バタリアン(映画)

登録日:2015/11/19 Thu 17:42:44
更新日:2023/07/15 Sat 04:00:04
所要時間:約 7 分で読めます






“MORE BRAIN!”




■バタリアン

『バタリアン(原題:The Return of the Living Dead)』は85年の米国のホラー、パニック映画。
監督、脚本は『エイリアン』や『スペースヴァンパイア』の脚本担当としても知られるダン・オバノン。

【概要】

1978年に制作され、ホラー映画に於ける“ゾンビ”像を確立すると共に世界中にゾンビブームを巻き起こしたジョージ・A・ロメロの『ゾンビ(Dawn of the Dead)』から続く、世界的なゾンビ&スプラッターホラームーヴメントの中で制作された傑作の一つ。
特に、本作では原題からも解る様に明確にロメロへのオマージュが捧げられており、物語自体が「ロメロの映画(シリーズ)は事実を元にして創られた作品であり、その元となった現実の事件が本作での発端となる」…とする、一種のパラレルワールド的な作品として制作されている。
※わざわざ続編の権利を買ってまで製作したのにこの始末である。*1

……その一方で“現実はフィクション程には甘くない”と云う皮肉のためか、本作に登場するゾンビにはロメロが定義したゾンビとは敢えて「真逆」の特徴が付けられているなど、本家に対するパロディとしての要素を持たされている。

大量に出現したゾンビによりパニックに陥った人々の姿を描く……と云うのは本家と同じ構図だが、映画と同じ方法を試してみては失敗する姿や、妙に明るいBGM(70年代~80年代ロック)に乗ったスピーディーな展開等、閉塞感漂う黙示的な世界を描いた本家とも違うポップな雰囲気を持つのも本作独自の特徴。
本作のヒットを受け、後に『バタリアン』を冠する続編が制作されているが、完全なコメディ路線へと走った『2』以降は本作にある様な“奇妙なリアリティ”が失われてしまった事もあってか本作程の評価は得られていない。
(ただし、完全に別路線に振り切り生者と死者の純愛を描ききった3作目は支持する人間も多い。)

87年に日本テレビの『金曜ロードショー』にてTV吹替版が初放送。
洋画吹き替えで活躍して来たベテランや、現在では大御所となっている実力派声優が演じる名訳台本は人気が高く、長年ソフト化が望まれ続けていた。

そして、2014年8月2日に『オーメン』や『スペースヴァンパイア』と共に、初回放送バージョンを収録したHDリマスター版DVDが30年近い時を経て発売された。
「今さらDVD?」…と云う声が無いでも無かったが、当時を知るファンや動画サイト等で本作を知った人間を喜ばせた。
……が、2020年現在は売り切れ以来の再販もしていない為に吹き替えを含むHDリマスター版はプレミアム価格となってしまっている。


【物語】


──1984年7月3日

物語は、ある小さな町で始まる……
独立記念日を明日に控えたケンタッキー州にある小さな医療品倉庫で事件は起きようとしていた。

「なあ、フランク…今までに見た一番気味の悪い物ってなんだい?」

新人バイトのフレディの質問に、社員のフランクが情感たっぷりに聞かせた信じられない話。

あの有名なホラー映画『ゾンビの夜(※Night of the Living Dead=ロメロの第1作)』は、1969年に軍人病院で起きた“ある薬品事故”をモデルにして描かれた内容で、その事件で運び出された死体の一つが“この倉庫の地下にある”と云うのだ。

「冗談なんだろ?」
「…見たいか?」

そうして、地下室にやって来た二人の前に姿を見せる古ぼけたカプセル……。

「本物かこれ!?」

中身が漏れる事を心配するフレディ。

「陸軍の作った特製の棺桶だぞ、これは」

おどけたフランクがカプセルを叩いた瞬間、死体すら蘇らせたという特殊薬品「トライオキシン245」が吹き出して……。

【登場人物】


■バート(演:クルー・ギャラガー)
声:小林修
事件の発端となる「ユーニーダ医療品倉庫」の社長。
独立記念日を楽しみにしていたが、フランクに呼び戻されて悪夢の様な事態に立ち向かう事に。
尚、この人が保身にばかり走っていたのも結構な悪化の原因である。

■フランク(演:ジェームズ・カレン)
声:藤本譲
「ユーニーダ医療品倉庫」のベテラン社員。
面倒見もノリもいい気のいいオッサンだったが……。
今回の事件の直接的な元凶なのだが、退場シーンの潔さから彼を責める人は少ない。

■フレディ(演:トム・マシューズ)
声:樋浦勉
見た目に多少パンクが入ってるが仲間の中ではマトモな方で、実際に「ユーニーダ医療品倉庫」で働き始めたばかり。
若者らしい好奇心からフランクに例の質問をしたばっかりに……。
中の人は本作の為にピアス穴を空ける気合いの入りようだったとか。

