プロメテウス(ギリシャ神話)

登録日:2015/11/14 (土) 00:59:02
更新日:2022/07/23 Sat 23:52:27
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■プロメテウス

「プロメテウス」はギリシャ神話の神の一柱。
人類に「」を与えた神話で知られるが、他にも文字や算術、建築、造船、航海、牧畜…etc.と、文明の礎となる技術を人間に与えたとされる。

神話では天界の裏切り者、ゼウスへの反逆者とされる一方、その神話の内容から人類の守護者、果ては人類の創造者と見なす神話まである。
このプロメテウス神話は後にグノーシスとも関連付けられていき、中世の神秘主義ではユダヤ/キリスト教の「蛇」の伝承と合わさり、悪魔王ルシファー(光の蛇)が人類に齎した智慧の光と関連付けて語られる事もあった。
即ち、文明を拓く「」と同義とされた真の神から人類に齎された叡智の「」は、正しく使えば発展と霊性の進化を促すが、同時に傲慢と堕落を生む危険をも孕むと云うのである。

今日でもプロメテウスの名は革新を示す名前として使われ、原子力の異名や宇宙開発のプロジェクト名とされる等、実在や架空を問わず広く用いられている。

【出自】

ティターン十二神の一柱であるイアペトスの息子であり、兄弟には天空を支え続ける責を与えられた巨人アトラス、パンドラの夫となったエピメテウス、メノイティウスらが居る。
息子はデウカリオンで、彼はギリシャ人の祖先とされている。

……人間に肩入れしたがるのも当然なのかもしれない。

母親には複数の説がありアシアーの子、公平の女神テミスの子、特に知られた『神統記』によればクリュメネーの子とされる。
アシアーとクリュメネーは共にオケアノスの娘とされる為、母親が誰であっても生粋のティターンである。

ティタノマキアでは名前の意味する通り(※先を識る者、先を考える者)に戦争の結果を見通し、勝者たるオリュンポスの側に付いたが、内心ではティターンの味方のままであり(スパイでもしてティターンを救う手立てを考えていたのかもしれない)、後の神話でも厳格なゼウスに対して密かに反抗を試みている。

特に「神統記」に伝えられる、人類に「」を与えた神話では最高神ゼウスをペテンに掛けようとする小賢しくも勇気ある知恵者として描かれており、罪を背負い罰せられた神とされながらも、人間の視点からは同情すべき存在として描かれている。

【神統記】

ヘシオドスが記した宇宙創造からゼウスの統治までを描いた『神統記』によれば、人類は神話時代から現在まで5つの段階を経て退化して来たとされている。

■黄金時代
クロノスの統治時代で、この時代の人類は神々と同じように憂いも苦労もしない種族だった。

■白銀時代
黄金時代の人類が滅んだ後に創造された。
信仰心が薄く、争いばかりしていたのでゼウスに滅ぼされた。

■青銅時代
青銅文化を持つが、それで武器を作り闘争に明け暮れた。
洪水により滅ぼされたとされる時代でもある。

■英雄(半神)時代
青銅時代より遥かに立派な英雄達の時代だが、ギリシャを守る戦争で滅びてしまい、一部はクロノスの支配する海の彼方の「至福者の島」と呼ばれる楽園に移住させられたとされる。

■鉄の時代
現在の人類の祖で、先行する四つの時代から比べると、何れの時代からも劣っているとされる(お定まりの原罪思想)。

ここに至り、ゼウスは神と人間の世界を完全に隔てる事を決意する。

この後の展開には幾つかの説があるが、ギリシャにも伝来した古代オリエントに共通するモチーフであり、後に聖書にも取り入れられた洪水神話に絡められて語られている場合が多い模様。

ゼウス「いい加減に人間の堕落が酷いので水に流して新しく人類作る」

尚、神々と人類が仲違いしたのは祭儀を巡り争いが起きた為とする説もある他、青銅と鉄の時代の間に英雄の時代が挟まれていたりと疑問も残る。

……兎にも角にも、こうして神と人を分けるに当たり、ゼウスは次に人にどの恩恵を残すかを決める事にした。
※この時点までは神と人の違いは死ぬか死なないか程度の違いしかなかったらしい。

そして、ここに介入したのがプロメテウスだったのである。

プロメ「そんな煩わしい仕事は最高神(笑)様がやるまでもありませんよ」

プロメテウスの目的はズバリ、人間に対して有利な条件を勝ち取る事。
それが純粋に人間の為を想っての行動だったのかどうかは意見が分かれ、単にゼウスに復讐したからだったとか、俺の方が優れてるぜアピールをする為だったとの説もある。

経緯には諸説があるが、初めにプロメテウスは牡牛を捕まえて来るとこれを屠殺、解体して二つの塊に分け、何れかをゼウスに選ぶ様に申し出た
※古代オリエントでは牡牛を犠牲にする神話が多く、ミトラス教等で語られた聖儀にも通じる話題なのかも知れない。

その結果により、それまでは共通する部分の多かった神と人の属性の“取り分”を決めようと云うのである。
ここで、プロメテウスはゼウスをペテンに掛けるべく工作をした。

先ず、美味い肉と内臓を取り分けると、それを胃袋*1に詰め込み醜い肉塊に見せかけ、次に脂肪で綺麗に骨をくるみ、美味そうな骨付き肉の山に見せかけた。

当然の様に実があるのは醜い肉塊に見える方であり、間抜けなゼウスはプロメテウスの目論見通りに「食べる所の殆どない脂肪と骨の塊」の方を選んだ。

プロメ「成し遂げたぜ」

……かに見えたが、そこは流石の最高神。
ゼウスはプロメテウスの目論見を見透かした上で“腐る事の無い骨の方”を神の取り分と決めたのだった。
これにより神の不滅は保証されたが、人間は短い時間で老いて腐り果てる、か弱い存在と成り果てたのである。
※普通に騙されたとする説もある。

