ヘラ(ギリシャ神話)

登録日:2015/12/04 Fri 11:19:56
更新日:2023/11/01 Wed 21:24:55
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■ヘラ

「ヘラ」はギリシャ神話に登場する女神。
オリュンポス十二神の一柱で主神ゼウス正妻。
名前(貴婦人、女主人)の示す様に、女神の中の女神、神々のファーストレディである。
結婚と母性と貞淑を司るが、夫のゼウスが浮気者として有名なのでアイロニーの効いた瀟洒なエスプリ(高度なネタ)として捉えられている。
沿え名はガメイラ(結婚)、ズュギア(縁結び)、パイス(乙女)、テレイア(妙齢の女性、妻)、ケラ(寡婦)。
ローマ神話ではユノ(ジュノー)と習合した。
「6月(June)に結婚した花嫁は幸せになれる」という言い伝え「ジューンブライド」はこれに由来する。
結婚生活の守り手であるジュノーの名の付く月に挙式すれば、ジュノーの加護が得られる、というわけである。

元来はアルゴス地方の有力な土着神(女神)であったらしいが、ギリシャ民族に征服された事で神話が統合された。
そうした経緯が神話内でのゼウスの配偶神と云う立ち位置と、それをギリシャ全土に知らしめるかの様な盛大な結婚式のエピソードと云う形で反映されていると考えられている。

美しく、威厳と慈愛に満ちた神々の女王、最高位の女神……の筈なのだが、神話では夫の浮気相手やヘラクレスを初めとするゼウスの血を引く英雄達の邪魔をしたり、不幸な目に遭わせようとする姿ばかりを描かれてしまっているので、悪役として捉えられてしまっている場合も少なくない。
※現在知られているギリシャ神話が元々の信仰の場で語られていた神話では無く、それらを元にして大胆に脚色した二次創作のがメインなのも大きな理由である。

事実、絵画や書籍によっては本来の美しい姿は何処へやら……の鬼婆の様な姿で描かれてしまっている場合すらある。
……年を取らない神話もあるのに。

彼女の母乳は不死性や驚異的な力を与えるらしいのだが、ヘラクレスの神話以外ではフィーチャーされていない。
また、トロイア戦争では敵対したアルテミス(武闘派でヤンキー気質の跳ねっ返り)を打ちのめす等、ゼウスには流石に適わないが腕力にも自信がある模様。
並の人間どころか強靭な肉体を誇る半人半神ですら至近距離で直視しただけで瞬時に爆死する全力モードのゼウスと普通に夫婦の営みが出来るのだから、神々の基準でも化け物級のタフネスまで備えている。
流石は皆の姉貴。


【出自】

神話ではヘスティアデメテルの妹(三女)でハデスポセイドンゼウスの姉(妹分)。
他の姉弟と共に生まれてすぐに父親であるクロノスの腹に呑み込まれていた。

……後に、ガイアの助力を得た母神レアにより逃がされた末弟ゼウスが成長して全員が解放されると、早速ゼウスの指揮下に入り親神への恩返し(御礼参り)としてクロノス率いるティターンとの十年戦争(ティタノマキア)に参加。
この戦いを経てゼウスと結ばれて最高位の女神となった。

尚、解放された時の生み直しによりゼウスが末子から長男になったのと同じく、三女から長女になった=男女共に長子相続による体制が敷かれたとも解釈される。(元来は政治が不安定で末子相続が基本*1となっていたギリシャ地域であったが、政治が安定すると共に征服した他地域の長子相続の価値観がギリシャにも取り入れられたことを示す構図と研究される。)

また、異説もあるがヘラはゼウスの三番目の妻である。
既にデミスと結婚してた癖にヘラの絶世の美貌に一目惚れしたゼウスに求婚された時には、結婚してる癖に求婚してきた不埒者のゼウスをかなり警戒。
毎日カッコウに化けて愛を囁き犯そうとまでするゼウスを相手に当初は徹底的に抵抗してセックスすることを微塵も許さなかったが、根負けしたのかヘラ側が「デミスと別れて自分と正式に結婚すること」を自分とのセックスの条件として提示。悩んだ果てにデミスと離婚してヘラと再婚しようやく陥落したとされる。


ゼウスとの間には軍神アレス、争いの女神エリス(後付け)、青春の女神へーべー(へべ)、お産の女神エイレイテュイアを儲ける……が、嫌われ者の軍神(笑)に、オリュンポスにも数えられない影が薄めの女神達と何ともパッとしない顔ぶれ。

因みに、娘達はヘラの仕事の補佐をしており、へーべーは毎年春にヘラがカナトス泉で若返るのを手伝い、エイレイテュイアは出産に苦しむ妊婦を助ける。
エリス?……トロイア戦争引き起こしたよ!