※フランクとフレディ役の二人は制作会社とスタッフが変わった次回作『バタリアン2』にも特別出演している。

■アーニー(演:ドン・カルファ)
声:富田耕生
「ユーニーダ医療品倉庫」の向かいにある「復活の家(葬儀社)」の遺体処理係でバートの友人。
ドイツ系で、常に拳銃を携帯していたりとややエキセントリックな所も。
バートに蘇った死体の処理を頼まれ、焼却炉を使う事を承諾するが……。

■ティーナ(演:ビバリー・ランドルフ)
声:吉田美保
フレディの恋人。
パンクな仲間達の中では、やや浮き気味の清純派(ヤクがどうしたとか言ってるが…)。
フレディを迎えに行く→タールマンと遭遇。
…するまでの一連の場面はホラー映画史に残る名場面。

■スーサイド(演:マーク・ヴェンチュリニ)
声:屋良有作
パンク仲間の一人でリーダー格(一応)。
凄まじい見た目をしているが、本人曰わく「俺の生き様」との事。
実際、根は割と真面目で仲間思い。
男気溢れる姿から某動画サイトのコメントでは大人気だったが……。
視聴者「やったれ!スーさん!!」

■トラッシュ(演:リネア・クイグリー)
声:勝生真沙子
パンク仲間の一人で、ストリップが趣味の赤髪。
中の人は「絶叫クイーン」として、ホラーマニアには有名な御方。
惜しげもなく裸体を晒している……と思われがちだが、実際には裸に見えるボディスーツだったとの事。

■スパイダー(演:ミゲル・ヌニェス)
声:二又一行
パンク仲間の一人でスマートな黒人青年。
面白…ではなくカッチョイイ黒人枠。
「復活の家」に逃げ込んだ後、バートやアーニーと共に必死の攻防に挑むが。
中の人は、かの実写版『STREET FIGHTER』のディージェイ役としても(日本では)お馴染み。

■チャック(演:ジョン・フィルビン)
声:塩沢兼人
アイビールックに、ラジカセを担いだチャラ男。
ケイシーに惚れているが、基本的には相手にされていない。
…が、いざと云う時には頼りになる姿を見せる。

■ケイシー(演:ジュエル・シェパード)
声:小山菜美
服も髪も青い女。
見た目のハデさに対して、SEX関連の話には拒否反応を示すマジメ娘。
チャックへの複雑な態度から、現在ではツンデレ呼ばわりも。

■スクーズ(演:ブライアン・ペック)
声:堀内賢雄
パンク仲間の一人でモヒカン。
墓場に来たことが無かったらしい。

■グローバー大佐(演:ジョナサン・テリー)
声:納谷悟郎
軍の高官で「バタリアン」対策の責任者。
16年前に消えた「卵」の行方を追っている。


【用語解説】

■トライオキシン245
軍の依頼によりダロウ薬品が開発したとされる、麻薬成分を含む特殊すぎる科学薬品。
元はマリファナの促進栽培の為に開発されたと言われているが……。
嘗て、軍が引き起こした最初の「バタリアン」事件の元凶であり、映画本編でも16年の間に成分が薄まる所か、ガスを浴びただけの死体や生きている人間をゾンビ化→死体を焼いたら有毒ガスが雨を降らせ、その雨を浴びた墓地の死体までゾンビ化……と、凄まじいバイオハザードを引き起こした。
コメディ映画のためにリアリティを放棄した描写とは云え、正体は自己進化に自己増殖、死体に取り憑いた時点で疑似脳まで作ってたりする某ウィルスなんじゃないか?…と思う位の暴れっぷりである。
名称の由来は、ベトナム戦争時の悪名高き枯葉剤作戦で用いられた除草剤「245-T」である。

【クリーチャー】


■バタリアン
本作でのゾンビで、ロメロの創造したリアリティ溢れるゾンビ像に対して、前述の様に徹底して“真逆”の特徴が付けられている。
テンプレ的なゾンビとは死者が蘇る事と、見た目以外の共通点は無い。

【バタリアンの特徴】


※喋る

脳が腐っている筈なのだが、知能はそのままで普通に喋る事が可能で人間との会話も可能。
道具や無線を使用したり、周到な罠まで仕掛けて生きた人間を誘う。
逃げて屋内に閉じ籠もっても、道具を使ってドアをこじ開けようとしてくる。

※走る

特にフィーチャーしている訳では無いが、00年代ゾンビに先駆ける事、十数年前にして全力疾走ゾンビが登場している。
しかも完全に腐ってたような奴が。スピードも無茶苦茶で、走る車に追いついている。

※脳だけ食べる

バタリアンは常に苛まされている死の苦痛から逃れるために生きた人間の脳(の麻薬物質。エンドルフィンだろうか?)を欲していると云う設定。
劇中ではオバンバへの尋問で明らかになった。よって、人間の肉体自体には興味が無い。

※感染しない

テンプレ的なゾンビでは噛まれただけでゾンビになると云うのが最大の脅威となっていたが、本作では噛まれても感染はしない。
ただし、この状況下ではゾンビにも関係なく“死んでしまう”と、トライオキシン245により生物は否応無しにバタリアン化してしまう。
人だけでなく犬の標本までバタリアン化した。ただし、上記の薬品に汚染される前に既に脳を食われた死体はその限りでは無い模様。

