ブラフマー

登録日:2015/11/18 Wed 09:57:39
更新日:2024/04/07 Sun 21:36:14
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■ブラフマー

「ブラフマー」はヒンドゥーの三大主神の一柱。
宇宙の始まりの時に姿を顕す事からスヴァヤンプー(自ら生まれた者)の異名を持つ。
三位一体では「創造」を司るが、信仰上の比率をヴィシュヌシヴァに奪われている事もあってか、後にはその創造神話すらも二神に上書きされてしまっている。
三大主神の中では例外的にヒンドゥー以前のヴェーダ=バラモンの頃より尊崇されているが、実際には名ばかりの最高神(笑)であり、教義的にも最も神格が高いのに民衆、修行僧からの人気は低い。
俗的な(※エンタメ性溢れる)神話の方が人々に好まれている為か、せっかくの深奥で複雑な設定がさっぱりと活かされていないのも理由である。

仏教では梵天
矢張り宇宙の創造神であるが、カルマ(業)の本質を見抜くと共に輪廻(サンサーラ)から脱け出す方法を見出した釈尊に頭を垂れ、その思想を万物に説き広めるように懇願した「梵天勧請」の説話で知られる。


【概要】

インド神話がヴェーダ=バラモンに至る中で生まれ、後に仏教的な概念をも取り入れて発展、ヒンドゥーに転じる中でも根底に流れ続けていた共通の概念にして、究極の目的たる古奥義(ウパニシャッド)の思想である“梵我一如”=同置の成就。
その“=ブラフマン=宇宙真理”を男神として人格化した神性である。

”とは元々は祭祀の際に唱えられていた讃歌や呪文を指していたが、後に神話や英雄譚の解読から“それ”を生み出した物を探る哲学的考察へと思想が移る中で、人に神々の名や属性を齎したと考えられた宇宙的な感応、神的イメージの源泉とされる様になった。

対立する“=アートマン=輪廻を越えて引き継がれる本性”とは、世界が繰り返されても変わらない根源的な生命の源とも呼ぶべき概念であり=“梵我一如”とは輪廻からの脱却の為に宇宙の真理を感得する為の行法=“”と“”は本質を等しくする物であると悟り、業から逃れ“輪廻から抜ける事を目的とする行為”を指す。

……つまり、ブラフマーとは、その行法の最終的な受け手となる神性なのである。

宇宙真理の人格化である事から、宇宙の創造者にしてヴェーダをも生み出した最高神とされ、更に古代から語られていた宇宙を創造したとされる原人伝説もまたブラフマー神話に収斂していった。






























……が、この概念は余りにも深奥で掴みどころが無く、寧ろインドでは解脱の為に行っている“筈”の神との一体化を目指し“神秘体験をも伴う苦行こそが目的”となってしまっている為か、ゴールに相当するブラフマーはあくまでも理念上の存在として切り捨てられた結果、子供心を掴む様なウキウキとさせる神話も生まれず、さっぱりと人気が出なかった。

……その所為か、叙事詩の時代にはシヴァやヴィシュヌに命令を与えて魔神退治をさせる役割だったのに(※哲学的概念が何やってんだって気もするがこれこそがインド神話である)、時代が進むと大乗仏教や密教の隆盛による仏教人気への対抗もあってか、土着信仰を取り込みつつ、ワクワクとさせる英雄譚により民衆の支持を獲得していったシヴァとヴィシュヌに人気は勿論、神格までもが逆転されてしまう事になってしまった※よっぽどの事でも無ければ戦隊ヒーロー物の司令官やロボットアニメの博士が主人公より人気が出る訳がないと云う事である……残当。

ヒンドゥーでは宇宙は広大な殻を持つ卵の中にあると考えられており、最初に生まれたブラフマーは、自らの都がある宇宙の中心たるメール山(須弥山)の頂きにて“思う”事で、卵の中を満たす原生物質から万物が創造され、人や神々までもが生まれる。
そして、ブラフマーの死により宇宙も終わるのだが、ブラフマーすらも永遠を生きる根源的な神から生まれ出る存在に過ぎず(※後に信者のゴリ推しにより根源的な神=ヴィシュヌとされた。寝ているヴィシュヌの臍の蓮華からブラフマーは勝手に出現しては消えるのを繰り返すらしい)、宇宙が死んでも次に生まれ出たブラフマーが新たな宇宙を創造し……と、無限とも呼ぶべき輪廻が繰り返されているとヒンドゥーでは語られているのである。
つまり、現在の梵我一如とは解脱の果てに自らがブラフマーとなる事を目指す行為であると解釈されたりもしている。

神妃は川と芸術の女神サラスヴァティー(仏教では弁才天)。
ブラフマー自身が己の内から生み出した女神だが、娘に一目惚れしたブラフマーは女神相手に視姦プレイを開始。
当然サラスヴァティーは変態ジジイから逃れようとしたが、逃げようとする度にブラフマーが頭を増やして視姦を続け、遂には五つにまで頭が増えてキモさが増し、逃げられないと悟った女神は諦めて父神の求婚を受け入れたと云う変態的な神話が残る。

……後に口論からシヴァに首を切り落とされたブラフマーが五頭から四頭になるブラフマーdisの神話がある為、それと結びつけられて語られた神話かもしれない。
尚、最後に生じたのは天空を見据える第五の目であったとする神話もあり、恐らくは此方の方が原型であろう。
夫婦からは共に過ごした100年の末に人類の祖であるマヌが生まれたと云う。