プロメ「やらかしたぜ」

こうして、神から遠ざけられた人間の生活は原始的で退化した物に成り果てていった(※ペナルティーとしてゼウスに以前の文明を奪われたともされる)。
この窮状を見てプロメテウスは天界から「」を盗み出し、人類に与える事を決意するのである。

」の出所に関しては最も知られているのはヘパイストスの炉から藺草(灯心草)に付けて地上に落としたと云う物だが、他にも太陽神の燃える車輪やゼウスの竈の火から盗んだとの説もある。
※または大茴香の茎とされる場合もあり、こちらの神話では中に灯した火が消えないように茎をフリフリしながら人間の下に急いだと云う。プロメかわいいよプロメ。


これには流石にゼウスも激怒し、人間の不完全性を強めるべく男ばかりだったそれまでの人間達に最大の災いたる“女”を与える事を決意。
後に浮気で鳴らす「お前が言うな」と言いたくならないでもないが、ゼウスの浮気に関しては征服された地方の王族が権威付けの為に主神ゼウスと自分の家系や信仰していた氏神(地母神)の血縁関係を結ぶべく後付けさせていったパターンが殆どなので矛盾しているのも仕方が無い。

ゼウス「の償いとして、私は人間どもに災いを遣る」

この、最高神の託宣にヘパイストスを初めとしたオリュンポスの神々はノリノリで参加。
※“女”がバカにされているのに、何故か女神の方が積極的に仕事をしている。

ヘパイストスが土を水でこねて下地を作り、

アフロディーテが悩ましい肢体に形成し飽くなき欲望を込め、

ヘルメスが恥知らずで悪賢い気質を与え、

アテナが金冠と華麗な刺繍を施した銀白のドレスを与えて飾り付け…etc.

……こうして誕生したのが「全ての神々の贈り物」と云う名を持つ美しき“災い”パンドラであった。

しかも、ゼウスはこの“最初の女”を、ヘルメスに命じて人として暮らすプロメテウスの弟エピメテウスに届けさせた。

プロメテウスは常々、弟に「ゼウスからの贈り物」は受け取るなと忠告していたのだが、オリュンポスの神々が腕を振るって誕生させた女神譲りの美貌を持つパンドラにメロメロになったエピメテウスは彼女を考えもなしに妻に迎えてしまう。

エピ「ゼウスだけじゃなくて皆からの贈り物だし!」

……と、エピメテウスが言ったかどうかは定かではないが、プロメテウスの策謀はこうして潰える事になった。
人間に災いが降りかかったのは明らかに余計な事をしまくった誰かさんの所為な気もするが……それはそれである。

プロメ「(・ω<)」

この後、ご存知の様にパンドラは飽くなき好奇心により「絶対に開けるなよ!(ダチョウクラン・アトモスフィア)」と言いつけられていた神々からの結婚祝いである大瓶を開けてしまい、中に封じ込められていた災いと云う災いを地上に解き放ってしまう。
更に、パンドラからは女も生まれる様になり、これ以降の人間は生殖して女の腹を借りなければ子孫を増やせなくなったのである(それ以前はピクミンみたいな増え方をしていたのかもしれない)。

【罰と解放】

ゼウスに大半の目論見は見透かされていたとは云え、天地に混乱を齎したプロメテウスにも罰が与えられる事になった。

捕らえられたプロメテウスはカウカソス山の岩盤に杭打たれ、己を貫く杭に舞い降りる大鷲(ゼウスの化身)に肝臓を食い荒らされる罰に付かされた。

自分が援助しようとした人間とは違い、神であるプロメテウスはそれでも死ねず、鷲の飛び去る夜の内には肉体が再生してしまう。
……そして、朝になって飛来した鷲にまた肉体を貪られる……と云う責め苦を受け続ける事になったのである。

永遠に続くかと思われた責め苦だが、それから3万年の後に罰を与えた当人であるゼウスの血を引いた半神の英雄ヘラクレスによって、戒めは偶然にも解かれる事になる。

こうして、縛を解かれた後のプロメテウスの行方に関しては曖昧な部分が多いが、ヘラクレスを助けた功績を認められたのか、ゼウスとも和解して今度は本当に相談役として天界に戻ったともされる。

また、プロメテウスの責め苦に際し、ケンタウルスの賢者ケイロンが毒の苦しみから逃れる為に自らの不死を与えて救うとする神話が関連付けて語られる場合もあるが、後付け的な神話なのか時系列の何れにも組み込む事は難しい様である。

また、更なる余談となるが、高名な神なのにギリシャ大好きのローマ神話に取り入れられていない。
これはプロメテウス神話が「ローマ的価値観に合わなかった」からである。




追記修正は天界から「」を盗み出してからお願いします。

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最終更新:2022年07月23日 23:52

*1 古代ギリシャで胃袋は横暴な食欲の象徴であり、「嫌悪すべきもの、悪行を働くもの、軽蔑すべきもの、きわめて有害なもの」として忌み嫌われていた