ゼウス・ガイア「やったぜ(人間が減る)」

完全なママっ娘であり、エイレイテュイアはヘラに依頼されて本来の仕事とは真逆にレトとアルクメネの出産の邪魔をしている……おーい。

娘とはされていないが、虹の女神イリスもヘラの忠実な部下として知られており、アレスと共に土地達がヘラの言いつけを守るかを見張り、間接的にレトの出産の邪魔をしている……おーい。

鍛冶神ヘパイストスはオリュンポスにも数えられている最も有名な息子だが、ヘラが単体で生んだとされる説が有る為かゼウスの息子にはカウントされていない場合もある。
また、醜い彼を生まれてすぐに捨ててしまったとの神話も残り、後付けにしても母性の神の名が聞いて呆れる様なエピソードも少なくない。
弁護しておくと、別の説ではヘパイストスは両親の大喧嘩を仲裁しようとして頭に血が上った父に天から落とされて片足に障害を負ったとの説もある。
ヘパイストスの妹で青春の娘へーべーも兄同様に両親の夫婦喧嘩の際に、父親に八つ当たりで髪を掴んで吊るしあげられる被害を受けているので、此方の説も結構有名である。

そもそも、ゼウスの子として名高いアテナアポロンアルテミス、地上や冥界勤めなのでオリュンポス十二神には含まれていないものの折り紙付きの実力やポテンシャルを持つディケーやペルセポネの他、ペルセウスやヘラクレス等の人気のある神や半神の英雄達は全て先妻や妾の子である……ヘラが逆恨みしたくなるのも当然かもしれない。

更なる異説としてはギリシャ神話史上最強の怪物テュポンをティターンの力を借りつつ単独で生み出したともされるが殆ど語られる場合が無い。

ヘラには、矢張りゼウスと愛人の子であるディオニュソス(バッカス)の幼少期にティターンに襲わせて食わせてしまう神話もあるが、ギリシャ民族の神話に組み込まれる以前にはティターンとは何かしらの関係があったのかもしれない。

シンボルとする聖鳥は孔雀。
ユノの象徴であり、孔雀は古代オリエントで不死の象徴として後にキリスト教にも取り込まれているが、前述の生まれ変わり(若返り)の神話に関連している可能性もある。
神話では後述の百目の怪物アルゴスの死に際し、ヘラが百目を孔雀に飾ったとも、ゼウスがヘラに詫びて百目を付けた鳥として孔雀を生み出しヘラに捧げたともされる。


【神話】

夫への愛情が深く、ゼウスが浮気をする度に喧嘩したり、ゼウス本人ではなく浮気相手や妾の子ども達にちょっかいを出す事で神話を盛り上げるのが主な仕事。
ゼウスもヘラの事を怖れてはいるが、アポロンに扇動されたヘラにグルグル巻きに縛られた結果、マジギレされた時には天上界から重しを付けてぶら下げられると云うハードSMを喰らっており、流石にこの仕打ちには姉貴も耐えきれなかった模様*2
……尤も、こうしたゼウスとの確執が盛り込まれた理由については征服された者と征服した者と云う民族間の対立構造が反映された可能性があると見られている。

また、ヘラは結婚を司る神であり、「夫のただ一人の伴侶として子を産む」という一夫一妻制における女性の権利を保障する存在であるため、彼女がゼウスではなく浮気相手(ユダヤども)を酷い目に合わせるのは、神としての義務であるという側面もある。
彼女が強硬に振る舞っているからこそ、「他人の夫と関係を持ってはいけない」というルールが世に存在していられるのである。決してただの嫉妬ではない。たぶん 、おそらく、Maybe
まあ、情状酌量のじの字も無いのはどうかと思うが、ギリシャではよくあることである。

意外な事に、善良な老人に親切な人間には好意的であり、老女に化けた自分を背負って川を渡してくれたイアソンに対してはアルゴ号の冒険と金の羊の皮の返還を全面支援している。
然し、婚姻の女神らしくイアソンがヘラの取り持ちで結婚した妻のメディア*3を捨てたのを機に加護を止めている。