※死なない

バタリアン最大の脅威。
本家ロメロのゾンビでは脳や頭部を破壊出来れば動きが止まったが、バタリアンでは何をしても殺せない。
それどころかバラバラになったパーツ単位で活動でき、切断された腕や指だけでも勝手に動く。燃やして灰にしてようやく止まる。
一応、バラバラにして焼却する方法でハーゲンタフを仕留めたが、当然の様に集団には使えない上に結果的には被害の拡大に繋がってしまった。

……以上の特徴から、ギャグ補正を考慮してもホラー映画史上「最強のゾンビ」との意見も。

実は一つだけ完全に殺す方法があるのだが、それが明らかになるのは続編の『バタリアン2』での事である。
……ただし、続編は色々と初代から更にコメディ方向に変化した部分が多いので、初代のバタリアンにも同じ方法が通じるかは不明。

【主なバタリアン】

※邦題タイトル『バタリアン』と同様に、配給会社の東宝東和により日本独自の珍妙な名前が付けられている。
バタリアンという呼称や、タールマン以外の個人名は邦訳のみなので、吹き替えや字幕の台詞には不自然な箇所も。
なお、邦訳における改変はダン・オバノン氏も把握していたが、非難するどころか「それでお客さんのウケが良くなるんだったらガンガンやってくれ!」と逆に好意的であったという。

■タールマン(演:アラン・トラウトマン/ロバート・ベネット)
声:島香裕
カプセルに入っていた死体が蘇ったゾンビ。
事件の元凶。
空気に触れた事で皮膚や衣服が溶けて一体化し、ドス黒い血で全身が染まった姿はおぞましくも芸術的。
もっと脳味噌を(MORE BRAIN!)」の名言と中の人(パントマイムパフォーマー)の神演技、神造形により大人気を誇る本作を代表するクリーチャー(ゾンビ)である。
尚、見た目からの命名(劇中の台詞の通り“全身コールタール被った様な奴”)の為にエンドクレジットでも解る様に、彼のみは原文でも“タールマン”が正式な呼称である。
『バタリアン』を代表するクリーチャーとして、以降のシリーズへの出演や造形化、物真似の機会に恵まれている。

■ハーゲンタフ
医大に送る予定だった新鮮な死体が復活。
全身が黄色い事をネタにされるが、特徴的な肌の色は取材の結果であるらしい。(防腐剤で変色した状態だと思われる)
命名は禿頭(ハゲ)で中々死なない(タフ)から。
首を切断されても暴れ回るが、監督曰く「どうやって撮ったのかは秘密」との事(オーディオコメンタリーより)。

■オバンバ
声:片岡富枝
ポスターやソフトのパッケージにも描かれていた本作のメインヒロイン(?)。
命名は単に老女のゾンビだから。
上半身だけというその衝撃的な姿は、職人芸的なロボトロニクスにより操演されていた。

■トラッシュ
トラッシュ姐さんが衝撃のゾンビ化。
色合いからド○ルド呼ばわりも。
一時停止時が怖い噛み付く瞬間の不自然に大きく開いた口は、見事な造形のお面である。

【シリーズ一覧】

  • バタリアン(1985年)
  • バタリアン2(1987年)
  • バタリアン リターンズ(1993年)
  • バタリアン4(2005年)
  • バタリアン5(2006年)

【余談】

  • 邦訳タイトル『バタリアン(軍隊、群隊)』とあつかましいオバちゃんをかけて生まれた漫画が、当時の流行語にもなった『オバタリアン』である。
    結構な人気だったのかサンライズによるアニメ化もされた。スタッフの顔ぶれは片岡富枝(※オバンバの中の人)、ナベシン、アミノテツロー、田中公平、井上敏樹等当時の新進気鋭が揃っている。

  • OPタイトルにて空気に触れたカプセル内のタールマンの皮膚がドロドロに溶けるシーンは熱で人形の顔の蝋を溶かしているのだが、炎が起きてガラスまで割れたのは“ただの偶然”である。
    余りに印象的なシーンだけに、ファンからは長らく意図的な演出だと考えられていた。

  • 日本での同時上映作品は、あの『コマンドー』である。
当時は、よっぽどの大作で無ければ抱き合わせ上映が普通だったとは云え……。
ぶっちゃけ、当時に見れた人が羨ましい(吹替版では無いが)。

  • アーニーはウォークマンでドイツ・アフリカ軍団の行進曲「Panzer rollen in Afrika vor」を聴いており、持っている拳銃はワルサーP38で、エヴァ・ブラウン(ヒトラーの妻)の写真が処理場に飾ってありドイツ語を話すなど、元ナチである事を示唆する描写がある。

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最終更新:2023年07月15日 04:00

*1 つまり、他のパ◯り作品や勝手に似たタイトルや続編的なタイトルを付けられた作品とは違い、元々は本当に『ゾンビ』の正式な続編とするつもりであったのがパロディに落ち着いた模様。ただし、オリジナルとなるロメロへの言及含め、権利や制作状況から言えば本作を『ゾンビ』の続編とされることは間違いでもない。