯川の部下。

■新井巡査
演:下條アトム
村の駐在。
リアルでは工藤校長の演者の息子で、後にウルルン言ったり鬼をサポートする運命。

■金田一耕助
演:渥美清
一見すると朴訥なおっさんだが実は探偵
既に名前を知られている様で、諏訪弁護士の依頼を受けて「八つ墓村」を訪れた。


【撮影場所】

舞台となる岡山県のみならず、1年以上の入念なロケハンにより、村の一角が別の土地やスタジオ内のセットと云う事も。
特に、物語の核心となる鍾乳洞のロケーションには全国各地の鍾乳洞をつぶさに調査したらしく、北は岩手県から南は沖縄まで、と拘りに拘り抜いた場面構成が光る。
ただし、撮影場所が各地に広がった影響からか撮影期間が2年以上も掛かってしまっている。
物語で大きな役割を果たす多治見家は、外観は岡山県の吹屋ふるさと村にある広兼邸だが内部はスタジオ内にセットが組まれて撮影された。
尚、クライマックスの炎上シーンは実際に屋敷を組んで燃やしている。


【三大トラウマシーン】

本作では前述の様に祟りが事件の目眩まし所か、事件の真相として語られている。
それだけに、元々怪奇指向の場面が本作では特撮まで用いて描かれており、たまたま子供時代にTVで見たりして、内容も解らないままにトラウマを抱えてた人も少なくない模様。

①落ち武者惨殺
毒入りの酒を呑まされた落ち武者が村人達に惨殺される場面。
非常に長い上に特撮もふんだんに使用された直接的なグロ描写は、80年代のスプラッターブームを先取ったかの様である。

②村人32人殺し
落ち武者殺しとは対照的にかなり短い場面として纏められているものの、鬼気迫る山崎努の冷酷な演技と律動する劇判、流れるように展開される芸術的な殺人描写の構成は怖ろしくも美しく、歴代の映像化された『八つ墓村』の中でも本作を最高の物と言わしめる最大の売りとなっている。

③鍾乳洞の逃走劇
クライマックスとなる、辰也が迷宮のような鍾乳洞の中を真犯人の手から逃れようとする場面。
祟りにより豹変した真犯人による追跡劇がスローモーションで描写され、犯人の息遣いがSEとして被せられている。

※この他、冒頭の管理事務所の場面にてガチの心霊現象が映り込んでいるとの噂が根強い。
説明するまでもなくハッキリと映っているので自分の目で真偽を確かめてみるのがいいだろう。







追記修正じゃ~!!お前が居ると文字が化ける…出ていけ~!!

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最終更新:2024年03月08日 22:44