怒らせると自分の子孫にも容赦が無く、ゼウスと不倫した曽孫のセメレは人間や半神が直視すると身に纏う稲妻で致命的な危険が有るゼウスの真の姿を見るように仕向けて焼き殺し、セメレとゼウスの子で自身の子孫にあたるディオニュソスにも迫害を繰り返し、ヘラクレスと戦わせる心算が逆にヘラクレスに一目惚れをしてしまった*4孫のヒッポリュテに対しては彼女の部下を扇動して大乱闘を起こした上に、潔白を示す為に無抵抗で弁明を試みるヒッポリュテをヘラクレスに殺させている。
また、恩人の息子を辱めて死に追いやった為に「息子に殺される」と言う神罰を受ける運命になった自身の子孫のライオスが妻にDVを働くわ、自分の子の足を串刺しにして山に捨てるわ、国中の美少年を毒牙にかけるわ・・・の暴政の限りを尽くした挙句に、預言者テイレシアスを通じた自身の最後通告を無視した*5際には大怪獣スフィンクスを送り込んで暴れさせている。

流石に実母のレアにだけは頭が上がらない。


【ゼウスの女性遍歴】

別名ヘラ姉貴の復讐リスト暫定版。
ゼウスの浮気に関しては信仰の統合による新たな主神の下に様々な土着信仰を習合させていったり、地方の王家が挙って主神の末裔になりたがったと云うメタい事情があるからだが、その度に神話の盛り上げ役としてヘラの名前も“ついで”に持ち出されたとしか思えない程に出番が多い。
以下に大体の一覧。(こちらの項目も参照)

□■順不同□■
※関係を持った相手→生まれた子供

□前妻


■愛人

  • 大地の女神デメテル→冥府の女王ペルセポネ
  • 記憶の女神ムネモシュネ→芸術の9女神ムサ(ミューズ)
  • オケアノスの娘エウリュノメ→美の女神カリス達
  • コイオスとポイベの娘黒衣のレト→予言の神アポロン、狩猟の女神アルテミス
  • アトラスの娘マイア→伝令の神ヘルメス
  • デバイの王女セメレ→酒の神ディオニュソス(バッカス)
  • フェニキアの王女エウロペ→クレタ王ミノス、サルペドン、冥府の裁判官ラダマンテュス
  • アソボスの娘アイギナ→冥府の裁判官アイアコス
  • ヘラの巫女イオ→エジプト王エパポス
  • アルテミスの従者カリスト→アルカディア人の祖アルカス
  • アルゴス王アクリシオスの娘ダナエ→英雄ペルセウス
  • アルゴスの王女アルクメネ→英雄ヘラクレス
  • This is スパァルタ!!王テュンダレオスの妃レダ→人間界一の美女ヘレネ、英雄ポリュウデウケス
  • テバイの摂政ニュクテウスの娘アンティオぺ→アムビオン、ゼトス
  • ポセイドンの子ベーロスとその母リビュエーの娘ラミア→無し(ヘラに殺され、自分も怪物となり果てた)

※異説も多いので一例です。
しかし、メタな理由が多いとはいえ本当に子沢山である。


【ヘラの主な復讐】

※上記の復讐リストの中でも知られている物。

■レト編

  • 出産場所を奪う
※地上全て、若しくは一度でも太陽が当たった事のある土地での出産を禁じた。
※ゼウスを拒絶して浮き島(オルテュギア)に変えられていた妹のアステリアに頼んで出産場所を漸く確保したとされる。
  • 9日9晩も出産を遅らせる
※余りの苦しみように見かねたポセイドンとレア、他の女神達が助け舟を出した程だったと云う。
この他にも、蛇神ピュートーンや妊婦と前後好きの巨人ティテュオスに命や貞操を狙われたりと散々な目に遭っている。


■セメレ編

  • 人間に化けてゼウスが通っていたのを逆手に取り、自らも乳母に化けてセメレに近づくと「悪い男が騙そうとしてるのかもしれないから本物のゼウスの証として神としての正体を明かす様に聞いた方がいい」と唆した。
※実行して神の本性に触れたセメレは真ゼウスの光と熱に灼かれて命を落としてしまった。