※根は共通していてもストイックに解脱のみを目指した仏教の方(※尚、仏教では諸行無常の境地からヒンドゥーで語られるレベルの“我”すら否定され得る)で重要な役割を与えられたり、神としての人気が出たのも当然なのかもしれない。
バラモンの秘儀からヒンドゥーに至った古代インド哲学ウパニシャッドでは、仏教を古代の唯物論者と共に“我”を否定する思想としてアスラ(=天には届かない神の敵)と見なしており、アスラ王ヴィローシャナとインドラの問答を描いた神話等にもその影響が見られる。
追い詰められたバラモンは後に敵である仏教の概念や方法論を取り込み教義を発展、集約していき、仏教を否定するべく仏教的な思想をも含んだヒンドゥーにリニューアルされて仏教を駆逐(吸収)する事に成功した。
思想に於いてはかなり共通した部分が多いものの、矢張り生活に根付いていた宗教感(神話大好き、苦行大好き)に“近い”ヒンドゥーの方がウケが良かったのであろう。

インドでは仏教の教理は余りにもストイック過ぎたのである。

……しかし、相変わらず階級による差別が根付いているインドでは、近年に至り全ての階級に平等な思想として仏教への回帰も見られると云う。


【梵天】

仏教ではブラフマーを梵天と漢訳された。
前述の様に苦行の虚しさを悟り、瞑想の果てに業の本質を見抜いて輪廻からの脱却の方法を見出した釈迦に帰依し、万物の創造者でありながら仏の弟子となった。
また、仏教が実践思想から普遍的宗教(大乗仏教)へと姿を変えていく中で、釈尊が今生で悟りを開く以前から、過去生にて悟りの段階を一つ一つ積んで来たとする過去仏の思想が定着すると、梵天はその過去生をも含めた仏法の守護者であったとも考えられていった。

繰り返すが、仏教とバラモンは根本的には共通した思想を持つが立場から相容れる事は無い(※仏教は堕落したバラモンを否定する形で発生した思想であるが、体系的にはバラモンの改革派と位置付ける事も可能である)。
……よって、成道者(仏陀)となった釈迦にバラモンの最高神である梵天が従うと云う構図は、仏教の優位と正当性を主張する上でも当然の帰結だったのだろう。

この説話を踏まえて、梵天は天部(※外教由来の神々)の最高神として仏教に於いて重要な地位を獲得する事になった。
同じく神々の王たる帝釈天(インドラ)と共に、釈迦如来や菩薩の脇侍として付けられ、天然自然の輪廻からの脱却を実現した仏法の守護者とされたのである。
※ヒンドゥーに於ける落ち目コンビとか言わないように。

密教が伝来すると、十二天では上方の守護者とされた。
これはヒンドゥーでの設定を反映した物である。


【姿】

基本的には四面四臂で、ヴェーダ聖典や水壺を携えた姿をしている。
長く白い髭をトレードマークとする老人の姿とされるが、図像によっては若く美しい男神の姿でも描かれ鵞鳥に乗っている。
生まれてすぐに四方を見渡すべく四頭が生じたとされるが、前述の様に五頭だったのにシヴァに切り落とされてしまったと云うdis神話も残る。

仏教では中国を経由した姿である唐衣を纏い、手に巻物を持った姿が伝えられていたが、密教ではインド由来の四面四臂で鵞鳥に乗る、ヒンドゥー本来の異形の姿も伝えられている。

【真言】


■ノウマク サマンダボダナン ハラジャハタエイ ソワカ(大咒)

■オン ボラカンマネイ ソワカ(小咒)

【種字】


■モウ(金剛界)

■バラ(胎蔵界)

【余談】

二大叙事詩やプラーナに代表されるヒンドゥー神話にて、苦行に応じて神々の敵となる魔王(羅刹王ラーヴァナ水牛の阿修羅マヒシャースラ魔神ヒラニヤカシプ……etc.)にもついつい祝福を与えてしまう事で知られる。
しかも、その祝福の内容が“神々に負けない”等のチートコード級の物の為に当然のように神々は窮地に陥る定期となっている。……おい、オッサン。
まあ、世界の創造主なのだから公平である事は正しいのだが。


【主な登場作品】


◆ゲーム『女神転生』シリーズ
このシリーズにおいても不遇で登場作品自体が少ない。
シヴァとヴィシュヌがほぼ全シリーズ皆勤賞にして「最強クラスの仲魔」という称号を譲らないので扱いの差は天と地と言っていい。
シヴァの「破壊」やヴィシュヌの「維持」に比べてブラフマーの「万物の創造」はゲーム的に活用しづらいの(唯一神と敵対するのがお約束のメガテンで造物主は二柱もいらない)というメタ的な理由もあるのかもしれないが。

女神転生2では魔神として登場。だがレベルは39とぶっちぎりの最下位で実用性も皆無。
(参考までにヴィシュヌが55、シヴァが63、ゼウスとルシファーが99)

真2など一部の作品では「ブラフマーストラ」という名を冠した武器が登場している。手に入れるのは手間がかかるが、最強の銃なので面目は保たれていると言える。

そんな中、破格の扱いを受けているのが『デジタルデビルサーガ アバタール・チューナー2』。
原典に即した「世界を司る最高位の神」として登場しており、主人公たちは彼との「対話」を試みる。

原案小説「クォンタム・デビル・サーガ」においては「神」は「神」として扱われブラフマーという神名は登場しない。アートマ(悪魔化能力)としてシヴァ、ヴィシュヌ、ルシファーが登場したにもかかわらず彼だけ未登場というまさかの裏切りを受けてしまった。



追記修正は宇宙を生んでからお願いします。


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