■カリスト編

  • ゼウスの子を生んだカリストを熊に変える。
※後に成長した息子のアルカスが狩猟でカリストに遭遇。
彼女を獲物に定めたが、天から見ていたゼウスが親殺しをさせまいと親子共々に天上に上げ、これがおおぐま座とこぐま座になったとされる。
しかし、怒りの収まらないヘラ、その後も手を回しておおぐま座とこぐま座を地平線の下に入れさせず、ずーっと天を回っているようにした、とも言われている。
ただし、加害者を「テメッコラー!チーム(ヴァージン・レディース・クラン)の掟破るとかケジメしやがれっコラー!!」とブチ切れたアルテミス総長とする説もある。


■イオ編

  • 浮気現場を押さえる。
  • ゼウスが言い逃れの為にイオを牝牛に変えたのを知っていて自分の物にする。
  • 百目の巨人アルゴスを番人に仕立てゼウスが近づけない様にする。
※ゼウスの依頼を受けたヘルメスにアルゴスが殺されるが、諦めずにしつこい虻をけしかける。
逃げたイオはエジプトまで行ってしまい、結局はギリシャに戻れないままにそこで子供を生んだと云う。
エジプト神話の女神イシスとなったという逸話も。


ヘラクレス

  • ゼウスの予言を外すべく出産を遅らせる。
  • 乳首を噛まれたのを恨み毒蛇を赤子にけしかける。
  • 狂気に取り憑かせて自分の子供達を殺害させる。
  • 呪われた予言を利用して自分を憎む従兄弟のエウリュステウスの臣下にした上に十二の試練に向かわせる。
※これらの企みは結果から言えば殆どが失敗したものの、最終的には妻の嫉妬から非業の死を迎える事になる(詳細は当該項目へ)。
しかし、死して天上界に上がったヘラクレスとヘラは和解したともされる。
と、云うか最愛の娘ヘーベーの娘婿となったのだから今更って話ではあるが。
尚、ヘラの母乳を飲んで力を得たからかヘラクレスとは「ヘラの栄光や祝福」の意だと云う……凄い皮肉である。
更なる余談として、ゼウスに依頼されたヘルメスが赤子のヘラクレスに寝ているヘラの乳首を吸わせたのだが、強く吸われ過ぎて驚いたヘラが身体を離した時に飛び散った乳が天の星になったとギリシャ神話では語られている。


ラミア

  • 子供を殺して怪物に変える。
シンプルにしてベストな極めて残酷な仕打ちである。
※ただし、この神話には複数のエピソードがごちゃ混ぜになっていたり、名称の混同が多いとの事。


……以上の様に神話では障害となる役回りばかりが目立つが、アルゴ号の冒険で知られる英雄イアソンやアルディア巡洋艦隊を守護したのはヘラである。
……やれば出来るじゃん姉貴!!

【創作】


■ヘラクレス(ディズニー映画)

こちらではヘラクレスの実母という設定変更があり、原点とは違いヘラクレスを愛情を注ぐまっとうな母として描かれている。ある意味得したかもしれない。


追記修正は浮気夫に泣かされてからお願いします。



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最終更新:2023年11月01日 21:24

*1 政治が不安定だと戦争等の様々な要因で早くに生まれた子供が成人前に死んだり、そうでなくても人身御供の為の生贄とされることがあった。実際に神話でもゼウス以前の祖父、父神であるウラヌスとクロノスは各々のグループの末子である。

*2 この時の犠牲者は溺愛している娘であるヘベであったとの説もある

*3 違約をした相手には残酷な性格で、「課題をクリアしたのに金の羊の皮を渡さない父から金の羊の皮と弟を強奪し、追撃する父を弟の遺体で足止めする」「譲位の約束を反故にしたイアソンの叔父を娘に煮殺させる」と周囲がドン引きする報復をする常習犯である

*4 国宝であるアレスの帯を「ゼウスの息子とアレスの娘の間に産まれた王太女」と交換する契約なので、取引として十分に周囲が納得する条件である

*5 基本的に一度決定した運命は神々も変える事は出来ないが、正義の女神ディケーやハデス、アテナ、ヘルメスに認められるような好青年ペルセウスは『外祖父を殺す』運命を背負って生まれて来たものの、『予想外の突風による不可抗力の事故』に緩和されて祖父殺しの罪から免れた例も有る。極論だが、己の罪を心底から悔いて贖罪の御祈りをしていれば、『老衰死する直前に息子の手料理を喉に詰まらせて死亡』等のマシな死に方になった可能性も僅かながらもある。